高瀬川 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.41
  • (16)
  • (27)
  • (51)
  • (11)
  • (2)
本棚登録 : 348
感想 : 39
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062755399

作品紹介・あらすじ

小説家と女性誌編集者が過ごす、京都の一夜を繊細な心理主義的方法で描き、現代の「性」を見つめる「高瀬川」。亡くした実母の面影を慕う少年と不倫を続ける女性の人生が並列して進行し、やがて一つに交錯する「氷塊」。記憶と現実の世界の間をたゆたう「清水」など、斬新で、美しい技法を駆使した短編4作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • まずかたい、難しい。読むのがね。
    んで色々と崇高な事が散りばめられて。でもそれいらない。から、読みやすくしてほしい。
    明治の文豪がえらいんじゃなくて、ギリシャの文化が偉いとしたら、ギリシャの神話やセネカ本は、誰でも読めるように平易に、深いことが書いてある。
    形式だけカッコいいのは好かないので、この本も彼の書き方も、いいや、と。
    でも「氷塊」は面白かった。

    たぶん、彼の本石田衣良みたいに休憩用ではなくて、それ用にスペースを開けて、脳みそを使って読む用なんだろうけど。それは難しいな。だってどのみちホモン、小説だからね。脳みそ使って読む難しい知識書としては数々の名著が控えているから、そのジャンルで順番は回ってこない。
    となるとやっぱり小説は、石田衣良とか、古典の翻訳に落ち着くのだなと。

    • 有坂汀さん
      僕も『氷塊』は面白かったと思いました。
      僕も『氷塊』は面白かったと思いました。
      2013/05/26
  • 高瀬川、と氷解、が好きでした。

    高瀬川は少し官能小説のようでもあるのだけれど、陳腐でなく愛情を感じるまでもないような、表現の仕方で。
    でもやっぱり、少し男性目線かなと。

    氷解が良かったのは特異な文章構造でときたま2人の人生が交差するところに少しはっとさせられる。
    女の人から見た目線、思考、感情と
    男の子が考える構想と現実のあい交える妄想と

  • 芥川賞作家、平野啓一郎氏が描く『現代』。実験的な作風を数多く取り入れたのが特徴です。ラヴホテルで一夜を共にする男女を描いた表題作に、少年と女性の運命が交錯する『氷塊』など4つの物語が収録されています。

    芥川賞作家、平野啓一郎氏による短編集です。『ロマンティック三部作』の完結編ともいえる『葬送』を刊行した後にはガラリと作風を変えて、現代が舞台となっている他、『追憶』では活字を音符のように使ったり、『氷塊』では二つの物語が同時に展開し、ある一転で交差するなどの実験的な試みをいくつもされていることが特徴的な一冊です。

    それでも印象的なのは表題作である『高瀬川』と最後の収録されている『氷塊』でございました。『高瀬川』は大野という新進作家と、女性ファッション誌の編集者である裕美子とのラヴホテルで過ごす濃密な『一夜』が描きこまれております。二人の『出会い』のきっかけから京都の夜で過ごす瞬間。ジャズの流れる店で交わされる会話やその後のラヴホテルの様子。前作である『葬送』から一転した作風で、コレをリアルタイムで読んだ方は本当にびっくりしたことであろうと察せられます。二人が一夜を過ごし、お互いの下着をつめたペットボトルを川に投げ込む瞬間がとても印象に残っております。

    個人的に読んでいて一番面白かったのは最後に収録されている『氷塊』でした。これは前述したとおり、二つの物語が上下で同時に進行する作品となっており、筆者の『意気込み』が伝わってくるようでございました。上の段で展開されるのは母親を失った少年の物語で、彼は図書館に日参しながらある女性のことを目で追い、母親の『影』を追うようになります。その少年の繊細な内面描写は『母を失った』という喪失感を抱えながら、父親の再婚相手にも打ち解けることなく、『本当の母親』を求めるというなんとも切ない展開でした。

    対して下の段では東京で文学部の美学科を専攻し、大学院の修士課程まで出た女性が主人公です。彼女は親の反対を押し切って画廊に就職するのですが、仕事に行き詰まりを感じ…。故郷の新美術館の学芸員に親の勧めでなることで帰省するのですが思惑が外れてその計画が凍結され、彼女が配属されたのが県庁の教育委員会文化課美術館新設室という箇所でした。彼女は倦んだ毎日を送り、不倫をするようになります。その待ち合わせに使っていた場所が上段の少年が通っている図書館でした。『不倫』という形で逢瀬を重ねる彼女の中に去来するものを本当に丁寧に描き込んでいて、とても読んでいて複雑な女性の心理というものを楽しむことが出来ました。

    そんな二人の運命がところどころで『交錯』する瞬間があり、二人の物語が同時進行で進んでいるということと、最後のほうでそれが交わっていくというラストに平野氏の持つ『技量』というものを存分に感じさせるものでした。本書に収録されている物語は結構前衛的な試みがなされているものもあるのでそういった意味では最初に違和感を感じるかも知れませんが、読み進めていくとやはり面白かったです。

  • 「高瀬川」は、作家と編集者がお互いにいい印象を抱き、身体の関係を持ち、翌朝別れるまでが心理的、肉体的に微に入り細に入り描写される一編。細かいひだまで見通せて。けど会社の昼休みに読む物ではなかったなあ。ペットボトルにショーツとトランクスをねじこんで。「氷塊」は上下二段に別れ、見知らぬ女性に亡き実母の面影を追う少年と、よく見かける少年を不倫相手の息子と思い込む女性とのストーリーが並行して進められ、時に交わり、最後は…と。人が弾けて消える設定の「清水」、断片的なテキストを追わせる趣向の「追憶」は個人的には買わない。◆彼の中では、大人はまだ誤らない存在であり、誤らないからこそ大人であった。p.202◆それほど大きな喜びを与えてくれていたとは思えないその関係が、失われると考えた途端に、何か掛け替えのないもののように思われてくることの皮肉を、女はつくづく感じた。p.227

  • 28歳くらいの時の作品かと。人生何周してるんですか?

  • 上手い

  • 小説の可能性を模索した、短編作品。

  • とにかく実験精神に溢れた挑戦的な文学。
    最初の掌編は記憶と流水のイメージを重ね合わせる。屁理屈っぽさすらあり読むのが少し苦しいが、ここで語られていることが後の3作のモチーフになるため、よく読むと読後感が変わる。
    「高瀬川」は性交のための一夜の営みがクールっぽく描かれるも、何度か挟まれるダサい描写が印象的だ。
    「追憶」は最後のページを読んで思わず拍手。なお、文庫と単行本で文字組はかわるの?と思って単行本も見てみたが、流石に同じだった。
    「氷塊」は上下段の小説が同時間軸で展開され、終盤に交差する。読み応え抜群。

  • 短編「清水」
    中編くらいの表題作「高瀬川」
    詩「追憶」
    2つの小説が並行して進む実験的な「氷塊」
    の4つが入っています。

    「高瀬川」と「氷塊」はすごく良かった。
    「高瀬川」は、最終的にパンティがペットボトルに入って流れて行っちゃう話。
    その情景がすごく印象的なのと、コトに及ぶ男女の会話のぎこちなさが良い。
    村上春樹の小説で男女の会話がウィットに富んでいてリズミカルな感じなのと真逆で、すごくぎこちなく恰好悪く描いているのが妙に魅力的。
    「氷塊」はページの上半分が少年目線、下半分が30代の女性目線で進んで行って、ときどき真ん中に共通目線の文章が差し込まれる。
    どう読むかは読者次第だと思うが、読み進め方によって印象も変わるだろうし、とても面白い。
    共通の文章の差し込まれる感覚が、最初は長く、後の方は短くなっていくので、小説にスピード感が出てきてドキドキする。
    おもしろかった。

  • いずれも実験的な試みを含む短編四編を収録しています。

    「清水」は、京都の街を歩きながら、自己の意識が刻々その現実感をうしなって不確かな過去へと流れ去っていくことに対する想念をつづった作品です。

    表題作「高瀬川」は、小説家の大野と雑誌の編集者である裕美子が身体をかさねる物語です。著者はこれまでにも、現代文学のさまざまな可能性を宣明するような試みをこれまでにもつづけてきており、本作もその一環であるということはいちおう理解できます。大野がラブホテルの汚さに神経質になったり、彼がうっかりひざで裕美子のふとももを踏んでしまったりといったシーンに、多少目をみはることもありましたが、正直なところこの程度の作品であれば神崎京介でも書けるのではないかという感想をいだいてしまいました。

    「追憶」は、作品の最後に示される現代詩めいたテクストをズタズタに切り裂いて複数のテクストが錯綜する作品世界をつくりあげた実験的な試みです。

    「氷塊」も、自分の本当の母親に出会ったのではないかと考える中学一年生少年と、妻子のある医者と不倫関係にある女性の二人の物語が、並行した二つのテクストとして配置され、それがやがて交錯する帰結をえがいています。ジャック・デリダ『弔鐘』のような思想書での試みなどもありますが、そもそもさまざまな人物の物語をひとつのテクストのうちにえがくことのできる小説でこうした試みをおこなうことに意味があるのか、よくわからないというのが率直な感想です。

全39件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

平野啓一郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×