新装版 避暑地の猫 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062757959

作品紹介・あらすじ

修平の両親が番人として雇われた別荘には秘密の地下室があった。別荘の主、布施金次郎と両親たちとの密約の存在を知った17歳の修平は、軽井沢にたちこめる霧のなかで狂気への傾斜を深めていく。15年の沈黙を破って彼が語り始めたひと夏の出来事とは? 人間の心の奥に潜む「魔」を描ききった傑作長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  •  未読だと思って久しぶりに宮本輝作品を手に取ったら、2015年に既に読んでいたようだ。

     軽井沢の別荘番の息子として生まれた久保修平は、別荘の持主である布施家に対する羨望と憎悪から、その心の裡に次第に狂気を育てていく。“姉妹の麦わら帽子は、卑下と憎悪のふたつの感情をぼくにもたらせてきた。(p.56)” 布施金次郎と、自らの母・姉との間の淫靡な関係を知った彼は遂に、布施金次郎を殺すことを決心する…
     まさに愛憎劇と呼びたくなる、官能的で、怪しい物語。17歳の修平の、視野狭窄さ、自分の思い込みに徐々に囚われていく様が恐ろしい。軽井沢に立ち込める「霧」も、舞台装置として非常に効果的に働いているように感じた。“霧が出てくると、頭痛が始まり、体中の力が抜け、口をきく気力すら失うのだった。(略)すべての人間の中にひそんでいる魔…。外にあるものではなく、内に宿している魔に活力を与える媒体は、ぼくにとっては、あの軽井沢の霧であった。(p.47)”
     避暑地の「猫」というのが何を意味しているのか結局よく分からなかったが、ポーの『黒猫』のような、魔性の象徴ということだろうか?

  • う~む。マジで誰か解説してほしい。主要人物の心情や言動の脈絡がわからないというか、矛盾を感じるというか、最後は???の連続でした。期間をおいて読んだので、理解が足りなかったか。
    ・株買い取りは秘密裏のはずが、地下室を暴露するとはどういう料簡?
    ・父はいつ知った?知った後の心の変化の軌跡は?あと無口になった理由も理解できず。
    ・母の真意は?最後の驚愕の事実との関連性は?二重取り?(これ一番のなぞ)猫?
    ・主人公は少し激しすぎやしないか?(笑)
    ・姉をそそのかしたのは?自ら?正体は猫?蛇?
    ・刑事はなぜわかったのか?勘?(笑)
    などなど、他にもありますが・・・、ネタバレにならないように奥歯に挟まった言い方になりました。すみません。
    最初は昼メロ調で、少し萎え気味になったが、3章の出来事からミステリー調となり俄然面白くなって猛烈に読み進めたが、ミステリーとしては失速した結果だったように思う。そのまんまだったから。小説としてエロス的表現にはぞくぞくきました。(笑)
    情感あふれる記述とテンポの良い展開はとても良かったが、肝心なところでミステリーでありがちな直截的でない描写の手法がそのまま放置されてしまった感があり、説明不足の思いを強くしてしまった。そのため「狂気」「魔」を描いたとはいえ、現実感のなさが目立ったような気がする。
    これはひょっとして作品としては失敗作なのでは・・・という感が強い現在です。自分の理解不足もあるので、暫定、星3つです。

  • エンタメ調で描くと上滑りしそうだけど人を描くので事実は小説より奇なり的なあり感がある。
    令和の今だとかなりおとぎ話的かもだけどね。
    昭和の感性があればリアリティあるかな。

    屋敷の主人と屋敷番家族の話。
    引き込まれて最後まで読み通した。
    宮本輝の描き出す世界恐るべし。
    また何か宮本作品読みたいなと思ったかな。

  • 後半は一気に読みました。
    あからさまな表現はないのだけどなんとなくエッチな描写にそそるところもありました。
    可もなく不可もなく。

  • 2022.6.30(図書館)

  • 十七歳、それは、大人と子どもを使い分ける狡さ……。

    「俺、軽井沢で生まれ育ったんです」

    酔っ払いに絡まれ怪我を負った男が、突然、十五年前の出来事を語りだす。
    軽井沢の別荘の持ち主と別荘番の二つの家族が繰り広げる、悍ましい愛憎劇。

    十七歳の主人公の青々とした性への欲望と、母と姉に漂う淫靡な気配、
    どうしようも無い怒りからの、暴力的な行動…「霧のせい」…退廃への逃避

    残るものは虚無

  • 螢川的な物語を期待して、以前先輩に勧められたこの本を手に取ってみた。
    螢川全然違うやん・・
    古き悪き昭和の香り。サスペンスを追う気持ちで読み進めていくうちに、徐々に宮本輝さんらしい筆致にのめりこんでいった。弱者を描く鋭さと薄暗い虚無感。
    そして全然直接的でないのに(ないから?)、めちゃめちゃ艶かしい姉。こういうのも書く人だったんだ、知らなかった。
    後味が良いものではなかったが、読書にのめり込む気持ち良さを久々に味わった。
    私は無邪気な後輩にオススメする気持ちにはなれないが、気持ちに余裕がある時にどうぞ。

  • 終始、修平目線で描かれていて、他人の心の内は本当に分からないことだらけなのだなと実感した。
    謎だらけで終わったのも、今後の人生、腑に落ちないことばかりだと思うし、貴子の今後のことの願いとかの描写が良かった。
    きっと誰も、他人の思考なんぞ思い込みでしかないんでしょうね。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    修平の両親が番人として雇われた別荘には秘密の地下室があった。別荘の主、布施金次郎と両親たちとの密約の存在を知った17歳の修平は、軽井沢にたちこめる霧のなかで狂気への傾斜を深めていく。15年の沈黙を破って彼が語り始めたひと夏の出来事とは?人間の心の奥に潜む「魔」を描ききった傑作長篇小説。

  • 修平の人生は何だったのか…
    軽井沢は小説の舞台に適している
    実家に「地下室」があったりして…

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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