宿屋めぐり (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (752ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062773072

作品紹介・あらすじ

生きているだけ。ただ、生きているだけで負い切れぬ罪障が積み重なっていく。冥府魔道。

「主よ。主よ。教えてください。俺は正しい航路を進んでいるのですか」主の命で大刀奉納の旅道中の鋤名彦名は、謎のくにゅくにゅの皮に飲み込まれ贋の世界へはまりこむ。真実を求めながらも嘘にまみれ、あらぬ濡れ衣の数々を着せられて凶状持ちとなった彦名。その壮絶な道中の果ては。<野間文芸賞受賞作>

感想・レビュー・書評

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  • 2023/12/2購入

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/682518

  •  町田康の多くの小説は、多彩な擬音・現在と過去の区別・実在なのか創造か・人間なのか動物か・死んでいるのか生きているのか等等 意味不明・摩訶不思議な調子で淡々と続くのです。結末も何だかスッキリしない読後感があったりするのですが、面白いいんです! 読みながら何故だか声を出して笑ってしまうんです。

    この小説は、ある世界で師匠に仕えて暮らしているうだつの上がらない弟子”鋤名彦名”が主の指令で大刀を遠い国の神社に奉納する道中記ですが、いきなり大刀奉納って江戸以前?とか思うのですがやはり町田小説は凄いのです。現代ぽいテンションと江戸的な様相を呈した舞台となっていて何がなんだか判りません。。。

    この彦名は各地を旅しながら不本意にも人を殺したり強盗を働いたり街を破壊したりと次々と犯罪を繰り返して行く、それでも主の命である大刀奉納を目的にどんどん障害を乗り越えたり逃避行したりしながらつき進んでいく。

    一度は磔になって殺されながらも最後にはミッションを完了するのだが目の前に現れた現実は、、、

    人生は”宿屋めぐり”です延々とぐるぐる廻るみたいです

  • みんながおれを悪党だというが
    なにもおれは悪党になりたくてなったわけじゃない
    わざとじゃないんだ、わざとじゃ
    だからおれは絶対に謝らんぞ
    といったような、ちんけなプライドに根ざす傲慢さを抱えながらも
    わたしはけっして根っからの悪党じゃない
    だからつねに、そんなわたし自身の自己防衛的ないいわけについても
    懐疑的でありつづけているのです
    だからおれは本質的には善人であるわけだ
    絶対に謝らんぞ
    といった具合に、おれとわたしが無限増殖をしている
    といった具合で、たくさんの我を背負っている
    それ故にむしろ我ありということがいえるのではないかしら?
    などとそのように
    己を正当化するための欺瞞的信仰まで持ち出してくるのなら
    もはやこちらとしては戦争しかないのであって
    それを避けたいというなら、せめて形だけでも詫びを入れてほしい
    頭を下げてほしい
    郷に入れば郷に従ってほしい
    つーか普通に生きなさいよ普通に
    などとそんなつまらぬ結論をみるまでに
    700ページも小説を読まなければならない
    かくも人間の自意識とは度し難いものである
    が故に
    普通とはなにか?それを定義せよなどといった
    クソめんどくせえ議論がここからはじまってしまうであろうことも
    容易に予測できてしまうのであるが
    まあ神ならぬ人の子がやることですからね、仕方ないね
    絶対に謝らんからな
    ってまたそういう話になってしまうわけよ
    安らぎを得るために、我ら人の子は無謬をあきらめるしかないよ

  • 『パンク侍』や『告白』のあたりで芸風がすっかり固定したようだ。相変わらずの目くるめく町田節。特にこの本は、主人公の道中のドタバタぶりや、展開の目まぐるしさが際立っている。ページをめくらせる力はめっぽう強い。

    「主」(最初は「あるじ」かと思っていたが、やっぱり「しゅ」と読むんでしょうな)という存在が、この波乱万丈の物語を唯一つらぬく背骨になっている。しかし、いったいなんなんだろうなこれは。こんな話をよく次から次へと書けるものだよ。

  • 長かったー!
    「宿屋めぐり」の本当の意味とは?

  • 著者の猫エッセイに魅せられて本書を購入したは良いが、普通の文庫本なら2、3冊はありそうな厚みに手を出せなかった。江戸時代とも現代ともつかぬ設定は『銀魂』のよう。不条理、ナンセンスな物語の進行に、あらすじを引いて感想を書くのも詮無い気がする。解説も本書の書きぶりを踏襲するような表現で、これが解説? と疑問を抱くと同時に、ただでさえ本編で満腹なのに、さらに追加料理が出てきた感じ。

  • ながい…長い…。
    主人公の口語的スタイルで話しが進んでいくのにちょっと慣れが必要だった。
    ほかにも読みたい本やまほどあるというのにかかりっきりで読んだくらい面白かった。
    キタナイ、できれば目を背けたい、自分にはそんなところありませーんっていい人ぶっていたいような見たくないところを、見せられる、何度も。
    でもそれが良いのだった。

  • 700ページを超える長編は、読み進むに連れ町田康ワールドがヒートアップし、やがて全開へ。これだけ広げて、いったいどう収拾するのだろうと心配になるくらい(なるほど、そういう結末か)。「パンク侍」の小説が面白いのは、やはり優れたリズムの文体にありと再認識した。
    独特の文体や世界観から読み手を選ぶ町田康作品だけど、「小説好き」「落語好き」な人には、ぜひ一度読んでもらいたい(今作ややグロいところもありますが)。
    巻末の笙野頼子の解説が、暴走&空回りしています(笑)

  • 主に大刀奉納を命じられた主人公の彦名が偽の世界に迷い込み、真実と救済をもとめ右往左往する話。
    嘘の世界でよく分からないまま凶状持ちとなり、それでも真実をもとめ旅する。
    なんて書くとかっこいいがこれが町田小説にありがちなしょーもない奴で、何事もご都合主義に良いように解釈し、自己弁護を繰り返し、無軌道のままに旅し身から出た錆なのだが大極悪人の汚名を着せれつつも、主の命を果たそうとする。読みながらほんとクソでアホだな、と思いつつもどこか憎めなくて応援したくなってしまうのだから不思議だ。ハラハラしつつ物語に惹き込まれた。
    なぜかというと、偽の世界ではどれも荒唐無稽の名や肉体が入れ替わったり、と有り得ない出来事が続くのだが、彦名と関わり合う人々とやりとりされる感情の機微や駆け引きや打算、あるいは生じる嫉妬、裏切り、嘘、どれもリアルで、ああこういうことあるなあ、とか、いるんだよねーこういう卑しい奴、などと、いちいち共感してしまう。嘘の世界でリアルなことが描かれている。そのなかで彦名が七転八倒する。読むうちに共感が声援に変わる。巧い仕掛けである。


    主というの極道の親分かと思ったら、読み進めるうちにこれは一神教の神だなあと思い至る。ということは彦名は救済を願う受難者で、これは巡礼の旅の話。
    だから物語の最後は神との対話なのだが、彦名の魂は救済されたのかはわからない。


    そう考えると「宿屋めぐり」というタイトルはうまい。
    嘘かホントか分からない世界で、とにかく生きる場(宿)をさがしめぐることが生の過程そのものと解釈できる。あるいは肉体という宿をめぐってさまよう魂の遍歴とも評することができる。

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著者プロフィール

町田 康(まちだ・こう)
一九六二年大阪府生まれ。作家。九六年、初小説「くっすん大黒」でドゥマゴ文学賞・野間文芸新人賞を受賞。二〇〇〇年「きれぎれ」で芥川賞、〇五年『告白』で谷崎潤一郎賞など受賞多数。

「2022年 『男の愛 たびだちの詩』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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