ちゃんちゃら (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062774451

作品紹介・あらすじ

江戸・千駄木町の庭師一家「植辰」で修業中の元浮浪児「ちゃら」。酒好きだが腕も気風もいい親方の辰蔵に仕込まれて、山猫のようだったちゃらも、一人前の職人に育ちつつあった。しかし、一心に作庭に励んでいた一家に、とんでもない厄介事が降りかかる。青空の下、緑の風に吹かれるような、爽快時代小説。

感想・レビュー・書評

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  • ちゃんちゃら

    著者:朝井まかて
    発行:2012年12月14日
    講談社文庫
    単行本:2010年9月(講談社、書き下ろし)

    一昨日読んだ「花競べ」に続く、朝井まかてのデビュー2作目長編。江戸期・文化時代の植木屋「植辰」の話。デビュー作は苗物屋、今回は植木屋であり、庭師。それにしても著者は植物に明るい。序章でシチュエーションの紹介、1章~5章で各プロットを展開しながら、全体で大きな話を描く。終章もあり。

    序章
    最もよいお得意である施主は、小川町の元与力でご隠居、是沢与右衛門。ちゃらは元浮浪児で、辰蔵が子供のように引き取って弟子にしている。娘の百合とはきょうだいのような仲だが、後にお百合はちゃらを好いていることがわかってくる。母親は早くになくしていて、お百合が身の回りの世話をしている。

    辰蔵は以前に京都で修行をしていたが、その時に一緒だった福助が、今は居候のようにして庭師をしている。また、玄林は石の職人で、自分の小屋があるが、やはりよく辰蔵のところに泊まっている。5人で1チーム。

    第1章
    日本橋石町新道の薬種大店「瑞賢堂」主人、角兵衛から、作庭の依頼。北にあった蔵を取り壊して庭を広げる。誰かのアドバイスに従ってそうしている。そうすると娘の目の病が治ると信じている。どうやら、京都から出て来ている嵯峨流家元の影響らしい。角兵衛は嵯峨流の門人になりたかったが、高額な入門料がかかるためなっていない(結局はなる)。角兵衛は値切りをよくする。今回も予算千両と言われているが、半値に値切られる可能性があるのでそのつもりでと番頭に言われている。

    角兵衛は、「三かく」の旦那と言われている。恥掻く、義理欠く、礼を欠く。
    庭は目の不自由な娘のお留都にあわせて造ったが、角兵衛からダメだし。嵯峨流の考えに合わないため。しかし、お留都は目が見えるようになったといい、この庭のお陰だと主張。実は、それは福助のアドバイスに従った演技で、本当は治っていなかったけれど。

    値切るなと娘に言われ、しぶしぶ千両払うつもりだった角兵衛だが、辰蔵が固辞して500両に。悔しがるお百合。

    第2章
    お千が女将を務める琉亭から作庭の依頼。とてもうるさく口を出す施主。これまで、何人もの庭師を切ってきた。道理に合わないことをいう。こちらも、嵯峨流の思想にあわせているようだった。しかし、辰蔵はなんとかうまく造り、引き渡し寸前までいった。その時、ちゃらが、現れた嵯峨流正法家元の白楊にとてもいい庭だが最上ではないと言われた。どういうことだと糺すうち、メインの木を龍にせよと言われる。それはおかしいと思ったが、魔力にかかったように木に上り、意識が遠のいて落ちると思ったが、知らない間に龍にしていた。

    庭がぶち壊しになった。しかし、お千は気に入る。辰蔵とちゃらは納得できないので、もう引かせてもらうと言って手を引く。ちゃらは、白楊からうちへ来い、才能があると誘われるが、きっぱり断る。

    この庭は、やがて白楊に乗っ取られ、嵯峨流の聖堂と化してしまう。

    世間では、流行り病で倒れる人が続出していた。ちゃらは、以前に弟弟子だった五郎太、その友人で身上がり侍の佐伯伊織とともに、月光寺に彼らを運んでボランティア活動をし始めた。なお、身上がり侍とは金銭で侍の身分を手に入れたもの。伊織の父親は質商だった。また、偶然にも伊織は小川町ご隠居の与右衛門の義理の甥にあたる。

    第3章
    相変わらず3人は月光寺でボランティア。お百合も加わる。ちゃらは、白揚から執拗に誘いを受け続ける。最終的に断りを言うと、お前達はもう終わりだというような宣言を下される。

    新しい施主は、藪下坂の隠居、長吉だった。女房はお咲で、2人は大和郡山出身、相当な貧乏や苦労をしてきた。そんな2人の庭づくりに、ちゃらは雑木を植えた。段々育て、増やしていくという庭造りの鉄則に反していたが、年を取ってもう時間がないという2人の心に一番いいのが、貧しい頃に炭にした雑木だと判断した。

    長吉郎:長男、深川の材木屋「大和屋」を営む長吉郎が訪ねて来た。日本橋の紅問屋に嫁入りしたその妹も。今や裕福な彼らに、雑木の庭は理解できなかった。

    第4章
    名だたる大名や大店の番頭などが、行方不明になる事件が相次いでいた。

    一方、植辰が造ってきた庭の木が、あちこちで異常を来し始めた。常緑樹でも枯れ始めた。見に行くと、誰かによる木殺し(切り込みを入れる)だった。白楊の仕業かもしれない。木を植え替える作業に追われたが、かんかんに怒ってもういらない、金銭を払えと要求してくるところも。それは契約違反だったが、3軒については従うことにした。百両もの大金を工面しなくてはならない。

    月光寺では、病が癒えた人々が出ていこうとせず、博打のまねごとをする者もいた。苛立つちゃら。「治ったんなら働け!」。行き倒れたのは、貧しく、身分の卑しい者ばかり。出て行くにも宛がないし、世捨て人のようなもの。辰蔵は月光寺の作庭を尼僧の妙青尼に申し出た。彼らに手伝わせると。

    40人ほどは、最初は嫌々で言うことを聞かず、福助などを中傷したりしたが、やっていると段々と熱が入ってくる。そんな時、20人ほどが訪ねてきた。大店主人など、みんな立派な庭を持っている人々だった。美濃屋の主人が代表だった。どうやら、月光寺の庭にいちゃもんをつけにきたようだ。雑木ばかりの庭など深川の恥だ、という。そして、後ろにいた長吉郎に加勢を頼んだ。しかし、長吉郎は父親の家の庭にできた雑木を見て、実は心安まることを感じていた。そして、辰蔵の味方となった。

    焦る美濃屋。そこに白楊が登場。妙青尼と対決したが、妙青尼は古事を持ち出して論破した。尻尾を巻いて退散する白楊。20人のうち、何人かはもうついていかない。嵯峨流を辞めることに。せいせいしたと言う。盗み聞きをしていた病み上がりの連中が上がってきて、やんやの歓声を上げた。

    第5章
    瑞賢堂が打ち壊しにあった。流行り病をいいことに、薬の値をつりあげた。人々が騙されたと思って暴徒と化した。主人はたまたま出かけていたが、娘のことが心配でちゃらは救いに行った。娘はやがて月光寺で髪を下ろすことになる。

    侍が、精神が苛まれて保護されたが、嵯峨流の聖堂に戻りたいと叫ぶ。伊織や玄林が潜入調査のため聖堂へ。やがて伊織は阿芙蓉を水パイプで数タイプのアヘンではなく、丸薬にして飲む麻薬にしたものを聖堂で見つけ、持ち帰った。どうやら清国で売れない阿芙蓉を日本に持って来て、麻薬を作っているようだ。

    辰蔵が京で修行していた植善の九代目が京から来た。白楊について問われたので、説明をしに来た。実は白楊は辰蔵と同じ時期に修行をしていた弟子だった。母親は公家の血を引いたが、僧侶と一夜を過ごして身ごもり、産んだ子を里子に出した。子は転々とさせられ、10歳の時に植善に引き取られるように弟子入りした。しかし、辰蔵の活躍に嫉妬して辞めてしまった。辰蔵は、そうだったのか、と思い出した。白楊は辰蔵への復讐をしたかったのだった。

    玄林の姿が見えない。白楊に捉えられていると考えたちゃらは、聖堂へ向かう。琉亭の庭だったところだから、構造は分かっている。水脈をたどり、庭が洪水状態になるようにしてから、中へ飛び込んだ。捕まってしまったが、白楊が阿芙蓉を今夜、大量に江戸に輸入することになっていることを知る。本格的に麻薬をつくるのは今夜以降だ。瑞賢堂と組んだのも、丸薬をつくるためだった。ところが、主人が相手ではなく、番頭の彦太郎を取り込んだのだった。

    ちゃらは命がけで阻止に。伊織たちも与力をつれてかけつけた。しかし、船が大川に入ってきた。そこに乗っていたのが玄林だった。彼は、穴太衆が徳川に謀られて全国にちりぢりにさせられたことを恨み、麻薬で大金を掴んで穴太衆だけのユートピアをつくりたかった。だから、白楊と組んだように見せかけた。

    戦場で戦うちゃらと玄林。結局、2人とも死んでしまうが、麻薬地獄からは逃れた。

  • 一気に読みました。

    面白かったあ!

    最後がハッピーエンドなのもよかったです。

  • 朝井さんの植物が関係する時代小説は、唯一無二の作風でどれも面白い。
    本書もかつての庭師の仕事振りが垣間見えるだけでも充分興味深いのに、そこに穴太衆の苦悩や作庭の形式主義に対する風刺など彼女なりの見解も含んでいて、更に人情まで入っているのだから面白くないはずかないです。

  • 江戸時代の庭師の話。悪役が出てきて、勧善懲悪の期待が高まっていく。ところが終盤に身内が黒幕だったことが判明するというまさかの展開。勧善懲悪の爽快感が無くなったと思ったら、主人公・ちゃらが、、、ところが最後は、、、終盤は話が大きく動きます。面白かった。

  • 202108/後半(白楊絡みの物語)は好みではなかったけど、江戸の庭師という舞台で、ご隠居の庭を造る話などはとても良かった。「空仕事」という言葉もいい。

  • 竜の話しが面白いです

  • 人の心の測りは難しい。

  • 父が引っ越しの手伝いに行って
    本をたくさんもらってきた中にあって
    適当に手にして読みはじめたけど
    出会ってよかった

    朝井まかてさん 初めてだったので
    他の作品も読みたいと思える
    作家さんに偶然みたいに出会えて嬉しいです

    日本庭園 見に行こうと思った

  • 江戸の庭師の話。
    木や石や草を扱う庭師の仕事、江戸っ子の暮らし、とても楽しく読んでいたのだが、途中から黒雲が広がり、後半は物語の世界が変わってしまったような…
    個人的には、ちゃらが雑木を入れた古里の庭が良いなぁと思った。

  • 朝井まかての本を初めて読んだ。心地よい。次はデビュー作から順に読んでみたいなと思った。

    「季節の中で風がいちばんうまいのは、夏の初めだ。」という文章で物語は始まる。これは題名にあるちゃんちゃらが口癖のちゃらの言葉。浮浪児だった彼は庭師辰蔵に声かけられ、庭師としての修行、腕をあげていく。序章から第一章に入り心惹かれる施主の娘の言葉としても「風がいちばんおいしいのは夏なのよ。」があり、終章 ちゃらが亡き後、辰蔵の娘お百合が「季節の中で風がいちばんうまいのは、夏の初めだ。」と石積みの階段を駆け上がるという情景描写がある。
    序章 緑摘み、第一章 千両の庭、第二章 南蛮好みの庭、第三章 古里の庭、第四章 祈りの庭、第五章 名残りの庭、終章 空仕事で構成。「空に近い場所で働くから、庭師の仕事は空仕事だ。お前ぇ、空仕事してみろ。」と物語早々親方辰蔵が、茶店の握り飯を掠め取り神社の高い樟の木に駆け上ったちゃらに声かけるのだが、空仕事ということばで、まずその世界がパッと広がり、しっかり基礎工事ができてる感ある章区切りで、ぐいぐい読み進める。話は前後するが、そもそもちゃんちゃらという題名が魅力的で、題字の間を自在に飛び跳ねる感ある赤毛に印半纏の挿絵が、また魅力を増幅している。
    流行り病に、アヘンの流入という江戸末期の舞台、辰蔵の弟子玄林、福助、アヘンをも扱う妖しげな作庭の文人白楊など登場人物たちを鮮明に描写。そのつながり、絡め方もわかりやすく魅力的。
    参考文献として、「穴太の石積」「江戸の病」「実録アヘン戦争」「築山庭造伝」「禅僧とめぐる京の名庭」「夢窓疎石の庭と人生」など19冊があげられているが、これらを練り込み素敵な時代小説。名庭を見に行きたいと思わせる作庭、木と共に生きる世界の魅力も活写。映画にしても面白いだろうなと思った作品。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『朝星夜星』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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