シンセミア(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062775496

作品紹介・あらすじ

炎熱の夏、未曾有の洪水に水没した神町。2体の死体が発見され、不穏な噂が町を覆い尽くしていく。神の町の狂態の行き着く果ては!?

感想・レビュー・書評

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  • 最後まで読んだけど…笑

    壮絶です。言葉を失います。
    この群像劇に登場するのは、感情移入することが難しいしょうもない人たちばかりですが、読み進めてようやく「この中では比較的マシ」程度に認められるようになった人たちがふたり続けて亡くなって絶句しました。

    あとは涙なくして読めなかった。

    阿部さんがこの小説で伝えたかったテーマなんて特にない気がするし(笑)、エロとグロが満載で目を逸らしたくなるほどお下劣だったり残酷な箇所もあるけど、僕はこういう小説大好きです。
    意味のなさや下品さを含めて、「人間」が存在することが肯定されている気がするので。
    知的で勿体ぶった文体もGood。

    神町トリロジーは制覇するつもりです。

  • 実際に存在する山形は東根市の神町を舞台に、信じられないくらいの登場人物の多さに(解説によると60名だそう)入り組んだ相関関係を、戦後の混乱期から現代まで、町史的に描いているフィクション。構成も年代記であっても、ただ年代を追っているのではなくて、手法が凝らしてあるのもよい。

    ところどころ臭気ふんぷんの場面が参るし、そんなのありか?という漫画的なドタバタ展開があるが、それが妙味になり、効いてきておもしろくてやがて深く考えさせられる。なるほど現代はそういう戦後のどさくさの上に成り立っているのだと。この町の創造の出来事は架空であって架空でない、日本中がそうなんだ、今でも、と言うような。

    上下巻合わせて1000ページ、ぴっしりと活字が並んでいるけど、文章は平易。長編の世界文学を(例えば『カラマーゾフの兄弟』など)スイスイ読んでいた高校時代を思い出した既視感。こういう作品が世界に通じる文学じゃないかと思う。解説によるとフランス語には訳されて好評だったとか。ノーベル文学賞が目的ではなくても、英語訳は必須アイテムなんだね。

  • まず聞きたいのは、日本ってこんなに薬物が蔓延しているのですか?ということだが、それはさておき、感想を。この小説に登場する人物たちは糞尿血液体液まみれで徹頭徹尾利己的で醜悪だ。なのに終盤、彼らが次々に舞台を下りるのを見送りながら、え、寂しい…と思ってしまった。よくある「悪役だけど憎めない」とかそういうのとも違う。たとえばこれが村上龍ならラスト10%くらいのところで大抵一瞬だけエモい感じになって、それが人間らしさの肯定というか優しいとこあるよねというか、なんらかの読み手へのゆるしみたいなものを与えてくれると思うんだけど、この小説には一切それがない。容赦ゼロ(田宮明の武器が麺棒だったところだけはエモいが)。なのに、血まみれのひとびとを見送りながら、田宮博徳の妻・和香子への、中山正の幼女への、本馬昌治の会沢慶子への思いは(それがどれだけ倫理からはずれていたとしても)まぎれもなく愛なんじゃないの? と思わずにはいられなかった。これをこう読ませるというのは本当に凄い才能だと思う。
    2010年になんとなく『ピストルズ』から入った阿部和重。何人かの友人に「中上健次が好きなら読むべき」と勧められていた本作だが、そして、読んでみてその理由もよくわかるのだが、中上健次っぽさはさほど感じなかったな。ベクトルが違う?あと、著者自身の「(刊行後に公開された)ミスティックリバーとドッグヴィルが似ていて驚いた」というような発言も目にしたけど、ドッグヴィルはわかるが、ミスティックリバーはどこが似ているのかな???まあ、何がどう似ていようが関係ないくらい面白かったからどうでもいいんだけど。ただ上巻で鼻歌うたいながら耳を切るおじさんが出てきたときには「マドセン(笑)」となった。池上冬樹さんの解説にもあったけどタランティーノっぽさを一番感じたかな。
    今、世界が疫病で大変なことになってしまって、神町のひとびとよりよっぽど政治家たちのほうが醜悪で、さらに去年の台風の記憶も生々しく…というこのタイミングが結果的に読みを深めてくれたように思う。あと、『ABC』か『IP/NN』の感想にも書いたけど、個人的に黒沢監督以後に読めたこと、これ大きい。去年から今年にかけてこれまた個人的な理由でタランティーノやスコセッシの映画を観る機会が多かったってのもよかった。やっぱり出会いとかご縁ってありますね!というわけで、わたしの#あべかずチャレンジは後半に続く。

  • 不発弾の爆発、小麦粉による爆発、車のクラッシュ、やや非現実的な事件により登場人物がバタバタと死んでいく結末が雑な印象。大作を読み終わった後には疲労感と胸のモヤモヤが残った。

  • 記録

  • おもしろかったー!
    あんだけいた登場人物がだれもむだじゃないのすごい。
    他の阿部和重も読もう。

  • 濃い.....とにかく濃い。

  • 最終的にも救えない結果。
    めっちゃ人が死ぬ。
    どうせなら建設会社のやつらや麻生家のやつらも、もっと天罰受けた方がすっきりした。

  • 胸が悪くなるような、暴虐なシーンの連続。

    戦後の混乱期、町の顔役となった田宮家。
    一家への血の粛清がはじまっていく。
    町の均衡を破ったのは、しかし田宮家だけではなかった。
    戦後の混乱で凄惨なリンチの末命を絶った女性の孫である隈本光博が町にやってきたことによって、大崩壊が齎される。
    「阿部和重」を騙って彩香に近づこうとする、盗撮グループ唯一の生き残り、金森が描かれて小説は終わる。
    非常に不穏な感じが残る。

    上巻で動き始めた数々の事件、事故、犯罪が、次々と関係者の死や、大事故などによって「回収」されていく。
    内容のおぞましさを超えて、小説の構想力に圧倒されてしまう。
    結末を知らずにいられないような気分になる。

    たしかに、これはすごい小説だ。

  • 事故死や自殺、失踪が相次ぐ不穏な夏、さらに地震や台風による冠水、と天災にまで見舞われ、東京では毒ガステロ、歩道に突っ込むダンプカーなど無差別殺人が頻発。この本のハードカバーが出たのは2003年だけれど、まるでその後の事件を先取りしているようで怖い。

    裏社会で暗躍するパン屋、ロリコン警官、盗撮サークル、不倫教師、コカイン、賭博に借金、ゆすりたかり、拳銃をぶっぱなす小学生、これでもかこれでもかと次々出てくる変態やクズ、さらに胡散臭いUFO信者まで現れて、洪水は町の汚濁を洗い流すどころか浮かび上がらせてしまう。無実の罪で監禁・町ぐるみの残虐な私刑にあい非業の死を遂げた娼婦の子孫が果たした復讐。

    膨大な登場人物とエピソード、伏線がほぼ回収され、すべての膿が噴出するように一斉に破滅が訪れるラスト(変態ども一掃!)はスッキリしたし、飽きずに読ませる構成、作者の力量は凄いなと思ったけれど、作品として好きかというとちょっと微妙。やっぱり変態が多すぎるんだと思う(苦笑)文体のおかげかエログロ場面が多いわりにさほど嫌悪感がなかったのは良かったのだけれど。共感、感情移入、好意を抱ける登場人物が全くいないと、やはり感情を動かされ難いかも(盗撮男を撲殺した未亡人は唯一かっこよかった)

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著者プロフィール

1968年生まれ。1994年「アメリカの夜」で群像新人賞を受賞しデビュー。1997年の『インディビジュアル・プロジェクション』で注目を集める。2004年、大作『シンセミア』で第15回伊藤整文学賞、第58回毎日出版文化賞、2005年『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞受賞。『シンセミア』を始めとした「神町」を舞台とする諸作品には設定上の繋がりや仕掛けがあり、「神町サーガ」を形成する構想となっている。その他の著書に『ニッポニアニッポン』『プラスティック・ソウル』『ミステリアスセッティング』『ABC 阿部和重初期作品集』など。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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