漢字を楽しむ (講談社現代新書 1928)

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  • 講談社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879286

感想・レビュー・書評

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  • この本を読めば漢字が苦手な人も漢字を読むことや書くことがきっと好きになるでしょう。たくさんの興味深い漢字が楽しく解説されています。特に学校での漢字の書き取りにおいて細かく指導された「ハネ、ハライ、トメ」「書き順」の問題も杓子定規に決めつけない方がいいようです。漢字テストへの疑問から高校生が制作したビデオがYouTubeに公開されています。

    「漢字テストのふしぎ」長野県梓川高校放送部

    https://www.youtube.com/watch

  •  どの章も面白いが、この本の膽は、「漢字を書く」だと思う。
     その中で、2007年の(株)ビクター主催「東京ビデオフェス
    ティバル」においてビデオ大賞を受賞した、長野県梓川高等学校放送部の「漢字テストのふしぎ(http://www3.jvckenwood.com/tvf/archive/grandprize/tvfgrand_29a.html)」を紹介しておられる。小中高200名の先生にアンケートを実施して漢字テストの採点のバラツキや基準の曖昧さを明らかにし、その要因を解
    明していきく力作です。その結果、高校生たちがたどり着いた結論は、「漢字テストは図形認識力テストである」ということ。また、 また、このドキュメンタリーの中でも、文部科学省(文化庁国語審議部)の見解として、絶対的な基準を示してはいないという旨の発言がありますが、それに対する教師の反応は、困惑の後否定するという愚かなものです。
     高校生の素朴な疑問に対する探究心が、図らずも教師の不勉強と傲慢さを炙り出しています。
     阿辻氏も本書の中で、「トメ・ハネ・ハライ」や「筆順」にやたらに厳しい先生について、「その先生は教育に『きびしい』のではなく、漢字に関する正確な知識がなく、どのように書くのが正しいのか自信をもって指導できなから、単に教科書や辞書などに印刷されているとおりでないと、安心して『正解』とできないだけののことなのです」と述べておられます。
    「末」と「未」の長短の違いは成り立ちに基づくもので、厳密に区別しなければならないが、そうでない場合はあまり気にする必要がないというのが、氏の意見であり、私も同感である。「天」も上が長くないと×というのが小学校では一般的だが、下が長いのが本来の形である。『康熙字典』以降印刷物では、つまり明朝体では上が長いものが多いが、楷書体では隸書の伝統を受けているのか、上が短い方が多い。そういうことでは、どっちでも○が適切だろう。

  •  最近テレビなんかでみかけるおもしろ漢字の覚え方とか、漢字のなりたちについての豆知識とかそういう本かなと思ったのですが、むしろ漢字についてのエッセイという雰囲気でした。作者は中国語学を専門とする大学教授なのですが、漢字を研究する人の立場で見ると、現在の漢字をとりまく環境はどううつるかというような。

     やっぱり面白かったのは、漢字の書き取りについての章ですね。
     漢字テストの採点基準について色々書かれています。採点基準はどうやって決められているのか、高校生が調べた結果を紹介しながら作者の考えも述べられているのですが、結論としては現在の漢字テストはおかしいというものでした。

     国が使っていい漢字を制限したり、活字を作るときはこの字体を使いなさいという基準を出したことで、それこそが唯一絶対の正しい漢字だという認識を広めてしまったのだそうです。常用漢字とか当用漢字体表というものがそれだそうです。
     そして、そうした表には、これは活字であって手書きする分には必ずしもこのようにはならないという注意書きがあるのだとか。その例として、木の縦の画をハネたものとトメたものと両方が載っているのだそうです。確かにお習字だと、糸も縦をハネて書いたり、保険の保の木の部分をカタカナのホみたいに書いたりしますね。
     活字と手書きを同じレベルでとらえるのが間違いだし、だから漢字テストで木をハネて書いたら×なんてとんでもないし、そうしたことも知らずに教育に携わるなんて、とんだ怠慢ではないかという批判的な論調で終始すすむこの章。

     字というのは情報伝達の手段なんだから、読めればいいんだと。土と工のように少しの違いが意味のちがいになってしまう字は厳格に区別するべきだが、木の縦の線をトメようがハネようが木は木としか読めないんだから、そんなことに目くじらたててテストするほうがおかしいじゃないかと書かれてします。
     高校生の調査でも、採点基準は先生によってバラバラだったんですよね。

     小学生の時の先生がトメハネハライにうるさい先生だったので、私もそれに拘るようになってしまったのですが、そもそもの基準が怪しかったなんて、頭を殴られたようなショックですよ。

     学校で習ったからとか、本で読んだからとか、手にした知識を鵜呑みにするのは危ないことなんだと改めて思いました。

著者プロフィール

京都大学名誉教授、公益財団法人日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長

「2017年 『角川新字源 改訂新版 特装版 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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