- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062901338
作品紹介・あらすじ
芥川龍之介、中野重治、小林多喜二らとの出会い、結婚、自殺未遂、出産、離婚、同棲…といった人生を、作家活動や非合法活動で当局に弾圧を受け始めた太平洋戦争へと突入する時代を背景にし、上野、日本橋、神楽坂など、親しんだ東京の街々を生き生きとした人々の息吹のなかに描いた連作短篇集。自らの過去を探り、自らを確かめるような筆が心に響く。
感想・レビュー・書評
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古風ながらも表現豊かな作品
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2016/7/8角川文庫初版で読了。
「カメラワーク」という言葉が浮かんでくる描き方だった。昨今よく言われる「映像的」な描写という意味ではなく。視点の空間的な位置に配慮して書かれている。それは東京という土地をメディアにして自分を描く自伝的な作品であることに著者が自覚的であったからだろう。
舞台となる東京のそこかしこが、個人的によく知っている場所であるから、なおのことそう感じるのかもしれない。浅草、上野池之端、日本橋、動坂下、田端、九段、巣鴨新田、十条、王子、戸塚……。これらの土地の焼け野原の光景に戦前の情景を重ねるように表し、そこを歩く若き著者の姿を見下ろすシーンから入る作品が多い。著者は戦前と戦後という二つの時代を重ね、僕はそこにバブルと二十一世紀を重ねて読む。著者がそうしたように、そこで生きた僕自身の過去も重ねて読む。この読み方は必然的に、次の時代に思いを馳せる読み方にもなる。
時代は変わっても動かぬ「土地」を、カメラを「自分の外」に置いて描いてあるからこそ可能な読み方だろう。それこそ東京が何かの事情で道の跡も残さぬくらいに吹き飛んで、徳川家康が来る前の原野にでも戻らぬ限り、この読み方は可能だ。古典って、こういう作品のことを言うのだと思う。 -
”大阪地図”は高くて買えない~
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しっとりとした名著。