如何なる星の下に (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901369

作品紹介・あらすじ

昭和十三年、自ら浅草に移り住み執筆をはじめた高見順。彼はぐうたらな空気と生存本能が交錯する刺激的な町をこよなく愛した。主人公である作家・倉橋の別れた妻への未練を通奏低音にして、少女に対する淡い「慕情」が謳い上げられるのだった。暗い時代へ突入する昭和初期、浅草に集う人々の一瞬の輝きを切り取り、伊藤整に「天才的」と賞賛された高見順の代表作にして傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 語り手の作家の倉橋は作者をモデルとしている。
    倉橋は浅草に仕事用のアパートを借りている。しかし執筆にはそこまで熱心ではない。
    浅草仲間と小料理屋へ行ったり、レビュウを見たりして過ごす日々。
    以前の妻の鮎子は倉橋が留守の時に荷物をまとめて次の男のところへ出て行った。
    だが今ではその男とも仲良くやっている。
    そして倉橋には今は想い人がいる。まだ若い…幼いといってもよいレビュウダンサーの小柳雅子。本人にあったことはない、ただ純粋に想っているだけ。

    そんな倉橋を料理やの美佐子は「あなたは猟奇趣味で浅草にいるの?そういう人は嫌いよ」という。
    浅草の雑多な様子、それはいろんなものが入り混じった匂いであり、夜のにぎやかさと昼の倦怠感であり、幼い踊り子たちが化粧を落とした疲れて青白い顔であったり、入り乱れた男女関係だったりする。
    倉橋は考える。わたしは浅草の外の人間でただ浅草を冷やかしに来ているだけなのか。

    しかし浅草はそんな人間を抱き込み、そして倉橋はそんな浅草から離れないでいる。

    ***

    如何いかなる星の下に生れけむ、われは世にも心よわき者なるかな。暗にこがるるわが胸は、風にも雨にも心して、果敢なき思いをこらすなり。花を採るべく、月や望むべし。わが思いには形なきを奈何にすべき。恋か、あらず、望か、あらず・・・。
     -高山樗牛-

    高見順は日記で「空襲により『如何なる星の下に』で書いた店や橋が焼け落ちた」と記録しています。
    (「敗戦日記」はこちら)
    https://booklog.jp/item/1/4122045606

  • 初めて高見順を読む。外出の際に本を忘れ、すがる気持ちでスマホの青空文庫から何でもいいやとルーレット的に読み始めたら大当たり。滅茶苦茶に面白かった。戦争間近の浅草の街の喧騒と活気、踊り子やぐうたらな芸人らのイキイキとした表情を、高見順本人を思わせる小説家がダラダラと特有のリズムで歯切れよく書き綴る。その奥の眼差しは浅草への愛情に充ち満ちており、私はすっかり自分をもその風景に紛れ込んだような心持ちになる。すごい描写力だ。小説の企みもふんだんに仕掛けられおり、飽きることなく永遠に読んでいられる。紛れもない傑作。


    これは本を所有したいのだが。青空文庫で読めるものをぼったくり文庫で買うのは癪でもあり。悩ましい。

  • 著書は読んでいなかったけど、ご病気が重篤で『死の淵より』などの作品が話題になっていた記憶がある。有名な鎌倉文庫や駒場の近代日本文学館などの文学活動をなさっていた印象も強い。

    謹厳な堅苦しいような作家、初期のこの作品はぎやかだった戦前の浅草を描いた、通俗小説のようで意外な気がしたが、作品が書かれた時の作家の身辺を知ればわかる気もする。

    思想的なことや妻に去られたことなどで何もかも行き詰っていて、脱却したいために遊興地浅草でブラブラしていたのだが、それでもなお悶々としていた時代を材料に私小説風な作品。

    別れた妻への未練、戦争への暗い道の予感、可憐なダンサーに寄せる慕情。時代の背景・風俗がよく書き込んでありおもしろいのはさすが。

    昭和14年頃の浅草なんてもうこのような本で知るしかない。有名なのは永井荷風の作品。そういう意味では貴重な文芸作品でもある。

  • 当時の浅草の情景がよくわかる。
    久々に浅草に行ってみたくなった。

  • 戦前の浅草の風景が目に浮かんできました。
    まだ高見順の文体に慣れてないからか、読むのに骨いりました。。。、

  • 昭和初期の浅草が舞台。
    当時の街の雰囲気が、実際にあった(そして今もある)通りや
    店などから、生き生きと想像され、楽しめる。
    また、小説の所々で、主人公以外に、実際の作者が
    登場して、客観的に物語をみたり、注釈を入れたり
    するところは、現代の宮藤官九郎脚本のドラマを
    みているようで、楽しめた。

  • 浅草の演芸がすごく盛り上がっている雰囲気を感じます。レビューとお好み焼き、おしろい粉とソースのにおいが漂ってくるようでした。年譜に死の間際に恭子を養女とすると書いてあるので、高見順さんはそんなに遠い人ではないと実感しました。

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著者プロフィール

1907年、福井県に生まれ、1965年、千葉県に没する。小説家、詩人。
本名、高間芳雄。
高校時代にダダイズムの影響を受け、東京帝国大学文学部時代にはプロレタリア文学運動に加わる。
1935年、『故旧忘れ得べき』で第1回芥川賞候補。1941年、陸軍報道班員としてビルマに徴用。戦後も、小説、エッセイ、詩とジャンルを問わず活躍した。
主な作品に、『如何なる星の下に』(人民社、1936)、『昭和文学盛衰史』(文藝春秋新社、1958)、『激流』(第一部、岩波書店、1963)をはじめ多数。
ほかに『高見順日記』(正続17巻)、『高見順全集』(全20巻)がある。

「2019年 『いやな感じ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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