興亡の世界史 モンゴル帝国と長いその後 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062923521

作品紹介・あらすじ

講談社創業100周年記念企画として刊行された全集「興亡の世界史」の学術文庫版第一期のうちの第3冊目。
 13世紀初頭にチンギス・カンが興した「大モンゴル国」は、5代・クビライの頃にはユーラシア全域をゆるやかに統合して、東西の大交流をもたらした。この大帝国は、従来は「元朝」と呼ばれ、中国史やアジア史の枠でのみ語られがちだったが、近年は、この大帝国の時代――すなわち「モンゴル時代」を、世界史の重大な画期とみなす考え方が、「日本発信の世界史像」として、内外に広まりつつある。人類の歴史は、「モンゴル時代」の以前と以後でまったく様相が異なるという。
 そして、大モンゴル国すなわち「モンゴル帝国」の解体後も、「モンゴルの残影」は20世紀にいたるまで各地に息づいていた。ロシアのイヴァン雷帝も、後のムガル帝国へと続くティムール帝国も、また、大清帝国も、「チンギス家の婿どの」の地位を得ることで、その権威と権力を固めてきたのだ。そして今なお混迷のなかにあるアフガニスタンを、「遊牧民とユーラシア国家」の歴史を通してみると、何が見えてくるのか? 
 壮大な歴史観と筆力で多くのファンを持つ著者が、新たな世界史の地平を描き出す。
[原本:『興亡の世界史 第09巻 モンゴル帝国と長いその後』講談社 2008年2月刊]

感想・レビュー・書評

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  • 面白いけど筆者の主張が強すぎて読みにくい。

  • モンゴル帝国はユーラシアからヨーロッパにかかる広大な世界を征服し、統治した。
    本書は、疾風怒濤のごとく各地へ攻め入って暴れまくり殺しまくったという、モンゴルの従来のイメージを全く覆すもの。
    当時はヨーロッパもロシアもたいした文明国ではなく、また、モンゴルが野蛮なやり方で諸国を蹂躙したという事実はなく、なるべく戦わずに調略などを駆使して勢力を拡大した。

    著者は従来の「西洋中心主義」の歴史のあり方に強く抗議・詠嘆しつつ、モンゴルがユーラシア大陸全体に残した遺産について指摘している。

    広い世界を支配したチンギス・カンの系譜は長く尊崇され、後世まで統治者たちはこれを無視できず、栄光を継承しようとしたという。

    個人的には、モンゴルは教科書の世界史上では一瞬にして過ぎる部分なので、それこそ出来上がった世界に一時的に入ってきて、すぐに去っていったイメージだった。しかし、これを読んでモンゴルが世界史に果たした重要性がおぼろげながらわかってきた。

    そもそもユーラシアを東から西まで眺めて書かれた世界史の本はこれが初めてだ。著者はその状況そのものを嘆いてこれを書いたのだろう。

    本書の記述は現イランのホーラーサーンに拠点をおいたフレグ・ウルスにおいている。

    フレグ・ウルスはイスラムに改宗して統治しやすさを狙ったこともあるが、芯からイスラム政権になったとは言えず、ネストリウス派キリスト教を擁護しヨーロッパへ使節を派遣したこともある。

    政権内にはイラン人はじめ様々な民族・宗教の人材を登用し、使用言語はこの頃の共通語であるペルシャ語だった。

    東方の元と史料の言語が違うため、モンゴル帝国全体のシステムを解明する研究が今ひとつなのだとか。これがもっと進めば、さらにモンゴルのイメージを変える事実が出てくるかもしれない。

    要は、世界史研究の穴であり、研究不足!
    全体を見られる研究者がいないというのは、わかる。本も少ないけれど、もっと読んでみたいと思った。

    エジプトのマムルーク朝というのは、実はキプチャクの草原からやってきた遊牧民であり……など、ところどころに「えっ、そうなの?」という情報が入っていて面白かった。

    ただし、本書は周辺や後世への影響について書いているため、モンゴル史そのものについてはやや薄い印象。
    モンゴル史は別の本で先に読んだほうが良かったかも。

  • 稀勢の里の横綱昇進のニュースを見て
    「これで『相撲界のタタールのくびき』は終わるのではないか」
    と思ったのは私だけではないでしょう。

    タタールのくびき(ロシアがモンゴルに支配されていた240年間)、元寇、朝青龍…と、どうもモンゴルは野蛮とかやんちゃなイメージが強い。
    西部劇におけるインディアン(これ自体もひどい偏見です、ごめんなさい)が征服しまくったイメージです。

    しかし、この本を読むと、『シルクロードと唐帝国』の著者森安孝夫さんも書かれていましたが、世界史というものは西洋中心で書かれていたのだなあと。
    「大航海時代という言葉を聞くだけで胸ときめいてしまう私」にとって、頭を殴られたような気持ちです。

    タタールのくびきについて、杉山正明さんはこう語ります。
    「ギリシア正教とロシア・ツアーリズム(ロシアの専制皇帝体制)という名の創作であった」
    「ロシア民衆にとって、モンゴルは一貫して悪魔であり、権力者にとってはみずからを正当化してくれる麻薬なのであった」
    「ロシア帝国以来、ソ連をへて現代にいたるまで、ロシアにとってモンゴルは愛国の炎を燃えさせる便利な手立ての一つなのである」
    これって、どこかの国が日本にやってきたことに似ていますよね。

    チンギスカンの血をひくということは、ヨーロッパにおけるハプスブルク家みたいな価値があって、
    なんとあのイヴァン雷帝も血の半分はモンゴルだったのです!!

    また、「ラッパン・サウマーのヨーロッパ見聞録」を読んで、『クアトロ・ラガッツィ』天正遣欧使節を思い出しました。
    東方が見たヨーロッパ像。そして歓迎されている。

    まだまだヨーロッパ大好きの私ですが、その他の国々の歴史も知りたい、知らなけらばならないと思いました。
    ただ、言語が多すぎて研究が難しいそうです。

    最後に文庫版にあたっての杉山さんのお言葉(2016.1.22)
    アメリカ滞在のおり、クリントン夫妻のスピーチを目の前で味わい、
    ビルよりヒラリーこそ、と思ったそうです。
    「女性閣僚たちを中心とするヒラリー政権により、中東のみならず世界全体がそれなりの安定化へ”カジ”をきることを望みたい」
    トランプ就任の感想をおききしたいです。

  • 海の世界史に対抗する、陸の世界史。
    定説、思い込みを乗り越え、モンゴルが残したものを見つめなおそうとする本作。

    著者の思い入れが強く出過ぎている感もあるが、従来語られてきたモンゴル観が剥落し、歴史を見つめる目が少し変わった気がする。

  •  モンゴル帝国の範囲は広すぎて、その中で興亡する民族や国が多過ぎて、混乱した。途中でこの著者のシルクロードに関する本にも手をつけてしまったので余計に混乱した。
     とにかく最後まで読み終えた。デジタル本でシリーズ全巻揃えたので、あと17冊ある

  • ユーラシア大陸全体をダイナミックに動かしたモンゴル帝国。
    現在の中東情勢、中央アジアに影響を与えていたとは。

  • 2016-5-21

  • モンゴル軍の軍事的な意味での強さが伝わっているのは、ヨーロッパやロシアが自国の歴史を喧伝するために過大評価してきたもの、つまり西欧中心史観が根底にあることを著者は繰り返し説いている。実際のモンゴル軍は情報収集と内部工作に長け、戦わずしてバグダードまでもを開城させていたという。確かに、従来のモンゴル軍への見方とはがらりと変わってくる。
    モンゴル帝国の影響も、予想以上に大きい。
    ティムールもイヴァン4世もホンタイジも、チンギス王家ゆかりの王女と結婚することでモンゴル帝国の威光にあやかる、という政略結婚を行なっていた。ユーラシアという世界を東から西まで繋いだ、という点において、モンゴルは空前絶後の帝国であったと分かる。15世紀ヨーロッパの航路発見も、後退していたヨーロッパの幸運であり、アジアが海への進出をみずから閉ざしていった結果としている。

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著者プロフィール

京都大学大学院文学研究科教授
1952年 静岡県生まれ。
1979年 京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、
    京都大学人文科学研究所助手。
1992年 京都女子大学専任講師を経て同助教授。
1996年 京都大学文学部助教授・同教授を経て現職。
主な著訳書
『大モンゴルの世界――陸と海の巨大帝国』(角川書店、1992年)
『クビライの挑戦――モンゴル海上帝国への道』(朝日新聞社、1995年)
『モンゴル帝国の興亡』上・下(講談社、1996年)
『遊牧民から見た世界史――民族も国境もこえて』(日本経済新聞社、1997年、日経ビジネス人文庫、2003年)など。

「2004年 『モンゴル帝国と大元ウルス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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