- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062936132
作品紹介・あらすじ
ミュージカル女優、つかさのファンクラブを束ねる美知代。小学校の同級生の出現によって美知代の立場は危うくなっていく。美知代を脅かす彼女には、ある目的があった。つかさにあこがれを抱く、地味で冴えないむつ美。かつて人気を誇っていたが、最近ではオファーが減る一方のつかさ。それぞれに不満を抱えた三人の人生が交差し、動き出す。私の人生は私だけのもの。直木賞作家朝井リョウが、初めて社会人を主人公に描く野心作!
感想・レビュー・書評
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------本文冒頭
ファミリアは砂鉄に似ている。誰も、磁石の力に逆らうことはできない。
―――朝井リョウの表現について簡単に研究してみる。
189P
“たった四人だと、春休みの学校はこんなにも広い。”
相対的なものの見方。
同じ学校でも人が多ければ狭く感じるし、少なければ広く感じる。
同じ気温でも、シチュエーションが異なれば、暑くも感じるし、寒くも感じる。
もう一つ、これもそうだ。
215P
“からっぽの胃の中に、ぬるい水が落ちていく。満たされている感覚よりも、空白の部分が際立つ感覚のほうが強い。”
満たされることよりも、空白になる感覚から物事を表現する。
このような感覚の表現が新鮮で的確なのだ。
彼の小説には、そういった表現が頻繁に使われる。
これは天性の才能だろう。
或いは、幼い頃から物理的な現象や心の中で思い描く感覚が人一倍鋭いのか。
研ぎ澄まされた五感から産まれ出てくる文字表現。
現代作家の中でこれほど優れて心に染み入るような文字表現できる人間は数少ない。
この作品でも、このような秀逸な表現が至る所で見られる。
そして、まるで女性の内面を知り尽くしているかのような心情表現。
これもまた、彼の天賦の才というべきものだろう。
演劇界のスターと、それを取り巻くファンたちの姿。
彼女たちはどんな理由で、どんな視点で、その位置を保っているのか?
叙述ミステリーのような一面をも持ったこの作品のなかで、彼女たちは葛藤する。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
3人の女性のそれぞれに共感できる部分があった。
最後の話が好き。ドラマのある人生に憧れる、、なぜか悲劇のヒロインになりたい気持ちをわたし自身思春期の頃に感じていた。歳を重ねて自分を受け入れられるようになって、ずいぶん生きやすくなったもんだなぁと思った。
みんな、いろんな葛藤の中で生きてるってことを教えてもらった感じがした。
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助けてください!
剛大のエピソードがよくわかりません…。
志望動機は、なんで医師になったのか聞かれるので、同僚の話でズルいって思うことはありました。 -
★4.0
私が朝井リョウを好きな理由が、この本に詰まっているなって思いました。
人生に革命は起こらない。誰もがみんなドラマチックな過去を持っている訳ではない。それでも、今の自分に満足していないのなら変わらないといけない。たとえ、ほんの小さなことからでも。他人から反対されることでも。
朝井リョウは、ハッとする気付きをくれます。ときどき自己嫌悪になります。それでも、登場人物への愛が感じられて、最後には未来への期待が少しだけ見えます。だから私は朝井リョウ作品を読まずにはいられないのです。 -
なんかわかるなぁ、、と思う反面
すんなり認めたくない気もしてしまう。
自分にも同じようなところがあるのでは?あったのでは?と考え始めると落ち着いては読み進められない。 -
こういう、人間の本心を描いた本が好きだと改めて気付かされました。
題材、舞台がなんであれ、そういう本って面白い。
人って行動には理由があるけれどその理由が表向きとは違うことってありますよね。
そういう言葉に出ていない気持ちがこの本にはたくさん書かれていて面白かったです。
表舞台のキラキラした世界の人なんて、特にそういうこと多いですよね。
でも人はその本心を押し殺して生きているなと。
でも時にはそれも大事ですよね。大人として。
あと、人には物語がなくてはいけないのか、これについて、たしかに過去に悲劇があった人ほどフォーカスされたりする世の中で、普通であるがゆえに存することもあるよなと感じた。そういう人間の同情が支持に変わるという特質を上手くストーリーに取り入れていて、それが皮肉めいていない感じから、怒りよりも切なさを感じられた。 -
初めての朝井リョウさんです。
それぞれ女性が主人公の3つの連作短編。
きっと誰もが心の奥に持っているだろう、醜い感情や劣等感。
忘れたい過去。そして必死に生きる今。
人生の岐路。
生きるって、こういう事だな、って思う。 -
ミュージカル女優のつかさのファンクラブのリーダー的存在の未知代、
ファンクラブに途中で入ってきたメンバー、
つかささ自身
それぞれの視点での物語。
学生時代とかの、自分の立ち振る舞いや考えの恥ずかしいところがブワーッと思い出される。。
心理描写のリアルさに、自分のこと書かれているかと思うような心のざわつきがある。
心の中のずるさに気付かされる。
学生時代に読んで気づきたかった!って思うけど、
学生時代に読んでもわからなかっただろうなとも思う。 -
朝井リョウの文章は、あぁ、こういう感覚って言語化するとこうなるんだ、と気づかされる。そんな文章がたくさん散りばめられている。
ポジションに縋る優等生、環境と共に自分も変えてやるという実は強い意志を持った地味な少女、人生に何も物語がなく主人公にはなれないとライバルに引け目を感じる舞台女優。
こんなに色んなタイプの人の心情や言動を書き分ける文章力は素晴らしいと思う。
そして、誰でもこんな部分少しはあるよなっていう、あんまり自慢できない感情やできれば知られたくない奥底に沈んでる思いも描かれるので、ひっそりと共感を得やすいのでは。 -
つかさファン「ファミリア」を束ねる立場の美千代。
美千代の小学生時代の同級生で、新規にファミリアに加入したむつみ。
劇団退団後、舞台で活動するつかさ。
この3人の女性を主人公にした連作小説。
美千代が主人公の「スペードの3」が力作で、朝井リョウの小説だなぁ!っていう感じだった。
人間のいやらしさ、優越感と劣等感。大人になってからも、子どもくさいそれらを引きずっている美千代。
小学生時代のエピソードも秀逸だけど、こういう感情(好きな男子を独り占めしたいとか、自分より可愛い子と可愛くない子で区別する)って、表に出さないだけで結構多くの人が持っていると思う。
問題は、それを大人になってもふるえる場があったということか。美千代にとってのその場所が「ファミリア」だった。
スペードの3が読みごたえのある力作だったからか、あとの2作はちょっと失速した感じがした。
特に最後のつかさのお話。多くのファンがいて、華々しく舞台に立っている彼女も、虚しさや劣等感を引きずっている。
しかし、大劇団の準トップまで登りつめ、退団後も舞台活動を続けている人にしては、どうも中身が薄っぺらいというか「若いな」という感じがした。
いつまでも「15歳で舞踊学校を受験したとき」の動機やエピソードをひきずっているのが、どうにも若すぎるというか、共感ができなかった。
舞台人に限らず、働いていると「なぜこの仕事に就こうと思ったのですか?」という質問をされることは多い。
けど、私には、人が欲するようなエピソードや立派な動機は全くない。
職業に就きたての頃は、それが自分の薄っぺらさにつながる気がして、人に語れるようなエピソードがほしいと思ったこともある。
ただ、10年以上同じ仕事していると、最初の「動機」なんてどう~でも良くなるんだよね。それよりも、自分がどんな仕事をしてきたのか、実績がすべてになる。
目指した動機?ドラマ見てて楽しそうだと思ったから、で良くない?と、本気で思うようになる。
10年も経てば、同業者がテンプレみたいに「私が◯歳のとき、〜という出来事があり(〜という人に出会い)、理不尽な思いをしている人を助けたいと思ったからです」とか語ってるのを見ても、劣等感を抱くことはなくなった。
つかさ様が生きている世界も、そうなのではないか。「舞台がかっこよかったから、憧れました」で良いのでは。
オーディションに受からないのは、残念ながらつかさ様の人生経験の問題ではなく、演出家の好みに合わないことや、実績不十分、実力不十分ということなのだろうと思うよ…。つかさ様、虚構の自分に囚われすぎて、地に足がついてない感じがしてしまった。
もっとも、このあたりは私がヅカファンなので辛口なのかも。ヅカOGをモチーフに書くなら、もっとステキに書いてほしかった!という欲なのかなぁ。
だから、大劇団の準トップまで登りつめたのに、自分のこれまでの歩みを信じられず、人生経験のせいにして正当な努力をしないつかさが、ひどく悲しい人に思えた。
一般人であるむつみですら、好きになれなかった過去の自分を変えるために努力して、「つかさ様に似てる!」と言われて、人が寄ってくるまでになったのに。
過去や虚構に囚われているところは、つかさと美知代は似ていると思った。
私は宝塚歌劇団が好きなので、宝塚をモチーフにした作品ということで手にとってみた。
ところどころ、宝塚のシステムだぁ~と思える描写もあり、本筋だけでなく楽しく読むことができました。
朝井氏も、宝塚好きなのかな?