彼女がエスパーだったころ (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062938945

作品紹介・あらすじ

吉川英治文学新人賞受賞作。

進化を、科学を、未来を――人間を疑え!

百匹目の猿、エスパー、オーギトミー、代替医療……人類の叡智=科学では捉えきれない「超常現象」を通して、人間は「再発見」された――。
デビューから二作連続で直木賞候補に挙がった新進気鋭作家の、SFの枠を超えたエンターテイメント短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 『あとは野となれ大和撫子』を読んでから、気になっている作家さん。(その割に『ゲームの王国』の小川哲と記憶混同していたけど。)
    以下、ネタバレ有。注意。



    「百匹目の火神」がサルによって火を熾す話なら、「水神計画」では原発事故によって汚染された水を、人が言葉で浄化する話があったり。
    ロボトミーならぬオーギトミーという脳手術で、暴力衝動を破壊する「ムイシュキンの脳髄」は、ミステリーとして面白く読めた。

    今作の推しは「彼女がエスパーだったころ」からの「佛点」。
    スプーン曲げアイドル千晴ちゃんが、後の作品にかけて変わっていく姿が、愛おしい。
    科学と非科学。科学者と宗教とエスパー。
    後作は世界の転換点である「沸点」を、人為的に創り出そうとする話なのだが、その中で性と倒錯を伴うカルトにおける救いは果たして是が非か、という非常に微妙な問いに語り手と千晴がぶつかっていくシーンが出て来る。

    どの話(疑似科学シリーズという名称らしい)にも、それをペテンと一蹴出来ない、純粋な危うさが混じっている。
    そして、私の勝手な考えだけど、人は高度な知能を持ってしても、それを見破らせない本能すら兼ね備えているような気がする。
    だって、それが本当に信じて良いものかどうかを完璧に見分けてしまったら、恐らく救いが訪れないから。だから、時に大きく間違う。(つまりは、多数の人がそれは間違いであったという判断を下す)

    「佛点」では、いわゆる正義と呼ばれる前向きな行動によって追い詰め、「救われていたはずの人々」の破滅をもたらす。その結末に、レーニン、スターリンを持ってくる所がすごい。

    孫引きになるけれど、宮沢賢治の引用文が鳥肌過ぎるので、載せる。

    「けれどもしおまへがほんたうに勉強して実験でちゃんとほんたうの考とうその考とを分けてしまへばその実験の方法さへきまればもう信仰も化学と同じやうになる。

    『銀河鉄道の夜』宮沢賢治(第三次稿より、第四次稿にて削除)」

    あとがきより。

    「暴くのは簡単だ。むしろそこには、なんらかの快楽さえ宿ることだろう。しかしこの快楽を、ぼくは排したかった。そうでなく、科学的な知見を大切にしながら、かつまた、あの静かな空間を引き戻すことはできないか。ついでに、スプーン曲げがあるともないとも定まらない世界でミステリを成立させることは可能か。こうした一連の実験を、SFとして仕立てあげることは可能か?」

  • 私は好きだけど、「これが世界水準だ」と謳われちゃっても???

  • 初宮内悠介作品。
    とっつきにくい部分もあるが、興味深いテーマが取り上げられた一冊。
    最後の「沸点」はうらぶれたサンクトペテルブルクに希望が灯されて好きなエンディングでした。

  • 「わたし」が似非科学と対峙する連作短編だ。
    と言っても、「わたし」は決してその似非科学を暴いてやっつけるようなヒーローではない。
    ただそれを「見る」だけだ。

    SFともミステリーとも言い難い本作。
    スプーン曲げや代替医療など扱う題材は面白い。
    しかしながら、どうにもうまく表現できないが、私にとっては読みにくく、そこまで厚いとは言えない文庫本を読むことにいささか難儀した。
    著者と私との波長が合わない、それが最もぴたりとはまる表現なのだろう。

    シンクロニシティと崇拝、言霊と水質浄化、プラセボと終末医療......。
    どれもこれも弱った心にするりと入り込んで狂信的とも言える信仰を集める。
    それゆえに私の心はその描かれた疑似科学を拒んだのかもしれない。
    知れば洗脳されてしまうかもしれない。
    第六感、それも似非科学だろうか、本能が危険だと知らせた。
    これは作り話、そう思っていても、簡単に人の心は流されてしまうものだから。

    そんな考えこそが、いや、真実を突いているかも、いや、それも科学じゃない、いやいや、科学だって万能じゃない、仮定の話ばかりだ.....。
    堂々巡りが、「かも」が、私の頭を埋め尽くしていく。

  • あってもなくてもいいけれどもオカルトと医療に造詣がある方がすらすらと読める作品。

    信仰による奇蹟と科学の進歩、倫理と道徳の大きくふたつのテーマが禅問答や反証実験のように繰り返されながら進んでいくストーリーに感じた。
    読みながら思ったのが「信仰による奇蹟」はいくら科学が発展したところで無いものにはならない。現存する科学をもってしても、ましてや「科学の進歩」を底上げしても、信仰による奇蹟は完全にはうち消せない。
    ましてや天秤の両端に信仰と科学をのせたところでどちらとも言えない現象は存在するので、科学と信仰の中間を線引することもできない。

    この作品に関して著者は読み手に好きなように取ってもらえるように書いてあるものの、個人的には「好きなようにとってもらって構わないが僕自身のひとつの結論を隠しています」みたいな風であった方が読み返したい欲が高まったかなあと思う。

    SF成分は最低限で、あくまで近未来に起こりうることとして描こうとしていたのかなと思う。バチバチなSFが読みたい!っていう人には肩透かしを食らうだろうけどあくまで手法としてSFを使っているだけで無駄がないのでこれはこれで良いと思う。かといって事件が暴かれること自体が問題では無いようなウェイトで描かれていて、ミステリ色もそこまで強くない。
    哲学とか思想とかそういうのが好きな人はまあアリだと思う。

  • 火を覚えた猿を巡る人間社会、スプーンを曲げられる少女の存在、ホスピスや脳手術問題、信仰、等々、不可思議な社会的事件の顛末がとある記者のインタビューを通して語られる。嘘か真か、是か非かそれら事件の成り行きを客観的に読む読者が何を思うかを試されてるような作品。上手く言えないけど、その感覚はなんか今のSNS社会、現代人の有り様にも通じるところがある気がする。お話的には「水神計画」なんかが面白かったな~

  • 普通の情景を読んでいるつもりが、気がつけばビューンととんでもないところに連れていかれている感が。
    あいかわらずすごいな。

  • 気がつけばどんどん読み進めていた。
    不思議な話だった。

  • 疑似科学を扱ったルポ形式の短編集で連作っぽくなっています。スプーン曲げ、火を使う猿、ロボトミー手術、ホスピス、新興宗教といったテーマ。疑似科学そのものよりそれを取り巻く人々の考えや行動が物語られています。後半、重いテーマが続きますが、最後はすっきり終わった感じですね。

  • 論文見たいな語り口。最後に驚き

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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