噛みあわない会話と、ある過去について

著者 :
  • 講談社
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感想 : 540
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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065118252

感想・レビュー・書評

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  • フォローさせていただいている方々のレビューを全面的に信頼している。そんな一方的に好意を寄せている皆々様方が同時期に手に取り、絶賛 時に批判していた作品がある。それが、この「噛みあわない会話と、ある過去について」だ。一日一回は必ず見掛けるくらい盛り上がっている時期があった。私はその期間、日々親指を咥えながら嬉笑怒罵溢れる感想を楽しんでいた。

    そんな贅沢な環境に満足していたのか、読みたい本が多過ぎたのか、自ら意欲的に手に取る事は無かった。話題性が弱まってきた頃、まさしく今の事なのだが、本棚を漁っていたら....単行本が居た(笑)いつからだ。もしかしたら親指をふやかす必要は無かったのやも知れない。そんな後悔を背負いながらこの出会いに感謝した。
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    私は、言葉が刃となる事を理解した上で敢えて武器として扱う事がある。理不尽な扱いを受けた時や見た時、言葉の力で相手を悔しがらせたくなってしまう。「ほらね?嫌でしょ?」と、わからせてやりたくなるのだ。
    ただ、私が感じる理不尽の発端を考えたことは無かった。いきなり理不尽が横入りして来たように感じていた。しかし、本書を手に取り気付かされた。
    ....そうでは無いのかもしれない。私が人のせいにしているだけだったのかもしれない。私も知らず知らずに人を傷つけているのかもしれない。怖い、しかし目を背けることが出来なかった。

    本書の登場人物達は立場が明確だ。責める者と責められる者の物語。噛み合わなかった会話にて、過去の立場が逆転する。
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    自分とは違う者を異端とし、ヤバい奴として扱う。全面的な味方になる訳では無いのに異端の混入で中途半端に肩を持つ。解決等求めていないくせに、西軍と東軍を作り出し自身が所属する勢力を必死に増大させようとする。
    何気ない会話を覗き見て、こんなに震える事になるなんて思いもしなかった。
    【ナベちゃんの嫁】
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    抜粋
    「人の言葉をいちいち覚えていて、勝手に傷つくのはやめてほしい。こっちはそんなに深く考えていないのに、繊細すぎる。」
    恥ずかしい事だが、私もこれを思った事がある様な気がする。気がするというのもまた、記憶の捏造なのやも知れない。
    「記憶を捏造しないでください」
    高輪佑のこの台詞が弾丸の様に心臓目掛けて飛んできた。凄く痛い。
    【パッとしない子】
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    他二作、【ママ・はは】【早穂とゆかり】
    ここでは省いてしまうが、感じた事を殴り書きした個人メモは完全に容量オーバーだ。

    読んでいる間は常に「私もこんな事をしていたかもしれない」に苛まれ、過去の記憶を探っていた。だが、そんな思い付きのタイムトラベルで顔を出してくれる程の濃い記憶は存在しなかった。なのにホッとさせてくれないのが恐ろしい。記憶の捏造、した側は覚えていない、立場の思い込み、色々な可能性があるのだ。
    対象が存在しない、分からないのに謝りたくなる。ごめんなさい、赦して下さいと。
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    良い教科書に出逢えた。
    自分がされたら辛い事は知っているじゃないか。何故他人に対してその能力が発動しないのだろう。人の心は確かに見えないけれど、それを想像することの破棄はしたくないなぁ。

    読み終えた後、優しい気持ちになる本
    というものが存在するが、程遠い題材のこの作品に同じものを感じた。なんか凄いの読んでしまったな....面白かったです。

  • けっきょく誰しも自分の都合のいいように言ったこと、やったことを解釈してるっていうのをまざまざと突きつけられる短編集。自分が当然そう考えるからって相手も同じ当然を持っているとは限らない。
    心臓がキュッとなって苦しくなる感じがありました。
    受け取り方によってどうにでも解釈しようがあって、この短編たちの延長線上に『傲慢と善良』が書かれたのではないかなと思った。

    4編の共通テーマは無意識のマウントかな。無意識に人にランクをつけてしまうことに心当たりしかない。容姿がいいこと、有名になること、仕事で成功すること・・・それが絶対的に正しく、人より優れていると思ってしまうのはなんでなんだろう。
    自己肯定のためなら事実なんていくらでもねじ曲がる。正しいか正しくないかなんて関係ない。自分にとって都合がいいように記憶は改ざんされてしまう。

  • 噛み合わない…どこまでも噛み合わない。
    きっと一生噛み合うことはないのだと思う。
    感性が合う合わないと言うのは誰にでもあることで、自分では大したことはないと思っていることでも人からしたら傷ついたり、不快に思ったり。
    繊細すぎると思われる感じ方でも、他人にとっては大事な事だったり。
    ましてや何も深く考えもせず、残酷なまでに純粋に生きていた子供の頃。自分のした行動、人から受けた仕打ちが何だったのかなんて言葉では言い表せない。言い表せない表したくない…のに、そこをなんとも上手くいつも言葉にしてくれる辻村さん。
    上質な短編集でした。

  • 辻村深月さんは女性の奥深くに眠る厭な部分を炙りだしますねーw
    女性ならば誰もが持っているであろう、意識せずにやっている狡さや打算。
    それを目の前にドーン‼︎って置かれた時の抉られ感はハンパないですね。
    相手の為に良かれと思って、が、自分の為にへすり替わってる。
    誰かを傷つけて、忌み嫌われていく事に気が付かずにやってる。
    まさに噛み合わない会話ですね。
    受け取り方は人それぞれだから、噛み合わない事もたくさんでてくる。
    コワイなぁと思いました。
    あー…私もそういうトコあるなぁー……って思って読んでましたもん。
    なので、自分が何かをした訳ではないのに、読み終わった後に「ごめんなさい」を心の中で何度も呟いてしまいましたw
    自分にとっても相手にとっても、無意識の悪意ほどコワイものはないなと思わされる、物凄く面白い本でした‼︎
    面白さ伝わってるかなぁ?笑
    めっちゃオススメなんですよ!

  • 無意識に相手を傷つけている可能性があるということ、言葉を送る側と受け取り側との感じ方は違うということ、人は無意識に自分の描いたとおりに記憶を改竄してしまうこと
    怖いなぁと感じて自分を見直そうと感じさせられる作品

  • 短編集。凄く凄く面白かった。私の中では今のところ、辻村深月のナンバーワンだ。
    心理描写が本当に的確。過去の自分を責められている気持ちになり、心がザワつく。

    1 ナベちゃんのヨメ
    この話は普通だった。話としては面白かったが、こういう状況に何度も巡り合ったことがあるわけではなく、ナベちゃん的な人が身近にいたわけではなかったから、むしろ微笑ましく思えた。ナベちゃん自身が幸せを感じて、それを関係ない他人が、たとえ過去、友人であっても、邪魔する必要はないし、共依存から救ってあげたいと思うほどナベちゃんを強く想っているのではないのだから。

    2 パッとしない子
    これは怖かった。書き方として美穂の感情に沿っていくことになると思うが、それでも過去に自分が担当したことのある子に対して「パッとしない子」と言うことには違和感を感じた。
    しかし、佑も自分の記憶が全て正しく美穂は加害者だから全て都合の悪いことを忘れているに違いないという態度にはやはり違和感を持つ。4「早穂とゆかり」でも想うのだが、今現在、力を持っている芸能人、メディアに露出が多いなどが強者であり、強者の持つ記憶が全て正しいこととされてしまうように思えるのだ。美穂の「そんなに悪いことした?」「繊細すぎて付き合ってられない」は本音だと思う。
    教師だって人間だし、保健室にズルして行っているように見える晴也は好きではなかっただろう。けれども晴也の当時抱えている問題をしっかり家族として向き合っていたら美穂は違う感情を晴也に向けていたかもしれないし、そもそも忘れがたい生徒だったはず。「繊細ヤクザ」という言葉があるが、それに近い者を感じる。加害者、被害者の両方に記憶の改ざんは起こるもの、両方において。美穂は決して佑の記憶の改ざんを正すことはできない。たとえ卒業アルバムか何かで運動会の門の年代が美穂の記憶通りだったと証明できたとしても、決してそれが佑だったということにはならないから。晴也の死を美穂が知らなかったのは晴也の両親がそのようにしたのだろうし、周囲が佑家族の意向を知っていたからなのだろう。自分が好きで相手も好きだった関係でなければ、連絡など取らない方がいい。「早穂とゆかり」でもそう思った。

    3 ママ・はは
    これも怖かった。
    ダブルバインドかダブルスタンダードか分からないけれど、母の頭の中にしか正解がない。しかし、これもスミちゃんの話だけでしか、ないのだ。写真の話もそう。本当には何が起こったの?それはもうきっと誰にも分からないのかもしれない。
    電話の向こうにスミちゃんの「ママ」はいるのか?
    家庭内のルールに厳しかったスミちゃんの「はは」は本当にいたのか?

    4 早穂とゆかり
    怖い。でもこれは早穂も悪い。何故わざわざ好意的な関係を結んでいなかったと自覚がある人間と会おうとするかな。相手が有名人になったからって。
    「仲良くなかったから」でおしまいにすればいいのに。
    ゆかりは凄いと思う。自己分析をしたのだ。徹底的に。辛かっただろう、不安定で、嫌われ者で、嘘つきな自分を認めることは。
    早穂は子ども時代の、たった数年間の関係にとらわれて、それを数十年経った今でも変わってないと思っていた。
    現在のゆかりが早穂にしたことは、とても感じが悪い。イジメと言っていいだろう。でも早穂も格下に見ていたゆかりに対して隙があったのだ。
    もっとビジネスライクにすれば良かったのに。それかもっと思い出話をする友として連絡すれば良かったのに。中途半端なことをすると酷い目にあう。
    しかし、これもやはり、「パッとしない子」と同じ強者だから出来ること。強者にならなければ、モヤモヤを抱えたまま終わっていくのだろう。
    子ども時代の関係性から抜け出せないとそちらの方がイタい人間になる。
    昔こんな人間だった、といっても、今もそうだ、とは言えない。嫌な思いをさせられた、でももうそれを言っても、たとえ立証できたとしても、どうにもならない。今もなお、そんな昔のことを言って自分の時間を無駄にして何になるだろう。吹聴したら、こっちがイタい人間だ。嫌だったことがあるなら、それを許さなくてもいい、ずっと嫌いなままでもいい、関わらないのだから。良好な関係を結ぶなら、昔嫌だったことを忘れず、人間として自分を嫌うことのない行動をとるしかないのではないか。

  • 見事に噛み合っていなくて、人間の考えてることってやっぱわかんないなって思った。こわい。

  • 怖い怖い!アイドルの話と塾の話はこっちまで冷や汗もの。ナベちゃんの話はあるある。外野があーだこーだ言うのって楽しいよね。笑
    辻村さん天才か。

  • うん、面白かった。サラッと読めますが女なら何度もうんうんわかるって思う瞬間に出会える小説なのでは。着物の話だけちょっと異色だったけど、メフィスト作家らしいっちゃらしい

  • 既読の「パッとしない子」「ナベちゃんのヨメ」が含まれた短編集。
    「早穂とゆかり」は「パッとしない子」と対になる作品。
    昔の人間関係を二人で振り返りながら、相手に嫌味を言われるという枠組みは共通しているが、こちらは読者の客観的な視点で見ても、主人公に非はなさそうなのに、逆転した社会的立場を利用してこてんぱんにやっつけられる話で、わりきれなさは一層高まっている。
    人生訓的には、主人公がはじめゆかりを避けていたように、こうした相手は避け続けるのが正解なのだろうし、ゆかりの立場からすれば、子どもの頃のトラウマは機会を見つけて昇華することで人は人生を先に進めていけるということなのだろう。
    こういう「固着→昇華」という図式はフロイトが理論化したものだが、私たちは彼の描いた人間観を文化的な図式としてなぞっているのか、それが人間の自然な本性なのか、そのあたりはもうわからなくなっている。フロイト以前の文学を読めばわかるのだろうが。

    いずれにしても、どの短編もいろいろ考えさせられる内容だった。

著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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