- Amazon.co.jp ・マンガ (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065169742
作品紹介・あらすじ
萩原朔太郎作品から生まれた「朔くん」、北原白秋作品から生まれた「白さん」、室生犀星作品から生まれた「犀」など、詩人本人ではなく作品のイメージをキャラクター化。詩人たちが暮らす近代市□(シカク/詩歌句)街に住む詩人の朔くんは、本人は自覚なく□街の神として町を詩人の理想の土地として管理していたが、知らずにその神の力で詩壇の師匠の白さんに強く働きかけ、自分の男性・詩人としての理想を白さんに具現化してしまっていた。ある時、□街に出現した愛国心の一表出である「縊死体」は朔くんに取り憑くが、それは戦争を悔いるあまりに愛国心までも否定しようとする戦後の日本の総意識に対抗するためであった。縊死体に侵食され一体化した朔くんは変質した白さんと複雑に影響を与え合い、神としての力が白さんにも流れ込み、白さんは二体に分裂。ひとりは新しい神として□街を守り、ひとりは男性として女性化した朔くんと結ばれるが、縊死体、戦争翼賛文学までも愛国心として認める白さんが守る□街を責める「戦後の日本の総意識」の攻撃は激化する。朔くん、白さん、戦場巡りで戦争の悲惨さを経験させられた犀の選択とは。第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門・新人賞を受賞した近代詩歌俳句ファンタジー、ついに完結!
感想・レビュー・書評
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詰め込まれている近代詩歌の知識量に圧倒される。
調べたいこと、考えなければいけないことがありすぎて眠れん。
正直絵柄はあまり好みではないのだけれど、世界観と物語構造、人物造形がとてもよくできていて引き込まれる。
この作品で想起される自明のものとしての「日本」や「母国」、愛国心や戦後の扱いにはとても不穏なものを感じるが、大衆や戦後文壇に向けられている批判的な眼差しには共感するところが多かった。登場人物とその元になっている作品群を通して展開される、近代と自我、言語,個と共同体についての考察も興味深い。
翼賛詩を切り捨てるということによって蓋をして、戦争における芸術の役割、作品そのものの詩としての価値を検証することを避けてきた狡さと危うさについて、ある種の落とし前をつけようとした物語展開には拍手を送りたい。
しかしながら、設定されている時代と取り上げられている作品のイメージを尊重する上で仕方がなかったという言い訳で納得できる程度を遥かに超えて全編を覆うミソジニーの濃さにはぞっとする。重要な局面での議論の場での女性の完全な不在、「新しい女」への揶揄、作中女性たちの人格と主体性の欠如-与謝野晶子作品を例外として、女性は登場「人物」ではなく男たちの願望を投影する為の空っぽの器としてしか存在せず、何ものも産み出さず、消費されて殺される、あるいはいないものとして消される場面ばかりなのが異様だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示