- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065178690
作品紹介・あらすじ
「やーい、お前の母ちゃん、でべそ!」 誰もが耳にしたことがありながら、よく考えると意味不明なこの悪口。そこに秘められた意味とは? ありふれた言葉を入り口に、今は遠く忘れ去られた日本の姿が、豊かに立ち上がる。
「お前の母ちゃん…」のような悪口が御成敗式目にも載るれっきとした罪であり、盗みは死罪、犯罪人を出した家は焼却処分、さらに死体の損壊に対しては「死骸敵対」なる罪に問われれた中世社会。何が罪とされ、どのような罰に処せられたのか。なぜ、年貢を納めなければ罰されるのか。それは何の罪なのか。10篇のまごうかたなき珠玉の論考が、近くて遠い中世日本の謎めいた魅力を次々に描き出す。
稀代の歴史家たちが、ただ一度、一堂に会して究極の問いに挑んだ伝説的名著、待望の文庫化!
(原本:東京大学出版会、1983年)
解説(桜井英治・東京大学教授)より
本書を通じてあらためて浮き彫りになるのは、中世社会が、現代人の常識や価値観では容易に解釈できない社会だということ、つまりそれは私たちにとって彼岸=異文化にほかならないということである。……日本中世史研究がまばゆい光彩を放っていたころの、その最高の部分をこの機会にぜひご堪能いただきたい。
【主な内容】
1 「お前の母さん……」 笠松宏至
2 家を焼く 勝俣鎭夫
3 「ミヽヲキリ、ハナヲソグ」 勝俣鎭夫
4 死骸敵対 勝俣鎭夫
5 都市鎌倉 石井 進
6 盗 み 笠松宏至
7 夜討ち 笠松宏至
8 博 奕 網野善彦
9 未進と身代 網野善彦
10 身曳きと“いましめ” 石井 進
討論〈中世の罪と罰〉 網野善彦・石井進・笠松宏至・勝俣鎭夫
あとがき 笠松宏至
あとがきのあとがき 笠松宏至
文献一覧
解 説 桜井英治
感想・レビュー・書評
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第一章として「お前の母さん……」から始まるのだけど、このトピックが衝撃的だった。
「おまえのかーさん、でーべーそー」は幼い頃に受けた悪口の一つで、そういえば、お前の父さんや婆ちゃんみたいなバージョンはなかったなと思う。
この悪口が、かの有名な「御成敗式目」では、軽くて拘禁、重いものだと流罪に値するというのだから驚きだ。
そして、当時はお前の母さん……の悪口の真意として、インセストタブー(近親相姦)を示していたと思われる記載もあるようだ。
共同体にとっては穢れをもたらす忌むべき事柄であり、その名残が今日に残っているのだと考えると、ちょっと背筋が冷たくなる。
こうしたケガレ観は、場所にも現れる。(第二章「家を焼く」)
第三章では、耳切り、鼻削ぎ刑について。
焼印、刺青刑も同様に、容貌を変えることで通常の暮らしを出来ないようにするという意図だ。
この耳切り、鼻削ぎについては、癩病との重なりにも言及している。
その他「死骸敵対」「盗み」「夜討ち」「博奕」「未進と身代」など。
それぞれの章はあまり長くなく、しかし偽りのないよう丁寧に論じられている印象がある。
武士という、戦そのものを芸事、生計とする人々が台頭する時代で、いったい倫理とは何を指すんだろうと思いつつ。
親と子との関係や、コミュニティと個人との関係には、時に緊迫するほどの重みを感じる。そして、そういう関係がある時点で社会なのだな。当たり前なのだけど。
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日本中世史を代表する「四人組」による論集と座談会。一語一句を丁寧に読み解くことで、ここまで豊かな世界が拓けることに感動すら覚える。「お前の母さん…」の解釈はとくにインパクト大。
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ちょっと前に「中世芸能講義」という本を読んで、久しぶりに網野善彦先生の著作に手を伸ばしたくなりました。
本書は、網野氏をはじめ4名の中世史研究の大家の10編の論考を採録したものです。かなりマニアックなテーマを扱ったもので、正直、本書内で開陳されている4名の泰斗の方々の論考は、私の貧相な知識では、ついていくには専門的過ぎました。 -
例えば穢の概念や、女をさらって妻にする辻捕りの風習等々、中世日本は今と相当異なる世界だったと言え、そこでは何が(どれほどの)罪で、どんな罰が適当とされていたかを推し量るのは容易ではない。本書でも、解説というよりは推測の展開がメインの様で、そこから中世社会を垣間見るといった按配。かつ専門的な話が殆どなので、門外漢には読みづらさがあった。対談集でも見解が相違する箇所があり、むしろそこが読みどころだったかもしれない。