つげ義春日記 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065190678

作品紹介・あらすじ

伝説の漫画家が私生活の苦闘を描いた幻の日記、待望の初文庫化。
昭和50年代、「紅い花」「ねじ式」など自作漫画が文庫されて各社から刊行され、ドラマ化も進んで再び注目を集めていた寡作の漫画家・つげ義春。結婚して長男が生まれ一家を構えるも、新作の漫画執筆は容易に進まない。世間で求められるものと自らの志向や資質とは乖離がある。妻の妊娠出産と病気、育児の苦労、持ち家を求めての右往左往、趣味を超えてしまった中古カメラ売買の機微、心身の不調と将来への不安……様々な事件が次々と起き、悩みが尽きない昭和50年から55年(1975年~80年)の日常生活と思いを描いた幻の日記、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 3年前に講談社文芸文庫で初文庫化されたものがKindle Unlimitedに入っていたので、読んでみた。

    元は『小説現代』に連載されたもので、単行本は1983年刊。ただし、日記の中身は75年11月から80年9月にかけての生活を綴ったものだ。

    前半には、70年代後半に起きたつげブーム(漫画文庫が続々創刊されてそこに入った旧作が売れたこと、『紅い花』がNHKでドラマ化されたことなどがきっかけ)の只中の暮らしが綴られている。

    印税がドンドン入るなど、景気のいい話が多い。思えば、私もこのブームでつげを知ったのだ。

    日記の後半に入ると、マンガの仕事は減り、つげ本人は不安神経症を発症し、夫人の 藤原マキは癌を患い……と、暮らしに暗雲が立ち込めていく。

    後期の代表作『無能の人』には、このころの暮らしがかなり投影されている。

    また、マキ夫人が遺した著作『私の絵日記』は、本書の後半と時期が重なっている。そのため、同じ出来事が夫人の目から綴られていることも多い。

    暗い日記だが、つげファンなら面白く読めるはずだ。

    作家の島尾敏雄とつげの間に交友があったこととか、つげがドラマ『紅い花』に不満を抱いていたこととか、「へーえ」と思うポイント多数。

    弟のつげ忠男に向ける思いやり、よき理解者であった石子順造への哀悼などは、胸を打つ。

  • 昭和50年=1975年、子供が生まれ、入籍。作品が文庫化し儲かる。
    昭和52年=1977年、マキ、癌手術。家の問題。
    昭和55年=1980年、不安神経症の診断。森田療法。

    といった、いわば「「ガロ」以降」の私生活を、1983年から「小説現代」に連載した、というか、売ったというか。
    子が生まれて5年ほどの記録だ。
    ほぼ同時期の記録を藤原マキが、1982「私の絵日記」、1987「幸せって何?ーマキの東京絵日記」として出している。
    この2冊は持っているので、続けて読むつもり。
    つげの持つ、旧来の男性的子育て価値観/神経症的・心配し過ぎな子育て価値観、をマキ側から光を当てられる、結構稀有な題材だと思うなぁ。

    この日記の単行本が再販や文庫化されなかったのは悶着があったからだというが、むべなるかな。
    近所付き合いや、母や弟との交流、妻との諍いやら久しぶりのセックスの日付まで。こりゃ喧嘩になるわけだわ。
    しかしすべてが実話かどうかはわからないし、おそらく藤原マキの著作との齟齬や合致もあるだろう。
    そのへんもこの日記集の終わりのほうで、自分が私小説が好きなのは覗き見することで慰藉されるからだと書かれており、それが読み手の意識に連帯を促す、という作りだ。

    個人的には、4歳児を育てている中で、もうひたすら子が愛おしく感じられたり、子がいることで何もかも嬉しく感じられたりする半面、自分のコンディションが悪いと一転して鬱陶しさの芽のようなものがぐんぐん育つという状況や、数年先に予想される落胆がじわじわしみ込んでくる感触とか、15年前から10年間ほど悩まされたパニック障害とかについて思い返されたりして、全然他人事ではなかった。切実な読書になった。

    たぶんというかほぼ100パー、「つげ義春全集」の打ち水的文庫化企画だが、つげファンは引退して金を自由に使えるんだろうか。
    そういう作家の年齢ーファンの年齢層、みたいなことも頭の片隅に置いてしまう。水木しげるとか、大友克洋の全集とかもさ。

  • 長男誕生前後は微笑ましい場面もあったが、その後は育児の苦労に加えて妻の癌、自身の不安神経症など雲行きはどんどん怪しくなり、下降の一途。そんな状態を、ここまで書くかというくらい赤裸々に綴る。でも、悲惨な私小説を読んだという読後感がない。それが、つげによる日記文学の妙味。
    そして、松田哲夫による秀逸な巻末解説でも同じ指摘が。松田さんに認められたようでちょっと嬉しい。

  • つげ義春の昭和50年から55年にかけての日記。文庫本ブームで収入が増え子供もできる一方、妻の癌に始まり自身の不安神経症の発症といった波乱の日々?を淡々と妻や周りの人間への不満を吐き散らかしながら記したもの。
    基本、漫画のイメージそのままの神経質というか「気にしぃ」な人だったんだな。
    解説によると奥さんもほぼ同時期を絵日記として出版しているみたいなんでそちらも読んでみたい。

  • 大阪の古書店で購入
    不安神経症に悩まされるつげ氏の独白には、こちらにも影響を及ぼしそうな何かがあった。

  • 共感できるところもあり読むと落ち着いた。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/742520

  • なんと完成度の高い私小説であることか

  • 2022年9月読了。

  • 昭和50年11月から昭和55年9月までの日記。
    息子が誕生し、これまで描いてきた漫画が文庫化され、映像化もされるが、つげさんの不安は尽きない。お金のことを考え、住む家を心配し、自身と家族の健康を案じ続ける日々。

    妻のマキさんの癌が見つかったり、自分の癌を心配したりしていたら、つげさんは不安障害になってしまう。
    ヨガが効きそうだと思い、ヨガの本を買っただけでつげさんは少し安心してしまう。
    誰かといるときは孤独になりたいと思い、一人になるとつげさんは寂しくなってしまう。
    癌で亡くなった知人の墓の前でマキさんの健康をお願いしようとしたが、心で念じるだけでは聞こえないかもしれないと思い、声に出してみたがつげさんはうまく喋ることができず、とちってしまう。

    もはや中古カメラをいじりまわしている時間しか、つげさんが不安でない時間はないのかもしれない。

    (日記本編もさることながら、つげさんの年譜も非常に興味深い。あれほど自身の健康について悩んでいたのに、80歳を超えてご存命なことが面白い)

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著者プロフィール

つげ 義春(つげ・よしはる):1937年生まれ。漫画家。

「2024年 『つげ義春が語る 旅と隠遁』 で使われていた紹介文から引用しています。」

つげ義春の作品

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