レイシズム (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065193877

作品紹介・あらすじ

日本人論の「古典」として読み継がれる『菊と刀』の著者で、アメリカの文化人類学者、ルース・ベネディクトが、1940年に発表し、今もロングセラーとなっている RACE AND RACISMの新訳。
ヨーロッパではナチスが台頭し、ファシズムが世界に吹き荒れる中で、「人種とは何か」「レイシズム(人種主義)には根拠はあるのか」と鋭く問いかけ、その迷妄を明らかにしていく。
「白人」「黒人」「黄色人種」といった「人種」にとどまらず、国家や言語、宗教など、出生地や遺伝、さらに文化による「人間のまとまり」にも優劣があるかのように宣伝するレイシストたちの言説を、一つ一つ論破してみせる本書は、70年以上を経た現在の私たちへの警鐘にもなっている。「レイシズム(人種主義)」という語は、本書によって現代まで広く使われるようになった。
訳者は、今年30歳の精神科医。自らの診療体験などから本書の価値を再発見し、現代の読者に広く読まれるよう、平易な言葉での新訳を企画したという。グローバル化が急速に進み、社会の断絶と不寛容がますます深刻になりつつある現在、あらためて読みなおすべきベネディクトの代表作。

感想・レビュー・書評

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  • ルーズ・ベネディクトと言われると、『菊と刀』が思い浮かぶ。

    だが、この『レイシズム』も、古典でありながらも、現代に通じる、というよりも、現代で改めて考え直さなければならない一冊だった。

    人種差別はよくない、ということは誰でも知っている。しかし、なぜよくないかを、「人種」で説明しようとする。例えば、肌の色だとかわかりやすい外見を使って。
    しかし、目を向けるべきなのは、「人種」でなく、「差別」の方であり、人種差別とは、「外見の特徴」という、「わかりやすい基準」に目を向けた、差別なのだ。

    読みながら思ったのは、こうした、差別がなぜ起こっているのか、ということをこれほどまでに詳しく、網羅的に書かれている本が、第二次世界大戦の時代に書かれていたにもかかわらず、現代でも解決されていないのはなぜかということ。
    それどころか、より複雑さを増してきているようにも思える。

    今まで見えてこなかった、隠されてきたものが顕在化されたり、意識化されたりしたから、かもしれないが、解決策が示されているのにも関わらず、根強く残り続けているのには、「わかりやすさ」があるように思える。

    『私たちはそういうシンボリックなものに心を奪われてしまいますから、私たちが具体的な対人関係を軽視して、抽象的なことばかり考え詰めてしまうパターンはこれからも続くでしょう。でもだからこそ確固としたもの、事実といえるところにまで立ち返って、そこから話を始める必要があるのではないでしょうか。『レイシズム』は、その拠り所となる本だと思います。』(訳者あとがきより)

    複雑性に耐えられなくなったとき、例えば、自分にとってわからない知識が目の前に出てきたら、「検索する」ように、「解決策を探す」のではなく、じっくりと腰を据えて考えてみる。回答を思いついても、それを保留にしておく。

    「答えを出すこと」に急ぎすぎてしまった自分にとって、「寝かせる」という発想は『ネガティブ・ケイパビリティ』に通じていくような気がします。

  • そもそもの人種や国の定義の曖昧さ。(前半)

    人種の違いから湧いてくると思われがちなレイシズムが、あくまで「あらゆる不平等への不満のはけ口としての手段」に過ぎないこと。そして解決への方向性も示されてる。(後半)

    前半部は今でこそスタンダードな考えなので目新しさはないけど、第2次世界大戦時中に書かれたと思うとすごい。後半けっこうおもしろかったです。

    .

    ー 本質においてレイシズムとは、「ぼく」が最優秀民族(ベスト・ピープル)の一員であると主張する大言壮語である。その目的を達成するためには1番うまい手段であろう。

    .
    あと表紙おしゃれ

    • 111108さん
      koshiさん、こんばんは。

      『嘘つきアーニャ〜』を読んだところで、ちょうどレイシズムとか民族主義とかに思いをはせてました。ヨーロッパでい...
      koshiさん、こんばんは。

      『嘘つきアーニャ〜』を読んだところで、ちょうどレイシズムとか民族主義とかに思いをはせてました。ヨーロッパでいうと世界大戦から1960年代、1990年代、今の露ウ戦争とかもですが、何だか同じ事を繰り返してるなという感。
      一番良くないのは、自分はそういう事を理解しきれてないなと。
      koshiさんや皆さんのレビューから理解を深めたいと思いました。
      あと、たしかに表紙おしゃれですね!
      2022/05/21
    • koshiさん
      こんばんはー
      111108の最近のレビュー読んでて米原万里さんが何者なのか気になってました笑、こんどその辺読んでみようと思います

      いやーた...
      こんばんはー
      111108の最近のレビュー読んでて米原万里さんが何者なのか気になってました笑、こんどその辺読んでみようと思います

      いやーたしかにぼくも全然理解しきれてないです笑、毎回原因は複雑で違えどこういう差別みたいなところに行きついてしまう弱さはぼくらにもあるのかもしれませんね(なんとなくの感覚でしか言えないのが悔しいところです)

      ね!おしゃれ
      2022/05/21
  • 『菊と刀』の著者が第二次世界大戦のさなか執筆したもの。国家や言語、遺伝、文化に対して優劣があると喧伝するレイシストを糾弾している。俯瞰的に考えれば、純粋な人種や民族などというものは存在しないことはわかりきっており、特にヨーロッパは長い歴史の中で混血が繰り返されている。
    その中でレイシズムに陥るのは自分の立場が不安定になったときだ。
    「自暴自棄になったとき、私たちは誰かを攻撃することによって自分を慰める」という表現は実に的を射ていると思う。当時は政治がその心理を利用し、レイシズムを推し進めることになった。結局は差別を原動力とした国々は自壊したものの。
    現代ではオリンピックなどにより、国家、民族の意識が大きくなっている。その意識が暴走した時、第二次世界大戦ほどではないがレイシズムが席巻するのではとの危惧がある。さらに、未来永劫レイシズムは根絶されないと思う。社会システムに不公正が存在する限り、敵愾心はなくならないからだ。

  • レイシズムは科学ではなく政治によって作られ、利用される。一部の人間の利益のために憎悪が利用される。
    言い方を変えると、レイシズムを唱える者たちはあらゆる科学に対して背を向けている。
    文明や文化の発展が行われるためには、多彩な人種や文化が混ざり合う事が重要なのにもかかわらず、彼らは単一種族や文化でありつづけることが自分たちの生存に重要だと言い張る。

  • 古典的なもの。1940年代に書かれたものだが、内容は現代にも通じるところがあり、レイシズムの本質を突いている。しかしそれレイシズムを人がズルズルと引き摺っている証拠だろう。

  • 人種主義、人種差別についての古典的考察本。
    マイノリティの保護にはマジョリティの教育経済的安定、社会全体の安寧が必要とされます。
    レイシズムとナショナリズムが結び付かない様に、負の歴史が繰り返さない様に、この本を読んで思います。

  • 人種というのがそもそもはっきりしない区分けであり、人種間の優劣というのも科学的に否定されている、という説は、一般的にそう言われてますね、はい、という感じ。(ちなみに何と言われようと私は遺伝的な得意不得意はあると思っている…。一部の黒人は遺伝的に陸上が得意な人が多い。同じ理由で例えば数的処理能力は?音楽的能力は?ある特定の集団の中で、得意な人が多い少ないがあってもおかしくない。それぞれの能力の間に優劣はない=人種の優劣はない、とは思うが。)ただ、すべてのレイシズムは政治利用のために作り出された、という説は新説で面白かった。言われてみるとそんな気がする。

    (以下レイシズムの政治利用に関するただのメモ)
    ただ現在のレイシズムの政治利用はもっと巧妙になっていると思う。例えば米国における大学入試。普通に試験をすると難関校定員の80,90%はアジア人になってしまう。そこで、黒人、ヒスパニックが社会の下層から抜け出すために積極的格差是正をしなければならないという理屈を適用し、人種別の合格枠を決める。誰が一番得をするか。60%の枠を確保できる白人である。白人は黒人差別を利用して(特に脅威を感じている中国人に対して)有利な地位を作り出しているのでは?ひねくれすぎかしら。

  • レイシズムが錦の御旗にされたのは、ヨーロッパによる大航海時代からナショナリズムにかけてと説明があったと思うが、それではアジアにおける中華思想や日本国防における神風や鎖国主義は何だったのであろうか。さらに、おそらくイスラームは、コテンラジオで聞いてNETFLIXのメフメト2世のイスタンブール陥落のドラマを観たが異民族を取り込みイスラームの制度のもと寛容な社会。中世のキリスト教からルネッサンス、大航海時代という「歴史は勝者のもの」という価値観で書かれた本ではないかと感じた。もちろんレイシズムという言葉を現代社会に定着させた功績は疑う余地がなく、「菊と刀」は余りにも有名。ヒトラーのアーリア人至上主義に対する批判は、この本を記した後に同氏が米軍に徴用され日本文化に対する研究分析を担ったというような説明がしてあり納得。ユダヤ人の悲劇に対しては理解が深まった(中産階級が多く資産の没収というレイシズム以外の財政的利益の裏書もあった)。ルースベネディクトは、「甘えの構造」で土居健郎が話した時に、本人の日本文化への理解が一面的であると喝破してあり、その時の印象がこのような感想につながったかも知れない。

  • BLMやアジアンヘイトで揺れる米国。今こそ全米で読んでほしい一冊。
    今も読み継がれる名著「菊と刀」書いた文化人類学者による1940年の著作だが、80年後の今もそのまま読める。
    「人種差別を最小化するには、差別につながる社会状況を最小化しなくてはならない」マイノリティの安全保障。
    惨劇を防ぐ手立ては、持つ者と持たざる者双方に対する民主的機会の保障。
    最終章(8)だけでも読む価値あり。

  • レイシストの非合理性

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著者プロフィール

Ruth Benedict 1887―1948。アメリカの文化人類学者。ニューヨークに生まれ、コロンビア大学大学院でフランツ・ボアズに師事し、第二次世界大戦中は、合衆国政府の戦時情報局に勤務し、日本文化についての研究を深める。晩年にコロンビア大学の正教授に任じられる。主な著書に、『文化の型』『菊と刀―日本文化の型』など。


「2020年 『レイシズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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