文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065201473

作品紹介・あらすじ

ラテン文字圏、ギリシア・キリル文字圏、アラビア文字圏、梵字圏、漢字圏--
五つの文字圏を比べてみると、世界の見方が変わる!

・科挙はなぜ中国社会内部の凝集力を高めたのか?
・日本は長子相続、イスラム世界では?
・箸、フォークとナイフ、右手指食、なぜ違う?
・洋装はいかに非西欧世界に受容されたか?
・なぜ音楽は国境、民族を越えるようになったのか?
・古代ローマと現代アメリカの同化力の限界とは?
・「異才」を育てるための条件とは?
・モンゴル帝国などの開放空間型集団が瓦解した理由
・文明成熟のためのキーワード「フィードバック」とは?

楽しみながら世界史のツボがわかる!

感想・レビュー・書評

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  • 漢字はなぜ、世界4大文明の文字で唯一生き残ったのか? 『文字世界で読む文明論』 | J-CAST BOOKウォッチ
    https://books.j-cast.com/2020/08/25012704.html

    『文字世界で読む文明論 比較人類史七つの視点』(鈴木 董):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000343062

  • 現在の世界を五つの文字世界に分ける。
    そして、それをそれぞれの圏内を文明と文化の二つの位相に分ける。
    これが本書の基本的な分析の枠組みだ。

    知を体系化する方法としての宗教と学問が、それぞれの文字圏でどう立ち現れてくるか。
    これが文化のハードの側面とすれば、ソフトの側面として組織を取り上げ、家・企業・国家の権力の継承の機構を具体例に分析する。
    衣食住の生活文化の分析がそのあとに続く。

    最後のパートは近現代のグローバリゼーションと文化交流を整理し、「文明」が生き延びるにはどうすべきかを提言する。

    取り上げられているそれぞれの文化・文明の具体例については、もうちょっと詳しく読みたいと思う個所もある。
    それぞれの分野で詳しい人からすれば正確さに欠けるところもあるのかもしれない。

    しかし、この本は、最近の新書としてとても貴重な一冊ではないかと思う。
    少なくとも、最初に分析の枠組みが提示され、その見取り図の中できちんと論が展開される、構造が非常にしっかり見える本だ。

    グローバル・スタンダードとなった西欧文化の伝播例として、近代小説が取り上げられたところが面白かった。
    ロシア以外で比較的早く受容された文化圏として、トルコがあるというのだ。
    フランス語に堪能なエリート層がいたためらしい。
    そこは、オスマン朝研究の第一人者だった著者ならではのところかもしれない。
    時期的にはーいや、日本の小説受容の時期とそれほど違わないのでは?とも思うが、長編の物語の伝統がない国で、日本より早くフランスで試みられている手法が取り入れられていたという指摘が新鮮だった。

    結論はー穏当というか、何というべきか。
    筆者は文明の未来を割と楽観的にとらえようとしているが、最後の方で指摘される多文化共生の多大なコストのわりにイノベーションに結びつかないことを見ると、むしろちょっと悲観的になってしまう。

  • 【感想】
     やや散漫ながら気宇壮大な主題の随筆。新書250頁程度の文字数ではまったく足りない。
     ところで本書の主張は何なのだろうか。かろうじで「民主制のフィードバック機能」が鍵概念のような気はしている。「文字・言語の系譜」も重要そうだ。しかし、展開される世界史トピックの奔流に霞んでしまったのか、何度読んでも結局私にはわからなかった。著者はこの本で何を伝えたかったのだろう。
     なおこの本で事実・史実とみなされている事柄は確かに、私の知識からみても(=私が知っていたり調べた範囲で、史学や言語学の知識と照らしあわせても)確からしいとされている事柄なので、(不遜な言い方だが)事実認定のレベルではこの本は信用していいと思う。
     ただし、事実を羅列することに意味があるとは言えない。高校世界史の副読本を意図しているわけではないはずだから。
     蘊蓄の洪水によって著者の博識さは強く伝わる。そこはたしか。わたし的には参考文献の情報を多少は示してほしかった。

    【書誌情報】
    著者:鈴木 董(スズキ タダシ)
    発売日 2020年07月15日
    価格 1,034円(本体940円)
    ISBN 978-4-06-520147-3
    通巻番号 2578
    判型 新書
    ページ数 256ページ
    シリーズ 講談社現代新書
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000343062

    【目次】
    プロローグ 文明が成熟するために 
      風雲急な二一世紀の始まり/「民主主義」と「民主政」/フィードバックという機能/格差と差別と――資本主義の暴走/文明成熟のためのキーワード/グローバリゼーションと文化/五つの文化圏

    第一章 文明と文化とは 
     文明とか文化というけれども/文明と文化は同じか/人類の営みとしての「文明」/「行け行けドンドン」からフィードバックヘ/心の「文明化」――暴力の抑制/人間活動の「くせ」/文化も変化する/文化については優劣を論じえない

    第二章 ことばと文字 
      画期としての言語の誕生/民族統合の基軸としての言語/日本語と沖縄語/可視化・定着化しうる媒体/メソポタミア楔形文字の誕生/エジプトで生まれたヒエログリフ/フェニキア文字から東西へ/インダス文字からブラーフミー文字へ/漢字と漢字世界/新しい文字世界としてのアラビア文字世界/文字と文字世界

    第三章 知の体系の分化 宗教と科学と 
      言語・文字と知の体系/個別的経験知と体系的な知と/自然的世界と超自然的世界の渾然一体/星占いの伝播/ギリシア、アラビア、近代科学/内面的信仰としての宗教へ/科学による反証/個別科学と体系知としての哲学と

    第四章 文明としての組織文化としての組織 
      メガ・マシーンとしての支配組織/家族という組織――「血統の貴さ」か「家門の誉れ」か/長子相続か均分相続か/東洋的専制/空間固定型の帝国エジプトと中国/空間拡張型の楔形文字世界/空間拡張型の典型ローマ帝国/ギリシア・ローマの支配組織とリクルートメント/科挙が高めた凝集力/「近代官僚制」と非西欧諸社会/ヒエラルキー型組織としてのカトリック教会――さまざまな組織/家から企業へ/ソフトの文明としての組織

    第五章 衣食住の比較文化 125
      住まい のかたち――遊牧民・狩猟民・定住民/都市を囲む城壁/宗教の刻印/後宮とハレム/独自の「衣」文化/旗袍は中国服ではない/ターバンとヒジャーブと/ギリシア・ローマ風から西欧風へ/「西洋化」としての「洋装」/人類の第一次グローバリゼーションのなかの「食文化」/箸食、右手指食、フォーク・ナイフ食――「食」の文化としての「食の作法」/西欧に入ったフォークとナイフ/文化としての食の禁忌/「四本足のものは机と椅子以外何でも食べる」漢字圏とタブー/酒と宗教/醤油、魚醤、唐辛子――漢字世界の調味料/米食と麦食/西洋料理を変えた新大陸の食材/「舌」のグローバリゼーション/根強い「食」の伝統

    第六章 グローバリゼーションと文化変容 165
      「大航海」時代という画期/非西欧諸国の「西洋化」改革/グローバル・システムのサブ・システムヘ/法の近代化――日本とオスマン帝国の「民法典論争」/斉一化と多様化――文化のグローバリゼーション/ロシアとイスラム世界の「近代文学」/漢詩と和歌の伝統――漢字圏のなかの近代文学/絵画、彫刻、書道/イスラム独自の音の世界/メフテル軍楽隊と「トルコ行進曲」/軍楽の西洋化/クラシックの受容/「近代」音楽と「在来」音楽の相克と混淆/解消される障壁/近代国際体系への参入/グローバリゼーション下での文化摩擦の発生

    第七章 文明と文化の興亡文明の生き残る道 199
      個別文明の興亡/長命した中国とエジプト・ヒエログリフ世界/內的凝集力と同化力の大切さ/四つの帝国の運命/ダルマとジャーティという共通基盤――インド/開放空間と機動力・瞬発力/「モンゴル の大征服」と「モンゴル帝国」の瓦解/「アレクサンダー東征」に欠けていた核/「アラブの大征服」の場合/多言語・多民族世界としてのイスラム世界/「インペリウム・ロマヌム」/ローマの文化的同化力/法的概念としてのローマ市民/拡張する西欧世界/拡大する東欧正教世界/宗教から民族へ/個別文明の繁栄と多様性――アメリカの場合/「人種のサラダ・ボウル」/異文化共存の困難さ/文明発展のためのイノヴェーション能力/内発的・創造的イノヴェーションへ

    エピローグ 現代文明と日本 243
      漢字文化圏の周辺だった過去/日本文化の発信を/「異才」を拾い上げる人材育成/フィードバックとイノヴェーション

  • 四大文字世界から五大文字文明に発展。
    「行け行けどんどん」の人類文明はまだ1.0、「フィードバック」することで2.0に発展可能。
    民主主義を機能させること、イノベーターを育てることが必要。
    ページの多くは文明論というよりは文明興亡史、世界史知らないと厳しい。比較文化論としてもおもしろく読めた。

  • 文字からの文明というタイトルですが、なかなか幅広く眺めて書かれています。
    1番心に残ったワードは「行け行けどんどん」でした。
    こう、著者が歩いてきた時代背景がうかがえて、フフッてなります。
    内容の深いところは、私には難しかった!噛みごたえがありました。

    「文明」…科学・技術。都市と社会の秩序。
    「文化」…人間が集団の成員として、後天的に習得し共有する、行動の仕方、ものの考え方、ものの感じ方の「くせ」とその所産の総体。
    「人種」…生物学的な概念
    「民族」…文化的な概念

    音声の可視化 → 文字言語

    楔形文字世界

    ・ラテン文字世界
    ・ギリシア・キリル文字世界
    ・梵字世界
    ・漢字 … 四大文字中、甲骨文字以来、本来の姿で用いられている唯一の文字

    広大な地域で用いられる文字は、共通語としての文化語の性格をおびる。
    大文字圏、大文化圏の形成。

    言葉を持つ → 「個々の経験知」から知の体系としての「体系知」を創り出す。

    宗教と科学
    太古、宗教は科学だった。
    『易経』『占星術』

    「自然的世界」  → 科学
    「超自然的世界」 → 宗教
    …かつては渾然一体としていた。

    ギリシア・アラビア・近代科学
    アラビア数字 0の概念
    錬金術→化学の萌芽

    宗教から科学の分離
    …宗教は「意味」と「救い」を与えるものに変貌したのではないか。

    「なぜ」を問う哲学は、宗教から見下されていた。
    哲学が宗教に取って代わり、世界は狭くなり、哲学も学問の発展により、領域が狭められているのではないか。

    家族の在り方の国による違い
    中国・西洋…「血統の貴さ」
    日本…「家門の誉」

    日本の家→労働組織(柳田国男)

    住まいの形…遊牧民・狩猟民・定住民

    城壁

    遊牧民…水に乏しく、なかなか洗髪出来ない→髪型に工夫→無帽は失礼であるという風習。

    食のマナー、食の禁忌

    唐辛子…新大陸産→日本→韓国(当初、害するために送り込まれた。と思われていた。唐辛子以前のキムチは甘い)→沖縄(コーレ・グース高麗草)

    グローバリゼーション第二段階…大航海時代

    「音楽は国境も民族も越える」
    →音の世界で、グローバルモデルとして、近大西欧モデルの需要
    →異文化圏との接触の中で西欧人の耳も異文化の音を捉える
    →共有する音の世界の拡大

    同化力↔多様性

  • 高校の世界史を思い出しながら読んだ。高校で習う以上の知見には乏しいが、知識の再整理と、著者がオスマン帝国の研究者である為、イスラム文字圏にやや突っ込んだ著述が見られる。自分にイスラム理解が乏しい事、日本の学校教育にイスラムへの視点が乏しい事も言えるが。

    世界史の副読本として、高校生にオススメ。

    くまざわ書店阿倍野店にて購入。

  • テーマと帯に惹かれた一冊。
    プロローグから二章までの筆者の論理展開に知性を感じた。最終章の読み応えも十分。
    しかし、「文字世界で読む文明論」というタイトルに少し負けている感も否めなかった。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/book/637471

  • トピック毎にそれぞれの文字世界の事を紹介するので忙しい印象もあった。目がすべる所があるのは私の素養が足りないだけか。

    第七章の閉鎖空間と内的凝集力・同化力、開放空間と機動力・瞬発力、核、といったワードが興味深かった。

    「多様性の社会というものは、たしかに文化的に異なるバック・グラウンドをもつ人びとが、各々の特色を生かして、イノヴェーションを生み出しうるかもしれない。しかし、そのような社会が内的凝集力を保つことはなかなかに困難であり、統合の維持に要するコストは、少なからぬものがある(p235)」
    「努めるべきは文明の行き過ぎとその不都合な諸結果を防止し、生じたときにはこれに迅速的確に対処するフィードバックシステムを創り出していくこと…前例のない試みであるから、…創造的イノヴェーションを工夫することが、必須…(p251)」
    フィードバックすなわち「民主主義」が「正常」に機能すること(p12)

    民主主義によるフィードバックと創造的イノヴェーション、簡単なことではないけど忘れないようにしたい。
    今や滅びて謎を残す楔形文字やインダス文明は、今後研究が進むのが楽しみ。

    第二章 ことばと文字、第四章 文明としての組織 文化としての組織、第五章 衣食住の比較文化 は入りやすかった。

    行け行けドンドンは言葉としての印象が強くて邪魔だった…。

  • -2020/09/11
    新聞記事に引用されていたのでネット購入した。内容は、比較人類史の視点からの文明論。だが、「新書」は素養がなければ読み進められない。辛かった。▶︎惹かれたのは数カ所だった。①グリム童話が恐怖を題材にしているわけ。②日本に明治以前に肉食文化が広まらなかったわけ。③メキシコ原種のチワワが小さいわけ。

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著者プロフィール

1947年生
1982年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、法学博士
東京大学東洋文化研究所教授などを経て、
現 在 東京大学名誉教授

著書:
『オスマン帝国――イスラム世界の「柔らかい専制」』(講談社現代新書、1992年)
『オスマン帝国の権力とエリート』(東京大学出版会、1993年)
『オスマン帝国とイスラム世界』(東京大学出版会、1997年)
『世界の食文化(9) トルコ』(農村漁村文化協会、2003年)
『ナショナリズムとイスラム的共存』(千倉書房、2007年)
『文字と組織の世界史』(山川出版社、2018年)
『オスマン帝国の解体――文化世界と国民国家』(講談社学術文庫、2018年)
『文字世界で読む文明論――比較人類史七つの視点』(講談社現代新書、2020年)
『食はイスタンブルにあり――君府名物考』(講談社学術文庫、2020年)
『帝国の崩壊――歴史上の超大国はなぜ滅びたか』(編著、山川出版社、2022年)他

「2023年 『オスマン帝国の世界秩序と外交』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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