完全犯罪の恋

著者 :
  • 講談社
3.16
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本棚登録 : 274
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (162ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065211199

作品紹介・あらすじ

「人は恋すると、罪を犯す。
運命でも必然でもなく、独りよがりの果てに。
その罪を明かさないのが、何よりの罰」
             ーー中江有里

「私の顔、見覚えありませんか」
突然現れたのは、初めて恋仲になった女性の娘だった。

芥川賞を受賞し上京したものの、変わらず華やかさのない生活を送る四十男である「田中」。編集者と待ち合わせていた新宿で、女子大生とおぼしき若い女性から声を掛けられる。「教えてください。どうして母と別れたんですか」
下関の高校で、自分ほど読書をする人間はいないと思っていた。その自意識をあっさり打ち破った才女・真木山緑に、田中は恋をした。ドストエフスキー、川端康成、三島由紀夫……。本の話を重ねながら進んでいく関係に夢中になった田中だったが……。
芥川賞受賞後ますます飛躍する田中慎弥が、過去と現在、下関と東京を往還しながら描く、初の恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 完全犯罪の恋、というと、どんな恋を思い浮かべるだろう。
    私は、相手にも周りにも知られず、恋に落ちたときからその思いが消えるまで、傍目にはまるで何もなかったかのようなそんな恋を思い浮かべていたが、違った。

    この小説はとある有名な文学賞を取った四十代の作家・田中が、離れた目が印象的な女子大学生・静に出会ったことから始まる。
    静は「私の顔、見覚えありませんか?」と、田中に尋ねる。
    田中は記憶を手繰り寄せ、学生時代のある少女を思い出すーーー。

    この主人公設定で著者=作家・田中とならない読者は少ないだろう。冒頭で「これは田中の体験談ではない」と書かれているのだが、田中慎弥さんは私小説めいた作品を書いてきた作家さんだというイメージがあって、どうしても、被ってしまう。どうしても、田中慎弥さんの顔が思い浮かんでしまう。((芥川賞を)もらっといてやる、は衝撃でしたよね、、、。)
    ごっちゃ感にクラクラしながら読んだ。

    でも、ヒロインには明確なモデルがいるそうで、それは女優の小松菜奈さん。終始彼女をイメージして書かれたそうだ。
    芥川賞作家の初めての恋愛小説。
    面白かったけど、私にはちょっと難しかった。(なのでこんな感想)

    恋をしているときに一番知りたくて、一番大きな謎としてあるのはやっぱり、相手が自分のことを本当はどう思っているのか、だと私は思う。それがわからない故の過ち。
    過去の恋を思い出して胸がチクリとするひとも多そう。
    主人公の田中はチクリどころじゃないけど、、、。

    いい恋愛小説を一作は書きたい―『完全犯罪の恋』創作秘話
    https://gendai.ismedia.jp/articles/-/76783

  • 私小説と思わせる内容。書き出しはクセのある文体で少々読みにくいところもあったが、中盤からは一気読みするほど引き込まれてしまった。アラフィフが語る恋。

  • タイトルが好きな感じ。芥川賞受賞会見で有名なあの田中慎弥さんによる恋愛小説。
    モデルの小松菜奈さんを思い浮かべて書いた、というインタビュー記事が気になったのもあり読んでみた。
    (「こちらを見ているようで全然違う方向を見ている感じがある。あの目線の先には誰がいて、何が起こっているのか? 彼女の顔に追いすがりたい、という思いが強かったですね」)

    登場人物は少ない。うだつの上がらない中年作家・田中と、彼に声をかける謎の大学生・静。そして田中の高校時代の回想にでてくる愛しの文学少女・緑と、三島由紀夫好きの恋敵・森戸。
    思いのほかキュートな文体で読んでいて楽しかった。いかにも令和の若者らしい静の勢いにたじたじの中年田中も、緑にふりまわされるナイーブで青臭い高校生田中も、どちらも憎めなくて私は結構ありです。
    高校生田中がまわりのクラスメイトを見下しつつ「文学というものは自分しか読んでいないのだ」と斜に構えて偉そうにしてる姿がちょっと心当たりあって恥ずかしい。
    図書室でくりひろげられる緑との一進一退なピュアな関係も、好きな作家をめぐっての議論も、緑に三島由紀夫を教えた森戸に対する嫉妬心も、甘酸っぱいのなんのって。
    すべてが青春!っていうラベルをつけて現在の田中自身に古びながらも大切に保管されている様子なのがたまらない。ご本人は否定してるけど、これ私小説だったら良いのになぁ。孤独な中年男性が心の奥底にしまっているこういうとっておきの思い出みたいなのもっとたくさん知りたい。
    誰に知られるでなく、文学という世界をさしはさんでのみ密やかに成立する、たしかに成立し得た、完全犯罪とその恋。やーん素敵。

  • まずタイトルに惹かれました。文章も分かりやすく作品の構造もシンプルで奥深い内容です。結末もひねりが効いていて、読後の余韻も長く味わい深いです。

  • 過去の恋愛を思い出したり引き摺ったりすることは、誰しもあるだろうけけれど、こんなにも絡みとられたら苦しい。まさにひとりよがり。気持ち悪いくらいにピュアな恋愛。主人公田中がかつての恋を、相手の娘に語る、という面白い切り口。何かを隠してすすむストーリー。すれ違うおもい。気持ち悪さすら感じるほどの、ひとりよがり。

  • 四十代後半の小説家、田中。彼は新宿のデパートで印象的な若い女性と出会う。それは彼が高校生のときに付き合っていた真木山緑の娘、静だった。

    田中は自身の高校時代の話を静にせがまれて聞かせる。
    本好きという共通点から距離を縮めた田中と緑。クラスメイト公認の仲ともいえる二人だったが、緑が好きだったのは幼馴染の森戸。
    川端康成を好んだ田中。三島由紀夫が好きだった森戸。自殺していった文豪と同じように、死ぬべきだと田中は吐き捨てた。
    高校を卒業してから約30年後、田中も森戸も生きている。けれど、緑は自殺していた。

    田中は結局、静にも、森戸にも死の伝言の事実を打ち明けられなかった。

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    焦燥感に煽られて、冷静になれないままおかしな行動を取ってしまった経験は自分にもある。田中の高校時代に共感しながら読んだ。
    10代後半から20代前半の、あの焦りは何だったんだろう。自信なんて全然ないくせに虚勢を張るせいで、どうしようもない自己嫌悪に苦しんでいた。自分を取り繕いたくてしょうがなかったのかな。

    真木山緑の自殺の理由はわからない。
    高校時代の田中の言葉に引きずられて死を選んだのかもしれないし、全然ちがうかもしれない。一番悪いのは自分だ、と言う森戸も見当違いなのかもしれない。いつまでも高校時代のことを想っている田中は自惚れ野郎なのかもしれない。
    本当のことはみんな話さないから、みんな推測するしかないのだ。

    輝く未来のために生きていく人生ももちろん素晴らしいとは思うが、取り返しのつかない過去や自身の罪を後悔しながら生きていく、もしくは死を想い続けるような人生も同じくらいに充実しているんじゃないかと思う。

  • 最後の最後まで、タイトルの意味がわからなかった。そういう意味では、ミステリー?でも、恋愛小説です。

  • 初めて読んだ田中慎弥の本。「高校時代の出来事は、完全な創作だ。」と最初に断ってあるが、故に、もしその出来事が事実だったらと考えた。

  • 筆者の作品はここ数年途絶えているが、ここまで着実に進歩している。好きな作家の一人なので、これからも活躍してほしい。

    本作は今までの作品よりも読みやすい。
    個人的には「冷たい水の羊」「共喰い」のような重い熱量で書かれた作品が好みではあるが、本作のようなさらりとしたのも良いなと感じた。
    強いて言うならば、終盤の人物描写が書き過ぎているような気がした。わざわざ全て書かなくても察せる上、想像の余地がなく、作品を浅くしてしまっているような気がする。
    本作についてはもっと評価されて然るべきだと思っている。

  • この恋によって犯した罪は何だったのか。
    森戸くんは自分を責めなくていいと言っていることで、緑の自殺にはあの頃が影響していると思っている。
    田中も同じように緑も静も自分の放った森戸への言葉を抱えていることを重いこととして捉えている。
    それは静に、そして緑に翻弄されているようにも思える。
    緑の好きだった相手も、死んだ理由も緑にしかわからない。むしろ緑自身でさえもわからない気がする。
    それでも静は理由を求める。
    田中を通して語られるからというフィルターもあるが、緑と田中の会話と、静と田中の会話は似ている。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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