本が紡いだ五つの奇跡

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 2218
感想 : 220
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065245613

作品紹介・あらすじ

本が生まれて、読者へとつながる「本に関わった五人の奇跡の物語」。仕事がなかなかうまくいかない女子編集者の最後のチャレンジで実現した新作小説。その小説が人々を気持ちを奇跡のように紡いでいく。心の機微をやさしく綴る感情の魔術師の最高傑作!  

第一話 編集者・津山奈緒の章
第二話 小説家・涼元マサミの章
第三話 デザイナー・青山哲也の章
第四話 書店員・白川心美の章
第五話 読者・唐田一成の章

感想・レビュー・書評

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  •  1つの小説が引き起こす奇跡を描くヒューマンファンタジー。
     物語は、各章ごとに主人公が入れ替わるリレー形式で描かれる。
              ◇
     その日、東西文芸社で開かれた編集会議でのこと。津山奈緒からの提案に、社長を始めとする主要メンバーは渋い顔を隠さなかった。
     奈緒は涼元マサミに新作の執筆依頼をするという提案とともに、その担当編集者になることを希望したのである。

     涼元マサミはデビュー作『空色の闇』というヒューマンドラマでヒットを飛ばしたあとミステリー作家に転身。期待されたがパッとせず、当時の担当編集者とケンカ別れをしたことで東西文芸社とは疎遠になっている。
     その後、他社から発表したミステリー作品もまったく売れず、今では執筆依頼もない状態だという。
     奈緒の提案は、その涼元にヒューマンドラマ路線での新作を書かせたいということだった。

    社長は、編集者としての首を賭けさせることで奈緒の提案を了承。こうして不退転の決意で涼元への交渉を開始した奈緒だったが……。
    ( 第1話「編集者・津山奈緒の章」) 全5話。

          * * * * *

     長い人生の中ではうまくいかないときが必ずある。壁にぶつかってしまったらどうしたらいいか。
     そんなことを考えさせてくれる作品でした。

    人生に行き詰まりを感じている5人の主人公は、1つの文学作品によって原点に帰ることの大切さに気づきます。

     その端緒を作ったのは第1話の主人公の奈緒でした。
     憧れの出版社に就職したものの編集者としてヒット作を生み出すことができないでいる奈緒は、営業への配置転換寸前まで追い込まれています。
     けれど自分がかつて人生で絶望を感じていたとき出会った涼元のデビュー作に励まされた経験から、文学の、そして涼元の力を信じる奈緒は全力で涼元の説得に当たります。
     また、それは奈緒にとって大切な人に希望を持って生きてもらおうとしてのことでした。

     その奈緒の真情から発せられる熱量に突き動かされたのが、第2話の主人公の涼元マサミです。涼元はデビュー作のヒットを受けミステリー作家への転身を図りますが見事に失敗。仕事でもプライベートでも追い詰められていて八方塞がりの状態です。( 詳しくは作品をお読みください。)
     
     けれど奈緒に説得された涼元は、自分が小説家を志した原点に帰る決心をします。もともと涼元が小説を書いたのは、病の床につき死期が迫った父親を力づけるためでした。
     売れる売れないでなく書きたいものを書く。それは涼元が、いま大切な人を幸せにするために、自分の人生を真正面から見つめ直そうとしたからでもありました。

     こうして涼元と奈緒が2人3脚で作り上げた作品『さよならドグマ』は多くの人々の反響を呼び、第3話以降の主人公たちの人生にも希望の光を灯していきます。

     タイトルに『奇跡』とある通り、事態がうまく転がっていくファンタジー作品ですが、年始めに読むにふさわしいと思いました。

     順調に日々を送れているときは、前向きに生きることは難しくありません。でも、うまく行かなくなってきたときに、顔を上げて前を向き続けるには相当な力を要します。

     信じること。
     信頼に応えること。
     大切な人のためにできるのは何かを考えること。
     それは生きるうえでの原点であり、そこに帰ることで少しずつでも道は開けていくものですよという森沢明夫さんからのメッセージ。新しい1年の希望をもらえた気がしました。

  • 一冊の本を巡る連作短編集で、各章ごとに五人の主人公が登場します。

    第一章 編集者 津山奈緒
    第二章 小説家 涼元マサミ
    第三章 ブックデザイナー 青山哲也
    第四章 書店員 白川心美 
    第五章 読者 唐田一成

    リレー形式で一冊の本による人と人とのあたたかい結びつきが描かれています。

    その本のタイトルは『さよならドグマ』。落ち目の小説家が自分の離れて暮らす娘のために書いた渾身の作です。
    この本を読んだらやはり『さよならドグマ』が読みたくなります。「森沢さん書いてくださーい!」と言いたくなります。

    「いつかは必ず大切な人との離別のときがくるのだ。そして、その際に味わう悲しみが大きければ大きいほど、その人の人生は美しかったと言える。なぜなら、その人は、他者と心を深く通わせ、幸せに生きたからこそ、別れがいっそう悲しくなったのだから。どうせ生きるなら、別れがいっそう悲しくなるように、いま目の前にいる人との時間を慈しむべきだ」
    「わたしの人生は、雨宿りをする場所じゃない。土砂降りのなかに飛び込んで、ずぶ濡れを楽しみながら、思い切り遊ぶ場所なんだよ。あなただって、本当は、そうしたいんでしょ」
    以上、『さよならドグマ』より

  • 1つの本が企画からはじまり世に出て感動が拡がってゆく、リレー形式の連作短編。
    崖っぷち編集者の熱い思いから繋がる物語り、売れない作家に、引退を決意したデザイナー、それそれが抱えている焦燥感から希望を見出すことができるのか、序盤から中盤、終盤にかけて目が離せなくなり一気に本の世界に入り込み時間の立つのを忘れてしまいました。
    多くの人の心を捉えベストセラーを出したいとゆう思いから書いたミステリーは売れない作品ばかりでジリ貧生活になってゆく作家が、たった一人の読者のために書かれた物語には、力強く泥臭いメッセージがあり、それに携わる人たちの心を揺さぶり動かし素晴らしい作品として昇華してゆく奇跡。
    離れていても寄り添って力づけてくれる。
    梅雨の中休み、
    雪渓が残るアルプスの稜線に立ち雲海の浮かぶ空が紫からピンクに移り変わりマジックアワーを迎え夜明け前の幻想的な光景に日の出を待つような、すがすがしく神聖な空気を運んでくれるそんな作品でした。

  • 始まりました「森沢明夫さん強化月間」

    ブクログで特集組んでたし、BSで『あなたへ』やってたし
    もうこのタイミングしかないでしょうが!
    子どもがまだ食べてるでしょうが!ってそれは『北の国から』(一切関係なし)

    先日実施した「原田マハさん強化月間」ではあれほど大好きだった原田マハさんに飽きてそれ以来読んでいないという教訓を一切活かすことなく始まりました!3歳児か!(あながち間違ってない)

    さて本編です

    いわゆる連作短編というのはあまり好きではないんですが、この作品はひとつの小説(本)を主人公とした長編と捉えられなくもないかなと思ったりしました(やや強引)
    ひとつの本が生まれ世の中に出回るまでに関わった人たちに小さな奇跡が起こるというお話なんですが「奇跡」というのに少し違和感

    「奇跡」ってなんか他力というか、運というか自分ではないものの力によって起こるというイメージなんですが、この物語に登場する5人は本に背中を押されてはいるものの自分のチカラでどしゃ降りの雨の中に踏み出しているんだよね
    だから「奇跡」なんて呼ばないでほしいなって思いました

    どしゃ降りの中に踏み出してみたら案外いい天気だったり、どしゃ降りであったにしろ隣を歩く大切な人がさす傘にあらためて気付いたり

    そんな風に踏み出す勇気をくれる物語でした

    それにしても高倉健さんかっこいいわ!(関係なし)

    • みんみんさん
      メロリンこにゃにゃちわ!
      森沢作品のちょっと参加の人や物?繋がりすぎて気になって仕方ない(´Д` )
      記憶力ないから笑また教えてね〜!
      メロリンこにゃにゃちわ!
      森沢作品のちょっと参加の人や物?繋がりすぎて気になって仕方ない(´Д` )
      記憶力ないから笑また教えてね〜!
      2022/07/23
    • みんみんさん
      あっ…不器用ですからm(_ _)m
      あっ…不器用ですからm(_ _)m
      2022/07/23
    • ひまわりめろんさん
      みんみん
      こんちは!

      それではリクエストにお応えして知ってる人は知っているレア情報です

      森沢作品で高倉健さんで繋がってる作品はまだありま...
      みんみん
      こんちは!

      それではリクエストにお応えして知ってる人は知っているレア情報です

      森沢作品で高倉健さんで繋がってる作品はまだありません
      2022/07/23
  • ◇◆━━━━━━━━━
    1.あらすじ 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    (1)編集者 津山奈緒
    パッとしない編集者が、過去に自分を救ってくれた作者と出会い、本の執筆を依頼する。その小説家を女性と思っていたけど、会ったら男性だったという出会いからスタート。遠くて暮らす母を想いながら、本の出版に向けて動き出す。


    (2)小説家 涼元マサミ
    初めて出した小説がヒットしただけで、その後低迷を続けている小説家。妻とは離婚して、最愛の娘とも引き離されそうになる中、編集者津山との出会いが人生を大きく変えていく。


    (3)ブックデザイナー 青山哲也
    人生の末路が見えてしまった巨匠ブックデザイナー。
    妻との幸せな隠居生活を楽しみにしていたが、未来が大きく変わっていく。


    (4)書店員 白川心美
    親と深い溝を持っている大学生のアルバイト書店員。
    本当の出会いが健太郎との距離を縮めていき、親との関係に目を向けていく。


    (5)読書 唐田一成
    健太郎の父であり、美容師の一成。妻はだいぶ前に亡くなっており、一人で生活を続けている。久々に息子の健太郎が帰省してきたことをきっかけに、あたらな一歩を踏み出す。


    ◇◆━━━━━━━━━
    2.感想
    ━━━━━━━━━━━━◆
    とても背中を押してくれる作品でした。
    気分が下降している人や、前に進みたいのに止まってしまっている人におすすめです。
    とても温かい本です♪

    私は、「エミリの小さな包丁」で初めて森沢さんを知りました。森沢さんの多くの作品に共通する「心温まる」というキーワードに惹かれて、この作品も手にしていました。

    森沢明夫さんの作品は、物語の世界に入りやすい!と、感じました。まだ2冊目だけど、この作品も、スゥ〜と、ストーリーの世界に没頭することができました。読み終えて、すごい幸せな感じをもらいました。

    最近、気持ちが下降気味な状態だったので、ストーリーに自分の生活が重なって、徐々に、心に重しが課せられていくような感じで、、、落ちて、上がってを繰り返すように読み進めました。

    そんな状態での4章が最高によかったです。
    登場人物2人の淡い心の動きが見えるようで、とても幸せな気持ちになりました。電車の中で、ニヤけてしまったと思いますが、マスクでなんとかカバーできていたかな…^_^

    5章に龍浦漁港がでてきて、またまた風鈴の鳴る町が頭の中に蘇りました✨この作品も温かい締めくくりで、心温まること間違いなしです。

    最初から最後まで、とても面白くて、最高の一冊だと感じます。人とのつながりは、意外にもこんなものなのかとしれないと、ほんと、最近感じています。


    ◇◆━━━━━━━━━
    3. 心に残ったこと
    ━━━━━━━━━━━━◆
    「ふつうが、すごく幸せだから」、というデザイナー青山の言葉。や、「人生の選択肢には正解なんてないけど、でも、いつか、その選択が正解だったって、胸を張れるように生きること。」という言葉。
    たくさんの心に響く言葉がちりばめられています。

    幸せを感じながら、幸せを与えられる部分を持って生きて行くことが大切ですね。


    ◇◆━━━━━━━━━
    4.主な登場人物 
    ━━━━━━━━━━━━◆
    (1)編集者 津山奈緒 26歳
    涼元マサミ
    東山
    西沢郁美

    (2)小説家 涼元マサミ
    真衣 娘
    綾子

    (3)ブックデザイナー 青山哲也 65歳
    しのぶ 妻 60歳
    赤島
    貴本
    真知子
    津山

    (4)書店員 白川心美
    唐田健太郎
    史乃

    (5)読書 唐田一成
    健太郎
    知世(夕凪さん)

    直斗 
    十三
    鉄平

  •  本が生まれて、読者へとつながる物語です。
     東西文芸社の女性編集者は、仕事がなかなかうまくいかない。最後のチャンスで成功する物語だと決めつけて読んでいた。自分でも陳腐な発想だと思っていたが、読み進めるうちに良い意味で裏切られる。確かに、通読してみれば編集者と小説家の成功かも知れないが…。目次は以下の通り

    第一章 編集者 津山奈緒
     第二章 小説家 涼元マサミ
     第三章 ブックデザイナー 青山哲也
     第四章 書店員 白川心美
     第五章 読者 唐田一成

     全ての章で、主人公が変わります。端を発したのは津山奈緒で、ヒット作を生み出せない。後輩は何作も売れているのに…。今回手がけた仕事を最後に、編集者から他の部署に配置される危機に直面する。そしてデビュー作以来ヒット作がなく、売れない作家と化している涼元に執筆依頼をするのです。涼元にも生活が掛かっているのだ。依頼されたから「はい書きます」とはいかない事情がある。しかし、奈緒の熱意が小説家の心を動かしたのだ。もがき苦しみ本を紡ぐ…。生活のために小説を書くのではありません。自分以外の誰かのために書くのです。奈緒が涼元に依頼した理由には救いがあったから…
    (詳しくは著書を読んで下さい)

     僕は常々、小説の帯にネタバレが書いていると指摘していますが、今回の「人生は、雨宿りする場所じゃない」は名文句ですね。

    しかも続きがあることを念頭において頁をめくりながら考え読み進めると、作品の深みが増すように思います。正に奇跡のような繋がり方は、森沢氏の発想と表現力豊かで巧みな文章の賜物ですね。読後感は、未来に希望が持て清々しく良い気分になりました。
     読書は楽しい。

     森沢さんは、綺麗で匠な文章を書く作家さんだな〜。読者心理を読んでいるね〜。
    この作品には続きがあるように書いていますが、余韻が楽しめる。はっきり答えを書いてくれないと嫌なんて思わないで、続きは妄想に浸るのも読書の良さですね。
    答えは、あなたの心の中にしまっておけば良いです。
    .
    青年層から僕みたいな親父世代まで読める作品だと思います。

  • 感動物語ですね。
    森沢さんの小説は初読みになります。読みやすい文章で心温まる物語に感動しました。
    ある本の製作に纏わる五つの短編連作小説です。それぞれの登場人物が、家族との生き別れにトラウマを抱え込んで心ひそかに思い悩む共通点が物語のキーワードですね。
    日常の謎ような伏線が最後の章で実を結びますが、作中に色々仕掛けがしてあって面白く読み進めました。
    森沢さんはミステリーも大変お好きなのではないかと推察します。
    作中の気になるフレーズが「わたしは、わたしを「腫れ物」として扱う世界から逃げ出しだ。」
    「私の人生は、雨宿りをする場所じゃない。土砂降りのなかに飛び込んで、ずぶ濡れを楽しみながら、思い切り遊ぶ場所なんだよ。」
    苦しみから目をそらさずあえて向き合うために、1冊の本が紡ぎ出され、関わる人々の絆が生まれて、再生のドラマが始まる物語ですね。素敵なお話でした。暗くなくとても爽やかな文章で好きな作家さんに成りそうです。

  • ☆5

    編集者・作家・装丁家・書店員・読書
    崖っぷちの5人は、ある1冊の本にめぐりあう。
    「本に関わった5人の奇跡の物語」

    森沢明夫さんの作品には、いつも温かい気持ちにさせてもらっておりますが、今作も「優しい奇跡」に包まれるとても素敵な作品でした❁⃘*.゚


    「人生は、雨宿りする場所じゃない。」

  • 森沢明夫さんらしさ全開の温かさと心地よさ。5つの物語のさりげないつながり具合が絶妙。
    森沢明夫ファンならニヤリとする他の作品との繋がりもうれしいところです。

  • 小説を書くことって「伝えたい誰かがいる」というある意味超個人的で、
    小説が売れるかどうかはギャンブルとも言えて。

    運良く市場に出回って、運良く評判を聞いて、運良く手元に訪れてきた。
    書き手、編集者、デザイナー、書店員。
    人の心をいくつも渡ってきた。
    そんな小説を、私たちは読んでいるのだなと。

    AI技術が現代で発展してて、小説を書くAIというのもいるらしいけれど、だけどやっぱり、人の心を動かす小説を書けるのは、人の心しかないなと思う。信じている。

    5つの奇跡。
    個人的には、最初の編集者の津田奈緒さん、書店員の白川心美さんの章が好みだった。

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著者プロフィール

1969年千葉県生まれ、早稲田大学卒業。2007年『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。『虹の岬の喫茶店』『夏美のホタル』『癒し屋キリコの約束』『きらきら眼鏡』『大事なことほど小声でささやく』等、映像化された作品多数。他の著書に『ヒカルの卵』『エミリの小さな包丁』『おいしくて泣くとき』『ぷくぷく』『本が紡いだ五つの奇跡』等がある。

「2023年 『ロールキャベツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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