電気じかけのクジラは歌う (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065264119

作品紹介・あらすじ

圧 倒 す る 想 像 力
震 え る ほ ど 未 来 

「AIがもの作りする時代――
 じゃあ俺は、何の役に立つ?」
挫折と再生を謳い上げる近未来ミステリー

☆☆☆

絶賛!そして考察の声!
「どんどんと深海に深く深く沈められるため、
 ひたすら光が見たくて読み進めさせられる」
「近未来で苦悩する音楽家達の心の叫びを肌で感じるような時間でした」
「AIが自分にとってぴったりの音楽を作り出してくれる世界。
 きっとその世界はもうすぐそこまでやってきている」
「音楽・才能に翻弄される様はもの哀しく感じる」

☆☆☆

人工知能の作曲アプリ「Jing」により作曲家が絶滅した近未来。

元作曲家の岡部の元に、自殺した天才・名塚から
指をかたどったオブジェと未完の傑作曲が送られてくる。

彼の残したメッセージの意図とは――。
名塚を慕うピアニスト・梨紗とともにその謎を追ううち、
岡部はAI社会の巨大な謎に肉薄していく。

感想・レビュー・書評

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  •  『〝クジラ〟強調月間始めました!』13

     第13回は、逸木裕さんの『電気じかけのクジラは歌う』です。
     今後十数年で、現在の職業の半分がAIに代替されると予測される未来は、理想社会なのでしょうか?
     本書で描かれる世界は、AIで駆逐される音楽業界、とりわけ作曲家の苦悩が主軸です。ここに、天才作曲家の自殺に伴う謎が絡むミステリー仕立てになっています。
     『Jing』というAI作曲アプリ。中国語で「鯨」の意。創業社会長は霜野鯨。生態系の中心に君臨し、海域の食物を大量に食す鯨は、全てを取り込んでしまうのか…。ドキドキとヒリヒリが続くドラマを観ているようです。
     音楽に携わる者の葛藤が見事に描かれています。血が通った人間だからこその苦悩や嫉妬は、誰にも身に覚えがあり心を揺さぶります。言葉による音楽表現も秀逸で、とても読み応えがありました。
     人間の創造性は、AIに凌駕されてしまうのでしょうか? 人の存在意義、苦労を伴って生み出したものの価値を深く考えさせられました。
     近い将来を、少なくとも人間性が否定・淘汰されるディストピアとは、絶対に想像したくありませんね。

  • 「Jing」というAIによって、これまでの音楽は全て喰らい尽くされていく。
    作曲家としての仕事が減り、安価に音を生み出す機械が重宝される時代の中で。
    ある天才作曲家が、「遺作」の一部を自らの指紋に残し、壁に貼り付けたことから、波が起こり始める……。

    AIが台頭する世の中では、これまでの「仕事」はなくなってしまう、そんな話を何度も耳にする。
    だから、私たち人間にしか出来ない創造的な内容や、答えが一つではない問題にトライしていくことが“必要”になってくるのだと言われている。

    けれど、この作品を読んでいると、仕事を「奪われること」の重みをとても感じる。
    それは、今までだって同じで、機械化・情報化されて「奪われた」ことも多くある。
    今の自分が、それを当たり前と感じているだけ。
    それは分かっていて、でも、少し寂しくもある。

    いつか、見えなくなって、当たり前になるんだな。

    扱いきれない膨大な情報を前にして、いかに、足元と目の前で良しと出来るか。
    高速を前にして、いかに深淵に留まれるか。
    欲望への抗いにこそ、生きることへの活路を見いださせるような、そんな矛盾した感想を抱いた。

  • 面白さはもちろんのこと、著者である逸木さんの、人工知能への視点、人間への視点に感銘を受けた一冊でもありました。人工知能が労働を奪う、とささやかれる現代だからこそ、よりこの作品の世界観や主人公の心情がリアルに、そして切迫感をもって伝わってきた気がします。そういう意味ではSF要素がありながらも、社会派的な作品なのかもしれない。

    AIアプリが音楽を作曲する近未来を舞台に、元作曲家が自分の友人であった天才音楽家の自殺の謎を追うミステリー。

    作品に登場する音楽家たちの心情がリアルで、切迫感を伴って伝わってくるのがとてもよかった。自分の創るものは人工知能でも作れる、なんなら人工知能の作る作品の方が優れているかもしれない。そんな中で音楽を創る意味があるのか。

    命題として単純化するとそれに集約されると思うけれど、それを主人公の自殺した天才音楽家・元バンド仲間、ハンディギャップを抱えながら演奏を続ける女性、自動音楽アプリを製作したIT社長などなど様々な登場人物を絡ませ、多角的に命題を浮かび上がらせて、何度も主人公に問いかけてくる。

    その主人公の葛藤に引っ張られていくうちに、物語がどんどん展開していく。ミステリ的な部分で話を引っ張るところもあるのだけど、それ以上に音楽と人をめぐるドラマの部分でも話を引っ張っていき、気づけば後半は夢中で読み進めていました。

    そうやって主人公の葛藤を切迫感をもって目の当たりにしてきたからこそ、終盤の主人公の再生も作り物めいておらず、素直に受け取れる。そして登場人物たちの設定や配置、エピソードにも無駄がなく、見事な伏線回収が決まるのも本当に見事! と思うしかありません。

    逸木さんのデビュー作『虹を待つ彼女』でもそうだったけど、本編が終わってエピローグになってから、もう一つ見せ場があるのも読者として嬉しく感じられる。映画でエンドロールが流れてから、アニメで12話終わってから、もう一話、その後の話が描かれるような、そんなサービス精神というか、見せ方をもう一つ工夫しているのも好ましいと思います。

    ミステリとしても面白いし、人工知能と音楽をめぐる人間ドラマから浮かび上がる、著者の人間に対する視点の優しさや期待も本当に素晴らしい一冊でした。

  • すでに音楽の作り方が人経費を抑えるために打ち込みになることが多く、ループ素材を貼り付けて作品を作ることは一般的となっている。
    未来の話というより、そんな現在の世の中を揶揄しているのかもしれない。
    面白く読ませてもらえた。

  • 各人のキャラがブレブレで、展開も混迷を極めるけれど、原点に戻ってくるかのような帰着にはほっとさせられた。主人公を始めとした登場人物があまりにもひねくれているのがマイナス印象でもったいない。アコースティックから交響楽やテクノまで、歌や音楽を奏でることへの想いは伝わってくる。名声を残すために死を選ぶという発想がまったく理解できなかったので、それについてはきょとんな感じでした。それにしても、ここではまるで人間性を否定しているかのように描かれている 「jing」だけれど、これはかなり面白そう。これを開発実現した霜野さんって、わざわざ悪巧みしなくてもすでに偉人ですよね。

  • かつて一緒に音楽ユニットを組んでいた親友の名塚が命を絶った。
    人工知能作曲アプリ『Jing』の検査員である岡部は家に送られてきた名塚の“指”と“スタンプ”と“カイバ”
    名塚の音楽スタジオに次々と貼られていく“音楽”

    岡部は名塚とつながる人と音楽をたずねはじめる。

    メロディはクジラに呑み込まれてしまうのか。

    〇音楽とAI と音楽家たち。近未来SF 音楽ミステリー。
    対AIをもっと全面に出しても面白かったかも。
    〇登場人物たちには、ちょっと後ろ向きだったり、他に転嫁する感じで、ざらりと。

  • AIに作曲家や音楽家の仕事が奪われた世界のお話。
    終始暗い雰囲気のまま、話が進んでいった。結末をどうするのかと不安になったが、その結末でパッと世界に色がつき、救われた気がした。

  • 近未来の音楽世界。究極までパーソナライズされた音楽はもはや作り手を必要とせず、音のタコツボ化が起こる。それでも音楽を作り続ける人間と区切りをつけて適応する人間。主人公岡部数人は、友人である名塚楽の死をキッカケに、音楽の本質的価値を苦悩しながらも理解していく。一人一人が持つ空港。音楽の波及。芸術の将来性を考える上でいい参考資料になった。
    近年の芸術活動は、経済活動と綿密に結びついている。この固定観念の崩壊が起こった時に人類は芸術の本質を再発見出来るかもしれない。

  • AIの発展に侵蝕される音楽業界で生きる人たちの物語。
    近い未来同じような変化がいろいろな文化や職業に起こるのだろう。最近も「昭和レトロ」ブームがあったように、いかに便利な時代になっても、旧き良き、人が創り出したものを愛する気持ちは、必ずや多くの人の心のなかにあり続けると思う。
    自分もいつまでもそういうものを好きでい続けたい。

  • 絵を描くAIが現在話題になっているが、音楽を作るAIも今後現れるのだろうか。この本を読んで、そんな世界は嫌だなと思ってしまった。
    これから時代が変わっていったとしても、仲間と音を一緒に作って奏でることの楽しさをずっと覚えていたい、少しでもそんな風にアーティストさん達が思ってくれたら嬉しい。

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著者プロフィール

小説家。1980年、東京都生まれ。第36回横溝正史ミステリ大賞を受賞し、2016年に『虹を待つ彼女』(KADOKAWA)でデビュー。2022年には、のちに『五つの季節に探偵は』(KADOKAWA)に収録された「スケーターズ・ワルツ」で第75回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した。このほか著作に、『少女は夜を綴らない』(KADOKAWA)、『電気じかけのクジラは歌う』(講談社)などがある。

「2023年 『世界の終わりのためのミステリ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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