- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065267141
作品紹介・あらすじ
あのバブル絶頂時、そしてその崩壊、いずれのときも意外なほどに物価は動かなかった。それはなぜか?
お菓子がどんどん小さくなっている……なぜ企業は値上げを避けるのか?
インフレもデフレも気分次第!?
物価は「作る」ものだった?
経済というものの核心に迫るための最重要キーである、物価という概念。
国内第一人者が初歩の初歩から徹底的にわかりやすく説き起こし、社会にくらす私たち全員にとって、本当に知るべき経済学のエッセンスを教える、画期的入門書の登場!
ハイパーインフレやデフレと闘う中央銀行や政府の実務家(ポリシーメーカー)たちは、何を考え何をしているのか。
それらの成果と教訓を研究者たちはどのように学び、理論を発展させてきたか。
私たちの生活そのものと直結する、生きた学問としての経済学が立ち上がっていく様を生き生きと描く!
学問としてのマクロ経済学を希求する、真摯な社会科学探究。
インフレもデフレもない安定した社会は、実現できるのか。
その大きな問いにこたえようとする、エキサイティングな一冊!
【本書より】
個々の商品の価格が、売り手や買い手の個別の事情を適切に反映して動くのは、自然なことです。そして、個々の価格は忙しく動きまわるけれど全体としてみると安定している、というのが健全な姿です。ただ、同じ「全体が動かない」場合でも、個々の価格がまったく動かず、その当然の帰結として全体も動かないということもあり得ます。しかしそれは病的だと言えるでしょう。(中略)売り手や買い手の事情で価格が上がり下がりするという、経済の健全な動きが止まっていたら、それは異変とみるべきです。後で詳しく述べますが、今の日本経済はこれに近い状態だと私はみています。
【主な内容】
はじめに
第1章 物価から何がわかるのか
第2章 何が物価を動かすのか
第3章 物価は制御できるのか――進化する理論、変化する政策
第4章 なぜデフレから抜け出せないのか――動かぬ物価の謎
第5章 物価理論はどうなっていくのか――インフレもデフレもない社会を目指して
おわりに
感想・レビュー・書評
-
正直積極的に読みたくなるようなタイトルと装丁ではないですが、蓋を開けてみると、物価について、とてもわかりやすく噛み砕いて書いてあり、浅学非才の私でも楽しく読むことができました。
中でも特に印象的だったのは関心の総量について。私は、何かを判断するときに、時間や労力といった項目をとても重視するのですが、その考え方について、完璧に文章化されていました。これは単なる自分の行動指針と思っていましたが、確かに物価の話に通ずるし、非常に腑に落ちたところでした。
---
私たちがもっている関心の総量には限りがあり、ある事柄について情報を取得し咀嚼するには、限りある資源である関心をその事柄のために割かなければなりません。総量の天井がある以上、何かに関心を割けば、その分だけ別の事柄に割く関心が少なくなります。これがサイモンの言いたかったことの核心です。
---詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
経済について勉強したいと思い、経済の本を読もうと挑戦してきたが、何度も挫折しできた。しかしこの本は最後まで読むことができた。
物価について、蚊柱に例えて説明していたのが大変わかりやすかった。(著者のアイデアではないそうだが)一匹一匹の蚊が個々の値段を表しており、それぞれの上下運動が価格の変動だ。個々の変動は激しく、しかし全体としては安定している状態が理想だという。
中央銀行の働きもわかりやすく書かれていた。我々は日銀が何を狙ってどうしているのか、もっと興味を持たないといけないという感想を持ったが、国民が中央銀行のことに興味を持たず、それぞれ自分のことをやっている状態が理想なんだという説も紹介されており、こちらも興味深かった。
インフレ、デフレ時のお金の動きがよく整理できた。 -
「物価とは何か」書評 共有される相場観は実質的な力|評者:坂井豊貴 好書好日(2022年2月12日)
https://book.asahi.com/article/14546548
今週の本棚:大竹文雄・評 『物価とは何か』=渡辺努・著 | 毎日新聞(2022/2/19)
https://mainichi.jp/articles/20220219/ddm/015/070/018000c
長引くデフレ、政策詳論 [評]佐藤義雄・住友生命保険特別顧問 (2022/3/4)
『物価とは何か』渡辺努著(講談社選書メチエ) 2145円 : 書評 : 本よみうり堂 : エンタメ・文化 : ニュース : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20220228-OYT8T50134/
【学芸万華鏡】〝安い日本〟多角的に検証 東大教授の物価解説本、異例ヒット/平沢裕子 - 産経ニュース(2022/4/19 有料会員記事)
https://www.sankei.com/article/20220419-VGLC7MZCMBJJPB7ONDQRW3ZZVQ/
物価とは何か | 書籍一覧 | 出版物 | キヤノングローバル戦略研究所
https://cigs.canon/publication/books/20220210_6560.html
『物価とは何か』(渡辺 努):講談社選書メチエ|講談社BOOK倶楽部
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000361104 -
ゆる言語学ラジオで紹介されていたので読むことにしたのですが、めちゃくちゃ内容が難しいのでまとめることできず、、、
日を改めて挑戦しようと思います。 -
ブクログでは読みやすく分かりやすい本との評価が多いようだが、私にとっては中々どうして読み応えがあり、読み進めるのに苦労した。
内容も理解できたかと問われると自信がない。ただこれは著者に問題があるのではなくて、私自身の経済学に対する素養のなさが原因なのだと思う。
ともあれ一読した感想は、なるほど物価について考えると言うことは、経済学の大きなテーマであり私たちの生活そのものに直結する事になる事。更には私たち自身が、物価を決める主体でもある事。ゆえに、世の中の気分的なものが、インフレなりデフレなりに大きく影響してる事等を強く感じた。
今の日銀の進んでいる方向には、とんでもない落とし穴や副作用が待ち受けているような気がして仕方がないのは私だけでしょうか。
私にはとても処方箋はかけませんが、ようやく物価が動き始めできた気配があります。日銀、政府にはここからの舵取りをしっかりとやってもらいたいです。
個人的には過度な先行きの不安をあまり深刻に考えずに、明るい気持ちで生活を楽しみたいです。その事が少しは経済を明るくする一助になると信じて。 -
経済学のド素人の私でも理解しやすい様に、例や図表を使用して詳細に説明してくれるので、置いてけぼりにならずに物価というものが何かを理解できるようになっている。素人にこそおすすめの一冊。
物価とか経済って数字を扱うので、もっと合理的な世界なのかと思ったけど、人間の行動心理や深層心理に影響されて変化していくのだと知って、更に面白さを感じた。 -
本書は経済学の最重要課題である物価について、最新の理論研究、実証研究、政策への応用などの知見を踏まえて初学者にもわかりやすく解説しようとした良書である。構成は以下の通り。
はじめに
第1章 物価から何がわかるのか
第2章 何が物価を動かすのか
第3章 物価は制御できるのかー進化する理論、変化する政策
第4章 なぜデフレから抜け出せないのかー動かぬ物価の謎
第5章 物価理論はどうなっていくのかーインフレもデフレもない社会を目指して
おわりに
「初学者にもわかりやすく」と書いたが、そもそも一般的には物価という概念自体がわかったようでわかっていない人が多いものと思う。個々の商品の価格と物価の動き(インフレとかデフレとか)の違いがピンと来ない人は、まずは丁寧に第1章をよく読む必要がある。もっともまったくの初学者であればまだマシかもしれないが。
個人的には第3章で紹介されているウィリアム・フィリップスが発明した機械に興味を惹かれた。ニュージーランド中央銀行に今も展示されているかどうか、そもそもフィリップスがニュージーランド出身ということを恥ずかしながら知らなかったし。
あと紹介されている分量は少ないが、シラーのナラティブ経済学の話。原著を買って積んどくのまま昨年山形さんの翻訳が出たので今度読んでみようかと思う。 -
2022-11-11
ゆる言語学ラジオで、「今年1番」と紹介されてたのでフラフラと購入。なるほど面白い。全く経済学に触れてこなかった身としては、目からウロコ多数。理論(仮説)の提唱が現象に影響を与える、人文科学特有の難しさを感じた。 -
日銀勤務経験のある経済学者の本を読むのはここ最近で2冊目(1冊目は「地域金融機関の経済学」小倉義明・著)。ただ本書は学際的な色彩はさほど濃くなく、親しみやすい豊富な事例と平易な文体が用いられ、一般向けの啓蒙書として取っ付きやすい。無論扱われる内容はやや専門的だが、説明が極めて丁寧であり、これまで貨幣論や金融政策関連の書籍に親しんだ経験のない読者でも十分に理解可能な内容だと思う。しかし、後述するようにややニヒリスティックな結論を導いているように思えるのが個人的には気になった。
まず真っ先に目を引くのは冒頭の「蚊柱」のアナロジー。これが本書を通して何度も立ち現れる、「個々の物価の運動は必ずしも物価総体の運動を説明しない」というテーマを体現している。則ち「個々の価格相互間における相殺効果を考慮すると、個別商品の価格変動そのものにフォーカスするより、むしろ個別商品と物価総体の両方に直接影響する要因の分析に注力すべき」というもの。デカルト以来の(「デカルトはそんなこと言ってない」と物言いがつきそうな気がするが)西洋世界で重んじられてきた「要素還元主義」を一旦棚上げし、ある価格更新が他の価格更新を誘発する「価格更新の相互作用」というモデルを受け入れ、個々のミクロレベルのみではなくマクロレベルの価格硬直性の原因を追求しよう、というのである。著者によれば、従来のメニューコスト仮説や情報制約仮説でも説明困難なその原因とは、ニューケインジアンの1人アーサー・オーカンが提唱する「ノルム」、すなわち社会全体が暗黙のうちに共有する社会的規範にあるという。物価に引きつけて言えば「物価予測についての暗黙の了解」となる。
従前の金融政策は、スタグフレーションを説明するべく改訂されたフィリップス曲線(自然失業率仮説)の式中に現れる「インフレ予想」への働きかけに重心が置かれてきた。しかしそもそも予想への働きかけはインフレ時とデフレ時で効果が非対称的であり、また1990年代アメリカで金融引き締めと失業率悪化食止めの両取りを狙った「ディスインフレ政策」が不首尾に終わったことから見ても、予想に働きかける政策は効果がない可能性が高いという。
むしろバブル崩壊以降の日本で支配的だったのは、「今日の価格は昨日の価格と同じ」という共通認識、つまりノルムであったという。このノルムは、長きにわたり「価格上昇が起こらなかった」という経験により醸成されたものであり、これにより価格更新頻度低下と価格間相互作用の低下が引き起こされた結果、需要曲線が屈曲し日本独自の「価格据え置き慣行」が生じたというのだ。これが冒頭で触れられた「死んだ蚊柱」、すなわち個々の価格も総体としての物価も共に不動に陥ってしまっている日本経済の実情である。この結論は多くの読者の実感とも合致するのではないかと思う。何しろ、コロナ禍での世界各国の積極財政の帰結として進行するインフレ懸念とも、日本のみ少なくとも今のところは無縁でいるくらいなのだから。
しかし、そのような長期の経験から付随的に生じてくる「ノルム」を相手に、どのような手立てが有効なのだろうか。ニューケインジアンに属すると思われる著者の主張によれば当然金融政策は無効なので、勢い財政政策に頼ることになるが、その具体的な提言は何かといえば「将来の増税をしないと約束しつつ減税する」、即ち財源なしの放漫財政だというのだ。理屈はわかるが、そのような無責任を標榜する為政者候補に票を投じろというのだろうか。一体政治責任とは、政治的合理性とは何か、という根源的な問いに繋がってしまうような気がするのだが。財政政策以外の提言としては、他には通貨政策(ゲゼル通貨、自国通貨の変動相場制移行)などが挙げられているが、どれも観念的でとても実現性があるとは思えない。
すると、本書の結論は「これが日本のノルムであるのだから受け入れざるを得ない」という諦念を暗黙のうちに認めているように読めてしまうのだ。「経験が先か政策が先か」という鶏と卵の問題のようにも思えるが、ノルムを認めるとすれば「ノルムに働きかける政策」というのはあるのだろうか。ないとすれば我々にできるのはただ現状を追認することのみとなってしまう。新たな提言を待ちたいと思う。