世界鉄道文化史 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065277089

作品紹介・あらすじ

鉄道とは、人類のドラマである!
その胸躍る軌跡のすべて

鉄道誕生から約二〇〇年――そこには、爛熟する豪華列車もあれば、等級制が生み出す人間模様もある。廃線問題が起こる一方で、座席や照明は進化し、激化するスピード競争はついにリニア開発までいたりついた。他に類を見ない独特な文化を生み運んできた鉄道の全軌跡を、第一人者が新聞や文学、写真や絵画を渉猟して描き切る、壮大にして無二の世界史!

「二等車は一等車の上流と三等車の大衆を分かつ、ちょっと曖昧な漠とした中間ゾーンであるだけに乗客心理は微妙であった。誰でも二等車に乗ると、あるいは乗れる身分になると、ほっと安心する。それでいい気になって、不遜な態度で乗務員に接する、知らぬ男女の二等客が思わぬ不倫関係で突如途中下車してゆく……」(「第六章 等級制と社会」より)

[本書の内容]
第一章 鉄道の延伸
第二章 コンパートメントと大部屋式
第三章 無謀なスピード競争は終わったが、スピードはわが命
第四章 鉄道旅行の時代
第五章 鉄道快適化物語
第六章 等級制の人間模様
第七章 日本にもあった「一帯一路」
第八章 鉄道はデザインの宝庫
第九章 超高速時代と反芻
第一〇章 豪華列車からクルーズ列車へ
第一一章 芸術が描いた鉄道
第一二章 リニア新時代と鉄道の公益性

感想・レビュー・書評

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  • 鉄道好きにとって、趣味性と社会性を絶妙なバランスで両立させた良著です。

    鉄道史なんて手垢がついた分野だと思ってましたが、本著の工夫に溢れたテーマ選定や構成には唸らされました。著者の広い分野にわたる造詣の深さがしっかり結実しているという印象です。
    例えば、高速鉄道の章では、新幹線賛歌に終わることなく、最新の各国の状況や技術論に触れつつ、最後は中国の一帯一路政策に繋げていく展開はなかなか見事。
    単に「へー」情報の羅列というトリビアで終わることなく、ストーリー感のある、一つ上のレイヤ感のある学びが得られた気持ちになれます。

    写真、図画や表も活用してわかりやすく、豊富なデータで定量的に説明しているのも良いところ。文庫という物理的な制限からあまり大きくないし、解像度的にも色的にもなかなかしんどいですが、ベストを尽くした印象があります。

    最終章「リニア新時代と鉄道の公益性」は、著者による日本鉄道業界への課題提起で、「中速鉄道(新幹線と在来線の間)が必要」、「リニアホントに要るの?」、「公益性と収益性のバランスをどう取るのか?」どれも重要なテーマです。
    いち利用者、納税者としても考え続けないといけないテーマで、活発に議論されていくと良いなと。特に最後の「公益性と収益性」は、日本の鉄道会社がほぼ不動産会社になるような、新聞業界的な事態にはならないことを祈っています。

  •  国内外の鉄道の発祥からその発展を幅広く、またコンパクトにまとめた本。
     誕生当初は、馬車と比較した高速性や貨物量・貨客量といったハード面が重視された鉄道だが、”鉄道旅行”というサービス産業が興ってからは、食堂車、寝台車、トイレ、照明、冷暖房、豪華列車といった主に乗客向けのサービス面が重視されるようになっていく変遷がこと細かに書かれており、どの章も非常に興味深かった。新幹線の中で読むのにちょうどよかった。
     単なる記録だけではなく、当時の人々の感想や乗車記録、新聞記事を丹念に調べて、歴史の裏に隠れた事実を発掘してくれているのは貴重だ。欲をいえば、モノクロでもいいのでもう少し写真を掲載してくれるとよかった。
     特に驚愕したのは、第七章の「日本にもあった『一帯一路』」の章で、第一次世界大戦で勢いに乗った日本が、東京から朝鮮半島、満州鉄道、シベリア鉄道を経由してパリやロンドンまで結んだ「欧亜連絡鉄道」を走らせていたことで、1930年代に日本の鉄道の時刻表に世界の都市名が載っていたとは恐れ入った。

     著者の興味はどこまでも尽きず、鉄道のデザイン性や鉄道をめぐる絵画や音楽、小説にまでテーマは及んでいて著者の情報収集力には感心するが、鉄道を舞台にしたミステリ『オリエント急行の殺人』の犯人を、いくら著名作品とは言え、ネタバレという意識もなくあっけらかんと書いているのは重大なマナー違反だと思った。

  • 2023.11.21 偶然booklogで見つける。
    2023.11.24 読書開始

    <目次>
    第一章 のびゆく鉄道
    第二章 コンパートメントと大部屋式
    第三章 無謀なスピード競争は終わったが、スピードはわが命
    第四章 鉄道旅行の時代
    第五章 鉄道快適化物語
    第六章 投球性と社会
    第七章 日本にもあった「一帯一路」
    第八章 鉄道はデザインの宝庫
    第九章 高速鉄道の時代
    第一〇章 豪華列車からクルーズ列車へ
    第一一章 芸術が描いた鉄道
    第十二章 リニア新時代と鉄道の公益性

  •  鉄道の歴史そのものより、社会や文化との関わりを中心に読む。階級社会の欧州ではコンパートメントメント式、かたや米では大部屋式から始まる。19世紀半ば以降の欧州、20世紀初頭には日本でも鉄道旅行が人気になり、WWIの戦跡や軍の演習も人気の観光地に。食堂車に寝台車、贅沢なサロンカー。トイレの処理はいただけないが切実な問題だ。
     自分の関心からは、19世紀末からのシベリア鉄道と東清鉄道、日露戦争後の満鉄、朝鮮鉄道更には日本国内の鉄道と連絡船とも連結した東亜連絡鉄道の記述が興味深かった。1930年代には朝鮮と満洲への観光旅行も楽しめたようだ。また庶民には縁遠かったが、欧亜連絡鉄道ルートも形成された。

  • 鉄道の未来について希望を持つことのできる本

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著者プロフィール

1939年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。三菱商事を経て,2006年までセ・デ・ベ・ジャポン代表取締役。2005年以降は近代史・鉄道史をテーマに著述業を本格化。鉄道史学会会員。著書に『流線形列車の時代』,『文豪たちの大陸横断鉄道』,『鉄道技術の日本史』,『新幹線はなぜあの形なのか』,『鉄道快適化物語』,『鉄道高速化物語』などがある。

「2022年 『世界鉄道文化史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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