今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (112ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065317839

作品紹介・あらすじ

『忘れられた日本人』で知られる民俗学者・宮本常一とは何者だったのか。その民俗学の底流にある「思想」とは?

「大きな歴史」から零れ落ちる「庶民の歴史」。日本列島のすみずみまで歩き、聞き集めた小さな歴史の束から、世間や民主主義、多様な価値、さらには「日本」という国のかたちをも問いなおす。傍流として、主流が見落としてきた無名の人びとの「語りの力」を信じて――。

【本書のおもな内容】
●「庶民」が主役の歴史を構想
●盲目の「」乞食の自分語りに見出した意味
●村をよくするために尽くした「世間師」
●釣り糸を変えると豊かになる
●「寄り合い民主主義」の可能性
●日常生活に潜む「深い心のかげり」に着目
●「ふるさと」を起点として広い世界を見る
●旅に学ぶ――父の10ヵ条
●男性による女性支配の「東西での違い」
●人が人を信じることで人間全体が幸福になる

「宮本の民俗学は、私たちの生活が『大きな歴史』に絡みとられようとしている現在、見直されるべき重要な仕事だと私は考える。これほど生活に密着し、生活の変遷を追った仕事は、日本の近代でほかにはみられないからだ。宮本は庶民の歴史を探求するなかで、村落共同体が決して共同性に囚われてきただけではなく、『世間』という外側と絶えず行き来し流動的な生活文化をつくってきたことも明らかにする。そしてそれは、公共性への道が開かれていたと解釈することができるのだ。また近代を基準にみたとき、さまざまな面で遅れているとされてきた共同体の生活、あるいは慣習のなかに、民主主義的な取り決めをはじめ、民俗的な合理性があったことも裏づける」――「はじめに」より

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100ページで教養をイッキ読み!
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1:それは、どんな思想なのか(概論)
2:なぜ、その思想が生まれたのか(時代背景)
3:なぜ、その思想が今こそ読まれるべきなのか(現在への応用)

テーマを上記の3点に絞り、本文100ページ+αでコンパクトにまとめた、
「一気に読める教養新書」です!
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感想・レビュー・書評

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  • 宮本常一のものの見方、思想と方法の概要が分かりやすく解説される。
    宮本が何に影響を受けていたのかは、あまり知らなかった。クロポトキン『相互扶助論』で、アナキズムの系譜にあることや、読もうと思っていたくらしのアナキズムの著者が宮本を評価していることを知り、自分の関心、ものの見方はこの系譜が好きなようなことがわかる。また、実際の地域おこしや、離島振興法の整備に奔走したという、学問に止まらない実践の人であったことも知る。
    ⚫︎西日本のフラットな社会構成と、東日本の縦社会の対比や、
    ⚫︎共同体と公共性の違い、
    ⚫︎技術と、物流、産業、人の移動、都市との関係をも複合的に考えて、相関関係で見ることで、流動的な文化や社会の実態がわかる。→自然環境保全を実現する上でもこのアプローチが必要なのでは?
    ⚫︎諸民は、虐げられただけの存在ではなく、慎ましく健全に生きていること
    ⚫︎人間とかく、自分の立場から見て、苦しい生活にある人(小農や乞食など)の生活を悲惨と見做しがちではあるが、そうではなく、彼らの中にも相互扶助があり、福祉事業ではなく彼ら自身が自ら立ち上がる道がないかと探っていたこと
    ⚫︎何が進歩、発展か、その裏で失われているものがあること
    ⚫︎村落共同体の中にある熟議と民主主義、そのよさと、それが阻む進歩もあること
    ⚫︎女性が虐げられた存在とだけではなく多彩な生活と自律を持っていること
    ナドナド、この本だけでも興味深いことの連発である。
    途上国で感じた、発展してほしいけど今の良さを無くしてほしくないという感覚や、生活が苦しい中でも明るい途上国の人々に出会ったときの感覚と符合する言説が多い。そして、宮本の眼差しは、多様性が語られる今、この時代でも古びていない。
    決して大きな極端な言葉で語らず、物事のひかりと影を丁寧に見ていく宮本の言説は、今のSNS社会でも重要だと思う。
    傍流に留まるという見方、まさにオルタナティブである宮本の姿勢は、現代資本主義に端を発する様々な社会問題に絡め取られている我々にとって、重要な示唆を与えていると思う。

  • 畑中 章宏 AKIHIRO HATANAKA | 現代ビジネス
    https://gendai.media/list/author/akihirohatanaka

    宮本常一 - NPO法人 国際留学生協会/向学新聞
    https://www.ifsa.jp/index.php?Gmiyamototsuneichi

    『今を生きる思想 宮本常一 歴史は庶民がつくる』(畑中 章宏):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000376543

  • 大変に興味深く、素早く読了に至った。何か、本に関しては「大変に興味深く…」と綴る場合が多いような気がしている。が、「大変に興味深く…」であるからこそ、感想等を綴っておき、同時にそれを公開して多くの方に御薦めしてみたいとも思うというものだ。
    宮本常一(1907-1981)という人物は、民俗学研究を核に、様々な活動に携わった人物で、その書き綴ったモノも多く伝わっているという。申し訳ないが、この人物のことは知らなかった。本書を手にしたのは、この宮本常一の名が題名に在ったからではない。「歴史は庶民がつくる」という表現に惹かれて興味を覚えたからに他ならない。
    「歴史」と言えば、誰かが書き綴った記録に依拠しながら過去の事象を考証する、解き明かすという話しになる。が、そういうモノは政治体制を設けた、支えた、換えたというような「体制側」の話しが大きな部分を占める。
    こういうような「歴史」だが、それが語られている空間の中に流れた時間を生きていた筈の人達を考えてみると、政治体制を設けた、支えた、換えたというような人達は寧ろ極々限られた数であった筈で、空間と時間の中に在った、敢えて一括りの呼称を与えるなら「庶民」とでも呼ぶべき夥しい数の人達が在った筈だ。
    その「庶民」とでも呼ぶべき夥しい数の人達が「如何に歩んだのか?」に着目し、考証し、解き明かそうというような事柄を端的に言うなら「歴史は庶民がつくる」ということになるのであろう。
    この「庶民がつくる」という「歴史」を考証する手段として、宮本常一は「民俗学」という方法を用いた。
    「民俗学」とでも聞けば「口承文芸」というようなことを思い出す。何処かの地域で、代々口伝で伝わっている物語のようなモノを聞書きするようなことをし、それを読み解いて「人々の心情」、「心情の移ろい」というようなことを考証する訳である。
    宮本常一は「口承文芸」というようなこと以上に「モノ」と「使い方」と「暮らしの変化」というようなことに着眼し、それに関係する聞書きのような調査を重ねて考証した。
    例えば、或る地域で良質で使い易い釣糸を製造する、または仕入れる術を得て、それが普及すると共に一本釣り漁法が発達するとする。そうなれば、やがて釣糸を方々に売るようになり、売りに行く場合には行った土地で釣糸を使う一本釣り漁法を指南する。そうなればより広い範囲で良質の鮮魚を得るようになる。やがて輸送手段が発展し、辺りの大きな街に鮮魚が出回る量が増えることになる。
    こういう例のような、「或る道具」が契機で、活動の様子が少し変わり、それが拡がり、別な要素と組み合わさって人々の暮らしに変化がもたらされるということは多々在る。それが「庶民がつくる」という「歴史」という観方に他ならないと思う。
    本書では、宮本常一の様々な仕事を取上げていて、何れも興味深い。が、釣糸の経過のことを挙げて説くような「庶民がつくる」という「歴史」という観方が殊更に面白いと思った。考えてみると、災害等は見受けられたものの、長く続く戦乱というような混乱を免れた江戸時代辺りには、本書で引かれた釣糸の挿話のような変化が、色々な分野で在って、少しずつ変容が重なり、明治期へと流れているように思う。農業や漁業、流通や取引に纏わる金融等、絡まり合って次第に変わる、換えるという中、無数の「庶民」が寧ろ「歴史」を「つくる」ということになったように思う。
    本書は本当に示唆に富む一冊だと思う。「歴史は庶民がつくる」という観方を、歴史に触れる場合に持っていると、画期的な程に理解が深まるかもしれない。
    本書には宮本常一が書き綴った様々なモノの中、代表的とされるモノ、見出し易い書籍となっているモノを巻末で幾分紹介している。その部分も好い。機会を見出して、宮本常一の書き綴ったモノも読んでみたいと思った。
    今般、この一冊に出遭えたことは、大変に善かったと思っている。

  • 旅に学ぶ父の10箇条
    01汽車に乗ったら窓から外をよく見る。豊かか貧しいかその雰囲気を感じ取る
    2新しく尋ねたところが高いところから見てみよう。
    3金があったら名物や料理を食べる
    その暮らしの程度が分かる
    4時間のゆとりがあったら歩いてみる。
    10、み残したものを見るようにしろ
    その中にいつも大事なものがあるはず

    焦る事は無い自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。

  • 民俗学や宮本常一に全く土地勘が無かったが、入門本として薄く広くで話題が飛びがちなところはあるが、更に読書を進めてみようという気にさせる。

    何点か特に印象に残ったのは、冒頭にある心の民俗学とものの民俗学ということで、柳田國男など、有名な民俗学者は前者で、有字文化を追うのに対して、宮本常一はものに着目し、また、文字化されてない慣習や祭などに着目したと言うこと。文字は上流階級のものだとすれば、確かに民俗を広く捉えるなら無字文化への注目が必要だ。

    また、それを分析として具現化したものに狭山茶の話があった。なぜ狭山でお茶なのかと言う点についてそれまで明確では無かったようだが、茶は茶壷に入れて輸送しないと湿ってダメになる→信楽の壺に宇治の茶を詰めて江戸へ→そうすると無駄に茶壷だけ江戸に残る→近郊で茶の生産に適した狭山で茶を作る→壺が足りなくなって信楽の職人が笠間などに進出。なるほどなと。

    これ以外にも東日本の縦社会と西日本のフラット社会、開かれた性の文化など文字文化だけ見ていても見えてこない話が網羅されている。宮本常一については引き続き注目したい。

  • 忘れられた日本人しか読んだことなかったのでとても面白く読めました。
    小さい声、それもメインストリームにいるのではない人々に注目し、その小さい語りを拾い上げていくのは、アレクジェービチさんの本でも感じた、現代に求められるものを同様に感じました。

  • 日本列島をくまなく歩き多くの人々から話を聞き、民俗学に関する活動を精力的に行ってきた宮本常一。彼の歩んできた道のりをコンパクトにまとめ紹介する本。
    彼の著書「忘れられた日本人」から入り、郷土研究、無字社会における民俗文化を文字化して伝承すること、農村指導、女性の民俗的地位への着目、民具・物流・産業に関する研究など、宮本が取り組んだ活動の意義を掘り起こす。
    著者によると、彼の民俗学がほかの民俗学と際立って違うのは、フィールドワークの成果が実践に結びついていったことだという。
    戦中・戦後の大阪府下での農村指導、新潟県山古志村や佐渡での民俗文化財の活用を考えたいわゆる地域おこしの先駆的活動などが挙げられている。また、生まれ故郷の周防大島など離島と本土の格差を埋める離島新興法の成立に向けても尽力した。
    おおむね、宮本常一の輪郭がわかる本になっているが、自分としては、やはり宮本の実際の著書やフィールドワークの様子をつぶさに紹介した本に比べると物足りなさが残った。

  • めちゃくちゃ短く簡潔にまとめてくれてるこのシリーズ、「宮本常一」の目次として使える本。

    ・柳田國男の「心」の民俗学に対して、宮本常一の「もの」の民俗学。庶民の「民具」を調べることで、生活史を辿ることができるという考え。

    ・宮本が編集者をつとめた雑誌『あるくみるきく』
    編集やデザインも含めて、毎号担当を変えるスタイル…今っぽい。
    いま「地方創生」「地域おこし」と全国あちこちで起こっている動きを先駆けてやっていた人がいたんだ…という驚き。

    ・フィールドワークで土地土地のひとの話を聴く「きき手」としての宮本のすごさに興味を持った。

  • 読みやすさ ★★★
    面白さ ★★
    ためになった度 ★★★★

    これから宮本常一の著作を読もうという人にとっては、宮本のことを要領よくまとめていて、最適だろう。巻末のブックガイドも使える。

  • ときとして「思想がない」と批判されることもある宮本を思想家として位置づける試みとのこと。『忘れられた日本人』をはじめとする仕事をコンパクトに紹介してくれるが、あまりそこから思想が見えてくる気はしなかった。

    むしろ要約して無理に「思想」っぽいコメントを加えることにより、もともと宮本の著作がもつ魅力が抜け落ちている。いわゆる思想みたいなものを志向していないあたりに、やはり宮本の魅力があるのではないか。地域おこしの実践家としての顔があるのも面白い。

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著者プロフィール

大阪府大阪市生まれ。民俗学者。著書に『災害と妖怪』(亜紀書房)、『蚕』(晶文社)、『天災と日本人』(ちくま新書)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)、『死者の民主主義』(トランスビュー)、『五輪と万博』(春秋社)などがある。

「2023年 『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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