世界最強の魔女、始めました ~私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます~(1) (KCデラックス)
- 講談社 (2023年9月8日発売)
- Amazon.co.jp ・マンガ (192ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065327784
作品紹介・あらすじ
「…攻略うぃき?」――最弱クラスのスキルを発現してしまい追放された少女・ローナ。しかしそのスキルの正体は、この世界の『攻略サイト』を見ることができるSSSランクのチートスキル【インターネット】だった!
(1)冒険開始→(2)即・最強武器発見→(3)世界を混乱に陥れる最強少女に‥‥‥。ローナは言う。「私はただ、平和に自由に生きたいだけなのにいぃ‥‥‥!」
【この女の子――明るくて、楽しくて、そして…世界最強!? ハチャメチャ異世界ファタジー!!】
感想・レビュー・書評
-
最強なことは気になるけれど、それ以上に大切なのは自由に楽しく振る舞うことなのでしょう。
元からコミカライズ向きなのかなぁと思ったりもしましたが、原作未読なのでそちらは口をつぐむとして。
長めの説明タイトルと言い、主人公が“追放”されてのスタートと言い、いわゆる「なろう系」に位置づけられる作品なのでしょうが、軽妙かつテンポ良く、何よりもほんわかとしたコメディに仕上がっています。
と。レビュー全般としては私見を加えて作品の傾向について大まかな分析を行っていこうと思いますので、今後の展開に触れることはさほどないとは思いますが、一応ネタバレへの注意喚起をしておきます。ご容赦を。
まず思ったのが主人公「ローナ・ハーミット」に「最強系」特有の斜に構えたイキった(≒傲慢な)感じがなく、好感が持てるキャラクターとして終始一貫描かれている点でしょうか。
そもそものスタート地点からして降って湧いた力に酔いしれるのではなくて振り回される系ですし、今後さじ加減を間違えなければコメディとして最上のまま最後まで駆け抜けられそうです。
なにせローナは周囲とは桁の違う力をふるってその力を知る周囲から畏怖の念を集めようとも、明るくポジティブで世間知らずな善人のお嬢さんというキャラを崩しません。
世界を見て回る中で未知の風物に対して素直な感動を表すほか、出会う人々に対しても総じて礼儀正しく謙虚な小市民として振る舞い、なにより人助けを心がけるようにしているので一読者として応援できます。
ところで主人公が周囲と隔絶した力を持つ“最強”ということを前面に押し出す作品は、結局は踏み台にされる周囲を貶めるほか、結局はやることが単調になってしまうという欠点を抱えていると私は思うのです。
その点、本作の最強はローナのキャラ(とギャグ)を輝かせるための道具と割り切っているのがいいですね。
(先行する最強系作品を貶める意図はありませんのでお許しを。あくまで私の好みでないというだけです。)
その点、本作は主人公の人助けもあって少しずつ周囲を幸せにしていく優しい世界を実現しているのが嬉しいところ。これはローナの半ば無自覚な最強さと周囲の勘違いの上で成り立つため、舵取りを間違えれば砂上の楼閣になりそうな怖さも備えるものの、作品全編に漂うコミカルな雰囲気を考えればたぶん大丈夫でしょう。
なお、作品世界観はスキルがあったりステータスウィンドウが開けたりするゲーム的なフォーマットが常識とされている剣と魔法のファンタジー世界です。最近のネット小説に則ったオーソドックスなスタイルですね。
が、ゲーム的な仕様が幅を効かせる(たとえばボスのドロップアイテムが加工品)ことにローナも疑問を感じた通り、世界自体が我々の生きる現実のゲーム制作者に作られた不自然なものだと示唆しているようです。
現実世界によって作られたのでなければ観測されているだけなんだと思いますが、真相は不明です。
今後の展開次第ではその辺の世界の真実について迫っていくのかもしれませんね。はたまた、いやいやそんなの大事じゃないでしょとスルーしてローナの冒険を描くことに専念してもいいと思いますが。
なんにしてもローナが自身の固有スキル「インターネット」を介して現実世界の攻略情報(=ローナの世界における隠された真実や未来知識)を閲覧し、神の叡智に触れるスキルと評したのも遠からずといえます。
世間知らずのお人好しなお嬢さんがインターネットを万能のものとして捉えるがあまり、ネットの闇に絡めとられそうな危惧を覚えたりもしますが、とりあえず脇にうっちゃっときましょう。
インターネットに限らず世間一般には疎い彼女が世界を旅して見聞を広めていこうという試みと何も知らない読者の視点がハマるのは、王道ながらにわかりやすい主人公たるものの造形なのでしょうね。
それと同時に作品のカギを握るインターネットについては読者の方が詳しいので、その辺は伝えたいのに伝えられないもどかしさとして主人公を応援させる心理に転じさせているのは巧みな点だと思ったりもしました。
ここがゲーム世界だからなのか、ローナの現況や感情を端的に示したメッセージ?(ローナも認識しているであろうシステムメッセージとは別)が読者向けに頻繁に表示されるのも面白いですね。
こういう演出は挿絵があるとしてもほとんどの表現を文字情報に落とし込まないといけない小説ではテンポの面からやりづらく、漫画ならではの表現だと思うので今後も注目していきたいところです。
もしもこの作品がアニメ化されたとして、その折にはナレーションとして差し込まれるのかもしれません。
話は少し飛びますが『魔法陣グルグル』の薫陶を受けた私としては、懐かしくもありました。
あとは、主人公の強さは一巻時点では最強装備品にブーストされた上で成り立つものなのですが、期せずにしてモンスターを大量虐殺してしまい素のレベルを一気に上げてきたことは見逃せません。
ジャンルにもよりますが、レベルアップ(=強くなること)の楽しさはゲームから外せませんからね。出だしの怒涛のレベルアップによるロケットブースト的な楽しさが去った後、どうなるかがわからないとは言え。
ただ、装備品込みなら最初から最強なので主人公のステータスがインフレ極まったあとでも誤差に収まってしまうのが上手いと言えば上手いと言えるポイントでしょうか。あと本作には戦闘シーンもありますが、どちらかといえばゲームの仕様の裏を突くあるあるネタでありコメディの道具立てに終始しているのが特徴ですね。
くわえて主人公がいかに場違いな存在であるのかを示すべく、この世界における一般的な冒険者(戦士)などの視点からレベルやステータスを教えてもらうパートを序盤に用意しておくのも心憎い。
地味ですけど、主人公の立ち位置を介してこの世界はこういうものだと読者に提示する一幕は大事なのです。ここを外せば、途端に世界観自体があやふやになってしまい度を越せば意味不明になりますから。
以上。
主人公の良心を担保にして成立しているコメディなだけに悪ノリが過ぎたりでバランスが崩れたら一気に作品のクオリティが落ちそうだと危惧を抱えてもいるのですが……、現時点では気にすべきでないでしょう。
作品の大筋と個々の道具立ては原作ゆずりなのでしょうが、作画の「戸賀環」先生はその良さを引き出したうえで漫画ならではの表現を加え、高水準で仕上げてくださったとお察しします。戸賀先生が手がけた先のコミカライズ『雨の日も神様と相撲を』も素敵でしたが、連続で当てた以上その実力は本物ですね。
あと、言い忘れないよう申し上げておくとローナがかわいい、本作を語る上でここは外せません。
自分の行動のせいで大惨事になった際に慌てふためく様子をはじめ、喜怒哀楽の感情の振れ幅が大きい子なので見てて楽しく、所作もコミカルでまさしくコミカライズ向けのキャラクター付けであるとも感じました。
一人旅ということもあるのでしょうが、一挙手一投足を見てて飽きない子ってのはきっと重要です。
なお、二巻に向けては基本はぽやっとしているお嬢さんであるローナの、天然っぷりが動じなさに通じることで巻き起こる騒動についてスポットが当たることになるようなので、そちらにも関心を向けたいですね。
なににしても本作は「最強」や「追放」といったシナリオ作りのガジェットは道具立てに過ぎず、それを使いこなせる魅力的な主人公こそ大切なのだと改めて教えてくれるようでした。今後も応援していきたいですね。詳細をみるコメント0件をすべて表示