世界最強の魔女、始めました ~私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます~(2) (KCデラックス)

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  • Amazon.co.jp ・マンガ (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065334126

感想・レビュー・書評

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  • 好意と恐怖、無垢と打算が交差して――、ふたりの少女はコントする。

    まず、主人公「ローナ・ハーミット」が引き続き表紙を飾るのは当然としましょう。一巻冒頭で読者の度肝を抜いたインパクトがあまりに力強かったからなのか。二巻表紙は背後に炎を掲げた構図が選ばれました。
    なお、この二巻のレビューではネタバレを積極的に行っていきますので注意喚起をしておきます。ご容赦を。
    たとえば二巻では炎魔法は使っておらず主として氷魔法で戦ってたりするのですが……、些細な問題ですね!

    さて、作品の方向性に関しての感想は一巻の方で差し上げましたのでそちらもご参照いただくとして。
    細かいところを抜きにしたコメディとしては一級品だと改めて申し上げておきます。
    そもそも主人公を追放した生家の家名が「ググレカース」な時点できっとなにかを悟っていただけると思います。まじめなバトルやシリアスは期待しないでくださいと言外に主張している風なのは良心的ですね。

    そんなわけで二巻ではファンタジーRPGの王道に則って地下ダンジョンを攻略するローナなのですが――。
    やっぱり固有スキル「インターネット」を介して入手した攻略情報およびゲーム的な仕様の穴を突いたハメ技でダンジョンギミックもサクッとクリアして、強敵のことも一蹴します。
    攻略中にローナ本人が申し訳なさそうにしているのが、生来の人の良さを表しているようでいいですね。

    そんなわけで太古の悪王が姿を変えたという触れ込みのドラゴンを撃破したローナは二巻にして42レベルに到達、一見すれば展開が早いようです。
    ですが、この場合はある程度レベルが頭打ちになってからが本番だと思われるので順調かと。

    なぜなら、この作品の舞台になっているファンタジー世界の下敷きになっているのは現代日本におけるMMORPGもしくはソシャゲと考えられます。どちらもインフレありきの世界観ですね。
    (しょせんは原作を読んでいない私個人の予想ですので外した場合は笑ってやってください) 
    くわえて世界の裏側に主人公レベルでなければ対処できないまだ見ぬ強者が隠れていることが示唆されてます。それと合わせ、主人公に向けて問題が集積していくであろうシナリオ構造になっていくのも面白い。

    まぁ、たとえ戦闘の勝敗が問題にならないとしても、コメディの題材が向こうからやってきてくれるのはありがたい話です。あと、ここからは個人的に気に入ったので特筆すべきだと思ったことを書き連ねていきます。
    (おそらくは現代日本を生きる)インターネットの住人とローナの交流がはじまったり変な広告を踏んだりと、ファンタジー世界とは別の次元で繰り広げられるギャグも気になりますが、今回は割愛しますね。

    そんなわけで、ここ二巻からはローナの常識外れっぷりに対するわかりやすいリアクション担当として、エリート意識を笠に着た(本来なら)高飛車で性格の悪い魔法使い「エリミナ・マナフレイム」嬢が登場です。
    このエリミナさん、一般常識の範囲内では最高峰の実力者であろうことが推察できるものの、それが祟ってローナが桁外れの魔力を秘めていることがわかります。そう、周囲を置き去りにしてわかってしまいます。
    結果、誰にも相談できず保身に走って盛大な一人相撲を繰り広げるのが、読者の涙と笑いを誘いますね。

    読者視点だと結果的に悪いことを何もできておらず、ローナ視点だとエリミナさんのことがいい人に見えるというのが皮肉です。ローナの人となりを知っていれば(これは事前に接点がない以上は無理ですが)深読みする必要なんてないはずなのに、まったく見当はずれの方向に突っ走るエリミナさんの薄幸さが際立ちますね。

    ま、わかりやすい驚き役は必要なんですが。
    再登場が約束された彼女により多くの出番に恵まれた暁には、いっそう作品に貢献してくれそうです。
    ただ、この辺で一応気になる点を挙げますと。エリミナがローナを最初目にして恐怖のあまり自分に脅しをかけていると妄想してしまうシーンについては、少し前後がわかりづらいかなと思った部分もありました。

    けれど、以降は勘違いモノとしてのフォーマットに見事に収まっています。
    ローナの言葉に裏なんてないし、他意もない。なのに、エリミナはローナに裏があると思い込んでしまう。
    双方そう考えてもおかしくない説得力があるのが非常に漫画として、コメディとして強かった……!
    結果、互いが互いのことを勘違いしたまま、すれ違い続けてしまうわけで。コントとして完成度高いですね。

    以上。
    この巻で確信に近づきましたが、最強主人公の力を示すべく、踏み台とされて貶められる悪者(ドラゴンほかモンスターたちは舞台装置ですね)を極力作らないようにしている風なのがありがたい。
    その点、倒す倒されるとは別の次元で展開したエリミナさんの一件はまさしく、ウルトラCといえます。
    最強で天然な主人公の視点を窓口にしたことで生まれた、優しくほんわかとした世界は引き続き健在でした。

    あと、先ほど書き連ねたエリミナさんの行動も実のところを言えば、生き残るための最善の一手を取れているというのがいやはやなんとも。
    本人の胸中は穏やかならぬと言っても、結果的にみればローナの行動によって事態は好転してるんですよね。

    あと、ローナ自身も確かに世間知らずの天然なのですが、悪目立ちを避けようという良識はあったりで愚かではないというのがポイントですね。そしてエリミナさんも間違いなく有能なんです。
    このふたりの間で真に何が起こったのかがわかるのは読者だけ、というわけで――。

    主人公に助けられた人がポジティブな方向に向かっていき、読んでいて気持ちいいというのは一巻のレビューでも述べた通りですが、こういう予期せぬ化学反応が笑いを巻き起こすというのも興味深いですね。
    これに限らずこの漫画は、当人同士は大まじめなのに笑いに転じるシチュエーションが多いです。お互いの認識が食い違っていることを知っているのは読者だけ。この場合はコメディの基本に忠実なのかもしれません。

    なお、この巻ではローナの一挙手一投足や感情に対して漫画的なメッセージが流れる頻度はやや下がりました。その演出が一巻で目立ったのは、ローナひとりだとリアクション担当がいなくて間が持たないからという判断だったのかもしれません。少し寂しくありますが、ギャグのやり口が広がったと思うことにします。
    要所でメッセージがローナに対して辛辣なボケ&ツッコミとして機能してくれるのは確かでしょうし。
    今後も予期せぬタイミングで投入して、読者の表情をほころばせていただきたいところです。

    と。そんなわけで二巻の〆は、旅立ちの森に戻って金策にいそしんでみるとなぜかエルフの救世主に祀り上げられるところまでです。
    本作はローナが偉業によって巻き起こすことになった、影響から逃げていないということなのでしょうか。

    どうしてこうなったのか、詳しい流れについては本編を参照いただくとして。
    大まかに言えばローナが一巻で巻き起こした波乱が早くも我が身に返ってきたわけですね。
    展開自体はありふれたものだとしても、伏線を踏まえているので納得の方が先立つのは実にベネでしたが。

    シナリオの流れがゲームでよくあるクエスト方式なので伏線回収もやりやすいでしょうし、今後は主人公が積んでいく様々なコネクションやイベントフラグを、思いもよらないところで拾ってくれそうですね。
    ここはひとつコメディばかりと限らず、伏線回収の妙を楽しむシナリオの面白さにも注目したいところです。

    そんなわけで。
    話がどう着地するかはまだ読み切れませんし不安要素もあるにはありますが、一巻の出オチで終わる作品ではなかったようです。笑いの取り方も幅広くなってきましたし、意外やシナリオも丁寧に編まれています。
    それに作品のカギを握る主人公の人柄が揺るぎないことも確信できました。今後も応援していきたいですね。

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著者プロフィール

過去作に『雨の日も神様と相撲を』(原作/城平京、全3巻)。


「2023年 『世界最強の魔女、始めました ~私だけ『攻略サイト』を見れる世界で自由に生きます~(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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