人はどう老いるのか (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065336939

作品紹介・あらすじ

老いればさまざまな面で、肉体的および機能的な劣化が進みます。目が見えにくくなり、耳が遠くなり、もの忘れがひどくなり、人の名前が出てこなくなり、指示代名詞ばかり口にするようになり、動きがノロくなって、鈍くさくなり、力がなくなり、ヨタヨタするようになります。イヤなことばかり書きましたが、これが老いるということ、すなわち長生きということです。にもかかわらず、長生きを求める人が多いのはなぜなのか。それは生物としての人間の本能であり、長生きをすればいいこともいっぱいあるからでしょう。世の中にはそれを肯定する言説や情報があふれています。曰く、「八十歳からの幸福論」「すばらしき九十歳」「人生百年!」「いつまでも元気で自分らしく」「介護いらず医者いらず」等々。そのことに私は危惧を深めます。そんな絵空事で安心していてよいのかと。思い浮かぶのが、パスカルの言葉です。 我々は絶壁が見えないようにするため、何か目を遮るものを前方に置いた後、安心して絶壁のほうに走っているのである。下手に老いて苦しんでいる人は、だいたい油断している人です。浮かれた情報に乗せられ、現実を見ずに明るく気楽で前向きな言葉を信じた人たちです。上手に老いて穏やかにすごしている人は、ある種の達観を抱いています。決していつまでも元気を目指して頑張っている人ではありません。いつまでも元気にこだわると、いずれ敗北の憂き目を見るのは明らかです。老いれば機能が劣化する分、あくせくすることが減ります。あくせくしても仕方がないし、それで得られることもたいしたものではないとわかりますから。そういう智恵が達観に通じるように思います。多くの高齢者に接してきて、上手に楽に老いている人、下手に苦しく老いている人を見ていると、初体験の「老い」を失敗しない方法はあるような気がします。それをみなさんといっしょに見ていきたいと思います。第一章 老いの不思議世界第二章 手強い認知症高齢者たち第三章 認知症にだけはなりたくない人へ第四章 医療幻想は不幸のもと第五章 新しいがんの対処法第六章 「死」を先取りして考える第七章 甘い誘惑の罠第八章 これからどう老いればいいのか

感想・レビュー・書評

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  • スマートニュースで気になりようやく借りられました。
    高齢者医療に携わっている医師が書くなら大体そうであろう内容。

    本当に本人が望まない延命は苦しいだけ。点滴以外にも食欲落ちてきている人に高カロリー食品を延々と食べさせたり。一度始めるとなかなかやめられないのが怖いところです。一時的な食欲低下なら確かに栄養補助食品で様子見た方がいいけど、それで細々といくのも辛いですよね。結局必要栄養量は賄えないから褥瘡になりやすかったり治癒もできないし。

    やっぱり老化を受け入れて楽しそうに年をとっている本人や家族は幸せそう、に尽きます。

  • 久坂部 羊 Yo Kusakabe | 現代新書
    https://gendai.media/list/author/gendai-shinsho/kusakabeyo

    『人はどう老いるのか』(久坂部 羊):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000382689

  • 人に勧められて読む。
    最初に書かれる壮絶な老いの様相にまずかなり衝撃を受けた。ただ、それを知っているか知らないかでは、実際に老いを受け入れるに際しての心構えがずいぶん違うと思う。
    誰でも死ぬ時は大変なのか…。
    知りたくなかったなあ。

    抗わずどう生きていくかの指南書でもあるのだが、筆者の意見に全面的に賛同できるわけではないところも、ままある。特に胃ろう処置をするかどうかという点や安楽死について、安易にそうだよねと肯定できない。筆者も全面的に肯定しているわけではないが、医師としての発言はもっと慎重でもいいかなと思う。

    どうせ、老いることは苦難を伴うし、死ぬ時も壮絶な苦痛を通り抜けるのだから、ぽっくり死ねるとか、いつまでも元気でというのにこだわるな、と筆者はいう。
    一つずつ受け入れていこうと。
    うーん。やっぱり嫌だなあ(笑)

    でも知っておいてよかったとは、思う。
    「弄便」なんて言葉初めて知ったが、これも当たり前なんだよねと思うと介護の時に気持ちがラクかな。みーんな通る道だから、と思うのはいいことだと思う。

    最後に紹介された内田樹の言葉、さすが内田さん。与えられた状況に自分が合わせていくという武道家としての姿勢、かっこいいですね。
    それから、水木しげる氏も流石と言うしかない。
    ガリ勉して、同僚が遊んでいてもマジメに貯金をし、結婚もし、家も建て、子供も大学に入れて、万事将来の幸福のために備えた男が、臨終の時に言った言葉
    「わしは少しも幸せではなかった」に対して
    「あなたは幸せの準備だけをなさったのヨ」という妻を描いた『幸福の甘き香り』は読んでみたい。
    「老後というのは、若い時の執着や邪心が消えて、いろんなものが見えてくるから、思ったよりいいものなんだ。」という水木しげるさんに倣って、老後は気楽に欲をかかず、退屈せずに楽しく気晴らししていけたらいいのね、と思った。
    でもまあ、仕事をしながら、幸せの準備するのも実は楽しい気晴らしなのかも。

    一つの考え方として、この本をうまく使えば良いと思う。

  • できれば、苦しむ老い方はしたくないと思う。認知症にはなりたくない、がんも怖い、家族に迷惑はかけたくないと思う。でも老い方は人それぞれで、しかも自分では決められない。

    読み始めると、まずは老いの現実。きれいごとではすまされない。心身ともに疲弊する。今、介護を担う全ての人に敬意を払いたいと思った。

    次に認知症について。認知症になると〈今〉しかないので、煩いも消えるらしい。認知症になる前から心配しても、そのときにはわからなくなっている。なるようにしかならないのだから、前もって心配するだけ時間の無駄なんだなと思った。

    もうひとつわかったことは、最近は年配者よりも若者のほうが新しいことを知っていて、教えてもらわなければならない。だからこそ、自らの老いを受け入れ、怒らず、威張らず、自慢せず、若者に道を譲り、己の運命に逆らわない心の余裕を持つことが必要だということ。これはとても難しいことで、だからこそ、そうなれば若者の敬意を呼び覚ますことができる。でもなかなか難しそうだ。

    がんについては、標準治療の大切さ、人の弱みに漬け込む怪しげな民間治療に気をつけること、痛みを取り除く重要性、残されたもののエゴで患者を苦しめないことなどと、強い精神力の必要性を再確認できた。

    老いは、誰でもが初めての体験になる。考えてもどうにもならないことよりも、今の時間を楽しめるように生きていきたいと思った。準備はもちろん大切だが、準備だけで人生を終わらせないようにしたい。


  • 小説家で臨床医でもある久坂部羊さんの1冊。
    子どもたちが自立し、空の巣症候群に陥らずあらたな楽しみを手に入れたいなあと思案している最中。

    だが自分の身に急に老いがやってきているのに気づく。
    人間の身体は正直だ。この1冊は老いること、死ぬこと、生きることを改めて考えるよいきっかけとなる。

    本文P.197より:
    老いるということは、失うことだともいわれます。体力を失い、能力を失い、美貌を失い、余裕を失い、仕事を失い、地位と役割を失い、居場所を失い、楽しみを失い、生きている意味を失う。
    そんな過酷な老いを受け入れ、落ち着いた気持ちで過ごすためには、相当な心の準備が必要です。

    以上抜粋。
    ちょっと前までは寝れば、クスリを飲めば、治療すれば元の通りに戻った。しかし最近は「以前と違う仕方のないこと」が少しずつ増え始めた。
    不如意とつき合う。不自由に慣れる。

    著作前半は悲しいほどに老いの辛い現実が久坂部さんの臨床の現場から伝えられる。
    ああ、周りに迷惑をかけたくないなあ。手を煩わせず、すっと逝きたいものだ。

    メディアは高齢化の現実を明るく伝えようと、活き活き元気な高齢者を取り上げる。作中にもあった日野原先生は例外中の例外とか。

    節制し、運動し、健康に留意していれば誰もがよい老後を過ごせるというのは幻だ。

    むしろ健康維持に節制しすぎた人ほど、なぜこんなに頑張ってきた自分が?と、不自由や不如意、不運を受け容れられず、苦しむとのこと。至極納得。

    リスクは下がるが、「必ず」「絶対」はない。
    怪しげな健康情報に振り回されず、「老い」を毛嫌いせず、ほどほどにその日その日を愉しむ。
    還暦を前に過剰な健康第一主義に風穴を開けてもらえた気がする。

    久坂部さんは亡くなったご両親のことをよく引用されるが、とてもよいご家族の関係だったのだと想像する。
    以前ラジオ深夜便でもお父様(やはり医師だった)の最期についてお話されていたが、羨ましい限り。「生と死」が家族に肯定されるなんて素敵だなあ。

  • 高齢者本は様々あるが、小説家でもある久坂部氏の医療の現場を見ながらの高齢対策の本、天はいつまでも若い人を造らず、いつまでも死なない人を造らず。
    歳をとれば、人格者になると言うのは間違いではありませんが、せいぜい70歳前後まででしょう。昔はそれぐらいで大体の人が死んでいたので、歳とれば人格者になると言われたのです。
    スーパー元気高齢者の活躍、日野原重明氏、テレビで元気に活躍する様子を放送されるたびに、高齢者のお手本、素晴らしい高齢者だともてはやされていた時、医者をしている友人が、あの人は老害であると同業者では言われていると言う話を聞いて驚いたことを思い出した。
    老いるということは失うことだと言われています、体力を失い、能力を失い、美貌を失い、余裕を失い、仕事を失い、出番を失い、地位と役割を失い、居場所を失い、楽しみを失い、生きている意味を失う。改行以前に読んだ田坂広氏の 死は存在しない   を取り上げて、死後の世界、医学と宗教の関わり、についての指摘には同感するところも多かった。
    キリストは、医療関係者の集団であった、と言うキリスト教発生の物語を思い出した。
    私は今、命より大事なものがあると思っています。それは苦しまずにいると言うことです。命より大事なものはないと言う人は、多分今、苦しんでいない人でしょう。自然なしはさほど苦しくありません。
    実は今が1番幸せ、これからどうオイルべきか、人は不幸には敏感なものだが、幸福には鈍感。お芋も、自然なこと、当たり前の事と受け止められれば、心も落ち着き、穏やかに暮らせるようになるでしょう。

  • 人の老いと死について、真正面から向き合った本。
    達観しながらも抵抗せず、上手に楽に老いていきたいものである。

  • 小説を幾つか読んだので、新書も読んでみました。ケアの仕事もやられているので、現実的なお話で、かつ作家先生の自然体な考え方に共感しました。水木さんの言葉は刺さりました!

  • あきらめることは受け入れること。今のところどこも悪くない40代なのに、延命治療はしないでと家族に伝え済の自分にとっては、思っていることを言語化してくださっている良書。

  • 老人デイケアに勤めた経験から見えてきた老いるとはどうゆうことか、について書かれた本。
    いろいろな老人の実態が書かれていて興味深い。
    中番から後編では老いや死にどう対応していくかが書かれていた。
    老子や、釈迦の考え方を示していた。

    弄便(ロウベン)認知症介護の最難関。認知症になると、便が臭い感覚がなくなり、便がきたないもの認識が消える。便を粘土のようにこねたり、ポケットにしまい込んだりする。

    認知症の種類は4つに分けられ、混合型もある。
    どの型かは死後脳を見てみないとわからないことが多い。
    アルツハイマー型、レビー小体型、前頭葉側頭型、脳血管性。

    認知症に様々なタイプがある。多幸型、不機嫌型、怒り型、泣き型、笑い型、いじわる型。
    徘徊とは目的もなくうろうろ歩くこと。老人の徘徊には彼ら自身の目的があり、徘徊とは言えない。対応方法も書かれており、体験することになったら読み直したい。

    齢をとれば人格者は70歳まで。それ以降は心身共に衰え、若者から尊敬されたいと思っても無理がある。敬老精神がほしければ、高齢者自身が尊敬に値する人物にならないといけない。方法は自らを受ケイれることフレーズ117参照

    病気治療や健康に対して、医者は特別な能力を持っていない。良くなったのは本人の力。専門家に任せれば安心というのは医療幻想につながる、。期待は失望に変わり、自分の首を絞めることになる。

    老いを目の前にする家族は、以前の問題のない姿と比較し、狼狽しなんとかならないかとあくせくする。日付を聞かれて答えられなかった本人は、これができなくなった。頭ではわかるのに、口にできなくなったと、無いものに捕らわれ不幸になる。対応としては試すのではなく、話を認めること。具体的に選択肢を提示する。コーヒーと紅茶どっちがいい?どれがいい?では迷いやすく答えられないことがある。
    認知症の本人は、認知症になったら嫌だとか考えていない。認知症が嫌だと思う人は元気な人のみ。不安にならず認知症を受け入れる。年をとると、心身共に衰え、今までできていなかったことができなくなる。それを受け入れること。過去と比較し苦しまないこと。認知症にならず、頭がしっかりしている者も考えもの。自分の現状を理解できる分、家族や周囲の人に申し訳なく感じることも。
    老いについて元気なうちから現状を知り、受け入れていく準備をすること。

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著者プロフィール

医師・作家・大阪人間科学大学教授

「2016年 『とまどう男たち―死に方編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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