心淋し川 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087445657

作品紹介・あらすじ

【第164回直木賞受賞作】「誰の心にも淀みはある。でも、それが、人ってもんでね」江戸、千駄木町の一角は心町(うらまち)と呼ばれ、そこには「心淋し川(うらさびしがわ)」と呼ばれる小さく淀んだ川が流れていた。川のどん詰まりには古びた長屋が建ち並び、そこに暮らす人々もまた、人生という川の流れに行き詰まり、もがいていた。青物卸の大隅屋六兵衛は、一つの長屋に不美人な妾を四人も囲っている。その一人、一番年嵩で先行きに不安を覚えていたおりきは、六兵衛が持ち込んだ張形をながめているうち、悪戯心から小刀で仏像を彫りだして……(「閨仏」)。裏長屋で飯屋を営む与吾蔵は、仕入れ帰りに立ち寄る根津権現で、小さな唄声を聞く。かつて、荒れた日々を過ごしていた与吾蔵が手酷く捨ててしまった女がよく口にしていた、珍しい唄だった。唄声の主は小さな女の子供。思わず声をかけた与吾蔵だったが――(「はじめましょ」)ほか全六話。生きる喜びと生きる哀しみが織りなす、著者渾身の時代小説。【著者略歴】西條奈加(さいじょう・なか)1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノべル大賞を受賞し、デビュー。2012年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、2015年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、2021年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。近著に『うさぎ玉ほろほろ』『とりどりみどり』『隠居おてだま』『金春屋ゴメス 因果の刀』などがある。

感想・レビュー・書評

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  • 私の中では「金春屋ゴメス」や「まるまるの毬」の作者さん。直木賞を獲られた作品が文庫になったので遅ればせながら手にしてみた。

    江戸、千駄木の一角に流れる小さく淀んだ心淋し川。そのどん詰まりに立ち並ぶ長屋で暮らす人々のお話。
    働かない父を抱えながら恋人と一緒に今の生活から抜け出ることを夢見る娘を描く表題作「心淋し川」をはじめ、死んだ兄弟子の後を継いで飯屋を切り盛りする料理人の過去の悔恨が滲む「はじめましょ」や同じ岡場所から異なる道を進んだふたりの女性の行く末を描く「明けぬ里」など、終盤の転換が鮮やかな話が並ぶ。
    四人の妾が住む家でお呼びのかからない最年長の女性の手慰みを描く「閨仏」には妙なおかしみがあり、「冬虫夏草」では嫁から息子を取り返した母親の狂気が怖い怖い。
    最後に語られる長屋の差配の物語「灰の男」は、男の人生のやるせなさがたっぷりの反面、これまでのすべての話が収斂し、それでもそこで生きていく人たちの活力も描かれていて秀逸。
    とても上手だなあと思ったが、ちょっと上手が過ぎる感じも実はして、それ以上の感想が浮かんでこない。

  • 江戸・千駄木町に流れる心淋し川。この淀んだ川のほとりに住む人々もまた、淀んだ自分の人生を必死に生きている。時代小説だけど、読みやすかった。

    各話の登場人物がそれぞれに苦しくてつらい生活をしているんだけど、一番響いた?ズシッときたのは「冬虫夏草」かな。母と息子・嫁と姑の依存や確執の話。(年齢を重ねたからか、昔はあまり好きではなかったこういう話が最近刺さる・・・)
    家業をおろそかにした跡取り息子とその嫁。息子が遊び歩いた末に大怪我をして、それを機に嫁と離縁させる姑。息子を献身的に支えていく母の姿・・・ドロドロ!笑

    「浮かんだのは、桜の木にたかる毛虫だった。吉という桜の木が、この娘に食い荒らされる――。」
    「富士乃助は成虫となる生身であり、吉はそれを包む薄っぺらな殻に過ぎないのだと。役目を終えれば後は崩れるしかなかったが、息子は殻を出ることなく吉の中に留まってくれた。ちょうど蛹のまま羽化が叶わなかった蛾のように――。」

    姑の暮らしを壊す嫁の姿を桜にたかる毛虫に、また、息子に執着して飼い殺さんとするばかりの母の姿を、蛾の幼虫に寄生する茸である冬虫夏草に重ねているのがかなりグロテスク。
    家族をつくっていくって難しいなと思った・・・


    「誰の心にも淀みはある。事々を流しちまった方がよほど楽なのに、こんなふうに物寂しく溜め込んじまう。でも、それが、人ってもんでね」

  • こころさびし、ではなく、うらさびし、と読む。
    根津近くの小川を心淋し川というらしい。
    遊郭の界隈と裏腹に寂れたボロ裏長屋の人情もの。連作短編。
    一作一作、独立しているが、一本通る柱があり、最後にさりげなく収束。
    哀歓とちょっと背筋が冷える話と、バリエーション豊か。
    直木賞受賞もさすがです。
    しみじみした。

  • ようやく文庫本として手に取る事が出来る僥倖。もうすっかり愛読書の西條奈加さんですが、もっと凄い深い作品がたくさんあるから 不思議なんだよ、芥川賞はタイミングなんかなぁ、心町の名前も良いし町屋じゃない謂れもだし、ここから逃れたいと思う人々 心淋しの川の言葉だけで凄い作家だなぁとしみじみ思う 西條奈加さんおめでとう御座いますをようやく言える

  • 江戸は千駄木町はずれの窪地、藁屑や落ち葉が腐る流れのない小さな川に沿う長屋… そして据えた匂いのたつその一角に流れ着いた人たちの想い…

    淀みにとらわれた人たちの人生に感じる優しさや強さが読んでいて心に沁みる。読書は素敵だな…

  • 時は江戸時代。とある田舎町「心町(うらまち)」で
    暮らす人々の話を描いた連作短編、全6篇。
    2021年直木賞受賞作。風当たり強めな物語多め。
    各話に共通して登場する差配の「茂十」なる気さく
    な人物が最後の「灰の男」で主役となりますが、
    内容は予期せず衝撃的でした。
    (「冬虫夏草」とかも割と衝撃的な話でしたが。)

    スキマ時間に少しずつ読んだことと、時代物特有の見知らぬ言葉が多いことで、理解しきれなかったところもありましたが、比較的読みやすい時代物だと思いました。

  • 様々な事情を抱えた人々が、這いつくばうように生きて、住まう長屋。
    その日々の中で、みんなが寂しさに耐え、過去を悔いつつ、人とのつながりに薄明りを灯して暮らしているようだった。

  •  時代小説と覚悟して読みましたが、非常に読みやすく、また、1話1話が味わいが深くて、心にじんわりときました。とても面白かったです。

     全話、どこか陰湿で、自身ではどうしようもない感じが漂っていましたが、それが良かったです。各話、微妙に繋がりのある人物が出てくるのも面白かった。

     私的には閨仏が1番好きでした。
    この作者さんの他の作品も読んでみたくなりました。

  • 最後の一編の為の他の章の前振りが効いて。
    昔聞いたことのある江戸落語にも似た人情噺。
    たまには熱燗でも呑みながら。

  • 直木賞受賞作品。時代小説。市井もの。連作短編集。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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