- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087451276
作品紹介・あらすじ
同じ大学に入学した妹と同居することになった「私」。意図的に私を無視し続ける妹は、ある日荷物と共に忽然と姿を消して……。第149回芥川賞を受賞した著者による小説を二作収録。(解説/星野智幸)
感想・レビュー・書評
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妹の撮った写真のフィルムを入れるパトロネを溜めるおねえちゃん。当たり前のような顔をして暮らしているのに、判断がおかしい。なのに本人は当たり前と思ってる。奇妙な味わいなのだが、おかしさが狂うとかそう言う精神的なものではなくて、ホントにこの人は常識が違うのかもと思わせる。そんなお姉ちゃんが驚きの出来事に遭うのだが、お姉ちゃんが驚いてることに驚いたわ。
おもしろかった。 -
本書のタイトルになっている「パトロネ」とは写真のネガフィルムがおさまっている円筒形の缶のことを指しているそうですが、Webで検索しても「パトローネ」でしか出てこない・・・。あえて正確な名前にしなかったのでしょうか。
その表題作、かなり手ごわかったです。お世辞にも仲がいいとは言えない妹、市民公園の鯉、写真部のるりちゃん、皮膚医院の先生、突然家に現れたりーちゃんなど、いくらでも面白くできそうなガジェットを散りばめておきながら、そのほとんどがストーリーの中で未消化のまま投げ出されてしまっているように初読時は思え、なんじゃいなこれはという感じで困ってしまいました。しかし解説を読んで改めて再読してみると、前述したガジェットが作り出した世界と、主人公の意識下の世界との距離感(ずれといったほうがいいかも)を味わう作品と理解しました。これまで読んだ作品の中では一番純文学度が高いと思います。
実はここまで書き終えてから他の方の感想で、主人公の女性が実は**だったのでは、という解釈を読み、なるほどなあと感心しました。自分はそこまで思いつかなかったなあ。(とはいえ、それが真実だとしても不自然な部分は残るのですが)
もう1作は芥川賞候補にもなった「いけにえ」。地方の美術館を舞台に、監視員の女性が美術館に棲みついた二匹の悪魔を捕まえようとするというヘンテコなお話です。こちらのほうは従来の藤野さんらしい作品と言っていいでしょう。ラストシーンは個人的には文句なしなのですが、そこにいくまでがちょっと長かったかな。 -
2019/5/6購入
2019/11/11読了 -
まるで発作とか禁断症状に襲われたかのように話の展開が激変したような気がする。
これまでは特別魅力のない景色を見せる退屈なトロッコ列車が突如安全設計を微塵も考えてなさそうなコースターに変わって上下左右も分からない世界に。
それくらいよく解らない作品でした。
しかも2編も同じように突然コースター。 -
芥川賞作家とは相性がよくないのだけれど、帯に惹かれて購入。〝消える妹、美術館に現れる双子の悪魔──。新・芥川賞作家が描く、幻想的でちょっと怖い世界〟
そもそも純文学と大衆文学の定義ってなんだっけ、というところから再確認。
純文学。純粋な芸術性を目的とする文学。
大衆文学。大衆の興味や理解力に重点を置いて書かれた文学。
つまり純文学とは、物語としての整合性は二の次で、とにかくその世界観を堪能しながら読むべきもの。考えてみれば、読了後にいろいろと思いをめぐらせて楽しめるのは純文学のほうかもしれない。
■パトロネ
第34回野間文芸新人賞候補作
ひどく感覚的な小説。しかもそれが主人公の主観のみで綴られていく。一人称であることを差し引いても、「私」を取り巻く世界のなかで、「私」に関する客観的な描写はほとんどない。りーちゃんが出てきて「私」の姿を描くまで。それですら、本当に「私」の実体を捉えられているのかあやふやだ。とりあえず「私」に顔はないらしい。けれど、皮膚疾患は顔に出ているという不思議。
りーちゃんが「私」の存在を認識できるのは、彼女も「私」と同じように日常から弾き出された存在だからなのだろうか。
パトロネは「私」の住んでいるワンルームマンションの空間を象徴する容れもので、「私」やりーちゃんは外の景色をその部屋のなかに持ち帰る。まるでフィルムのように。
最後、りーちゃんの湿疹の描写から、江國香織「災難の顛末」の斑点の描写を思い出してぞっとした。
■いけにえ
第141回芥川賞候補作
読み進めるにつれて次第に気分が悪くなる。双子の悪魔はなんの象徴で、いけにえは何を指すのか。考えながら読んでみたものの、結局のところはっきりしたことはわからなかった。
杉田久子に捕らえられた悪魔たちの成れの果ては、岡田登美乃が描く鉛筆画の花とよく似たかたちの薔薇だった。作中で、その鉛筆画は登美乃の家族を描いたものだと考察されている。とすると、久子は自身の家族から巣立っていった二人の娘の不在を埋めるため、登美乃の家族を奪って持ち帰ったとも解釈できる。
いけにえが二匹の悪魔を指すのだとしたら。久子の二人の娘も、かつては母親に捧げられたいけにえだったのか。娘たちの代わりに、枯れない薔薇を食卓に飾ってどうしようというのか。つかみどころのない不気味な結末。 -
なぞなぞみたい。主題は何かあるんだろうけど、それぞれのモチーフが何を表しているのか最後までわからなかったのはたぶん私のせいであり、たぶん作者と性格が合わない。
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2編収録。
表題作より『いけにえ』の方が好みだった。
ただ、『パトロネ』にしろ『いけにえ』にしろ、主人公の変な意味での一途さ、執着心が、やけに印象に残った。