オシムの言葉 フィールドの向こうに人生が見える (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087463019

感想・レビュー・書評

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  • オシムさんその人より、前まえから旧東欧圏の人のものの考えかたに興味があり、ちょうど文庫化されたので読みました。プロローグはストイコビッチの言葉。ゴージャスだなぁ(笑)。

    本編は、なかなか監督の決まらなかった、あるシーズンのジェフ千葉のキャンプでのミーティングから始まります。入って来たとたん、口もきかず、選手のテーブルを回る東欧出身の、初老を超えた男性。彼は日本では全く無名なものの、欧州ではそのタレントを欲しがらない者はいないほどの超ビッグネームの監督で…張りつめた雰囲気がリアルに描かれます。

    ライティングのスタイルは、インタビューが多めなものの、事実を伝える方向に徹している印象を受けました。沢木・山際路線のロマンチック描写とは違う(笑)、こういうクールでとがった方向も好きです。インタビューに登場する、双子の佐藤兄弟のお兄ちゃんの、劇画のようなアウトサイダーっぷり(彼の「扱いにくさ」は有名で、代わりに弟が求められて移籍したというくらい)が面白いです。でも、概してJリーガーのインタビューは面白い。野球選手はいまいちそのへんがねぇ…、どうして(笑)?

    面白いのはやはり、オシムさんのキャリアの後ろに見える、旧ユーゴ崩壊の歴史です。「ユーゴ人」と言わなくなり、「セルビア人」「○○人」と分かれていくことや、ユーゴ代表チームへの声援が少なくなり、国内で開催される国際Aマッチでもアウェー感が漂ってくること、「(出身の)だれだれを出せ」と身びいきを超えた次元であおる地元メディア…この中で辣腕をふるってナショナルチームの黄金時代ともいえる時代をつくりだすことは容易ではなかったはず。延長のPK戦で、キッカーが5人揃わない(外したら殺されかねない状況は南米のそれとはまた違った)など、「政治とこれは違うだろ!」とのんきな日本人の私は考えてしまいますが、これが現実なんだから厳しいなぁ…(米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」は別方面でこのあたりに詳しい)。このあたりの安易な浮き足立ちっぷりの愚かさを、マスコミ関係者は肝に銘じておくべし!と思います。

    彼の発する言葉は旧ユーゴ地域で暮らす人びとの智恵と、彼自身の教養、それにヨーロッパに脈々と受け継がれている知性のありようがミックスされているようで、じんわり楽しく読めました。ですのでこの☆の数です。

  • 東欧の民族問題をおうジャーナリストの書籍。ユーゴスラビア代表監督として、W杯ベスト8の栄光と祖国崩壊という惨劇を経験したオシム監督。戦争により最愛の家族の会えない中でも、真摯に監督業を勤めながら、自分の信念を貫いた半生がそこにある。

  • 改めて読み直して、愛に溢れた方だなという思いに至った。そして、祖国での悲しい出来事に今を重ねてしまう。この素敵な方がいた時代を共に出来たことをこの本を通して感じた。

  • 氏の訃報を受けて再読。ご冥福をお祈りします。

  • 「オシムの言葉」木村元彦

    加筆があったので単行本→文庫買い直ししたもの。
    通訳をしていらした千田さんの本や、Numberもどこかにある。
    これはすぐ出るところにあるのでした。

    一時期ジェフ千葉を応援していたのは、ひとえにこの方のおかげで、成長していく選手やチームを見ているのがとても楽しかった記憶があります。

    2000年代の日本人に何かしらを残した人じゃないかなあ。
    バブル後様々なことがグローバル化していく中、
    "日本人が自覚すべきこと"を、
    サッカーに留まらず社会全体へ示してくれたような名将でありました。

    今年は、どのような思いでいらっしゃったのかしらね。

    ご冥福をお祈りいたします。

  • 実は、アンチオシムだった僕。
    日本代表にスターを誕生させないオシムに批判的だった僕。その考えは変わらないけど、「オシムさん、ごめんなさい。僕、浅はかでした。何も知らないのに語ってごめんね。」って思わず心の中で謝りました。
    復活してほしいね。

  • 「ことばの力を感じてください」

    所蔵情報
    https://keiai-media.opac.jp/opac/Holding_list/detail?rgtn=B12784

  • オシムの言葉は、時に意味深長で、時にウイットに富み、またある時、鋭利な刃物となり、またある時、人の心を強く束縛するほどの力を持つ。このような人物がどのようなバックボーンを持ち、どのようにサッカーと絡み合ってきたか、どのようにチームをマネージメントするのかというようなことを通して、彼の人生哲学とはどのよなものかを浮き彫りにするのが本書である。 オシムのような人物の人生哲学を説明することは非常に難しい。そのため、著者は彼の発言を中心にしたエピソードを解説することで、その代用をする。これによるとオシムの指導者としての特徴は、プロセスを重んじることである。「できる準備を完全にした。それで勝てるかどうかは相手チームに聞いてみよう」との発言はまさにそのことを物語ると思う。 平凡なマネージャーは、結果を重視しすぎるあまり、部下のプロセスを規定する。これは一時しのぎにはよいが、指示待ち人間を大量生産する。しかし彼は、プロセスを重視するからこそ、プロセスを決めるメタ・プロセスを規定するのである。結果ではなく意図。それに加え創意、献身、努力。つまりプロセスを作り上げることができる個を作り上げること、それによる軋轢をものともしない人格の持ち主を作ること。これがオシムのスタイルである。マネージャー、コーチ、リーダーの理想像がここにある。指導者諸氏よ、心して読まれるがよい。 このような人物が一時的にでも日本サッカーのよき導き手となった幸運を感謝する。

  • ・作り上げることは難しい,でも作り上げることの方がいい人生だと思いませんか?
    ・モチベーションとは考えることの手助けだ.
    ・君たちはプロだ.休むのは引退してからで十分だ.
    ・リスクを冒して攻める
    ・ライオンに追われたウサギが逃げ出すとき肉離れをするか?準備が足らないだけ.

    など至言多数.

    祖国分裂・人種対立など,現代日本で生活していると想像できない環境下の
    中サッカーを続けてきたその精神力.脱帽.

  • オシム監督すごい…私はサッカーの試合も見たことが無く、サッカー選手もベッカムくらいしか知らない。なのに、この本を読むとサッカー楽しそう!こんな監督とサッカーしたいなぁとか思ってしまう。
    選手一人一人をしっかり見てる、失敗しても下げない、周りの野次は気にしない、仕事で後輩の面倒を見る時にも活きる知恵多し。
    この本を書いた木村さんもまたすごい。こんな信念のあるジャーナリストが増えますように。

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著者プロフィール

1962年愛知県生まれ。中央大学卒。ノンフィクションライター。東欧やアジアの民族問題を中心に取材、執筆活動を続ける。おもな著書に『オシムの言葉』(集英社文庫)、『蹴る群れ』(集英社文庫)、『無冠、されど至強 東京朝鮮高校サッカー部と金明植の時代』(ころから)、共著に『さらば、ヘイト本!』(ころから)など。

「2019年 『13坪の本屋の奇跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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