- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087466591
感想・レビュー・書評
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【本の内容】
「第一章では、私はなにを書くか、迷いに迷って、題名もつけられない」―長篇怪奇小説の執筆依頼を受けた作家だったが、原稿は遅々として進まない。
あれこれとプロットを案じながら街をさまようが、そこで見かけたのは30年前に死んだ従姉にそっくりの女だった。
謎めいた女の正体を追ううちに、作家は悪夢のような迷宮世界へと入り込んでいく…。
奇想にあふれた怪奇小説の傑作が現代に蘇る。
[ 目次 ]
[ POP ]
道尾秀介さんの直木賞決定直後に復刊した文庫である。
帯には〈「この作品のおかげで、僕は作家になれました」道尾秀介〉。
タイムリーだ。
道尾さんが、都筑さんの名を知ったのはデビュー4年前。
営業の仕事をさぼって寄った古本屋で、〈*第一章では、私はなにを書くか、迷いに迷って、題名もつけられない〉という珍奇な書き出しの本書を、思わず買ったという。
道尾さんは文庫解説に記す。
〈売値を見てみると一〇〇円。これくらいの金額ならまあ失敗してもいいだろう〉。
早速、営業車の中で読み始めると〈“渾沌”がそこにいた〉。
作品に衝撃を受けたその日のうちに都筑道夫の名前を拝借し、「道尾秀介」をペンネームに。
小説をがんがん書くようになった。
〈いまにして思えば、僕は十二年前、一〇〇円で人生を買ったようなものだ〉
作品は、書くこと、読むことの面白さと怖さが混然一体となった虚々実々の怪奇譚。
奇妙な味の傑作だが、これを読めば誰でも作家になれるかは「?」。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
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解説で道尾秀介さんが言われている通り、まさに「渾沌」の書である。
タイトルからして人を喰っており「怪しげ」であるが、その中身はもっともっと「怪奇」そのものである。
どこへ連れていかれるのかわからない。
どこへ向かっているのかもわからない。
そして今、どこにいるかもわからない。
いわゆる「先が見えない」とはまた違った、この不安定でぼんやりとした読み心地をなんと言おう。
暗闇の中、手探りで進んで行くよりも、もっと曖昧としたこの気持ち。真っ暗ならば見えないのは当たり前。しかし、この小説は全くの暗闇を書いているのとも、また違うのだ。
明るいのかわからない、暗いのかわからない。例えるならば、そんな感じだろうか。
最後のオチには「そ、そうなるのか……」と、残念とも呆然ともつかない、やっぱりどこかよくわからないものだった。
しかし、この「よくわからなさ」が、この本の魅力でありこの本そのものなのだと、私も思う。
道尾秀介さんの解説がとてもよかったです。 -
なんとも言えない不思議な小説だった。
文章も読みやすくてスルッと読めたし不思議な世界に引き込まれてしまいました。
なんだか現実の世界と小説の世界が入ったり来たりして今、自分がどこにいるのかわからなくなってしまうような不思議な感覚に襲われました。 -
メタぶりに引き込まれ、一気に読み終えたのが、夕方の薄暗がりの部屋の中だったため、しばし色んな意味で現実と虚構を彷徨う感じすらあった。この作品に影響を受けたという道尾秀介さんは登場する異形のものを中国神話に出てくる混沌と例えているが、私はF・ポール・ウィルソンの『始末屋ジャック』に出てくるインドの魔物ラコシと重なってしまった(笑)。
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近所の本屋の道尾秀介関連コーナーに平積みされていたので何となく手に取ってしまった。これが大当たりだった。
つかみどころのない導入から、気づけば、主人公と一緒に異世界に迷いこんでいる自分がいた。気持ち悪いのに、ページをめくる手が止まらない。
現実と妄想の境界があいまいなまま、クライマックスになだれこむ。後味の悪さと言ったら!
映画「ローズマリーの赤ちゃん」を髣髴とさせる読後感だ。
オカルトマニアにはたまらない。ある種の神秘や偏執に胸が躍る。こんな文庫本一冊で異世界を体験できるから、読書はやめられない。 -
分類不能な奇妙な小説。
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タイトルにひかれて買いました。
各章の最初に書かれている言葉がおもしろかったです。
初めはなんてふざけた作品なんだと思いましたが、
終わりに近づくにつれて、ちゃんと怪奇小説になっていきました。
サイレントヒルというゲームをプレイしていたときのような気分になりました。
(ストーリーが似ているというわけではなく、なんとなく) -
道尾さんの人生を変えた本。
でも僕の人生は変わりそうにない。
構成が秀逸。
読み終えて満足を感じるタイプではないけれど、
読んでる最中は頭に?と…が交錯して惹き込まれる。
エッセイか、フィクションか、盗作か、妄想か。
読後に渾沌を見たという道尾さんの解説がまた面白い。
まぁ渾沌と繋げてしまうとわけわかんない話はわけわかんないままでいいんだよ、
ってことになりかねないからそれはそれで批判もあるだろうけど…。
この本の初版本の装丁とやらがすごく気になる。欲しい。 -
長編怪奇小説の執筆依頼を受けた主人公(作家)が悩みながら書き進めて行く中で、昔の異常な記憶がネタになるのではと彷徨う中で、三十年前に病死したはずの従姉そっくりの女を見かける。ここからまさに怪奇と呼ぶにふさわしいストーリーが始まる。
結末の真相みたいなものは、ちょっと陳腐に感じたけど、それを打ち消すだけの世界観がある。かなり好きだ。 -
推理小説論のエッセイか?と思える書き出しから一転、どんどん奇妙なほうへ転がっていく展開に驚かされた。ページ数こそ少ないものの、怪奇、メタ、ミステリ、エロ、冒険小説と、要素が盛りだくさんで読み応えがある。そしてそれらを継ぎ接ぎではなく”混沌”にして怪作に仕立ててしまうあたり、さすが都築道夫という感じ。
ところで、作中の、鎖骨と肩胛骨のエロティックを棒線で表現した春画には、元ネタが存在するのだろうか? ものすごく面白い発想だと思った。