楊令伝 12 九天の章 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087468281

感想・レビュー・書評

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  • 「何もかも、『替天行道』が悪いのじゃよ、宣賛」
    「おかしなことを、言われますね」
    「いや、悪い。悪いということにしておこう。宋江殿はあれに、新しい国を作る夢まで書かれてしまった」
    杜興の言葉に、冗談を言っている響きはなかった。
    「腐敗した権力を倒すべし。それだけが書かれていたら、宋を倒して、梁山泊の闘いは終わりであった。新しい国は、誰か別の者が作ればいい。梁山泊で闘った者は、人民の海に消えていくだけで良かったんじゃ。そしてまた、権力が腐敗すれば、 『替天行道』 を読み継いだ者が、立ち上がればよい。闘いの輪廻はあっても、闘う者たちはそのたびに変わる」
    「新しい国を作ることは、間違いだと言っているのですね」
    「そんなことは、言っておらん。そこまでできるのだろうか、と言っている」
    「おかしなことを、言われます。現に、この梁山泊は」
    「うまくいっておるのであろうな、多分」
    「まだ、この世に顔を出したばかりの国ですが」
    「難しいな。ここは国なのか?」
    「国です」
    なんという話だ、と思っても、杜興は途中でやめない。
    「わからんのう」(213p)

    大いなる不安の中で、梁山泊は苦しんでいた。杜興は小さな綻びを直す為に、自ら命を落とす。古株たちも水滸伝の英雄に負けない見事な最期を遂げたが、 私はこの古狸の死に方が1番心に残った。思えば、楊令が初めてみんなの前で新しい国つくりの理想を語ったとき、一番冷静に沈思して聞いていたのは、この杜興だった。

    「のう、宣賛。いま梁山泊はいい夢の中じゃ。夢は醒める。醒めた時、いい夢が現実になっておる。そうするのは、おまえたちの仕事じゃよ。わしは、もうきつい仕事はできん。おまえたちが、やれ」

    いま日本は、外面は穏かな大木だが、中味はグズグズに腐っている陽だまりの樹なのではないか。真の意味で、憲法が暮らしの隅々まで活かされている国、そんな未来は果たして来るのだろうか?もし出来た時、私たちはもしかしたら、途方に暮れるのではないか。そんなことさえ、思ったのである。私は、杜興の立場か、宣賛の立場か。

  • 本巻では古参の男達が多く死んだ。

    王定六 戴宗に見染められ走り続ける。最後まで走り抜け死ぬまで走り続けた。人生完全走破。彼の足なら三千世界の彼方まで行けることであろう!

    杜興 皆んなの嫌がることを進んでやる。そして卒なく器用にこなす。自分の心と身体を磨り減らし最後の最後まで人の為に生きる。そんな老人になりたい!

    鮑旭 追い剥ぎだった彼は魯智深に連れられ王進の下で生まれ代わる。部下を守るリーダー!彼にこそ今の時代の中間管理職は学ぶべきものあり。死神と呼ばれた昔の彼が最後に少しだけ蘇る!


    楊令伝の残数が少なくなってきました。

    ラスト三巻楽しみです。

  • 「いま梁山泊は、いい夢の中じゃ。夢は醒める。醒めた時、いい夢が現実になっておる。そうするのはおまえたちの仕事じゃよ」(杜興)

    金は南宋攻めを止め国内の権力争いに注力する。
    南宋、金の傀儡 斉、耶律大石の西遼と国が次々と建った。
    梁山泊と軍閥の小競合いが続く。乱世。

  • 今回の展開はちょっと納得いきません。
    ネタバレになるけど、いいかしら。(ダメなら読まないでね)

    梁山泊は交易による莫大な利益によって、民から多額の税を徴収しなくてもすんでいる。
    そのため梁山泊の商隊を軍が護衛している。

    李媛が指揮する商隊を護衛していたのは弟の李英が率いる隊だった。
    姉弟の父は、重装備部隊の隊長だった李応。
    梁山泊には二世の将校が結構いる。
    その中で、なかなか結果を出せない、上に引き上げてもらえない李英は焦っていた。

    そんな時商隊が金軍に襲われて、李英は積み荷を守ることよりも、手柄を立てることを優先してしまった。
    手柄を立てる=敵を打ち取ることが、積み荷を守ることだと思い込んだということも、ある。

    しかし李媛はそんな弟を解任して、現場の指揮を執る。
    結果として李媛の判断は正しかったわけだ。
    なのに、梁山泊は、楊令の感傷(?)により、せっかく捕まえた捕虜を解放し、李英を元の部署にもどす。

    なのに梁山泊は、「李媛がうるさい。黙らせろ」と言う。
    正論なのはわかるが、うるさい、と。

    いやいやいや。
    李媛が正しいでしょ。
    結果で判断するのが軍隊じゃないの?
    判断ミスで、たくさんの人命を失うことになり、財産を奪われることになったかもしれなかったことを、なかったことにすることは、ほかの兵の士気にかかわるんじゃないの?

    李媛は確かに北京大名府や開封府を攻め落としたいという野望を持っていたけど。
    今は交易の仕事に誇りを持っている。
    だからこそ、自分の感情だけで突っ走ってしまった弟を許せなかったのだ。

    それを梁山泊は「黙らせろ」と。
    黙らせるために、李媛にショックを与えるために、もともと李家に仕えていた杜興が自裁した。

    私にはどうしても、杜興が命をかけてまで李媛を黙らせなければならないとは思えなかった。
    李英の処遇に、誰も異を唱えない梁山泊が、不気味だと思った。

    それ以外では、王定六や鮑旭のように、地味な仕事を実直に続けてきた者たちの死が辛かった。
    特に鮑旭、まさしく朱仝が乗り移ったかのような戦いっぷり。ああ。

    燕青のリタイヤも寂しい。
    しかし感度が鈍ることは命を失うことにつながるのだから、燕青も年を取ったということなのだろう。
    史進が50歳ですと?あの暴れん坊がねえ…。

  • 王定六…鮑旭…悲しいけどそれぞれの漢の最後はどれも読み応えがある

  • 南宋の国からが出現し、金、斉、南宋、梁山泊、張俊、岳飛がそれぞれの駆け引きがある。

    王定六と鮑旭の誇り高き最期が印象的であった。
    李媛のこだわりが強すぎて、杜興が死をもって黙らせる。

  • 4.0

    大将軍とは言えないけど、記憶に残る場面を多く残してきた鮑旭。北方水滸シリーズを貸してくれた先輩が彼を好んでたけど、納得しかできない。
    俺が張俊の立場なら「大将軍の影に隠れた一将軍がここまで魅力的なのヤバすぎ。俺もこの好漢たちと共に戦いたい。」って言って禁軍の旗を投げ飛ばすね。

  • 改元の時にこの巻に出会う なんか不思議な縁。

  • 天損の夢
    地周の光
    天貴の夢
    天満の夢
    地暗の光

    第65回毎日出版文化賞
    著者:北方謙三(1947-、唐津市、小説家)
    解説:今野敏(1955-、三笠市、小説家)

  • 水滸伝に引き続き、一気読み。
    単なる国をかけた闘争を描くだけでなく、『志』という不確かなものに戸惑いつつも、前進する男たちの生きざまが面白い。壮大なストーリー展開の中で、たくさんの登場人物が出てくるが、それぞれが個性的で魅力的。よくもまー、これだけの人間それぞれにキャラを立たせられな。そして、そんな魅力的で思い入れもあるキャラが、次から次へと惜しげもなく死んでいくのが、なんとも切ない。最後の幕切れは、ウワーーっとなったし、次の岳飛伝も読まないことには気が済まない。まんまと北方ワールドにどっぷりはまっちまいました。

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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