天涯の花 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087472363

感想・レビュー・書評

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  • 数年に一度読み返す1冊。

    昭和30年代半ば、養護施設で育った珠子は中学校を卒業し、徳島県の霊峰・剣山にある神社の神主の養女となった。

    ずっと憧れていた自分だけに注がれる愛情と、初めて知った親からの干渉への戸惑い。そして何より珠子を魅了したのは、厳しい環境の中でひっそりと咲く、山の花々だった。

    物語の終盤で、20代になった珠子の揺れ動く心の様子が少し優柔不断に感じるところもあるけれど、仕方ないじゃないかと思う。
    養護施設にいる時も剣山に来てからも、それがその時々の本心だったとしても、いつも周りの人の気持ちを大切にしてきた珠子が初めて自分でも抑えられない感情を知ってしまったのだから。

    「キレンゲショウマはお月さまの色で、アサマリンドウは夕暮れの色」
    可憐さと強さを持ち合わせた山の花々がよくわかる好きな一文です。
    珠子には幸せになって欲しい。

  • 四国剣山への旅でこの本を知り、ちょうど一年後に読了。現在は車とリフトで比較的登りやすい(それでも道中は酷道ですが)この山、その完成前後の昭和30年代が舞台。孤児から剣神社に養子に入った主人公珠子と、安徳帝と平家伝説が残る剣山と祖谷。それぞれの過去と今と未来への思いが対で描かれる。植物解説の件で牧野博士の名前もあり、らんまん繋がりも感じたのでした。

  • 戦争が終わり高度経済成長期に入った頃のお話でしょうか。久々に昭和30年代を感じさせられる時代背景の本でした。養護施設で育てられた主人公が、養女になりその後の人生を生きていく姿が描かれています。山の中の暮らし、狭い世界だけど優しい養父母との生活
    恋愛
    主人公が幸せになるであろうと思いたい最後でした。
    こう言う小説は、昔いっぱいあったけど今はないなあと思いながらあっという間に読んじゃいました。

  • 剣山の厳しい自然と主人公珠子の清らかさに心打たれました。読後、四国に初めて行ってみました。剣山までは行けなかったですが、次回行けたらぜひ剣神社に行ってみたいです。

  • 「何が書きたかったんだろう?」それが最初の読後感。
    そのまま、著者のあとがき("女の一生として書き続けてきた")を読んで、それなりに納得しました。フム、女の一生ね。
    確かにそうです。もっともこの作品は珠子が20歳の時で終わりますから半生ですが。とは言え、私にはしっくり来ません。これが「男の一生」なら何か感じるものがあるのでしょうが。主人公の相手・久能という男も気に入りません。なんかウジャウジャしていてすっきりしない。
    と、愚痴ばかり書きましたが、女性にとっては面白い本なのかもしれません。あくまで私の個人的感想なので、ご容赦を。

  • 養護施設で育った少女とその養父母となった神主夫妻の生活を美しく、時に激しい自然と共に描く作品。

    幼友達に誘惑されそうになった時の、養父の言葉が印象的。

    自己憐憫が深いほど、自分の立場を偏った角度からしか見なくなってしまう。

    自分を違った側面から捉えることの大切さにハッとさせられた。

  • 上司からどうしても読むようにと貸していただいた本。何ヶ月か積んでありましたが読みだしたら一気に。キレンゲショウマ。いつか必ず見に行かなきゃ。剣山。登らなきゃ。

  • 福祉施設からはじまる世情がありふれて猥雑に感じられるが、そのことで剣山のおごそかさが際立ち、そこで生きる珠子の美しさも印象に残った。
    平家落人伝説の扱い方もさらりとしてきれい。

    恋情と養父への孝行心で揺れる様子にはやきもきしたが、
    結末に感じる明るい兆しがとても素敵だった。

  • 寺の本堂前に捨てられ、養護施設で育った珠子。
    捨てられた時、高価な産着を着ていた事から平家落人の末裔ではないか?と周囲の人間は噂する。
    その噂のように、珠子は幼い頃から分別をもち、花が好きな優しい子供に育ち周囲の大人たちに愛される。
    中学卒業を目前にして進路が迫られた珠子に、剣山の宮司より養女の話がもちあがり、養護施設の園長はそれよりも自分たちの養女にならないかと珠子に話をもちかける。
    就職をするか、それとも施設の園長の養女となるか、宮司の養女となるか。
    進路を迫られた珠子の選んだのは剣山の宮司の養女となる道だった。
    珠子は自分の祖父母とも言える年齢の両親と山の暮らしを始め、二人に献身的に尽くしなら巫女としての仕事もつとめる。
    数年後、珠子は遭難している男性を発見して救助する。
    それは運命的な出会いだった。

    このお話は昭和30年代を舞台にしたものです。
    珠子が養女となった神社には、電気・ガス・水道も通っておらず、地上からは4時間もかかるような不便な所。
    その代わり、地上では見られないような花々や自然に囲まれており、珠子はその生活に不満をもちません。
    以前読んだ時と全く同じ印象の本でした。
    それは、珠子が清らかで素直な女性だという事です。
    天涯の花とは、キレンゲショウマという花のことで、標高千八百メートル以上の湿地にしか咲かないそうです。
    そんな希少価値のある花は、珠子そのものだと思いました。
    このお話は珠子の一生を描いたものではなく、20歳でお話が終わっています。
    作者のあとがきによると、『理由は、もはや私がくどくどしく描きはせずとも、この先珠子は決して読者を裏切ることはあるまいという、確たる思いを得たからなのでした』と書かれていました。

    山の暮らしのごとく、ゆったりとした時間の流れを感じるお話です。
    読み終えて清清しい気持ちになりました。

  • 読み終わったときに、
    人の運命とは、
    こんなにもすれ違っているのかと思ったりした。

    施設の子であるということを、いやだった。
    そこで育てた人が、平等でなければならないと
    考えたのであるが、中学を卒業してから
    ということで、逆に、うまくつながらなかった。

    剣山という険しい山で、暮らす宮司の娘になるが、
    そのことで、人生のかたちも変わっていく。
    そこでしか咲かない花が、
    自分のおかれた環境を良しとするしかないのだろうか。

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著者プロフィール

1926年高知県生まれ。『櫂』で太宰治賞、『寒椿』で女流文学賞、『一絃の琴』で直木賞、『序の舞』で吉川英治文学賞受賞。おもな著作に『陽暉楼』『錦』など。2014年没。

「2016年 『まるまる、フルーツ おいしい文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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