パタゴニア あるいは風とタンポポの物語り (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087481631

感想・レビュー・書評

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  • 【あらすじ】
    南米大陸の最南端、風と氷に閉ざされた辺境の地パタゴニア。日本に残してきた病身の妻を気づかいながら、チリ海軍のオンボロ軍艦に乗ってたどる痛快、愉快な冒険記。


    「パタゴニア」という言葉を聞くと、Simon & Garfunkelの名曲『コンドルは飛んで行く』を思い出します。

    椎名誠さんの紀行文と言えばモンゴル大草原が有名かと思いますが、当作品は南米大陸の南の果て、パタゴニアが舞台です。
    旅の始まりは、未知との遭遇への期待と不安に胸躍るものかと思いますが、当作品は「妻の精神的な病」からスタートし、しかもその妻を日本に残したまま地球の裏側に行ってしまうところから始まります。そのためか、作品全体にどこか重苦しい雰囲気が漂っているように感じました。
    ただ、その雰囲気が自然の猛威にさらされ続けるパタゴニアの情景とマッチしているようにも感じました。当作品を読むまで、私の想像するパタゴニアは「なんとなく素敵な場所、そこにしかないオンリーワンを提供してくれる場所」というプラスのイメージでしたが、当作品を読んだあとは「たぶん一生行くことはないだろう」に変わりました。荒れ狂う海・氷河、人を寄せ付けない荒涼とした大地がどこまでも続く世界、そしてどこまでも蒼い空…本物の大自然の恐怖を感じます。椎名さんが思わず叫んだ「空が蒼すぎるしでかすぎる!」という言葉も、決して「すごい!ここに来てよかった!」という意味ではなく、どちらかというと「もううんざりだ!」というふうに聞こえました。
    『コンドルは飛んで行く』のメロディーもそうなのですが、パタゴニアは雄大で果てしなく、それでいてとても寂しい場所なのだと思いました。だからこそ平和で退屈な日本のありがたみ、妻が家で待っていてくれていることのありがたみを感じられました。

  • パタゴニアに吹き荒ぶ風を感じるかのような一冊。ただ旅の話に収まるのではなく、旅前からの作者の葛藤がパタゴニアの大きな大地との対比になり、人がそこに生きている、というのがありありと伝わってきます。作品の根底にずっと、広大な大地に吹く風の音が聴こえ、頭上にはどこまでものびる広い空が見えます。心温まる素敵な作品でした。

  • 椎名ファンの私としてはアルゼンチンに暮らす前に是非読んどかなくっちゃ、と思い買ったが結局帰国後読んだ。
    風とタンポポ。

  • 椎名本マイベスト

  • 何度読んだかわからない。
    人生で一番読んでいる本だと思う。

  • 2021/06/11

  • あとがきにある、『旅の本ではなく夫婦の物語である』 置いて来てはいけない状態ながら、残して来た妻。 地球の果てパタゴニアの自然の厳しさと、心の葛藤の嵐が、綯交ぜの様な切なさが全編に漂う。 「行ってきます」と気持ちよく出発できる旅ばかりではない。その切なさを思い起こさせる稀有な紀行録

  • 世界の果て、パタゴニア。
    氷河と風とでっかい空の国を巡る旅。

    それは大きな不安を抱えながらの旅だった。

    これまで読んだガハハハ旅とは違い、静かで哀愁の漂う内容だった。これは作家としても夫としてもシーナさんにとってターニングポイントになった作品らしい。

    シーナさんのことを自由に生きてて羨ましいなと思っていたが、やっぱりこういう葛藤はあったんだな。
    何にも悩まず生きれるわけないよな。
    読んでよかった。

  • 写真の椎名誠が若くて驚く。
    読んでみるとちょうど『岳物語』の頃で、岳に出てくるチャンピオンベルトを作る場面がある。
    他の椎名誠の旅行記と違うのは、やはり心配事を残したまま日本から一番遠いパタゴニアに行かねばならない思いが反映されているからだろう。
    当時の夫婦としては当然かもしれないが、サラリーマンを辞めて作家になりすごく売れた歪みが妻に行ってしまうのは、今の目で見るとひどいと思う。妻は仕事、家事育児の上に夫のマネジメントまで行い、それだけでも心身ともに疲弊するのに、変なマスコミやストーカーじみた読者の対応までしたんだから。
    ある意味、この危機にあってもパタゴニアに行ってしまう夫を見て、妻も諦めがついたのかも。この人に頼っても仕方ない、という。それで家庭が崩壊しなかったんだから、余程愛が合ったのか。思いやりは互いに感じたんでしょうね。
    色んな人にであったり、現地の食べ物を食べたりする描写はいつも通り面白いが、他は暗いトーンで、椎名作品で愉快になりたい人には向かないかもしれない。でも人生いいことばかりじゃないから、私はこれも悪くないと思う。

  • 妻がテーマでも妻の内面を勝手に予想して語らないのがいい。わかるところだけ、書く。
    タンポポの光景が、見事。それまで氷河と空と、モノクロだった世界が、後半で鮮やかに色を取り戻す。

  • パタゴニアの取材記。1994年に刊行。
    2017年にチリ出張した際、もちろん移動には丸1日時間がかかったし、時差もまさに日本と正反対だったけれど、日本にいる人達と、日本にいるのと変わらない手段で連絡が取れたし、顔を見ながら喋ることさえできた。だから、日本に電話をかけられるのは軍の設備だけ、置いて出てきた奥さんの消息がわかるものは他にないという記載から、南米は今よりずっと遠いところだったであろうことが分かって面白かった。
    旅の行き先は同じでも、目的やその時腹に抱えてるものが違うことが、ひとつひとつの旅を面白くするんだと思う。
    インターネット上で写真を見たりテレビの旅番組を見たりするよりも、書き手の気持ちが加っていて、ひとつとして同じ旅はない、そう思わせてくれる作品とこれからも出会いたい。

  • 初めての椎名さん。
    チャトウィンのパタゴニアがいまいちしっくりこなくて、他にパタゴニアのエッセイを探していてたどり着きました。
    まず出だしが気になる!
    これは読まねば!と書店でぱらっと見て即決。
    長いパタゴニアへの出発直前に奥様のノイローゼなのかうつなのか発症。
    椎名さんの旅の行方も気になるけど、やっぱり奥様が気になって。
    だけど、決行するのもまた決断が大変そう。
    自分だったら行くかな。それともいない方が楽になるのかな。
    パタゴニアの情景がよく描写されていてわくわくしますし、写真もとじ込みにあります。
    今よりもっともっと秘境だったパタゴニア。
    いつか行ってみたい。

  • 椎名さんの著作によく回想されるパタゴニアの風景、それを刻みつけた旅の記録である。しかし、パタゴニアの「でっかい空」の下、筆者の気持ちは精神的危機に陥った東京の妻、渡辺一枝さんの元へ飛びがちだ。サラリーマン生活から一転、34歳から全力疾走を続けてきた来し方、半ば意図的にほったらかしてきた家庭との距離など、不安な内省。ゴリゴリの力押しでバクハツするパタゴニアの自然、気のいいチリの人びととのやり取り、内心の重し、対比がよい。
    椎名さんが「風」のように自由になる、と独立を心に決めたのは27歳のとき、実現して会社を辞めたのは34歳のときだという。

  • 相も変わらずシーナさんの作品を読んだら旅に出たくなりますなあ
    随所に見られる奥さんへの愛に心動かされますなあ

  • 椎名さんってほんとに不思議な人だ。文系的であり、かつ体育会系であり、豪快でありながら繊細であり、極めつきの行動派なのに、不安定な心の持ち主でもある。奥さんを心から愛しているようなのに、おそらく実際のことであろう女性との関わりを本に書いたりする。

    久しぶりにこれを読んだら、あらためてそんなことを思ってしまった。新刊の「ぼくは眠れない」、読もうかな、やめとこうかな…。読むのがつらい内容のような気がするんだけど。

  • 文庫交換会でもらった初椎名誠エッセイ・旅行記。今までちょっと食わず嫌いやったんですよね、椎名誠。何かこう「がはは」とか大声で笑いながらこちらのパーソナルスペースに踏み込んで来そうなところが、ひ弱な文科系おじさんとしては。「武装島田倉庫」とかの、いわゆる「椎名誠」キャラクターと切り離されたSFは読んでて、嫌いではないんだけど。
    で、この本。案外「がはは」とか言わないのね。「パタゴニアについてはほとんど資料がない」みたいなこと書いてて、セプルベタの「パタゴニア・エクスプレス」とかチャドウィンの「パタゴニア」とか邦訳出る前か、と驚くなどしながら。基本テレビロケなので軍隊の協力とか仰いじゃって、その辺りはオイラの好きな類の旅行記ではないので、ちょっとあわないかなぁ。まぁ単純に好みの問題ですけどね。

  • いつか再読する予感を持たせられる本。

  • ルームメイトから借りて読了。

    椎名誠氏の名前はもちろん存じていたのだけれど
    あまり冒険記や旅行記に興味のない私は
    自らの手で選ぶこともなく、今まで過ごして来た。

    ある種の人々が椎名氏の作品や
    こういった紀行ものに心底惚れ込んで
    実際に自分が旅してみたりする気持ちは分からなくもない

    私にこの本を貸してくれたルームメイトの彼女は
    三線とウクレレ片手にライブをし
    ベビーシッターで日銭を稼ぎ、
    ニューヨークでたくましく生きていた。
    (私たちはブルックリンの1バスルームの
     決して広くはないアパートを4人でシェアしていた)

    そんな彼女が敬愛する作家の一人が椎名氏であり
    この作品は、中でもお気に入りだと言って貸してくれた。

    なるほど、読んでみて分かった
    人を引きつける、的確で詳細な表現力
    そしてその旅行記を支える行動力と逞しさ。

    到底一般の日本人が行き得ない場所へ行き
    やり得ない行動をし、交渉をし
    己の道を行く、力強さと潔さ。

    格好いいと賞賛され敬愛されるのも分かる気がした。

    ただ、その光の裏側に佇む はっきりとした陰。

    この作品では、椎名氏の奥様とその病状などが
    私には心の中に重く重くのしかかり
    楽しむことが出来なかった。苦しくなってしまった。

    もし、そういう陰を微塵も感じさせない
    痛快冒険記の様な椎名氏の作品を見つけたら
    もう一度挑戦してみようと思うけれど
    多分、この作品を読むことはもうないと思う。

    それくらい、私には光の裏にある陰が哀しすぎた。

  • 椎名さんのパタゴニア旅行記。
    ただの旅行記ではありません、夫婦の関係性の変化や互いを思う必然性について書かれています。

    椎名さんにとってパタゴニアの旅が大きな意味を持つことは過去の作品から知っていましたが、なるほどそういうことか。

    岳物語で出てきたパタゴニアのチャンピオンベルトが本作でも触れられており、随分とひさしぶりに続岳物語の桜のラストシーンを思い出しました。

  • 行ってみたい!

  • おそろしく青くてでっかい空だ

  • 軽くてすっと読めるから、たまーに再読する。

  • シーナさんの本を初めて読んだ

    旅をかっこつけた感じがなく
    あたしはすっと入り込めた

    本にしてしまうとあっと言う間の旅のように感じたけど
    実際はもっと長い旅だったのかな
    と 想像する

    だって壮大な地球を目の当たりにして 上陸→次の場所へ
    みたいにさっと通り過ぎるような
    そんなことはできないとおもうもの

    しかたなかったとしても その時間の空気の濃さは感じたい


    パタゴニア いつか行ってみたい

  • チリにて読了。確かにチリの南部に行くとタンポポがたくさん咲いていて、見る度にこの本のことを思い出した。

  • 椎名さんの初期の作品。厳しい気候の南米南端パタゴニアを舞台にした冒険物。精神的に調子を崩していた妻を残し、旅してしている椎名さんの心中と、厳しい気象環境がオーバーラップしてしまう場面が度々あって、どちらかというとそちらのほうが印象に残ってしまった。

    もっというと、巻末の解説に思わずうーむとうなってしまった。冒険作家は好き勝手旅して、それでお金をもらってるお気楽なものではないし、その妻は人知れず気苦労が多いということ。

    華やかそうに見えるものの、陰の部分が生々しかった。

  • 椎名誠の旅行記はよほどのことがなければ星5つ、それくらい楽しくて時間を忘れて読んでしまう。昔は漁るように読んだものです。

    広くて荒涼としたところを旅したいなぁ、と思っていたところにちょうど飛び込んできた本著。いつもの椎名誠節に「風邪とたんぽぽ」の比喩がからみあって尚更キュンとする。

    椎名誠は海について書くよりも、モンゴルとかパタゴニアとかインドとか、広大で荒涼で土煙があがる場所を書かせると断然輝くなぁ、と個人的には思っています。

    ああ、旅したい。
    道しかないところをバスで走りたい。

  • ふーむ、いいなこの本はやはり。

    アンデスの高い山に向かって湖を挟んで向き合うシーナ兄いの後姿がこの本のカバー写真になっている。
    なんだかちょっと茶色い感じの草原である。夏のパタゴニアであるらしいけど、日本みたく暑くはなく、そしてかなりみぢかい夏らしい。南半球なので12月のことである。

    わたしは偶然にも文庫本の第一刷、つまり初版本をブクオフで買ってきていた。これが単行本なら少しプレミアつくかな、とか思うけど文庫の初版でわそうもいかんのだろうな。だって105円だったものな。わはは。もっとも売ったりする気は無い。いまのところ無い。薄くてかさばらないからだな。

    そしてこの本は最後の解説がまたいい。だれあろうこの本の最初の頃の物語に登場する精神科の先生なのであった。このひとのお話がまたおもしろいのだ。自分のことを物語の第三者ではない、とはっきり述べてから、言いたいことをずばり言っている。それがまたストレトな表現でわたしにはたいへん好ましく思えた。 この先生はその後づっとシーナ兄いの主治医を遣っていると思うのダケド、しきりとうなづけるのであった。

    この文庫本は、本の真ん中あたりに写真だけのところが、20ペジくらくっ付いている。でも題名にある「タンポポ」の写真はその中には無い。どうも物語を読んでいくと、このパタゴニアの旅では、シーナ兄いはカメラを持っていない様子だ。
    とまあ、三年位前に品川のキヤノンホールまで、シーナ兄いの写真展を観に行って感動したわたしは、そういうこともあったのだな、と思ってしまうのだ。

  • こういう旅に出られる人が本当にうらやましい。

  •  日本でパタゴニアが知られるようになったきっかけとなった本といってもいいでしょう。TVのドキュメンタリー番組として放送され、その時の様子が後にこの本になりました。

     パタゴニアは国名ではなく、南米大陸の最南端、アンデス山脈と大西洋にはさまれた壮大な自然が広がるエリアを指します。国でいうと、チリとアルゼンチンにまたがっており、果てしなく広がるステップ、吹き付ける強い風、氷山、激しい波、荒々しい自然が世界の果てを感じさせます。

     当時椎名誠さんは、氏の仕事の忙しさがきっかけで精神的危機に陥った妻を日本に残してきており、旅行中も妻のことが頭から離れません。過酷な旅の中、妻を気遣う心情が胸を打ちます。

     出版から30年近くたち、パタゴニアへの旅行者も増えました。観光地としての環境も整備され、街も大きくなっていますが、自然の素晴らしさは今も肌で感じることができます。

  • 夏でも冬の景色。臨場感あふれる語り口。
    夫婦の危機を気にかけながら旅を続けているため、旅の進行と心の揺れが連動していて、他人事には思えなくなる。
    ふざけたところは全くない。荒涼としたパタゴニアの風景に、心情が反映されるような印象を受けるため、他の椎名作品とは随分と違う。
    ずしっと心に響く作品だ。

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著者プロフィール

1944年生まれ。作家。1988年「犬の系譜」で吉川英治文学新人賞、1990年「アド・バード」で日本SF大賞を受賞。著書に「ごんごんと風にころがる雲をみた。」「新宿遊牧民」「屋上の黄色いテント」「わしらは怪しい雑魚釣り隊」シリーズ、「そらをみてますないてます」「国境越え」など多数。また写真集に「ONCE UPON A TIME」、映画監督作品に「白い馬」などがある。

「2012年 『水の上で火が踊る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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