カラーパープル (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087601176

感想・レビュー・書評

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  • 先日、南アフリカのノーベル賞作家ナディン・ゴーティマの作品をながめていると、その解説がじつにふるっています。ゴーティマが心血を注いだ人種差別問題と、本書のアリス・ウォーカーが傾倒したジェンダーおよび女性の自立、この二人の女性作家を比較しながら興味深い指摘をしていました。これにて長く「積読」状態だった『カラーパープル』への一押しをしてくれました。解説(翻訳)者の柳沢由美子さんに感謝♪

    ナディン・ゴーティマは南アのアパルトヘイト・人種差別について、まことに切れ味鋭い作品を書いていて、読んでいるさなかに行間から血が滴り落ちそうですが(汗)、なるほど解説のとおり、男女格差やジェンダーについて、彼女はほとんど触れていません。それに対し、ピリッアー賞・全米図書賞作家のアリス・ウォーカーは、黒人女性ということもあって人種差別についてもさることながら、なによりジェンダーのほうに傾倒しているようで、いずれも才気あふれた作家たちだと感激します。

    ***
    主人公の黒人女性セリーは生まれからして複雑な人間関係の中で生きています。幼いころに生き別れになった妹ネッティをひたすら恋慕いながら、彼女らの苦難に満ちた生きざまをじつに面白く読ませます。次々におこる父や夫の暴力、レイプ、近親相姦、人種の相克……なんでこんな不条理なことが……と嘆息やら息をのむ場面も多いのですが、不思議なことに決してジメジメしたものにはならない。こんな世界にも生きる希望が溢れている、そんな元気がわいてくるような色鮮やかできらきらした物語です♪

    「セリー、ほんとうのことを言って、あんた、いままで神を教会で見つけたことある? あたしはない。あたしが見たのは、神が現れるのを待つ人々の群ればかり。あたしが教会で神を感じたとすれば、それはあたしの中にあったもので、あたしが持って教会に入ったものなの。他の人たちもそうだと思う。人は教会に神を分かちあうためにやってくるの、神をみつけるためではなくてね」

    こうした作品を読む前は、必ずしも多人種・多民族の国とはいえない日本で、これらの苦悩を身近に感じることができない歯がゆさや焦燥感のようなものからついつい「積読」してしまうのです。……が、いちど本を開くことができれば、そんな憂いはいつのまにか雲散霧消してしまい、世界の多様性とその深遠さに感激しちゃいます。う~だから読書は楽しくてやめられません。ということで、机の片隅でぶつぶつぼやいているほかの「積読本」も、そろそろ真面目に手にとってみるかな(^^♪

  • 1983年にピューリッツァー賞を受賞した、黒人女性作家アリス・ウォーカーの渾身の作。
    私は‘94年、大学1年の時に大学の講義で出会って初めて読んだ。
    アメリカに生まれ、黒人の女性であるというそれだけのために、真実を知らず、男に服従し、何も考えずにただ耐えるだけしか選択肢がなかったセリーが、シャグという”解放された"女性との出会いをきっかけに変わってゆく。

    奴隷として連れてこられた黒人の2世・3世は、アフリカがどこにあるかも知らない。
    本当のことなど知る必要もないとされていた。
    セリーの妹ネッティーは、自らの生き方を選択し、宣教師(の手伝い)としてアフリカへ渡る。
    アフリカの黒人と、アメリカから来た黒人との間にも埋めようのない溝がある。
    アメリカの黒人は、「我々を白人に売り飛ばした兄弟」と考える。
    アフリカの黒人は、アメリカから来た者たちのことを見ようともしない。

    無知だったセリーが、シャグを愛することと、ネッティーからとどく手紙から「自ら生きる」ということに目覚めてゆく様は感動に値する。
    黒人だから、女だからと価値を認められず、誰にも愛されずにいると、人は何かを知りたいとも「生きよう」とも思えない。
    でも愛があれば、愛を知れば、強く「生きたい」と願い、「知りたい」と感じ始める。

    私は黒人でもないし、女だけど女だからと蔑視されたことはあまりないけど、この壮大なストーリーには一人の人間として深く感動します。

  • こんなに深く愛というものを学ぶことがあるのだろうか。途中でなぜ泣いているのかすら分からないことがあるぐらいだった。随分読み進めるまで、物語の行き着く先が全く分からず、こんな本があるのかと驚愕した。前半部分は特に、無教養な主人公が淡々と語る中に無教養さが垣間見え、全体の把握が分かりにくく、言葉足らずな印象を受けた。展開は早く、起きていることも衝撃的なため、読みにくさを感じつつも読み止めるのが難しいと言ったところ。進むにつれ、全くの無教養な主人公に対して嫌悪感を抱かずにはいられない描写もあるものの、だんだん変化していく主人公と読者が同時に学んでいくように愛について知っていく。同性愛についての描写もあるが、人を愛することにこんなに性別や何もかもを超越したものがあるのだろうか、と感銘を受けた。主人公がだんだん自立していく展開から、物語は終焉のようなものも見えてくること、宗教色が突然強くなったことから、前半ほどの面白さを感じなくなってきてはしまったが、人生の教訓についてストーリーから多くを得ることが出来る。登場人物みんなが問題を抱え、生きていくことすら辛いが死ぬことすら出来ない状況であったことを経て、そのあとに得たもの、他人から与えられたものではなく、自分から考えて得たものの大きさに気付いたこと、それが彼らは自分の人生をかけて学んだんだと思うと、これから自分の人生をどうやって生きようか、と考えた。それほどまでに考えることのたくさんある小説だった。たびたびある衝撃的な描写よりも、繊細な心の微妙な変化に大きく衝撃を受けた。

  • 「風と共に去りぬ」を面白く読んでいる限り、当時の黒人社会が苦しんだ魂の叫びはわからない。「マミーやポーク、プリシー」として重要な脇役の黒人たちではあったのだが。

    うかつなことに黒人の作家が黒人のおかれている状況、奴隷としてアメリカに売られてきた人たちの精神の苦闘を描いた本は読んだことがなかった。しかも、人種、性差と差別の階段を下りていくような小説は初めてであった。

    アメリカ南部ジョージア州に住む黒人の姉妹は世間の荒波に出る前、すでに親にもひどい仕打ちうけていた。それはむごいと思うが鬱積した黒人社会には弱いものに向かっていかざるを得ないものがあるのだろう。

    前妻の子の世話のため名ばかりの結婚をした姉「セリー」は家出した妹「ネッティ」との音信を糧に生きていた。それも結婚相手の底意地の悪さで封じられてしまうのだが、不屈の魂で人種差別や性差別と闘っていく。なんというエネルギーだろうか!すさまじいというほかない。

    むごい、すさまじい血も涙もないと苦しく読み進む。しかし、物語の進行に従ってある感動へ導かれるので救われる。作者の意図は女の、黒人の、先祖が奴隷の苦しみから解き放たれるには何が必要なのか解き明かしたいのだと思う。

    新年に読むには重すぎたが、ほんとうに知らなければならないことではあるのだ。

    1983年のピュリツアー賞受賞、全米図書賞である。

  • 最初は読みづらいと思ったけど、読み切ってよかったと心から思った作品。
    自分の中に価値を見出すことの美しさがストーリーを通して感じられた。

  • 登場人物の多い本は苦手なのですが、苦もなくすべての人の顔と名前が一致した。

    神さま、姉、妹に宛てた手紙のような小説だからか、現実に生きている人たちのように感じた。
    思わず、セリー、と語りかけたくなる。

  • 女を嫌い蔑み、その実恐れている。愛せなくても愛されたがる。うまくいかないと暴力を振りかざす。そうした男たちが、この物語のなかではまるで障害物のようだった。実際に、「男がぜんぶだめにしちゃうんだ」というような台詞がある。
    男たちと対照的に「愛にこたえられる」シャグ。セリーは彼女に出会い愛を知る。そんなシャグを指して「男らしい」と称した(つもりなのだろう)アルバートに、セリーは「とても女らしいと思うけどね」と言って返す。シャグは繊細で誇り高く強い。最後まで読むと、女たちは皆そうだ。繊細で誇り高く強い。お互いに影響しあい成長を重ねる。男たちはいつでも邪魔をするのだが、その度乗り越えてより結束を強める。結束した女ほど強いものがあるだろうか。
    しあわせを作り守るという平和な強さ。登場する女が皆愛おしく、また勇気をくれた。読んでよかった。

  • 明るい未来性のある物語の割りにはパッとしなかったような。
    見えた黒人社会の歴史には驚きばかり。

    精読したい。

  • とても壮絶なリアルを見ました。

    出たしからかなり残酷な事件?いや、当時ではこんな事は当たり前に行われていたのだろう事から始まり、3分の1を読んでもなかなか読むのがキツイようなことばかりでした。しかし、だんだん状況は改善していき、最後にハッピーエンドで終えた事が一つ自分の心の救済にもなりました。

    黒人差別の背景を前提とできないと作品を理解できないようになっています。なぜ、差別されるのかという現実よりも、差別という行為がどれだけ人の心を屈折させてしまうのか…さらに黒人差別の中でもさらに女性軽視の時代でもあり、私はこれをよむまでは、その2つを合わせて考えた事がなく、とても無知で恥ずかしい気持ちにもなりました。
    黒人の女性がどれだけ生きづらく辛い思いをしているのか、事実を知る事はできても、私にはとても想像できるものではないです。

    ここに登場する男たちは、根はみんな悪くないと思います。しかし、女性を軽視する世の中しか知らない、小さな世界と価値観がいつまでもアップデートされず、それしか知らないから、自分が正しいと思ってしまう。彼らが女性に対して行った行為は許されるものではありません。しかし女性側も、彼らは他所を知ることで成長したことを心で実感したから、ミスターはアルバートと最後に認識され、セリーの中で初めて男に対して心をほんの少し開けたのだと考察します。

    個人的にはシャグのこのセリフは痺れました。
    妹のネッティーについて色々聞くシャグに疑問をもったセリーがシャグに何でそんなに妹のことを知りたいの?と聞く。
    そしたら、あんたがあたし以外に愛した、たった1人の人だからよ。これは痺れました、けど、シャグは愛してると言いながらも、たまに男と出かけたりして帰ってこない時もありましたが、そこは人の人生です。後悔しないように生きる力強さは、今のしがらみの強い現代では大切な気持ちです。

    私たち日本人も、現代ではアジア人差別の対象です。特にヨーロッパではその傾向が強いように思います。差別がどうして無くならないのか、ここで考えても仕方がありません。ただ、どんな境遇でも毎日を力強く生きることで、自分なりの答えが出るのだろうと、この作品を読んでそう感じました。とても素晴らしい作品でした。

  • スピルバーグの映画がすごい好きなので原作も読みました。黒人文学というものに初めて触れました。手紙という媒体を模倣した文章がとてもリアルで苦しいです。読んでよかった。

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