僕らだって扉くらい開けられる

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087711264

感想・レビュー・書評

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  •  超能力者。なれるものならなりたいと思う人は多いだろう。けれど知らずのうちに身についたその力がちっぽけなレベルだったら!? 

     平凡な人生を歩む5人のプチ超能力者の活躍と人間的成長を描くSFコメディ。プロローグと本編6話からなる。
             ◇
     とある町の大衆食堂で今村心司は先輩社員の北島と昼めしを食べていた。ここ三葉食堂のイチオシはスタミナ肉炒め定食だ。

     いつもならもりもり食べる今村だが、今日は食欲がない。取引先からの頼みごとを忘れて放ったらかしにしてしまったため契約解除を言い渡されたからだ。
     逆に大口の契約を勝ち取った北島は意気軒昂で、今村を慰めつつも見下すような発言を繰り返している。

     と、それを見かねた食堂のおばちゃんが口を挟んできて、北島をたしなめるついでに、こう言った。
     「今村君はそのうち救世主になるかも知れないよ。超能力者なんだから」
     今村がおばちゃんに目配せしたが後の祭り。さっそく食いついてきた北島に強制され、やむなく今村が醤油差しに手をかざし目を閉じる。
     すると醤油差しは北島の目の前で……。
      (第1話「テレキネシスの使い方」)
     
         * * * * *

     意外、と言っては失礼だけれど、実によくできたストーリーでした。

     まずプロローグ。
     幼い子どもの嘆きのようなことばだけが続きます。どうやら監禁されているようだということしかわかりません。
     コミカルなシーンの多い本編ですが、このプロローグが緊張感を与えてくれています。

     そして第1話から第5話が能力者5人の物語で、その能力は次のとおりです。

    ・今村心司 − テレキネシス:念動
    ・金田正義 − パラライズ:金縛り
    ・井谷田亜希子 − パイロキネシス:発火
    ・御手洗彩子
        − サイコメトリー:残留思念感知
    ・寺松覚 − マインドリーディング:読心

     バビル二世の能力を1つずつ5人に分割したような感じですが、その能力にはいずれも使用上の制約があり、レベルとしても高いものではありません。
     けれど、そこが物語のポイントになっているのです。

     その他にも3人の能力者が登場します。

    ・津田光庵 − プリコグニション:予知
    ※ 5人をバックアップする老陶芸家。
    落ち着きと深みのある人柄ですが、ときおり寒いギャグを飛ばすコミックリリーフの役割も担います。

    ・敷島喜三郎
       − リモートビューイング:遠隔透視
    ※ 地元の有力者で財産家。超能力の研究に余念がない。
     能力者として優れた素質を持つ幼い和歌を拉致監禁する。敵キャラです。

    ・音無和歌 − テレパシー:精神感応
    ※ 4歳の女児。
    まだ受信能力を持つ人間にしか思念を伝えることができない。5人の勇気を奮い起たせるキーパーソンでもありました。

     これだけの能力者が登場。最終話で津田に背中を押され、5人の能力者が敷島に囚えられた和歌を救出するべく、要塞のような敷島美術館に潜入します。
     まるでレイア姫を救出するために帝国軍艦船に潜入するルークたちのようですが、ショボい能力しか持たない5人がいかにしてミッションを遂行するのか、興味津々です。詳しくは作品をお読みください。

     コメディタッチで進んできた物語が最後に来て緊張感をはらむ展開に。これはプロローグを受けるかたちで描かれていくからです。

     なかなかのエンタメ作品でした。

  • 面白かった!
    そんなに混み入ってるわけではなく単純ではあるのだが、クスッと笑えるところも有り、思わず泣けてくるところ(私の場合は、食堂のサトルに対する両親の言葉)も有り。

    今並行して読んでいる垣谷美雨さんの作品同様、ここにも夫に腹を立てて熟年離婚を考えている妻が出てくる。(最近流行りの主題なのか?)
    一方あちこちに親子愛も有るし、青春も。
    超能力を持っていない面々も良い。

    サトルは漢字では悟ではないが、悟る能力と掛けているのかな?
    彩子(あやこ)を途中でサイコと自分で間違えて読んでしまった時に気づいた。
    でも、他の人達の名前は能力に掛けているようではないので、私の考えすぎかもしれない。

    各章の初出が割と間が空いているが、著者は最初から連作短編集の構想を持って書かれたのだろう。

    表紙カバーの絵も良い。
    理解の助けになる。
    でも食堂のおばちゃんは、文章読むと80歳代で、息子のサトルは44歳のよう。
    表紙カバーのおばちゃんはちょっと若い。

    今年のベスト3のブックリスト候補を一応用意しているのだが、まだまだ大晦日まではひっくり返ることもあると思って決定していない。
    本書が候補内に滑り込んできたようだ。

  • ちょっとだけ使える不思議なチカラ。ひょっとしたら近くにも…、いたら大変か。三葉食堂の「スタミナ定食」食べたくなった。

  • ちょっとした特殊能力を持った人たちが繰り広げる笑いあり、共感あり、ほっこりの物語。

    すごく良かった。
    特殊能力、いわゆる超能力。
    テレキネシス、パラライズ、パイロキネシス、サイコメトリーにマインド・リーディング。
    その力を日々持て余したり疎ましく思う人々の日常に起こるちょっとした事件。笑いあり、共感あり、ちょっぴりせつなさあり、一致団結の心ありと、読後はどの章もほっこり。
    読むたびに良かったね、って思わず声をかけてあげたくなるほど。
    パイロキネシスの亜希子さんに共感ポイント多々ありだったので一番印象に残ったな。

    なんだかその能力を駆使して便利で快適な生活をしている、そんなストーリーを想像をしていただけにこの展開は意外性ありですごく良かった。
    これは思いがけないおもてなしをいただいた時の気分に似ている。
    あぁ、ほっこり、にっこり、満足。

  • ちょっとした超能力を使えるようになった人達の連作短編。
    最終章には、みんな集まってささやかな超能力を駆使して扉を開けます。
    面白おかしいだけじゃない!

  • 地味な超能力。
    それでも何かをする事が出来る。
    解決する事が出来るんですね。

  • 最初の超能力者のお話読んで、これ好き!絶対面白いと思いましたが、その通りでした。全員揃ってからのワクワクが止まりませんでした。

  • 地味な、使い道の無さそうな、万能じゃない超能力を持った人々の話。手を使わず物を10㎝右に動かすとかそういう超能力(笑)各々が持つ超能力を使って人を助けたり、最終的に皆で協力する所なんかは熱かった!何を持つかじゃなくて、どう使うか、なんよな。

  • 些細な超能力を持つ人々の、いけてない現状を、ちょっとづつだけど、良い方向へ変えていくお話。
    なぜ、あまり役に立たない超能力を持つに至ってしまったのか?という謎解きと、最後は、みんなで力を合わせて、誘拐された女の子を助け出すお話。
    なんか、気軽に安心して読めて、楽しかった。
    ちょっとづつ前向きになっていく超能力者たちの姿が、ほほえましく読めた。能力を持ってない人達のキャラクターも良くて、北島先輩とか、菜々美ちゃんが、強くて好き。
    三葉食堂のおばちゃんの年齢は、一体いくつなんだ?とは思ったけど、、、。

  • 最初はちょっとした超能力を持った人たち(こんな超能力ならなくても一緒!って思えるレベル)の短編なので、ちょっとつまらなかった。
    けど、最後の章で今までのしょうもない超能力が一致団結した所が面白くて、スカッとした。

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著者プロフィール

1979年生まれ。宮城県出身。東北学院大学教養学部卒業。2012年『名も無き世界のエンドロール』(『マチルダ』改題)で第25回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。他の著書に『本日のメニューは。』『怪盗インビジブル』『ストロング・スタイル』『ヒーローの選択』など。

「2020年 『KILLTASK』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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