- Amazon.co.jp ・マンガ (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784088820842
作品紹介・あらすじ
週刊少年ジャンプの俊英・吾峠呼世晴の軌跡――アニメ化も果たした連載デビュー作『鬼滅の刃』の前身となる『過狩り狩り』、本書のカバーを飾る異色作『文殊史郎兄弟』、掲載当時も話題を呼んだ『肋骨さん』『蠅庭のジグザグ』の読み切り四作品を収録。鬼才・吾峠呼世晴の神髄、ここにあり!!
感想・レビュー・書評
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後にあれほどのヒットになるとは思わなかった頃の吾峠呼世晴さんの新人漫画賞佳作にして「鬼滅の刃」の前駆系「過狩り狩り」を筆頭に、舞台を現代に移してその後の「鬼滅」世界観を彷彿させながら漫画誌連載とはどういうものなのかを学んでいた頃(2014-5年)の、短編4編。「鬼滅の刃」連載は2016年からである。
他の漫画家にはない特徴が、受賞作には幾つか出ていた。
それは彼女の個性でもあり、強みでもあり、弱みである気がした。簡単に書く。
(1)最初の場面は、神社の軒下に住んでいる汚らしい孤児に、おにぎりを差し出す老人の姿。次のページには、吸血鬼の残酷場面が現れる。作者の関心が明治大正期に限っていないのは、その次の短編3遍が全て現代劇であることからも明らか。しかし、格差社会とホラー興味は、他の短編にも現れていて、これが彼女の「色」になっているし、言い換えれば「現代若者の関心ごと」ともリンクされている。
(2)彼女の強みは、根っからの長編作家というところだろう。短編集の後書き(鬼滅の連載がヒットし始めた頃)において「まだ担当さんについていただく前で、第三者からのアドバイス等なく描いているので、何度か読み返さなければ意味がわからなかったりするのが大変申し訳ないです」と書いている。よって編集者のアドバイスとは、「いかにわかりやすくするか」に力点が置かれたのは明らか。それがのちに「親切すぎる心情説明のセリフ」になるのだろう。反対に言えば、藤本タツキのように、アドバイスを無視してまで物語を作ろうという意思を彼女は持たなかったという事にもなるのかもしれない。(←いかん、弱みの記述に走ってしまった)それは兎も角、彼女は短編の時点で、4編とも全部長編シリーズにしてもいいぐらいの構成とキャラ設定をちゃんと作っている。この投稿作にしても、既に「鬼滅」の世界観のほぼ半分ぐらいは予想できるし、他の短編の幾つかの後書きにおいても長編を予定していたと書いている。反対に言えば、彼女はあらかじめ世界観をある程度確立させないと、物語を始められないという根っからの長編作家なのである。
(3)冒頭の孤児は、物語の中盤においてやっと登場して「過狩り狩り」(吸血鬼として狩り過ぎれば狩られる)の剣士として登場する。その登場の仕方は正に歌舞伎のような様式美になっていて、反対に言えば、アクション部分がほとんど描かれていない。最後のセリフ含めて、「カッコよさ」が強調される。それは、彼女の性格含めて、強みでもあり、弱みでもあるだろう。
やっと実質デビュー作の「過狩り狩り」を読めた。この作品と、柳田国男「山の人生」との比較については、これから「山のー」を読んでから考察してみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「鬼滅の刃」作者の初期の短編集。
過狩り狩り・・・「鬼滅の刃」のベースとなった作品で、初投稿作。
西洋人の鬼と対峙する日本の鬼たちと、鬼狩りの一夜。
文殊史郎兄弟・・・デビュー作。人の体の中には虫がいる。
殺しを請け負った、虫を纏う化け物兄弟の活躍。
肋骨さん・・・邪氣に憑かれた者とそれを浄化する者との攻防。
“自分の事を大事に”という言葉が心に響く。
蠅庭のジグザグ・・・多発する首吊り自殺の原因は?
呪いを解くジグザグの能力と活躍を描く。
「鬼滅の刃」以前の短編作品4編です。
粗削りな作画とストーリーながら、個性が際立っています。
特異な存在の主人公たちと、はっとさせられる言葉が良い。
珠世と愈史郎の登場とか、布遣いとか、木を生やすとか、
和柄のテイストが好きなのかな?とか、
ほのかに鬼滅に繋がる香りも漂っています。
文殊史郎兄弟が面白かったけど、さすがに連載は難しいかも。
でもちょっと続きが読みたかったなぁ。 -
鬼滅開始前の短編ですね。線が細くて綺麗な絵。
珠世様と愈史郎ががが。
世界観はなんとなくつながっててどことなくやっぱり鬼滅。肋骨さんのカッパくんが可愛いよー。 -
「鬼滅の刃」の作者さんの短編集です。
作風の変化や、鬼滅の刃との共通点を知ることができるいい短編集だと思います。個人的に作者さんは優しい話を書く印象があるように感じました。
「鬼滅の刃」の原案の読み切りも掲載されているので、本作にハマった人にはおすすめしたい短編集です。 -
お話とか人物設定が良いね。鬼以外の生き物面白い
人間、簡単に悔い改めないって〜たしかにと思ってしもた -
これを、西暦二千年頃の自分の所へ持っていくとする。
そこそこのリテラシーのある私は、なにか「ガロ」が「同調圧力に屈した/せざるを得なかった」とか何とか力説する筈である。哀切の表情を浮かべてあの雑誌はさぞかしサーヴァイブのためにジャンプ系のマンガを断腸のおもひでやらねばならないといふ私へタイムトラベラーの方は、いやこれは週刊少年ジャンプで掲載の、後の超絶大繁盛マンガの作者の、と説明するが、おそらく過去の私は、ガロもこんな作品を前からやってをれば、二千年代に入ってからか、と聞く耳を持たない筈である。さらに、然るべき年代で私は、マニアックなマンガコーナーでゴトウゲなんちゃらの作品を探し、あのタイムトラベラーは何か別の世界線から来たものであらうと確信するのである。
それくらゐガロっぽい。 -
台詞や人名、そして空気感にセンスがありすぎる。
ただこの頃から戦闘シーンは苦手みたいで、何が起こったか絵で説明するのではなく台詞で説明させている。
鬼滅の基となった作品以外は舞台が現代で、雰囲気は青年誌の読み切りみたいな感じなので(性的暴力的という意味ではなくて世の中のブラックなところを描くところが)小さい子にはあんまりお勧めしない。 -
『鬼滅の刃』の吾峠呼世晴の短編集。
「過狩り狩り」はデビュー作で『鬼滅の刃』のもととなった作品だが、少年マンガの王道を行くキメツとはまるで違う。怪奇趣味はキメツにもあるにせよ、この作品の基調はそれしかない。鬼ではなく吸血鬼が登場。舞台は大正時代の日本の様子。珠世と愈史郎は最古のキャラだとわかる。ここには鬼殺隊の訓練の様子などが断片的に描かれていて、キメツではそれをふくらませたのだ。それだけに詰め込みすぎではある。
「文殊史郎兄弟」は虫使いというか虫に取り憑かれた殺し屋兄弟が女の子とために敵討ちをしてくれるお話。まあ、そもそも人間の腹の中にいる虫なのかもしれないが。これは不気味な内容を扱いながらユーモアがある。「文殊史郎」が名字。この人の登場人物の命名は独特で、それがキメツで炸裂しているけれど。
「肋骨さん」は邪氣を祓う浄化師の話。少年マンガらしく、命を大事にする、自分を大事にする道徳的なところが出てきて、まあ、これがキメツで展開されるんだな。
「蠅庭のジグザグ」、呪殺師と解術屋の戦い。だんだんカルク明るいタッチになっていくのだが、その背後にはとても暗い怪奇趣味があって、それがキメツの世界の奥行きを作り上げているのだろうなという短編集。 -
全体的に闇の深さが垣間見える。読み切りばかりなので面白い。
肋骨さんとジグザグが個人的にお気に入りの話。キャラクターは文殊史郎兄弟と肋骨さんが好き。
化け物とかそういうのよりマミコさんが一番怖かった。いい人?だったけど。 -
小数点が付けられないので4にしたが気持ち3.8くらい。
面白くなくはないが面白い!と絶賛できるほどではない。粗削りや未熟な点も目立ち、アングラな作風は万人受けするとは思えない。正直鬼滅が爆発的にヒットしなければ短編集は出なかったと思う。
紙質が本来のジャンプ単行本と違って高級感あるのだが、ちょっとめくりにくい……。
鬼滅のプロトタイプとなった短編も収録されておりお馴染みのキャラも出演してるので、ファンならこれだけでも読む価値あるのではなかろうか。
しかし敵視点から導入し、主人公(?)の登場が本編の半分以上が経過してからとなるので、設定がわかりやすいとは言えない。世界観の敷居が高い。
他の短編も蟲の異能を宿した性格の尖った兄弟や人の邪気が見える浮世離れした青年など、王道少年誌向けというより、マイナーでマニアック路線が多い。主人公の年齢が高め(十代後半~二十代)なのもあり、 IKKIっぽい印象を受けた(個人の感想)。
登場人物の価値観やセリフ回しは個性的。そしてこの短編集で最も印象に残ったのはマミコさん。言動からして悪役か憎まれ役だと思い込んでたのだが、後の読み切りで再登場した時の発言が素晴らしい。
甘ったれてんじゃないわよ 人のことなんか あんたのことなんか みんな全部どうでもいいのよ
誰かに大事にしてもらおうなんて思うんじゃないわよ
そうしてもらえる人は運がいいの
あんたはそんな運持ってないの
ひねくれてるあんたを 可愛げのないあんたを 今は 誰も大事になんかしてくれないのよ
だからせめて自分くらいは 誰にも望まれてないならせめて自分くらいは
自分のこと大事にしてやりなさいよね
顔も描かれない脇役にこんなずしりとくるセリフを言わせるとは……
根底にある価値観がとてもシビア。
主人公も炭次郎のような良くも悪くもわかりやすいタイプではなく、ダークヒーローやアンチヒーロー寄りのひねくれたヤツが多い。収録作の中ではジグザグが好感触。
……しかし「結婚式帰りに振袖で疾走」は無理がないか?
あの女性が振袖であることに何ら必然性がない。
おそらく「振袖の女の子が首を吊られて落ちる」シーンを描きたいが為のチョイスだったのだろうか、禰豆子の緊縛といい、作者の倒錯的なこだわりを感じる……。