淋しいのはアンタだけじゃない (3) (ビッグコミックス)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 63
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784091896490

感想・レビュー・書評

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  • 仕事上の必要があって、全3巻をKindle版で購入して一気読み。

    聴覚障害者の世界を、丹念な取材を基に深堀りしていくドキュメンタリー・コミックだ。

    我々はつい「聴覚障害者」と十把一絡げにしてしまいがちだが、本当はひとくくりになどできないほど、聴覚障害のありようは多様である。

    生まれつきの聾者と中途失聴者では立場が違うし、難聴にも軽度・中度・高度と段階がある。
    また、本作で大きく光が当てられる「感音性難聴」(音は聞こえていても、聴覚中枢の問題などから歪んで聞こえ、意味が伝わりにくい難聴)の不自由さは、健聴者にはなかなかわかりにくい。

    本作は、聴覚障害の多様な世界の一端を垣間見せてくれる。難聴の人に見えている(聞こえている)世界を、見事に「見える化」する表現上の工夫が素晴らしい。文章のみのノンフィクションではできない、マンガならではの表現が最大限活用されているのだ。

    難聴や耳鳴りのメカニズムを解説する部分にも、活字にも映像ドキュメンタリーにもできない、マンガならではのわかりやすさがある。

    あの佐村河内守への取材が柱の一つになっている点は、賛否が分かれるだろう。
    私は、ないほうが作品がスッキリしてよかったと思う。佐村河内の登場パートとそれ以外のパートはテイストが異なっていて、木に竹を接ぐような不自然さがある。

    ただ、佐村河内の登場によって本作が大きな話題になったことはたしかで、読者を増やすという意味ではプラスになったのだろう(どっちみち、コミックスはあまり売れなかったようだが)。

    佐村河内がらみで、『FAKE』撮影中だった森達也も登場する。
    マンガ家と担当編集者も重要なキャラクターとして登場する本作のスタイルは、森達也のドキュメンタリー映画に近いとも言える。

    手放しで傑作とは言い難い、随所に未整理感が感じられる作品だ。それでも、ドキュメンタリー・コミックの新たな地平を切り拓く、チャレンジングな意欲作ではある。

    P.S.
    内容の本筋とは関係ない話だが、取材で佐村河内守の自宅を訪問するシーンで、飼い猫の名を「仮名」にしているのがむしょうにおかしい。無意味な配慮というか、むしろ渾身のギャグなのか?

著者プロフィール

73年、富山の港町に生まれる。高校卒業後、美大に行きたい思いを封じて、福祉系の大学へ進学。牧場バイトなどを経て、「一生の仕事にする」と、テレビ番組の制作会社に就職するが、1年で退職。制作会社で描いた絵コンテを褒められた経験を糧に漫画の持ち込みを続けて漫画家に。最新作『ルーザーズ~日本初の週刊漫画誌の誕生~』が『このマンガがすごい! 2019[オトコ編]』第7位にランクインした注目の漫画家。

「2022年 『定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ(5)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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