仁義なき宅配: ヤマトVS佐川VS日本郵便VSアマゾン

著者 :
  • 小学館
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感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093798747

感想・レビュー・書評

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  • 元物流専門紙の編集長だった横田増生氏が、宅配業界の裏側について語る作品。
    聞き取りの取材だけではなく、実際に運送会社のトラックに同乗したり、配送センターで仕分け作業まで勤めるという潜入取材を行っている。

    本作では主にヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の3社に焦点を当てているが、3社の歴史や特色はまさに三者三様である。民意をバックに規制緩和を求め拡大したヤマト運輸、政治家との結びつきや社内闘争を経て成長した佐川急便、巨大資本を有するがサービスでやや遅れをとった日本郵便、といった具合。

    大手3社の共通の問題点として、シェアの拡大と運賃の適正化が挙げられている。シェアを拡大するとなると、他社より運賃を安く設定するのが手っ取り早いのだが、収益が悪化し人材の確保が難しくなってしまうという、よくある二律背反である。
    先般ヤマトがクール便の荷物を常温で扱うという事件が明るみになったが、シェア拡大を急ぐ経営陣と、不十分な環境で重労働を強いられる現場とのアンバランスが原因なのだと思う。この構造は牛丼店や居酒屋など、外食チェーンとも共通した問題なのではないだろうか。

    増田氏が取材したドライバーの中にも、うつ病やクモ膜下出血など、明らかに過労が原因と思われる症状が現れている。Amazonで注文した商品が指定した時間に届く便利なサービスが、このような犠牲のおかげで享受できる事を忘れてはいけないし、宅配業界の経営者にも読んでいただきたい。

  • 元国営と一般企業とでは全然違う

  • 昔、宅配便のドライバーは過酷だけど、給料はいいと聞いたことがあった。でも、ネット通販での宅配便が進化し、「送料無料」が当たり前で、採算がとれなくなり、そのシワ寄せはセールスドライバーに。また以前クール便の温度管理ができていなかったという問題があったけど、著者の潜入取材の様子だと改善されていないんだなぁ驚かされた。ネット通販をする者としては、有難い送料無料だけど、安心安全に届けてもらったり、現場で働く方の事を考えると、送料実費もやむを得ないかなぁと思います。後は、通販業者などと宅配業者の折り合いでしょうね。

  • 2022年40冊目。316ページ、累計11,406ページ。満足度★★★★☆

    力作である。普段、日常的に利用しているヤマトなど運送会社の「実態」を著者自ら、現場で働く体験もして書き上げたもの。現在ではSGホールディングス傘下となった佐川急便の過去の黒い歴史など、これらの業界に就職・投資することを検討しているなら、必ず知っておきたい内容

    想像はしていたが、業務は過酷。綱渡りの業務運営で消費者の利便性が確保されていることに感謝したい。

  • ヤマト、郵便局、佐川の宅配便ビジネスの実態を明かす。
    ベースから各センターへの配送、外注による長距離輸送、ベース内での仕分け作業など、初めて知ることが多かった。
    送料無料が当たり前となりつつある中で、配送時間指定やクール便などサービスが充実していく。当然コスパは悪くなり、そのしわ寄せは長時間労働やアルバイトの酷使へとつながる。
    ベースにアルバイトとして潜入した筆者の体験記も興味深い。荷物に貼られた天地無用、割れ物注意といったシールが、一日1,000個以上をさばくアルバイトからしたら、「そんなもん気にしてられっか!!」とかくも腹立たしいものだったのか。大した説明もなく、正社員の指導もバラバラな中で、深夜から明け方にかけて荷物の受け入れ、送り出しを行うのは想像するだけで大変そうだ。
    Amazonからの値下げ圧力からいち早く手を引き、サービスに対する適正価格を目指した佐川。サービス第一としながらクール便を適正温度で管理せず杜撰な実態が明るみに出たヤマト。今まで単一な宅配業者とみていた視点が、本書を読んでそれぞれの違いが知れて勉強になった。

  • ヤマト、佐川、郵政各社の成り立ちが興味深い。佐川の営業所が少ないのは元々企業間の荷物を扱っていたからで、個人間荷物が主の宅急便なヤマトに比べるとそれは少ないはずだ。
    本書では、佐川(正しくは佐川の幹線輸送)の横乗りと、ヤマトのベースでの仕分けでの潜入ルポをされている。フリーター時代にヤマトの早朝仕分けのアルバイトをした経験があり、午後指定の荷物は積んではいけない、配達日が翌日以降なら別のカゴへなど。クールのボックスも確かに電源に繋いだりしたな、と思いだされた。
    物流業界の方々の苦労は計り知れない。多謝。

  • 物流業界での取材経験も豊富にある著者が物流拠点への潜入レポや関係者への取材を通して物流業界の現状や問題点を書いた一冊。

    佐川急便らヤマト運輸、日本郵便とここ10年で存在感が確固たるものとなったAmazonとの関係など物流業界の現状を知ることができ非常に勉強になりました。
    自身の取材経験はもちろんのこと潜入や関係者の取材から現場の過酷さや生の声を本書で知ることができました。
    東京佐川急便事件をはじめとする佐川の政治との癒着の真実やヤマト運輸の宅急便導入までの裏側、日本郵便のペリカン便に懸ける想いなど各社各様の深層を著者の取材や知見から知ることもできました。
    また、送料無料が問題となった背景をより深く知ることができ非常に衝撃を受けました。

    そんななかでも本書ではヤマトの小倉昌男氏の宅急便の構想を進めるべく組合を巻き込んだ話は本書で初めて知りました。
    あと、羽田クロノゲートに潜入して体験したクール便の問題や荷物の取り扱いなどは考えさせられるものがあり、印象に残りました。

    私たちが何気なく使っている通販やネットストアなどから送料無料という言葉の裏側にある現場の実態をドライバーや配送拠点から知ることができただけでなく、物流業界の送料や過労問題や貨物の問題など佐川、ヤマト、日本郵便各社が抱える問題が歴史的な背景とともに知ることができ、労働者や下請業者の立場から見ると普段何気なく使っている物流への見方が変わった一冊でした。

  • ルポ

  • んー。なんか、絞りきれてない。あっちこっちも、で散漫になってる感。
    けど、やっぱりこの人の潜入バイトレポートは面白い。

  • ★やはり潜入してほしい★著者のルポを少しずつ遡りながら読んでみる。宅配業界の概略、ヤマトと佐川の違いを理解するには役に立ったが、やはり著者の真骨頂は潜入ルポにあるのだろう。ここでは1カ月のバイトなのでやや食い足りなかった。まっとうな解説本ではあるが、ストーリーテリングの技術が高いわけでも対象への(ユニクロのときのような)怒りがあるわけでもないので、やや平板に感じる。

    とはいえ、得られた知見は多い。佐川が小口のBtoB、ヤマトがCtoCで始まり、ネット通販の拡大でいまの宅配便市場はBtoCが6割というのは興味深い。SGHDの栗和田会長は佐川清の前妻の子で、30歳ころまで父に会ったことがなかったとは。幹線の長距離輸送は下請けに出しているのも知らなかった。それが売り上げの3割ほどを占めるという。

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著者プロフィール

横田増生

一九六五年、福岡県生まれ。関西学院大学を卒業後、予備校講師を経て、アメリカ・アイオワ大学ジャーナリズム学部で修士号を取得。九三年に帰国後、物流業界紙『輸送経済』の記者、編集長を務める。九九年よりフリーランスとして活躍。二〇二〇年、『潜入ルポ amazon帝国』で第一九回新潮ドキュメント賞を受賞。著書に『ユニクロ潜入一年』『「トランプ信者」潜入一年』など。

「2022年 『評伝 ナンシー関』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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