- Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093813020
作品紹介・あらすじ
真っ白な雲の浮かぶ5月の青空に鳴りわたったサイレンが、パニックの始まりでした。人々は、目には見えない放射能の恐怖から先を争って逃げまどいます。社会的な大混乱と、肉体の疾患が、人間から理性を奪います。これは、未曽有の出来事の中で、14歳の少女が何を見、何を感じたかを描いた小説です。
感想・レビュー・書評
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数日前に読み始め、先ほど読了。
パウゼヴァングは戦争関係のものだと何となく思っていて、読み始めてから原発がテーマの本だと気づいた。テーマがテーマだけに、ヤンナ‐ベルタにふりかかるできごとは手抜きなく過酷。チェルノブイリの翌年に出版されているから、問題意識も焦燥感も並々ならぬなかで書かれたのだろうと思う。奇しくも福島の原発事故から一年経っていないいま読んでしまったわたしには、ちょっとキツいくらいに心身にせまって感じられる。ただ、でも、だからこそ、ウリの一件を描くことの意味はどれだけあったのだろうと思う。目の前で起こった、しかも放射能とは直接的には関係のないウリの件は、両親やほかの家族の身に起こったこととは違う類のことだと思うのだけど、でもそれにしては、ヤンナ‐ベルタの思考はそこまでその件にこだわらない。途中途中で気にかけてはいても、通奏低音のようなつながりが感じられず、軽々しい印象を受けてしまった。
1987年に出された本だからか、やや直線的な主張、という感じはしなくもない。もしいま同じような設定で書かれるとすれば、ヤンナ‐ベルタはきっともっと苦悩・葛藤して、確固たる意見なんて持てなかったろうという気もする。でも、いまのわたしは、やっぱり読んでよかった、と思う。
いつか原書で読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
パウゼヴァングの作品を追っている。硬い文章でも難解な言葉でもない淡雪のようなふんわりした言葉を紡ぎつつ、内容は決して目をそらしてはいけない人類の哀しい姿を告発している。
戦争モノを読んできて当作品を読みはじめると?という感覚。チェルノブイリはソ連、ウクライナ・・何故西ドイツの村でこんな悲劇が。そのまま止められずに読み続け徐々に見えてくる「見えない雲」の正体、そして悲劇の大きさ。これは近未来の出来事だ。ヤンナ・ベルタという14歳の少女を語り手にして、弟2人を逃げる最中に目の前で失った悲劇。
最終章で「その村」へ戻り祖父母が帰ってきている事を知るベルタ。直前に逃げた途を探し、弟ウリの白骨化していない身体を見つけるシーンは涙で読めなかった。
首に下げていた赤い鍵・・そっと外しヒマワリを敷いた土の中に倦めるデルタ。
チェルノブイリの翌年に書かれたこの作品、訳者の高田さんは語る。
核戦争を原発事故と読み替えて読んでくださいと。 -
子供が手にとってくれればいいなと思う本。
もちろん、子供が感じたこと考えたことに大人が正面から向き合う覚悟がいる本でもあるなと感じます。
原子力関連の話は、未来にまで長く続く話だから、子供もしっかりと考えなくてはならないと思うのだけれど、難しい本、思想的に大きな偏りが見える本が多くて、なかなか薦められる本がないなと感じていました。
この本を通して子供と一緒に考えるーーそう思いながら読むと、また、今までとは違う何かが見えるように思います。 -
以前から何度も読み返していたが、福島の原発事故の後読むと、かなり悲観的なイメージも持った。
人間の無知からくるふるまいや無関心が最も恐ろしい。 -
チェルノブイリ事故後、西ドイツの原発でのチェルノブイリ事故以上の事故が起きたという近未来小説。
学校で事故のニュースを聞いた14歳の少女は、弟の待つ家に戻ります。
折しも両親はいなくて、二人は避難したらいいのか留まった方がいいのか思案します。
福島原発事故後四カ月、今の時期にこの本を読むとこれから日本でどんなことが起こるのか?
もし、福島だけでなく日本の原発で今後事故で起きたら、私たちは難民になってしまうのでは?
と、一つ一つのエピソードがとても現実味を帯びて想像されるのが怖かったです。
でも、これからの日本のことを考えるためにも読んでおいたほうがいい一冊だと思います。