ハピネス

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 869
感想 : 140
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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093861687

感想・レビュー・書評

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  • 出逢って一年余りで死別という運命の残酷さ。これからなのに、まだまだ話したいこと、知りたいことがたくさんあるのに。なぜもっと早く出逢わせてくれなかったのか。
    野ばら作品は「シシリエンヌ」「ツインズ」「鱗姫」など痛々しいような話も好きだけど「ミシン」「ロリヰタ」など純愛で悲恋な話の方が好き。今回のは後者。
    出だしが良い。日常の一コマにポッと出た一言。二人でテレビを見ていたら急に「結婚しよう」と言われたようなあの感じ。日常を感じさせつつ、だからこそ彼女が死ぬという実感がない。
    彼女が自分の運命を受け入れて、大好きなイノセントワールドの洋服を買い、念願のロリータになって、残りの人生を大好きな人と一緒に楽しく過ごそうと決意しているのが良い。この辺の芯の強さは、野ばら作品の女の子共通で好き。
    そして野ばら作品の主人公も、彼女を尊重して、愛する点が共通しているのが好き。だけどそれゆえに主人公がメンタルゴリゴリに削られていくのが辛い。こちらも一緒に落ち込んでしまう。彼女は満足して逝ってしまうけど残された者は辛いよなと改めて思う。
    心臓に大きな病気を抱え不安を抱きつつも、はたからみればなんでもないいつもの日常を大好きな彼と楽しく過ごしている描写は悲しくもあり、そんな日常なんてすぐになくなってしまうからこそ、常に大事にしなければならないのだと思った。女の子の両親が家を建てたところの話は悲しい。
    彼女からネクタイをプレゼントされるシーン、カレー鍋を遺品として貰うシーンが印象的だった。
    もし自分が同じ立場だったならこうしていられるだろうか。最後に誰に逢いたいと思い、いつ、どこで、何をしたいと考えるのか。
    神様はいて、うまいことなるようにしていて、たとえ短い命だとしても意味がある。神様がいなければ天使もいないことになる。そんな天国はつまらない。
    運命も神様も天国も、実在するかそんなことはわからないがこの本に限ってはあるのだろうと思う。
    152〜158頁も良い。物語の最後の主人公の独白はいつも良い。



    印象的な言葉。たくさんあって全部書けない。
    売るつもりはないから途中まで。
    138〜139頁の台詞に感動。長すぎるので割愛。


    いい絵を描く者が必ずしも高い技術を有しているとは限りません。

    「私より、君の方が辛いよね。だけど、現実を、受け入れて」

    「自分でその運命を承諾するまでに、やっぱり多少の時間が必要だったのよ」

    「心臓の顔色を窺って一日、一秒でも自分の人生を引き伸ばすより、どうせ後一週間くらいしか生きられないのなら、多少のリスクを冒しても、楽しく毎日を過ごしたいなって」

    「私も君の立場だったら、もっと甘えられたいし、頼りにして貰いたいと葛藤するに違いないし。役立たずな自分に憤りを感じると思う。でもね、違うんだよ。君はとっても役に立ってくれているし、何ていうのかなー、君がこうして一緒にいてくれるからこそ、私は後、数日の命だって現実に対して前向きに向かい合えてるの。もし、君がいなかったら、私、きっと、どうしていいのか解らずに毎日、只、泣いてばかりいたんじゃないかな」

    「ねぇ、神様っているのかな」
    応えられずにいると、彼女は「変なこと訊いてご免」と照れたように笑い「じゃ、また明日」、手を振ります。

    「しかし、自分の為ではなく、人の為に必死になれる、場所柄もわきまえず泣けるのは、悪いことじゃない。だから今回は、特別に訳も訊かないし、叱りもしない。—お前には、大事な人がいるようだな。男なら、守りきれないと解っていても、最後まで守ることを放棄するなよ。必死に抵抗し、もがけ」

    「そう。学校以外ではずっとロリータさんでいたいから。ロリータさんって、ファッションなんだけど、その前にライフスタイルだと思うのね。だから、お出かけの時だけロリータさんでは、本当のロリータさんにはなれないと思うの。外で幾らロリータさんを気取ってみても、家に帰って速攻、ジャージに着替えていたら、そんなの偽物でしょ」

    「一晩、この子が家を空けるのが心配でないといえば嘘になります。けれど、だからといってこの子を縛り付けるのは、親のエゴでしょ。私は母親であると同時に一人の女です。ですから好きな人と一晩を明かすことが、どれくらい特別な悦びを与えてくれるかを、知っています。この子がそれを知らずに旅立ってしまうのなら、リスクがあっても、知って貰うことを私は、否、私達は望みます。親では賄えないものもたくさんありますから。生まれてきて良かったなって、この子が思える為なら、私達はどんな我慢もするつもりです」

    「人の死って、宝くじで三千円が当たるのと同じくらい、ありきたりなことなの。よくある出来事なの」

    「いっそ、今すぐ死なせてほしいと願ったりもするよ。でもね、そんな時は、明日、君に逢うって約束を思い出すんだ。そうしたらね、不思議と怖くなくなるの。一旦、恐怖心に支配されると、精神安定剤なんてまるで効きやしない。それより、君のことを考えるほうが安らぐ。君は、私にとって—最高の安定剤であり、特効薬なんだよ」

    「君と出逢ったこと。—それが私の生まれた意味の全てで、生きた意味の全部」

    「君にぎゅっとされたら、意地悪な心臓だって反抗しないよ。それが証拠に、ほら、さっきまでまだ若干、心臓の音が乱れてたけど、今は普通でしょ」

    「君の身体の重みと温もりはね、不安定な出来損ない、こんな厄介な私の心臓すら、安心させてしまうんだよ」

  • 嶽本野ばらさんの作品は濃くて重くていろいろと現実離れしているようで苦手だったけれど、これはなんだかよかった。
    薔薇風呂に入るシーンが好き。
    私も思いっきり洋服を買いあさりたい・・

  • はじめて読んだ、嶽本野ばら。
    図書館の返却棚に戻されていたのを
    偶然手にして借りてみたらすごくおもしろかった。
    高校生の男の子が余命1週間の彼女と過ごす最後の日々というファンタジー。
    主題は、愛と喪失、神様と感謝、あたりかな。
    ロリータファッションや特別なデート。
    17歳の彼女が短い生涯の最後に望むことを、
    ふたりでひとつひとつ味わう描写は、なにもかも瑞々しく初々しい。
    生きる、ってこういうことをいうんだろうな。
    とりわけベッドの中のふたりからは、
    愛に満ちたとても幸せな空気が伝わってくる。
    清潔なシーツとあったかい体温。
    愛おしさと快感が溶け合う。
    生きる意味、死の意味を問うなかで、
    失ったとしてもかけがえのない人に出会えたことに感謝する。
    あたしもいつかそんな思いに至れるのだろうか。

    (2006年12月作成レビュー)

  • 純愛。読み終わったあとちょっと泣きそうになった。

  • 面白かった(^ω^)泣けると思う。

  • 胸のまんなからへんがきゅうきゅう締め付けられて大変でした。

  • 野ばらさん好きなんだよねぇ。
    お洋服に対するポリシーの強さとかってここまでくればかえって楽しい。

    これはお涙頂戴物。
    個人的に読んだ時期が『美丘』とかぶるからどうしても比較しがちになっちゃうんだけど、僕は断然こっちのが好きだ。
    死んじゃう彼女に精いっぱいの愛をささげ、精いっぱいの愛を与える彼女。
    そんな相思相愛ぶりが良かった。

    なんだろう切実なんだよね。
    野ばらさんの文章は切実なんだ。
    死の淵に立たされても絶対に自分は曲げないっていう切実感。
    どの作品もそうだけど、ハピネスでもそうだった。
    引用した文章はいくつかあってどれも長いから断念するけど、是非読んでいただきたい作品です。

  • 彼女が可愛すぎて、切ない。
    ありふれた物語だけど、すごく感動した。

    僕と彼女は今日も平凡で
    ありきたりな毎日を、
    ウルトラ・ラッキーで、
    ウルトラ・ハッピーに過ごしています。

  • 野ばら作品で初めて泣いた。生まれた意味、死を考えさられる本。

  • 死を目前にし残された時間を自由に生きる。そんな彼女と共に過ごす、僕の話。
    ラストは涙が止まらなかった。こんな風に一生懸命に生きたい。

著者プロフィール

文 嶽本 野ばら
京都府宇治市出身。作家。
1998 年エッセイ集『それいぬ̶ 正しい乙女になるために』(国書刊行会)を上梓。
2000 年『ミシン』(小学館)で小説家デビュー。
2003 年発表の『下妻物語』が翌年、中島哲也監督で映画化され世界的にヒット。
『エミリー』(集英社)『ロリヰタ。』(新潮社)は三島由紀夫賞候補作。
他の作品に『鱗姫』、『ハピネス』(共に小学館)、『十四歳の遠距離恋愛』(集英社)
『純潔』(新潮社)など。『吉屋信子乙女小説コレクション』(国書刊行会)の監修、
高橋真琴と共書絵本『うろこひめ』(主婦と生活社)を出版するなど少女小説、お姫様をテーマとした作品も多数。

「2021年 『お姫様と名建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

嶽本野ばらの作品

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