緑陰深きところ

著者 :
  • 小学館
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感想 : 69
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  • / ISBN・EAN: 9784093866101

作品紹介・あらすじ

業を背負う男たち、奇蹟のロードノベル

兄さん、今からあんたを殺しに行くよ――。
大阪ミナミでカレー屋を営む三宅紘二郎のもとに、ある日一通の絵葉書が届いた。葉書に書かれた漢詩に、紘二郎の記憶の蓋が開く。50年前、紘二郎の住む廃病院で起きた心中事件。愛した女、その娘、彼女たちを斬殺した兄……人生の終盤を迎えた紘二郎は、決意を固めた。兄を殺す、と。
思い出の旧車を手に入れ、兄の住む大分日田へ向かおうとする紘二郎の前に現れたのは、中古車店の元店長を名乗る金髪の若者・リュウだった。紘二郎の買ったコンテッサはニコイチの不良車で危険だと言う。必死に止めようとする様子にほだされ、紘二郎は大分への交代運転手としてリュウを雇うことに。孫ほど年の離れた男との不思議な旅が始まった。
かつて女と暮らした町、リュウと因縁のある男との邂逅、コンテッサの故障……道中のさまざま出来事から、明らかになってゆく二人の昏い過去。あまりにも陰惨な心中事件の真相とは。リュウの身体に隠された秘密とは――? 旅の果て、辿りついた先で二人の前に広がる光景に、心揺さぶられる感動作。2020年直木賞候補となり、いま最も注目を集める作家が贈る、渾身の一冊。



【編集担当からのおすすめ情報】
『雪の鉄樹』で本の雑誌増刊『おすすめ文庫王国2017』第1位、『冬雷』で「本の雑誌 2017年上半期エンターテインメント・ベスト10」第2位、第1回未来屋小説大賞 、『オブリヴィオン』で「本の雑誌 2017年度ノンジャンルのベスト10」第1位など、近年急速に注目を集める遠田潤子氏。2020年には『銀花の蔵』で直木賞初ノミネートを果たし、いま最も波に乗る作家の一人です。
最新作は、著者にとって初めてのロードノベル。真骨頂ともいえる、過去の翳を抱えた男たちの、時にユーモラスで時に心を切り裂かれる、濃密で熱い物語をぜひお楽しみください。

感想・レビュー・書評

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  • 三宅紘二郎74歳はカレー屋を独りで、40年間営んでいましたが、とある決心をします。

    紘二郎の実家は医院を開業してして父も兄も医者でした。
    父は戦争を経験していて、戦地で世話になった草野一等兵に恩があり、半身不随の体になった草野の娘と自分の息子を許嫁として結婚させる約束をしました。
    そして、父は草野の娘の睦子には5歳年上の紘二郎の兄であり医者を目指している征太郎をと決めていて、睦子と同い年の紘二郎は無視されました。

    しかし、初めて睦子と顔合わせをした日、睦子と本当に惹かれ合ったのは紘二郎でした。
    睦子と紘二郎は父が亡くなったのをきっかけに二人の本当の気持ちを家族に打ち明けますが、聞き入れられず睦子と征太郎の結婚式の日に二人で駆け落ちをし、二人で働きながら幸福な二年間を過ごし、二人が二十歳になった時婚姻届けを出しますが、そこから足が付き、征太郎が睦子を奪い返しに来ます。
    征太郎は母が首を吊り、草野が重篤だといいます。
    それを聞いた睦子はショックで戻ると言い出します。
    しかし五年後、征太郎が、睦子と五歳の娘桃子、義父の草野を殺して無理心中を図りますが、自分だけ死にきれず、20年間服役します。

    紘二郎は40年後の今、征二郎からと思われる葉書を受け取り決意をします。
    「兄さん、今からあんたを殺しに行くよ」
    睦子を迎えに行こうと思っていたワインレッドのコンテッサに乗って。

    コンテッサを売った青年リュウと紘二郎は知り合い、とあることからリュウと二人で車を運転しながら大阪から九州まで旅に出た六日間。
    リュウも重大な事情を抱えていました。


    以下ネタバレです。お気をつけください。


    最後は意外な人物が登場してきてキーマンとなり事件は終焉を迎えることができます。
    リュウはこれから先が大変ですが、きっと紘二郎と出会ったことにより、少しでも事態がよいものになってくれるのを祈るしかありません。
    最初は一体どんな修羅場が起こるのかと思った物語ですが、深い緑色の表紙の色のように静かに終わってくれてよかったです。

    • くるたんさん
      まことさん♪こちらでもおはようございます♪

      うん、この新緑の季節の緑と、赤いコンテッサが心に残りますね。

      深いところで誰もの思いがくすぶ...
      まことさん♪こちらでもおはようございます♪

      うん、この新緑の季節の緑と、赤いコンテッサが心に残りますね。

      深いところで誰もの思いがくすぶってもつれていたのかな。
      そう思うとまた感慨深いですね。

      リュウには泣きました。忘れられない遠田作品の登場人物の1人です。
      2021/05/27
    • まことさん
      くるたんさん。

      ネタバレになりますが、私は中島のお姉さんの存在がよかったと思いました。
      まさか○○していたとは!

      母親想いのリ...
      くるたんさん。

      ネタバレになりますが、私は中島のお姉さんの存在がよかったと思いました。
      まさか○○していたとは!

      母親想いのリュウももちろん忘れられない人物ですね。
      2021/05/27
  • ロードノベルはあまり読んだ事がなかった。
    遠田潤子さんでロードノベルとは(°_°)

    兄への復讐に向かうはずが金髪の若者と2人で兄の元へ向かう事になり…と言うお話。

    今回も登場人物全てが可哀想(p_-)
    だけど遠田さんなりのハッピーエンド笑

    相変わらずグイグイ読ませる内容でした_φ(・_・

  • 力強く残る一冊。
    兄さん、今からあんたを殺しに行くよ…衝撃的な言葉、血なまぐさい予感にいきなり心は逸る。

    年の離れた男二人の出会い。
    頼りない車が乗せる、つらい過去と想い。
    こういう展開に弱い。

    関係者それぞれのせつない想いが随所で心を掴み、揺さぶってくる。
    まさに真の想い、姿はそれぞれの心の陰深くにひっそりと佇んでいるんだろうな。

    リュウと紘二郎の二人が紡いだ時間は貴重かつ意味のある時間。
    力強く涙と共に心に残る。

    ラストの美しい描写が素敵。

    静かなピリオドのようにもこれから光輝く星のようにも感じる余韻がたまらなかった。

    • まことさん
      くるたんさん。おはようございます。

      なんとな~く、くるたんさんもこの作品読まれたのじゃないかな~という気がしていて、やっぱり!昨日レビ...
      くるたんさん。おはようございます。

      なんとな~く、くるたんさんもこの作品読まれたのじゃないかな~という気がしていて、やっぱり!昨日レビューされていたのですね。
      一体、どんな凄い修羅場が待っているのかと思ったら、静かな幕切れでほっとする話でした。よかったですよね。
      2021/05/27
    • くるたんさん
      まことさん♪おはようございます♪
      わ、ほぼ同時期に読んでいたんですね♪

      これは遠田作品の中でも好きな作品になりました!
      リュウと紘二郎の二...
      まことさん♪おはようございます♪
      わ、ほぼ同時期に読んでいたんですね♪

      これは遠田作品の中でも好きな作品になりました!
      リュウと紘二郎の二人の心が通いあっていく過程が良かったな。

      ラスト、美しかったですね。

      誰もが救われた…そう思うとピリオドでもあり、救いの光、輝きでもあり…と感じました♪
      2021/05/27
  • なんとも絶望的な悲しい内容から物語は始まります。
    終わりも悲しいのですが、最初の悲しさとは違う
    ある意味「ハッピーエンド」と言っていいような。

    最近読んだ他の小説は、登場人物の気持ちが理解できず
    「???」で終わったのですが
    この『緑陰深きところ』は遠田さんの説明がわかりやすいのか、
    すべての登場人物の気持ちがすごくよくわかる。
    同じ経験などしていないのに、共感できるというか。

    とてもいいお話でした。
    読んで良かったです。

  • 「殺してやる」と思うほど、誰かを憎んだことはありますか? 私は「死んでやる」と思うほど憎んだことがあります。憎しみからは何も生まれない──その通りだけど、憎しみにとらわれている間は絵空事にしか聞こえない。その頑なな心の変化を丁寧に描いています。私も「憎み死に」せず、生きてこの本を読むことができてよかったです。

  • 相変わらずストーリー展開は上手。
    個人的にラストの手紙部分はここ数年読んだ小説の中で
    一番震えました(いろんな意味で)。

  • 何度も胸が締め付けられそうになった。戦後間もない昭和の家同士のしがらみや、人間模様に心を痛めた。令和になった今でも少なからずはあるだろう。

    若者との出会いをきっかけに、現在と過去を徐々に受け入れていく高齢の主人公にも、もっと生きてほしいと願った。
    2021,6/24

  • 面白かった!
    50年前、愛した女性とその娘と父が、兄に惨殺されるという、なんとも凄惨な過去を持つ主人公の物語だなぁ・・・と思いながら読み進めていたけれど、いろんな事がわかってくるに連れ重たさがとれていき、最後はタイトルのような、緑の深い、新たな気持ちになれるような、そんな物語でした。
    50年たって兄を殺しに行くと、大阪から大分までコンテッサで向かおうとする主人公の紘二郎が、孫ほど年の離れたリュウと出会い、ひょんなことから二人で向かうことに。リュウと出会った事によって、事件以来、人と境界をなし、未来のない紘二郎が、人間らしさを取り戻し未来を得る姿、明らかになる過去、またリュウの正体、そしてリュウが持つ過去が、ロードノベルと相乗し、早く速く進みたくて、後半は一気読み。凄く面白かったです。
    先日、同じ著者である遠田潤子さんの「紅蓮の雪」も拝読しましたが、こちらも心が震える作品でした。
    遠田さんの小説は既に4冊目ですが、遡って他の作品も読んでみたいなと思いました。

  • 久々に心に響く小説を読めた。
    コンテッサ、ネットで調べたら今でも通じる素敵なデザインの車。1960年台はさぞかし憧れの対象であったろう。
    そのコンテッサを巡って知り合った二人の旅。それぞれの過去が少しずつ明かされていく。実は昔ちょっとした接触があったり、あまりに悲しい過去が明かされて、それがお互いの共通の悲哀になっていく。
    登場人物それぞれの心情が細かく描かれていて心を打つ。
    主人公は目的を達することは出来ないが、現実は思っていたこことではなく、解決できない過去に呻吟しつつ。最後は寂しいハッピーエンドか。

  • かつて時代錯誤なお家事情で引き裂かれた恋人が実兄に殺されて、何十年越しかにその復習として実兄を殺しに行くというストーリーなのに、本当に復讐を成し遂げてしまうのか!?ってことよりリュウの正体が気になって仕方なかった。

    紘二郎とリュウの旅路と、紘二郎と睦子の恋愛パートが交互なこともあって睦子との恋が何十年も前のことのようには思えず、紘二郎もずっとそんな気持ちでいたんだろうか。でも最初から睦子の最期ありきで読むことになるので、幸福の気配がするたびに悲しくなった。
    けどなんでそもそもそんな悲愴な最期に?という疑問が二段構えの真相で、なんか本当にしんどくてしんどくて…最終的に辿り着いた推測が真実だったら兄のこと私は憎めないし…
    しかし中島の事情、つまびらかになった上で冒頭のやりとり思い出すと「お前どのツラ下げて!?」という気持ちにはなる。中島も苦しんでいたといえば苦しんでいたわけだけど。

    リュウの病気がわかってからずっと泣きっぱなしで読んでて、ジュジュが会いに来てくれたのは本当に救いだった…リュウの気持ちはわからんでもないけど、ジュジュと紘二郎のほうにどうしても感情移入してしまうし…

    ていうか香代さんがスゲー女すぎん!?
    器がでかすぎるし愛が深すぎる、香代偉大すぎ。

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著者プロフィール

遠田潤子
1966年大阪府生まれ。2009年「月桃夜」で第21回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。16年『雪の鉄樹』が「本の雑誌が選ぶ2016年度文庫ベスト10」第1位、2017年『オブリヴィオン』が「本の雑誌が選ぶ2017年度ベスト10」第1位、『冬雷』が第1回未来屋小説大賞を受賞。著書に『銀花の蔵』『人でなしの櫻』など。

「2022年 『イオカステの揺籃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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