- Amazon.co.jp ・本 (217ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094057119
感想・レビュー・書評
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“日本人がこの邪教の御先鋒を担ぐ破目になっているのは、あっさりいって、あの対米敗戦のトラウマから、つまり精神的外傷から、脱け出せないでいるからにほかならない(215頁)”と西部氏は言う。
実際にトラウマ(精神的外傷)なのか、もしくはトラウマと呼ぶべきなのかという事については、私は分からない。ただこんな話(↓)がある。
“今度の戦争で、仏印(いまのラオス、カンボジアの辺)あたりで捕虜になった日本人の話をきいてるみると、いままでの敗戦を味わったことがなかったから、みんなショックで、がくッっとまいってしまった。ところがフランス人に、「あなたの国は三千年に一度敗けたきりじゃないか。おれたちは三十年に一度ずつ敗けているんだ。なんでもないじゃないか......」といって笑われ、なるほど、と思ったという。...常に敗けている人の痛さよりも、常に勝っている人が敗けたときの痛さの方が、はるかに激烈なようである(升田幸三著 歩を金にする法)”
ちなみに、この升田幸三(1918〜1991)というのは将棋のプロ棋士である。升田幸三は、GHQに呼ばれ、いろいろ質問を受けた事もあった。その質問には「日本の将棋というのは、捕虜虐待みたいなところがあるが、どうか?」なんていう質問もあったらしい。
“「升田幸三が日本の総指揮官で、勝った場合はどうするか?」というから、僕は捕虜を巣鴨みたいなところへ幽閉せずに、生かして使う、と答えた。将棋の精神である。だいたい戦犯という考えはおかしい。切り殺した方に罪がなくて、殺されたほうにばかりあるのはおかしいではないか。勝ち敗け関係なしに、勝ったほうにだって、何かあるはずだ。それでは勝てば官軍式で、ものの理にかなっていない、といった。(升田幸三著 歩を金にする法)”
どうも日本人は、こうした気概を無くしたようである。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
評論家の西部邁が、反米保守の立場を鮮明に語っています。
著者がまず批判のやり玉にあげているのが、イラク戦争に際して我先にと言わんばかりに対米追従の立場を表明した堀茂や西尾幹二といった、親米保守の論者たちです。彼らは、集団的自衛権さえ認められない日本が、アメリカの方針に反対することなどできないと考え、日本の安全保障のためにアメリカに賛成するほかないと主張します。
しかし著者は、こうした議論は話が逆さまではないのかと言います。むしろ、日本に自立の姿勢が欠如しているからこそ、集団的自衛権を持つことから尻込みしてきたのではないか、というのです。著者によれば、自主防衛の姿勢を確立することが日本の急務であり、そこからアメリカとの協調外交のあるべき姿を探っていくというのが、あるべき順序なのです。戦後日本には、親ソ的な左翼と、対米追従的な保守しかなく、いずれも本当の自立からほど遠い立場だったというのが、戦後の日本に対する著者の診断です。
さらに著者は、保守主義の立場からアメリカニズムないしグローバリズムの「設計主義」を批判しています。とくに構造改革の大合唱だった本書刊行当時の言論界に対して、伝統に根ざした国民の英知を弊履のように捨ててしまうべきではないと声を上げています。
最後の章では、小林よしのりの『戦争論』(小学館)への左派の文化人からの批判に対して、小林を擁護する議論を展開しています。