こうふく あかの (小学館文庫 に 17-5)

著者 :
  • 小学館
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本棚登録 : 1507
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  • Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094086089

作品紹介・あらすじ

結婚して十二年、三十九歳の調査会社中間管理職の俺の妻が、ある日、他の男の子を宿す話。二〇三九年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者、アムンゼン・スコットの闘いの物語。この二つのストーリーが交互に描かれる。三十九歳の俺は、しだいに腹が膨れていく妻に激しい憤りを覚える。やがてすべてに嫌気がさした俺は、逃避先のバリ島で溺れかけ、ある光景を目にする。帰国後、出産に立ち会った妻の腹から出てきた子の肌は、黒く輝いていた。負けることなど考えられない王者、アムンゼン・スコットは、物語の最後、全くの新人レスラーの挑戦を受ける。

感想・レビュー・書評

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  • 『こうふくあかの』— 複雑な人生を紡ぐ、愛と再生の物語

    西加奈子氏の『こうふくあかの』は、個々の感情と運命を細やかに綾なす作品であり、家族や自己認識のテーマを掘り下げています。本作は、中間管理職の男性と、プロレス界の無敵の王者アムンゼン・スコットという二つの異なるストーリーを交互に描いており、それぞれの物語が読者に強烈な印象を与えます。

    物語の一方では、39歳の調査会社の中間管理職が主人公で、彼の妻が別の男性の子を宿すという衝撃的な出来事から始まります。彼の内面の葛藤や逃避行が繊細に描かれており、読者に深い共感を呼びます。彼の成長と変化は、特に妻の出産とその後の家族との絆の再構築を通じて感動的に描かれています。

    一方で、プロレス団体のチャンピオン、アムンゼン・スコットの物語は、彼の競争の世界での挑戦と対立を背景に、彼の強さと脆さを掘り下げています。彼の戦いは、文字通りと比喩的に、彼自身のアイデンティティと人生の目的についての深い自己探求を表しています。

    西氏はこれらのキャラクターたちの心理的な複雑さを鮮やかに描き出し、彼らの苦悩や喜びをリアルに伝えています。特に、主人公の内面の変化と成長が、生きる希望と再生の美しいメッセージを提供しています。

    『こうふくあかの』は、西加奈子氏の卓越した文才が光る作品で、人間関係の複雑さと生の多様性を見事に表現しています。この小説は、登場人物たちの心の動きを通じて、読者自身の感情や経験に深く訴えかける一冊です。生きることの困難と美しさを同時に描き出し、最後には読者に希望と癒しを提供します。

  • 作者が意図したプリミティブな勢いは受け取れたと思う。

  • この主人公と同じように
    あーこの行動は周りのみんなはこう思ってくれるだろうなって計算をしながら行動するってことは、昔の自分にはよくあった気はする

    そして、そんな自分に対して、自分だけは計算だってことを知ってるから、どこかでバカにしてたりして、今になってそんな自分を恥じて苦しめられたりしている

    みんな、行動の全てはもともと愛されたいというのが原理なんじゃないだろうか

    愛されたくて自分を偽る
    愛されてない自分を認めたくないから、それをとりつくろうような行動をしてしまう

    そしてあとでそんな自分にしっぺ返しをくらう

    気づいたときには、偽ってきた分の闇は大きくなっていて、なかなか大変

    でも後悔は意味がない

    その時の自分には、そうするしか道がなかった
    環境がそうさせた部分が大きいから、その他に選択肢なんてその時の自分にはなかった

    でも人生には自分の偽りに気づかせる出来事が必ず起きる
    隠しても隠しても闇は隠れない
    必ずどこかで出てくる

    だから、それをバネにして本当の自分を見いだして生き続けていくしかない

    なんかそんなことを思った

    やっぱり西加奈子すごい

  • 生命力の強さが感じられた作品でした。
    主人公の取り巻く世界とプロレスラーの話と境遇は違うけれど似通って並行していて楽しく読めた。

























































  • 読んでいる最中は「普通かな」と思ったが、ラストと作者のあとがきがいい!2007年と2039年の二つのストーリーのつながりに感づくことができる人には全く違った景色が見えるのだろう。後先になるが、「こうふく みどり」も読もうと思う。

  • 西加奈子「こうふく みどりの」の姉妹作。
    2冊で1作品、ということだが、普通に【続編】と理解
    した方が良いかも。だから、もしこの作品を読もう、と
    いう人が居るのなら、先に「みどりの」を読んでからの
    方がおもしろい、と最初に言っておくことにします。

    「あかの」の主人公は二人で、それぞれのタイムライン
    の物語が交互に進む、という構成。一人は2007年の段
    階で調査会社に中間管理職として勤務する男で、典型的
    な「事なかれ主義」を貫くサラリーマン。
    もう一人は2039年の段階で「最強」とされるプロレス
    ラー。残念ながら、その時代のプロレスはかなり衰退し
    ている模様。

    2007年のある日、妻の突然の「妊娠報告」に狼狽する
    夫。妻とは長い間夜のコンタクトが無かったため、お腹
    の子どもが自分の子ではない、ということは確定。妻を
    問いただし、揶揄したいという願望はあるものの、事な
    かれ主義が身体に染みついている男は何をどうしたら良
    いか解らない。
    一方2039年、ドサ回りをしながら少ない観客の前で最
    強を証明し続ける48歳のプロレスラーは、新人選手の挑
    戦を受ける。対戦相手はコレがデビュー戦。普通では考
    えられないシチュエーションの試合で、王者は…という
    内容。

    「みどりの」に比べれば、束も薄く、苦手な大阪弁表記
    も無いので読みやすいハズなのだが、こちらの方が読み
    終えるのにかなりの時間を要した。本当なら嫌悪すべき
    な調査会社課長に多大なる感情移入をして読んでしまい、
    そのいたたまれなさに読書を数度中断したのが原因。
    おそらく僕も「事なかれ主義」の権化であり、問題対処
    の考え方が主人公とほぼ同一。共感するたびに情けなく
    なる、という、やたら精神に突き刺さる作品であった。

    この作品の根底には、「みどりの」よりも数倍色の濃い
    『アントニオ猪木』が流れている。『俺が今まで、猪木
    のような眼をすることがあったかと、四十を手前にして
    思うのは大変に辛く、ただただ手遅れであった』という
    一文が、この作品の全てを表現している、と言って過言
    は無い。

    …僕もだ。
    50年近くアントニオ猪木を見続けて来たのに、猪木の
    ような眼で何かに立ち向かったことが一度でもあったの
    か?そう考えると、涙が出てくる。

    僕より一回り若い女性は、きっと猪木と同じ眼をして小
    説を書き、結果的に直木賞を受賞した。そう考えるとか
    なり悔しいけど、悔しさ以上に西加奈子という稀有な才
    能をリスペクトせざるを得ない。

    【こうふく】連作、凄いインパクト。目が覚めました、
    本当に。

  • まず、読み始めて、靖男さんのめんどくさいキャラが大好きになった。
    続きが気になって普段も考えてしまう本はひさしぶり。
    やはり西加奈子の本はおもしろい。
    言葉がダイレクトすぎてちょっと尻込みするけど、西さんという女性が書くと、嫌悪感よりも、う〜ん、なるほどなぁと考えさせられるのは何故だろう。

  • 猪木…素晴らしい人なのですね。

    人は赤いトンネルを生死をかけて通ってくる。
    命を生み出す器と世界を結ぶ道。

    神秘とはこういうことなのだろうなぁ。

  • 西加奈子さんの作品を立て続けに4冊読んだ。一人の作者に傾倒することはよくあるが、いつもとは違う惹かれ方と感じる。エロスやグロテスクな表現がオヴラートを介さずにストレートだからすんなり入ってくるのだろうか?こうふくのみどりのに続き2つの物語が交互に描かれているが違和感がなく、ラストの着地もgood!

    • shukawabestさん
      これは僕も読んでるぜい。二つの軸が面白かったよ。
      これは僕も読んでるぜい。二つの軸が面白かったよ。
      2022/08/12
  • こうふくみどりのとのささやかな繋がりが良い

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著者プロフィール

1977年イラン・テヘラン生まれ。2004年『あおい』で、デビュー。07年『通天閣』で「織田作之助賞」、13年『ふくわらい』で「河合隼雄賞」を、15年『サラバ!』で「直木賞」を受賞した。その他著書に、『さくら』『漁港の肉子ちゃん』『舞台』『まく子』『i』などがある。23年に刊行した初のノンフィクション『くもをさがす』が話題となった。

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