- Amazon.co.jp ・本 (179ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094086089
作品紹介・あらすじ
結婚して十二年、三十九歳の調査会社中間管理職の俺の妻が、ある日、他の男の子を宿す話。二〇三九年、小さなプロレス団体に所属する無敵の王者、アムンゼン・スコットの闘いの物語。この二つのストーリーが交互に描かれる。三十九歳の俺は、しだいに腹が膨れていく妻に激しい憤りを覚える。やがてすべてに嫌気がさした俺は、逃避先のバリ島で溺れかけ、ある光景を目にする。帰国後、出産に立ち会った妻の腹から出てきた子の肌は、黒く輝いていた。負けることなど考えられない王者、アムンゼン・スコットは、物語の最後、全くの新人レスラーの挑戦を受ける。
感想・レビュー・書評
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『こうふくあかの』— 複雑な人生を紡ぐ、愛と再生の物語
西加奈子氏の『こうふくあかの』は、個々の感情と運命を細やかに綾なす作品であり、家族や自己認識のテーマを掘り下げています。本作は、中間管理職の男性と、プロレス界の無敵の王者アムンゼン・スコットという二つの異なるストーリーを交互に描いており、それぞれの物語が読者に強烈な印象を与えます。
物語の一方では、39歳の調査会社の中間管理職が主人公で、彼の妻が別の男性の子を宿すという衝撃的な出来事から始まります。彼の内面の葛藤や逃避行が繊細に描かれており、読者に深い共感を呼びます。彼の成長と変化は、特に妻の出産とその後の家族との絆の再構築を通じて感動的に描かれています。
一方で、プロレス団体のチャンピオン、アムンゼン・スコットの物語は、彼の競争の世界での挑戦と対立を背景に、彼の強さと脆さを掘り下げています。彼の戦いは、文字通りと比喩的に、彼自身のアイデンティティと人生の目的についての深い自己探求を表しています。
西氏はこれらのキャラクターたちの心理的な複雑さを鮮やかに描き出し、彼らの苦悩や喜びをリアルに伝えています。特に、主人公の内面の変化と成長が、生きる希望と再生の美しいメッセージを提供しています。
『こうふくあかの』は、西加奈子氏の卓越した文才が光る作品で、人間関係の複雑さと生の多様性を見事に表現しています。この小説は、登場人物たちの心の動きを通じて、読者自身の感情や経験に深く訴えかける一冊です。生きることの困難と美しさを同時に描き出し、最後には読者に希望と癒しを提供します。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
作者が意図したプリミティブな勢いは受け取れたと思う。
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この主人公と同じように
あーこの行動は周りのみんなはこう思ってくれるだろうなって計算をしながら行動するってことは、昔の自分にはよくあった気はする
そして、そんな自分に対して、自分だけは計算だってことを知ってるから、どこかでバカにしてたりして、今になってそんな自分を恥じて苦しめられたりしている
みんな、行動の全てはもともと愛されたいというのが原理なんじゃないだろうか
愛されたくて自分を偽る
愛されてない自分を認めたくないから、それをとりつくろうような行動をしてしまう
そしてあとでそんな自分にしっぺ返しをくらう
気づいたときには、偽ってきた分の闇は大きくなっていて、なかなか大変
でも後悔は意味がない
その時の自分には、そうするしか道がなかった
環境がそうさせた部分が大きいから、その他に選択肢なんてその時の自分にはなかった
でも人生には自分の偽りに気づかせる出来事が必ず起きる
隠しても隠しても闇は隠れない
必ずどこかで出てくる
だから、それをバネにして本当の自分を見いだして生き続けていくしかない
なんかそんなことを思った
やっぱり西加奈子すごい -
生命力の強さが感じられた作品でした。
主人公の取り巻く世界とプロレスラーの話と境遇は違うけれど似通って並行していて楽しく読めた。
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まず、読み始めて、靖男さんのめんどくさいキャラが大好きになった。
続きが気になって普段も考えてしまう本はひさしぶり。
やはり西加奈子の本はおもしろい。
言葉がダイレクトすぎてちょっと尻込みするけど、西さんという女性が書くと、嫌悪感よりも、う〜ん、なるほどなぁと考えさせられるのは何故だろう。 -
猪木…素晴らしい人なのですね。
人は赤いトンネルを生死をかけて通ってくる。
命を生み出す器と世界を結ぶ道。
神秘とはこういうことなのだろうなぁ。 -
西加奈子さんの作品を立て続けに4冊読んだ。一人の作者に傾倒することはよくあるが、いつもとは違う惹かれ方と感じる。エロスやグロテスクな表現がオヴラートを介さずにストレートだからすんなり入ってくるのだろうか?こうふくのみどりのに続き2つの物語が交互に描かれているが違和感がなく、ラストの着地もgood!
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こうふくみどりのとのささやかな繋がりが良い