黄金の服 (小学館文庫)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094086119

作品紹介・あらすじ

復活した悲運の作家の青春小説集

泳いで、酔っ払って、泳いで、酔っ払って…。夏の大学町を舞台に、若い男女たちが織りなす青春劇。プール、ジャズ、ビール、ジン、ラム、恋愛、セックス、諍い、そして暴力。蒸し暑い季節の中で、「僕」とアキ、文子、道雄、慎の4人は、プールで泳ぎ、ジャズバーで酒を飲み、愛し合い、諍いを起こし、他の男たちと暴力沙汰になり、無為でやるせなく、しかし切実な日々を過ごす。タイトルの出典であるガルシア・ロルカの詩の一節「僕らは共に黄金の服を着た」は、「若い人間が、ひとつの希望や目的を共有する」ことの隠喩。僕たちは「黄金の服」を共に着ることができるのだろうか?
他に、職業訓練校での野球の試合をモチーフとした「オーバー・フェンス」、腎臓を患って入院している青年の日々を描く「撃つ夏」を収録。青春の閉塞感と行き場のない欲望や破壊衝動を鮮烈に描いた短篇集。「黄金の服」と「オーバー・フェンス」は芥川賞候補作品。

【編集担当からのおすすめ情報】
『海炭市叙景』『移動動物園』に続く、佐藤泰志復刊プロジェクト第三弾。他社からも佐藤泰志作品が文庫化され、書店での「佐藤泰志フェア」、復刊記念イベントなどを企画中です。ご期待ください!

感想・レビュー・書評

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  • このなかの「オーバー・フェンス」が来年2016年の夏に、映画になって公開されるそうです。

    そう、それは『海炭市叙景』そして『そこのみにて光輝く』に続いて、佐藤泰志の小説の映画化3作目になるのです。

    佐藤泰志は、中学生の頃から小説家を目指して高校時代は青少年文芸賞ほかに入賞して、村上春樹とも同時代作家と評価されながら、でも知名度の高い文学賞には候補どまり続きで、そのためついには精神に異常をきたし失意のうちに自死した不幸な小説家でした。

    この、彼が三十六歳のとき書いた作品「オーバー・フェンス」も、都合5回目の芥川賞候補となりましたが、残念ながら受賞しませんでした。



    ・・・白岩という主人公は、妻と生後間もない赤ちゃんと別離後に東京をあとにして故郷・函館に帰って、職業訓練校に行きながら失業保険暮らしでした。

    最小限の人づきあい・物のない部屋・ビールを二缶 毎日買って帰っての読書三昧生活。訓練校での実習にも、もうすぐ始まる学科対抗ソフトボール大会の練習にも、いっこうに身が入らない。

    そんなとき仲間の代島から聡(さとし)という名の女性を紹介されたりする。

    年も前職も様々に違う訓練校の仲間たちは、大半が一年先の卒業後も建築の仕事をするつもりがない。
    全員が流れ流れてなんとか失業保険でやっとの暮らし。
    欠損した左手小指を軍手で隠す者・海底トンネル掘りだった男・たった8ヶ月しか自衛隊勤務できなかった者・・・皆がみな、思い描いていた生活やずっと続くと思っていた暮しに、挫折し逃げるようにして、今このときにおなじ場所にいる。・・・

    この「オーバー・フェンス」は、あきらかに彼自身が夢を諦めかけて生まれ故郷の函館に戻らざるを得なくなって、いっとき職業訓練学校に通っていた実体験が下敷きにされた作品です。

    佐藤泰志が描いてきたものはいったい何だったのか。そう、それは、歴史の濁流にのみ込まれ個を失いかけ、自分はいったいどうなるんだろう、どこへ行くんだろうという喪失感と不安感、でも微かなその先にある希望の光・・・。
    登場人物はみな一様に何かに挫折し、こころの底にあきらめに似た気持ちを持っている。けれども、そのどうしようもなくぱっとしない冴えない日常の内にも、一瞬どきどきするようなきらめきの瞬間がいつもある。暗く広い大海に漂流するようなときには、海面のキラッと光るその瞬間はとてつもなくせつなくまぶしく感じられるもの・・・。

    主人公の白岩は、いつか忘れていくだろうと願いながらも、何をしてもどこにいても・・・かの日に妻と産院で浮き浮きしながら子どもの名前を考えたこと、迷路になった彼女の心を解きほぐすのなら何でもするつもりだったこと、他人の目なんかどうでもいいから早く妻が自分を取り戻して、二人は実際若いが堅実で明るい家族になることができると信じていたことを・・・思い出してしまうのでした。

  • 初めて佐藤泰志の作品を読んだが、久々に良い読書だった。その上、夏の終わりに読むには。
    村上春樹だ、大江だ、中上だ、と言われているみたいだけれど(まぁ、確かに雰囲気は似ているところもあるけどさ)、彼の作品はそれ自身でググッとくる。全部好きだったが、表題作が一番好き。
    今とってもビールが飲みたい。

  • 映画「オーバーフェンス」を観てからの読書。
    焦燥感は懐かしいが、私はこういう学生時代を過ごさなかった(夜学)ので、うらやましくもある。
    函館3部作はお薦めです。

  • 表題作を含む短編小説集。どの作品も青春群像の閉塞感と不安感が漂う。仕事や学校といった日常を占める時間よりも友人や恋人との交流の時間を描いている。大きな出来事はなくも心の揺れや衝動が見事に表現されている。

  • オーバーフェンス、撃つ夏、黄金の服。ともに、少し前の時代のものと感じるけど、若さゆえか、流されているようで、それぞれ己にこだわりを持って生きてる様がいいなあ、と感じる青春小説。/育児ノイローゼになった妻に離婚をつきつけられ、郷里に戻り職業訓練校に通う白岩。「どこにでもいるぞ、ああいう人は」「僕はまだふらふら東京の尻尾をぶらさげています」/ただ、むきになって戦おうとする場所や人間から逃げ出したいだけなのだ/自分には考える時間も、考えない時間も同量に必要だ/僕はもうこの町を離れることはないだろう。/どうもこうもあるものか、ここまできて/さとしとこの地で暮らし、親ともきっちり向き合い、すこしずつ前に進もうということが、バットを振りぬいた先にあることを感じさせつつ( 「オーバーフェンス」)/腎臓の病気で入院している淳一。まわりの患者たちとの好むと好まざるにかかわらない交流。/岡本さん、他人ばっかりあてにしているんだから、仕方ないよね。愛し方がわからないんだから。/夜中中うめき声をあげていたがついに亡くなった隣室の老婆、いつもすこやかに見舞いに来てくれる友人の英夫。次々と退院していく同室者たち。気晴らしに窓から鳩を撃つ夏(「撃つ夏」)/読みかけのミステリとプールでの水泳と酔ってさわぐ日々の僕/夏の午後が好きだったし愉しみたかった。/泳いで、酔っぱらって、泳いで、酔っぱらって/アキは今日も無駄に身体を洗うだろう/「僕らは共に黄金の服を着た」/「いちいち傷つく必要なんかないわ」/「なぜ僕に黙っていた」「笑わせないで」「あんたっていつもそうなのね」最後のほうの僕とアキのダイアローグがひりひりとして心に留まる。道雄のすがすがしく凛としたたたずまいがまぶしい。(「黄金の服」) 巻末の久世朋子さんの私小説めいた解説もよかった。大江健三郎「洪水はわが魂におよび」が読みたくなる。

  • 読んでいるときの感覚は「黄金の服」がいちばん好きなのだけれど、たぶん「オーバー・フェンス」のほうが書こうとしていることの確固さはあるのだろうなと思う。佐藤泰志の描く北方の街はそれだけ人物の思いが反映されやすい場所のようだ。
    「黄金の服」の舞台は東京で、そこにいる若者たちはふわふわとどこか浮ついている。
    「泳いで、酔っ払って、泳いで、酔っ払って、そして、と僕は思っていた。木曜日にはサーカスへ行く。日曜日までには本を一冊読み終る。」
    主人公はこう語る。24歳の時間の流れ方としてはあまりにも緩やかで、こんな生活をしていいのかと彼はすこし思っている。彼と関わる幾人かの若者のその後はというと、道雄は大学をやめるというし、アキはフィアンセと結婚するから仕事を辞めるという。プールで泳いで、そのあと酒を飲むという瞬間が終わることが暗示されながら物語は終わる。最後には僕と文子だけが残っている。
    とこんなふうに書いてはみるものの、やはり何か大切なものが欠落しているようなそんな印象をどこか持っているのかもしれない。
    けれども読めてほんとうによかった。佐藤泰志はとりあえず片っ端から読んでいく。

  • 2021/6/28
    佐藤泰志作品集より、主人公の線は太い。
    2021/7/11
    単行本にはその他2編収録、オーバーフェンスは秀逸。

  • この人の作品読むの初めて
    映画のオーバーフェンスが良かったので読んでみたけど、よくもまあこんなクソつまんない話を面白くブラッシュアップできたもんだと思った
    映画の製作者たちの力量に驚かされた作品
    つまんなくて全部読みきれなかった

  • 輝いて乾いていた夏の思い出。

    夏の輝いて乾いた季節に友達と彼女で泳ぐ、酔っ払う、音楽を聴く、本を読む、手紙を書く。誰もが気にも留めない小さい自分の世界を綴る静かでゆっくりと時が過ぎる世界を堪能して下さい。

  • その他に「オーバーフェンス」「撃つ夏」「オーバーフェンス」はオダギリジョー蒼井優松田翔太キャストでの映画化。
    付箋
    ・その時、僕が欲しかったのは職業でも女でもなかった。車だった。←他の小説でも主人公は車を欲しがっていた。
    ・デ・ニーロの新作←何だろう?日曜日には溌剌と
    ・スーパーマンの新作かシルビアクリステルの婆さんになった裸
    ・僕はちょっと咽を潤す程度にしたかったのでラムハイを頼んだ
    ・「ブルックリン最終出口」を読もうかと思ったが、とてもついて行けそうになかった。
    ・読みさしのセルビーの本
    ・何よりも僕のアキに対する嫉妬深い感情から、自分を遠ざけたかった。
    ・彼女への連絡手段が手紙
    ・三冊の本の装丁をしてくれた友人の高専寺赫

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著者プロフィール

1949-1990。北海道・函館生まれ。高校時代より小説を書き始める。81年、「きみの鳥はうたえる」で芥川賞候補になり、以降三回、同賞候補に。89年、『そこのみにて光輝く』で三島賞候補になる。90年、自死。

「2011年 『大きなハードルと小さなハードル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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