教師宮沢賢治のしごと

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098371914

作品紹介・あらすじ

花巻農学校時代の教え子たちの心に生きる教育者賢治。『春と修羅』などの背景となった賢治と生徒の交流を、丹念な取材で再現する。いま甦える、賢治の幻の授業。

感想・レビュー・書評

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  • 宮沢賢治の花巻 農学校における授業の方法を再現した労作である。宮沢賢治がすでに、ディベートのような方法を取り入れていたことも感心する。ただし、著者の姿勢がやや硬直的価値観で日本社会の現状を一方的批判 に終始しているのは残念である。

  • イメージとゆとりと個性を尊重するはじけるような生き生きとした賢治の授業は生徒本人だけでなく、子から孫まで受け継がれた。それは、東北岩手で農民として生きていくための何年たっても古びない生きた知恵の宝庫だった。教え子たちからの丹念な聞き取りから賢治の授業を再現。

  • 最近、宮沢賢治のことが気になっている。
    きちんと読んだことがなかったから。
    人生の宿題のような気がしている。

    この本は、宮沢賢治が教師として過ごした時間を教え子たちの証言で再現してようと試みている。
    教師としての宮沢賢治のすばらしさを感じることができる一冊。

    なにがすばらしいかといえば~まず、地元農業を大切に考えていること。しかも机上の理論ではなく、実践に基づいていること。
    例えば、教科書の丸暗記ではなく、生徒たちがその内容を実際に使えるように覚えていく手法をとる。
    そのための言葉を使う。
    身体にしみ込ませる。
    心を伴わせる=感動。

    そして、自分の足元の土が大切だということ、よく知るべきだということを感じる。
    私たちはこの上で生かされているということ。

    作者畑山博さんが書いているように、
    「平らにならせれようとしているのは、国土ばかりではない。自然の息吹を聞くとか、いきとし生けるものをあわれむとか、約束を守る、弱っている者に手を差しのべるといった佳き価値と、悪しきものを価値観の多様化などと言って煽って掻きまぜてしまう風潮がある。それもまた叡知の山脈を切り崩して、人を人として最も低い水準に圧しならしてしまうことではないだろうか」P230

    それから賢治は、とにかくこの地域の風土のことだけをよく勉強しろと言った。「きみらは東京へ行って百姓をするのではないのだ」
    ひまわりみたいにただ中央を向いて右往左往するような勉強はするなという賢治のこの言葉は至言である。P25

    代数の授業
    とにかく応用に基礎を置いていました。
    先生の教え方はバル群でした。ポイントは図式化して教えるというjことだったかもしれません。教科書の順序なんかすっかり無視して、もっと根本的なことを教えてくれたのです。P27

    英語の授業
    実地に使わせるように賢治はつとめた。

    スペリング競争 英単語しりとり
    長い単語競争 smiles

    土壌学の授業
    基礎知識は教室で叩き込み、あとは実地の調査
    知識の剥製ではなく、すべてのみなものと感じられるような学問。
    土壌とは生命のゆりかごのことだと感じることにより、他の教科の発想の源となる

    肥料学
    この生けるもの、すなわち有機物も無機物もみな、立派な生命をもっているのです。さんさんと輝く太陽の光とともに降る雨は、白く光る美しい粒としてこれも活きています。黒き土。放っておけばふつうの土でしかないものにも、堆肥を入れ、厩肥を入れ、耕せば肥えてきます。俯し、耕すことで無限に肥えてくるのです。
    人間の心だって、同じです。心の畑に植える種、真、善、美。ほんとうの幸福に通ずる道はそれなのです。

    実習 音楽演劇教育
    賢治は演劇を教育の一環として取り入れることにとても熱心だった。
    農民の芸術が完成し、それが大衆に支持されるようになって、そうしたときに、初めて農民の生活が向上するということなんですね。そのとき農民の生活がよくなる条件が整うということになる。

    劇を通じてこの世の仕組みのその隠された暗部に気付く感性を磨く。
    自分の心の中にある感動を、言葉や動きでアピールしてみる。P114

    自分が持っていたチョークを、いきなりガリガリと噛み始めました。
    みんな、しいんとしてしまいました。
    自分のふがいなさに感じられたんですね。

    頭で覚えず、いつでも身体で覚えなさい。すると知識に感動出来るのですよ。詰めこみでは何も理解出来ない。ただ、感動せよ、と言われました。P180

    当時も今もそうなのだが、教育という場において、この国のエスタブリッシュメントが求めるものは、自由な創造や変革を押し進めてゆくような人材を育むことでは決してない。
    そこはただ、国体に従順に、既にある秩序を忠実に守りつづけてゆく番頭さんを育てるという場でしかない。
    たとえば論文の試験で人を選ぶとか、口頭試問を重視するとか言ってみたところで、そんなものが主流として浮かび上がってゆく風土は、この国のどんな隅っこにも永久にない。
    ○×方式で、過重な知識チップの暗記を強い、頭を自由な発想に使わせないようにさせることが目的なのだ。P194

    人間の尊厳というのは、自分の力で生き、生き終えられるということである。P232

  • (2001.09.11読了)(2001.09.07拝借)
    作家の、畑山博が亡くなられたので、前から気になっていた「教師宮沢賢治のしごと」を読みました。
    長年講習会の講師をしている私にとっては、参考になることというか受講生のアンケートに、具体的な事例の話をしてくれと書かれる身にとっては実に理想的な教え方をしているな、と感じさせられました。
    また、宮沢清六氏も亡くなられたので「兄のトランク」を読みました。
    こちらの方は、余り目新しいことはありませんでした。
    宮沢賢治に関する本は、すでに幾つか読んでいるので。

    (「BOOK」データベースより)
    花巻農学校時代の教え子たちの心に生きる教育者賢治。『春と修羅』などの背景となった賢治と生徒の交流を、丹念な取材で再現する。いま甦える、賢治の幻の授業。

    【目次】
    第一章 星から来た先生
    第二章 初めての授業
    第三章 再現 代数の授業
    第四章 再現 英語の授業
    第五章 教師としての妹トシ
    第六章 再現 土壌学の授業
    第七章 再現 肥料学の授業
    第八章 実習「イギリス海岸」
    第九章 実習 音楽演劇教育
    第十章 参照 温泉学大演習
    第十一章 幻の国語授業
    第十二章 作品の中の教師像生徒像
    「ある農学生の日誌」
    第十三章 非行問題・学力試験
    第十四章 退職そして羅須地人協会へ
    第十五章 卒業生そのそれぞれの人生
    第十六章 花巻農業高等学校の現在
    第十七章 教育は芸術なり
    付 宮沢賢治教育関係年譜

    ☆宮沢賢治さんの本(既読)
    「新編 宮沢賢治詩集」宮沢賢治著、角川文庫、1953.12.20
    「注文の多い料理店」宮沢賢治著、角川文庫、1956.05.20
    「セロ弾きのゴーシュ」宮沢賢治著、角川文庫、1969.02.10
    「銀河鉄道の夜」宮沢賢治著、角川文庫、1969.07.20
    「宮沢賢治の愛」境忠一著、主婦の友社、1978.03.30

  • 『教師 宮沢賢治のしごと』を読みました。1988年に出版された本で。よくぞ教師としての宮沢賢治の一面を本にしてくれました!という感じで、思った以上に宮沢賢治の教師としての素晴しさが伝わってくる本だった。

    個人的な欲を言えばもうちょっと資料として書いてほしいな…というところもある。けっこう著者の意見が多い感じがしたから…いやそんなケチつけるべき本ではなくて、もう高齢になっている宮沢賢治の教え子たちから、賢治がどんな先生だったかをできるだけ細かく思いだしてもらっている。全く手遅れになる前に本という形にしたことがすばらしい。

    教科書というものを使わずに、詰め込み教育の真逆をゆく授業。教育問題とかそんなことよりも、授業のユニークさに感動。基礎よりも応用を先にやり基礎に戻る…こんな考え方全くありませんでした。

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