五郎治殿御始末 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2009年4月25日発売)
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本 ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784101019253

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの浅田次郎作品でした。
    江戸から明治への一新の中で、自身の身の振り方を模索する武士の姿が6つの短編で描かれている。
    明治維新は侍の視点で見ればリストラと再就職活動の戦いと言えるのだろう。
    武士としての矜持を否定されて、新時代への恭順を強いられる辛さは如何程のものであっただろう。
    「遠い砲音」では日本が新時代に向け進み始め西洋化していく時、今までの日本を支えてきたゆったりとした文化が消えてゆく寂しさはさもあらんと感じた。

  • 2025.05.03
    短編でこれだけの「人間」を描ききるのは著者が2025年においては一番ではないだろうか。6編のいずれも人のありようについて考えさせられるばかり。
    陳腐な褒め言葉はいらない。ただ、読者それぞれが「人間とは」と思いながら読めばよい。

  •  明治維新により居場所を失った武士たちの悲哀と、生き様を描いた短編集です。登場人物の描かれ方はただただ美しく、もはやファンタジーです。日本史が少しでもわかるなら、絶対に共感できるだろうと、浅田節全開な書きっぷりです。 
     特筆すべきは、文字の配置ではないかと思います。難しい単語も所々にあるのですが、文章は決して読みにくいわけではないのです。おそらく仮名と漢字のバランスが絶妙で、読者に極力負担を与えないように配慮されているのかと思われます。文庫を見開きでみても、学術書のように漢字が多すぎて、黒くみえるわけでもなく、むしろ美しいとさえ感じてしまいます。まさしく日本語を堪能できる一冊かと思います。

  • 「柘榴坂の仇討」が映画化されてたので読んでみた作品

    幕末に命懸けで戦った人にスポットが当たりがちだが
    明治維新が終わってからも人々の生活は続くわけで
    180度世界が変わってしまった人々の話が短編でまとめられています
    私は最初全然面白いと思いませんでした
    でも全部読むと何とか前に進もうと頑張る姿にじんわり来ました
    激動の時代で無くても例えば環境が変わった時に
    どうやって乗り切るのか
    参考になると言うか共感出来ると思います

    「五郎次殿御始末」が一番好きです

  • 映画「柘榴坂の仇討ち」の原作を読むために購入しました。(映画まだ観ていませんが…)幕末から明治にかけての武士達の悲哀を描いた短編集六編です。桜田門外の変で井伊大老を討たれた時、護衛をしていた彦根藩士の物語「柘榴坂の仇討ち」より、本の表題作である戊辰戦争から西南戦争に関わる桑名藩士の物語「五朗治殿御始末」の方が断然に面白いです!ところで、
    映画のキャッチコピー「浅田文学の最高峰 待望の映画化」は陳腐だし作者に失礼だと思いますが…

  • 六つの短編とも維新後の武士がどのように考え生きたかが中心の小説。そんな時代は知らないのに何故か懐かしい感覚を覚える。

    椿寺まで
    勝沼の戦で敗れた小兵衛が商人となり、戦で救い大きくなった新太を母親に見せに行く。日本橋から八王子までの甲州街道沿いの宿場町の様子は読んで想像するのが楽しかった。小兵衛は最後まで武士の心を持った商人だと思う。

    函館証文
    維新後、金壱千両で命を助けてあげた者に金を受け取りに行くが自分も他の戦で同額で命を助けて貰った証文が出て来てしまう。函館戦争の一つ、二股口の戦い、白河城の戦い、鳥羽伏見の戦いでの出来事で四人の武士が登場する悲しくも楽しい内容。最後は清々しい。
    美しかった当時の楓の御門を見てみたいとも思った。

    西を向く侍
    幕府天文方の勘十郎は、政府が莫大な支出を押える為に無茶な改暦を行おうとしてる事に気付くがどうにもならない。
    西向く侍、二、四、六、九、武士の士の字は十と一、混乱から皆を救える覚え方を瞬間に考えつく。この覚え方、子供の頃、教わった記憶が…

    遠い砲音
    西洋定時に感覚を合せる為に苦労している元武士。懐中時計を見ながら本丸で十二時に空砲を撃つが本丸と向島では二十秒伝わるのが遅れる事に気付くところが気が利いている。なんとも正直で遅刻ばかりする主人公を心配して読んでるうちに引き込まれてしまった。

    柘榴坂の仇討
    桜田門外の変の後、十三年もお籠回り近習役は仇討をしたく探し回る。俥引きとなっていた仇との話しは激変後の武士の悲哀を深く感じ何とも言えない余韻が残った。

    五郎治殿後始末
    五郎治は、息子は死に嫁は去り、藩内での役柄上、同輩達から嫌われた。桑名武士として
    御一新後、西郷征伐で最後を遂げる。一人で育てた孫との関わりや会話は胸が詰まるが、全ての始末を自分でつけようとする意識の強さに武士の凄さを感じた。

    六編とも面白い。

  • 明治時代になり今までの価値観がひっくり返ってしまった武士たちが、それまでの価値観に始末をつけ、新しい人生を歩もうとするお話です。
    ちょうど読んだばかりでしたので、「チーズはどこへ消えた」の幕末版かと思いました。
    ただこのお話は単純にチーズが無くなったからすぐに新しいチーズを探しに行けば良いと言うわけではなく、武士としての価値観やしがらみや感情などに、それぞれの登場人物が始末をつけるさまに、日本的な美徳を感じることができました。

  • 幕末~明治維新を舞台に無名の武士たちの人間ドラマを描いた、表題作含む6編の短編集です。浅田次郎の筆力が冴えわたります。

    以下2つが面白かったです。

    ■柘榴坂の仇討ち
    明治の時代になっても桜田門外の変の敵討ちを狙う彦根藩士の物語です。映画化もされたようですね。井伊直弼が好きな方には刺さると思います。

    ■五郎治殿御始末
    書き手が明治元年生まれの自身の曾祖父から話を聞くという形で話が進みます。現代が幕末から地続きな時代であることが思い知らされます。

    幕末における桑名藩の歴史についても学べました。また昔の日本人の「家」への想いも理解できた気がしました。時代や組織に翻弄されながらも武士としての信念を貫く岩井五郎治の生き様にはサラリーマンであれば共感できるのではないでしょうか。ラストは鳥肌立ちました。

    (メモ)
    ・五郎治は始末屋であった。藩の始末をし、家の始末をし、最も苦慮したわしの始末にもどうにか果たし、ついにはこのうえ望むべくもない形で、おのれの身の始末もした。男の始末とは、そういうものでなければならぬ。けっして逃げず、後戻りもせず、能う限りの最善の方法で、すべての始末をつけねばならぬ。

  • 4.6

  • 江戸から明治へと時代が変わった・・・と教科書ではさらっと読んできたけど、武士という地位がなくなった人たちは、どのように生きてきたのだろう。
    武士としての矜持を持ち続けるのより、今日のご飯って思うのは、あの時代を生きてないお気楽な女だから言えることかな。
    とても考えさせられたし、おもしろい作品でした。

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著者プロフィール

1951年東京生まれ。1995年『地下鉄に乗って』で「吉川英治文学新人賞」、97年『鉄道員』で「直木賞」を受賞。2000年『壬生義士伝』で「柴田錬三郎賞」、06年『お腹召しませ』で「中央公論文芸賞」「司馬遼太郎賞」、08年『中原の虹』で「吉川英治文学賞」、10年『終わらざる夏』で「毎日出版文化賞」を受賞する。16年『帰郷』で「大佛次郎賞」、19年「菊池寛賞」を受賞。15年「紫綬褒章」を受章する。その他、「蒼穹の昴」シリーズと人気作を発表する。

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