- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101050317
作品紹介・あらすじ
死の直前に編まれた著者自選の第三短編集。三島文学の中心的なテーマをなしたロマネスクな世界への憧憬と日常世界との関係を、反時代的な主人公によって象徴的に描き、現代における貴種流離や異類の孤立の意味を追求した作品を集める。子供から大人へと成長していく精神の軌跡と、倒錯した性にからむ肉体的嗜虐の世界を描く表題作や『獅子』『三熊野詣』など9編を収める。
感想・レビュー・書評
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吸血鬼モチーフの掌編と噂に聞いた「仲間」目当てで購入。
短編集で大したページ数ではないのに結構なボリューム感。
自己愛性人格者の晩年の作品群だからか、
老若/美醜への言及が際立つ。
人気俳優の内的独白「スタア」は、
まるである種の楳図かずおマンガのようで、
ニヤニヤしながら読んでしまった。
というか、
頭の中で楳図マンガちっくな絵&コマ割りで話が流れていった(笑)。
肝心の「仲間」は拍子抜けするほど短く呆気なく、
あっさりしているが、
得も言われぬ後味を残す佳品。
「血」「吸血鬼」といった単語が一度も出てこない、
しかし、霧に煙るロンドンが舞台の、紛れもないヴァンピール譚。
「お父さん」と「僕」と「あの人」で築く、
スモーキーな単性生殖のユートピア。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
異類のロマネスクな世界観に惹き込まれる短編集。
三島由紀夫の美しい言葉の文章で綴る世界観に触れてみると、やや歪みも含むロマンチストな部類の人間だと自分自身を悟った本。
「殉教」は短編集であり私が初めて読む三島由紀夫の短編集。
集録されているどの短編集も私好みの人間の哀れさや慈愛を、隠し味的な要素で控えめでありながら独特の美しい世界観で綴っている。
この本の説明をすると最初の短編は、情景の美しさや儚さの描写に酔いしれる「軽王子と衣通姫」から始まり、
「殉教」「獅子」「毒薬の社会的効用について」「急停車」「スタア」「三熊野詣」「孔雀」「仲間」の9編集録されている。
私はこの中で「軽王子と衣通姫」「獅子」「三熊野詣」が特に好き。
「獅子」は夫の不倫に心が荒みゆく妻の、儚くも女の情念が織り成す物語。
「三熊野詣」は初老の先生と世話役の女性との旅を描きつつ、2人の慎ましい所作と女性の尊厳たる淡い心を描いている。
私が女性として生まれたからか、女性のその場面・その時の状況がありありとわかってしまう。
男性の繊細でありなから歳を重ねても変わらない少年の心を持ち続ける一本気な思いと、
女性の情緒的でその時の感情面に左右されてしまう心の脆さと強さ。
これらの感情と合わせて風景などを文章で綴る際の繊細で美しい言葉選びに、読了後はどうしても心地好い溜め息が出てしまう。
短編よりも三島由紀夫を読むなら、長編や中編の作品が私は好きなのかもしれない。
どっぷりとその世界観に浸かりたいから。 -
『殉教』
著:三島由紀夫
昭和57年 新潮文庫
「嫉妬は透視する力だ」ー『獅子』
三島由紀夫の短編を集めた一冊。
あとがきによると「貴種流離譚」の形を持つ物語が集められているとか。
なかなか読んで噛み砕くのにカロリーを使う読書だったけれど、面白い。
堂々と不倫する夫に対する妻の復讐劇『獅子』、映画スターの心の孤独を描く『スタア』、恋愛と無縁に見える潔癖症な先生の唯一の恋?『三熊野詣』が印象に残る。
【あらすじのメモ】
『軽王子と衣通姫』
歴史物。思い合う王子と姫、政権のクーデター。姫に再会した途端にクーデター計画にやる気をなくしてしまう王子。腹心は姫にあることを頼む。
『殉教』
寄宿舎を支配する魔王こと畠山と、いじめられがちな亘理。衝突したりくっついたりする二人だが、ある日ノリから、亘理を木に吊るすことになり…。
独特の閉鎖感と美しさ漂う短編。
☆『獅子』
夫の堂々たる浮気を知り激しい復讐心に駆られる妻は「夫を限りなく苦しめる」事を生きる力とするようになり…恐ろしい短篇。ラストの畳み掛けるような展開に息を呑む。
『毒薬の社会的効用について』
人に、時代に馴染めず、動物園のみに居場所を感じる男は、ある日動物たちを毒殺しようとするが、毒薬を所持したことで「人は毒殺されたがっている」という事に気付く。
『急停車』
戦争が終わり、電気スタンドの傘を作って暮らしている若い男は、どこかでまた戦争が起きることを待っている。
つまらない、良心的な生活から解放される日を…。
外国人からの注文に合格が出ず鬱屈とする中「急停車」が起き…。
☆『スタア』
人気映画スターの水野豊は「自分にふさわしくない」と世間が考えるだろう付き人の加代と秘密の交際をしつつ世間を欺く事を楽しんでいる。撮影現場での虚実、本当に「見られる」事とは、新人女優の自殺未遂を考えながらやがて現実の輪郭がぼやけていき…。
☆『三熊野詣』
和歌の先生の身の回りの世話をずっとしている常子。恋心など懐いてはいけないと思い過ごしてきたが、人生も終わりに近づき、先生から旅行に誘われる…。旅行中の先生は女物の櫛を土中に埋め始め…。
『孔雀』
かつて美少年だった男は今は見る影もない。そんな彼に、動物園の孔雀を大量に殺した疑いがかかる。
男は「孔雀は殺されてこそ輝く」と考えはじめ…最後の数行で一気に異世界に連れて行かれる短篇。
『仲間』
父と煙草を吸う少年というコンビが出会った人の家に寄生し、カーテンやらなにやらをタバコにして吸ってしまう。
「今夜から私たちは三人になるんだよ、坊や」
安部公房の『友達』を彷彿とさせる、怪しげな雰囲気を持つ童話調の短篇。 -
軽王子と衣通姫:流麗な文体を堪能
殉教:ワイシャツは毎日新しいのをとりかえているようなお洒落のくせに、何週間も爪を切らないで爪先を病的に黒くしているというところがあった。
獅子:ドロドロの不倫劇
毒薬の社会的効用について:毒薬を持ち歩き、潜在的に毒殺されたがっている欲望によって、他人を服従させ、成功したと信じる男
急停車:戦争に未練のあるランプ職人が平凡な日常にもふいに命を失う可能性を目の当たりにし、世界の彩りを取り戻す
スタア:醜女のマネージャーとできている売れっ子俳優が年長の俳優に宿る隠しきれない老いにおののく
三熊野詣:偏屈な「先生」に仕え歳を取った女が「先生」の架空の恋物語の忠実な証人に選ばれる
仲間:タバコ=麻薬? -
『獅子』のおどろおどろしい美しさが好き。
血の印象ただようお話の中で、アイゲウス少佐が語る救済の美しさと、それを断固拒否する主人公。
『この不幸は、私のものです!』と語る主人公に肩入れしちゃうのん。 -
「スタア」に見る偶像崇拝論、若しくは生き神としての生身。
三島作品全体に見られる「緩やかな死」の空気が、短編ゆえに顕著に見て取れる。
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少年同士の葛藤。そこに引かれた表題作。でも簡素な文章なのに色っぽかったのが「孔雀」夢想的なのに孔雀の飛び散った羽が艶かしく感じます。
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三島由紀夫自選による短編集。
異類と名付られた短編。美しさと怖さの緊張感を保ちながら、入ってはいけない領域に足を踏み入れる。三島由紀夫の文学を愛する人だけが入ることを許されたとまで思える世界観。
とても読みやすくはあり、やはり三島由紀夫の文体が好きだなと噛み締めながら読みました。