さがしもの (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101058245

感想・レビュー・書評

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  • R2.4.30 読了。

     本にまつわるエトセトラ。
     『旅する本』、人が旅するように、本もまた旅をする。
     『不幸の種』、最初は難解と思えた本が、自分の成長に合わせて姿かたちを変えてゆき、いつの間にか自分にぴったり寄り添うようになる。同じ本を読むことで、自分の変化、成長の度合いがわかる。
     『さがしもの』、おばあちゃんが亡くなる前に孫娘に探してほしいと託した本。孫娘はおばあちゃんが亡くなってからも探し続け、おばあちゃんがその本を熱望したのかをその本を読むことによって知ることができる。などなど。
     角田さんのこの短編集のような世界観がたまらなく好きですね。ストーリーが気になって先を早く読みたいが、居心地の良い世界観から出たくなくなるような。

    ・「私の思う不幸ってなんにもないことだな。笑うことも、泣くことも、舞い上がることも、落ち込むこともない、淡々とした毎日のくりかえしのこと。」
    ・「あいかわらず、いろんなことがある。かなしいこともうれしいことも。もうだめだ、と思うようなつらいことも。そんなとききまって私はおばあちゃんの言葉を思い出す。できごとより考えのほうがこわい。それで、できるだけ考えないようにする。目先のことをひとつずつ片づけていくようにする。そうすると、いつのまにかできごとは終わり、去って、記憶の底に沈殿している。」
    ・「だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう。」
    ・「本っていうのは、世界への扉」

  • 一冊の本を巡り、物語を綴る、本への愛が溢れた短編集。

    単行本発売当時の「この本が、世界に存在することに」というタイトルが、この短編集を言い得ていると思う。

    私も、著者と同じように、駅前に小さな本屋があるだけの田舎で育った。古本屋さえなく、BOOKOFFなんか、ほんの最近のシステムだ。

    「旅する本」のように、奥付の右下に、小さな名前のハンコとNo.を付けていた。手放したら、もう手に入らないと思っていたのだ。

    私が不在の時、親戚の叔父さんとか、文庫だし沢山あるし、貰えるんじゃないかと思っていて、時々、無くなるものがあったのだ。思い入れを理解しない親が、児童書はもう読まないだろうと、歳下の従姉妹に勝手にあげてしまい、しばし、茫然となったのは一度や二度ではない。

    まあ、子供だったしね、暴れたような記憶もあるなあ。

    そんな田舎から出てきて、横浜ジョイナス有隣堂や、東京丸善を知った時、動揺さえした。角田さんも、後書きで同じような気持ちを書いていた。
    懐かしさと、嬉しさで、後書きで泣きそうだったわ。

  • 本にまつわる短編9話。

    本が好きな者にとっては、なるほど〜とか意外だとかこの感じわかる〜など楽しめる。

    本の一番のおもしろさは、その作品世界に入ると著者はあとがきに書いていたが、同感だ。

    本屋に行っても何時間もいるタイプ。
    好きな本が多くて選ぶのにひと苦労するのはいつものこと。
    なので本にまつわる本も好きなのだ。

    この短編で好きな章
    ① 旅する本
    ②彼と私の本棚
    ③不幸の種
    ④さがしもの
    ⑤初バレンタイン

    というか、半分以上好きやん。


  • 意思を持っているような本との不思議な縁、本を介した人との縁を描いた9つの短編。

    古本屋の空気、古本の以前の持ち主の痕跡、夜中、夢中なって読みふけり空が白んでいた朝、同じ本を読んで共感し合える喜び、本を誰かのために選ぶときの気持ち…うん、うん!と嬉しくなる。

    読みたい本リストが増え続け、次々と新しい本に手を伸ばしてしまうが、一冊の本を時を経て再読することをもっと大切にしたいと思った。 
    同じ本を開くと昔の想いが鮮やかに蘇る。逆に全く違う捉え方をしていることに驚いたりもする。年を経るごとに意味が変わる時がある。それは自分自身の変化なのだが、まるで話が違っているかのよう。一冊の本とじっくり向き合いたいと思った。

    旅に出るとき、ガイドブックではなく、その地が舞台の小説を読むのが好きだ。皆さんは旅のお供の本をどのように選んでいるのだろう。
    お供をした本を旅先に置いてくるのも一考だ。そこから物語が始まる、そんなワクワクした気持ちにさせられた。
    この状況下では、なかなか旅に出られないが、開くだけで時空を越えてどこへでも連れていってくれる本があることは、なんて幸せなんだろう。

  • この本に出会えて、今まで自分の読んできた本がますますいとおしいもののようにに思えてきた。
    本が世界中を旅するなんて知らなかった。
    それに、読書って傍からみると狭い場所にいるように思われがちだけれど、本当はすごく自由な行為なのだと思う。
    片岡義男の登場は驚いたし、うれしかった。私もあの赤い背表紙の文庫本、何冊も集めていた時期がある。
    「なんで片岡義男なのだろう」という表現、すごくよくわかる。

  • 読めばますます本好きになること間違いなし。“ミツザワ書店”が好みでした。子どものころに通った小さな本屋、行動範囲が広がり、通うようになった古書店...。いまはもうすべて潰れてしまい、大型書店かチェーンの古本屋かネットで買うか...。味気ない世の中になったものだ。

  • 本にまつわる短編集。
    おばあさんに頼まれた本をずっと探し回る話とか、同じ本に共感した彼との話とか、“そうなんだよね、同じ本に共感できるって、素敵なことなんだよね”って、改めて思い出した感じ。

    なんだか、また人生観を変えるくらい素敵な本に出会いたくなりました。

  • 本がもつパワーを感じる一冊
    本が好きな人たちの本との思い出や、不思議な出会いの話

  • 本好きでよかったと思えるような、
    本のことがますます愛おしくなるような、
    また本を読みたくなるような、
    素敵な物語です。

  • 本にまつわる短編集。9人の主人公は本と共に感受性豊かな人生を歩んでいる。私の身近には読書をする人があまりいないので、9人(9冊)にはとても親近感を抱いた。

    「旅する本」・・・コッソリ自分だけの印をつけてから古本屋で手放すことで、数年後に再会を期待できるロマンチックな発想が素敵である。古本屋に売るとき、生活費にする(高い値段で買い取ってもらう)ため、出来るだけ手垢や折り目をつけないように慎重に扱っていたが、人生を豊かにする逆転の発想だった。

    「ミツザワ書店」・・・少年時代に万引きまで手に入れた1冊に刺激され、主人公は作家として成功する。その「代金」は相当な年月の末に支払われることになるが、書店の存在が主人公の人生に与えた影響はプライスレス。書店が新しい形で受け継がれていく可能性も見え、とても爽やかな気分になった。

    何気なくとった本が、人にとってはかけがえのない人生のパートナーになりうる。でも、その重要さに気づくのは手放してからのことが多い。日本では年間7万冊以上も本が出版されているという。初めて出会ったときは簡単に入手できたのに、いざ再会しようと思うとなかなか見つからない。全9話に一貫して、人生の「さがしもの(自分の人生に影響を与えた本)」というテーマを感じとった。
    今の自分はどうだろうか。日々、新しい本に飛びついては手放しているが、学生の頃に読んだ本を今一度思い出してみると、辛うじてタイトルだけが思い浮かぶ程度であり、内容はスッカリ抜け落ちている。
    試しに二度読みをしてみると、何年も前に初めて読んだ時の場所・空間・人間関係を思い出すもので、本というのは人生の一場面を写真のように忠実に切り取ってくれるスゴイ魅力があるものだと、痛感させられる。また、年を重ねた自分自身と向き合うことで、新たな発見を得て、人生の機微を感じることができるだろう。

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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