蒲団・重右衛門の最後 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101079011

感想・レビュー・書評

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  • 勝手に恋し、勝手に煩悶。未練たらたらで蒲団をくんかくんか。何とも情けなく滑稽で、でも憎めない。

  • 中島さんの作品の後に読むとなんとまあ、時雄の行動の幼稚なこと。全くもって私は「妻」の視点からでしか鑑賞できなくなっている。これはちょっと失敗。これから中島さんの『FUTON』を読まれる方花袋のを先に読む方がいいでしょう。いろいろ抜きにして純粋な感想。この小説「中年男が失恋後恋人の蒲団で泣く」という一文で表され、それでまかり通っているけれど、そんなことはない!なんてことはない。その通り。結果失恋して泣くんです。発表当時は女々しいとのお声もあったでしょうが、現代では無問題。時代が追いつきましたよ、花袋先生。

  • ずっと読みたくて、でも大筋で話が分かるから情けなさすぎで読むのを躊躇っていたこの本。
    読んでみると、まず主人公が思っていたよりずっと若く、今の自分と大して変わらない歳であることに驚く。
    そして、女性の方からも何らかの思わせぶりな誘惑があったのかと思っていたのに、他に恋人を作って全く主人公を意識もしていないという。
    ほんとに、全て主人公の妄想で、ただ結婚生活に飽きた男が若い娘にときめきたかっただけの話。
    現在絶賛育児中のわたしからすれば、ふざけんなと言いたくなるけど、こういうのって男性も同じなんだとわかった。

    そして、合わせて収録されてる話。
    『蒲団』にしか興味なかったので、読まずに返そうかとも思ったが、読んでみるとなかなか面白かった。
    生まれつき通常の状態ではないということは不幸なことだと思うけど、自分で身上を持ち崩したのに反省もせず、周囲に迷惑ばかりかけている人間でも、亡くなった後はきちんと弔ってやらなければならないというのは理不尽だなと思う。
    死ねば今生の罪は消えるということか。
    それでは、あまりに釣り合わないと思ってしまう。
    けれど、多くの人間から憎まれ恨まれることが、ある人物のエネルギーとなって迷惑行為をなすのなら、その原動力となる負の感情を持たないということが、実は一番平和への近道なのかもしれない。
    すごく難しいことだけど。

  • 申し訳ないけど主人公がめっちゃ気持ち悪い!

    気持ちはわからなくもないけど、布団は嗅ぐんじゃないよ…

  • もう、あのシーンはよ!はよ!という気持ちで読んでました。

    それにしても主人公は嫌な男だ。停車場で綺麗なお姉さんを見て「妻の出産がうまくいかなくなって死んだらああいう綺麗な人と住めるかなー」とか考えたり、若い書生に惚れてうまくいかなくて細君に八つ当たりしたり。

    頗る読みやすい文体だった。

  • 嫉妬というと、"女の"嫉妬なんてわざわざ"女"を強調したりすることが多いが、なぜだか"男の"嫉妬、という言い方はあんまりしない。でも別に、嫉妬という感情に男女の別があるわけではない。ただ、男は嫉妬を「権力闘争」や「大人の対応」なんて言葉で都合よく包み隠しているだけだ。
    文学者である竹中時雄の元へ、文学を志す女学生からの熱心な手紙が届くようになる。彼女が後に正式な弟子として受け入れることになる芳子。かつて情を燃やしたはずの妻にも飽き飽きしていた時雄は、芳子にいつしか好意を抱くようになる。芳子の恋人である田中との仲を芳子の"師"として諭し心配するフリをして、内心は嫉妬心を強くするひとりの中年男性の苦悩を描く。
    話が進めば進むほど、この身勝手な中年男子が変態的にすら思えてくる。男が理想的な女を規定したがるのは現代にも通づるものがあるが、そのくせ自分は嫉妬心を燃やし、芳子を失えば彼女が使っていた蒲団の匂いを嗅いだりするのだ。
    こうした男の女に対する態度だけでなく、旧式の女性(時雄の妻)vs新時代の女性(芳子)という世代間での対立構造もまた現代に通づるものがあって、明治時代とて日本人は根本的に同じなんだなぁと思ってしまう。従ってそこまで大きな違和感なく読めるが、「あぁそんなに嫉妬したんだねー大変だったんだねー」以上の感想は抱きづらい。私小説ってやっぱりこんなもの?そしてちょくちょく出てくるロシア文学が知識があることだけをひけらかしているようで逆に嘘っぽくないか?

  • 主人公である書生の中年男・時雄は妻子持ちではあるが、弟子として東京にやってきた女学生の芳子に好意を抱いている。そんな中、芳子に田中という恋人が出来る。

    これから(近代)の女性は自由であるべきだ、などと賢そうに説いておきながら、「師弟関係にあるんだし、俺は芳子を監督しないといけないんだ」という口実で芳子を拘束しようとする時雄。たくさんの矛盾やエゴが時雄を操ってゆく。

    時雄は何度も「ヤったのか?田中とはもうヤったのか!?」と芳子の純潔性の有無に拘り、神経質になる。女の私に理解することは難しい事なんだろうけど、現在でもこういうある種エゴイスティックな思考を持ってしまう男性は多いんじゃないかな、とは思った。人気漫画の美少女キャラクターが非処女だと判明した途端に一部のオタクがブチ切れて単行本を破り捨てる等の暴走をインターネット上で多数披露、漫画休載にまで貶めた、というニュースもまだ記憶に新しい。

    芳子が故郷へ連れ戻された後、時雄は芳子が使っていた部屋に入って蒲団や夜着の襟の匂いを「心のゆくばかり」嗅ぎまくる。思わず、うわあ……と感じてしまう。しかし、そこに確固としてある「人間らしさ」の赤裸々な描写に惹きつけられた。ある意味これは「人間に不可欠な気持ち悪さ」なのかもしれない。

  • 文学史上、自然主義のさきがけとなった記念碑的作品「蒲団」、らしい。妻子持ちの花袋が女弟子を好きになっちゃってでも手はだせなくて懊悩煩悶鬱々とする話。と、信州田舎の村落でとんでもないやつを村みんなで殺害する「重右衛門の最後」。殺害というより自己防衛に近いけど。両方とも明治の作品だけどあまり抵抗なく読めました。

  • いや、つまんないですよ。でも、だからこそが読むべき本かも。
    中年が弟子の女学生に恋愛感情を抱き、彼女に男が出来たと発覚すると身悶えした挙句彼女が故郷に帰るとなれば残された蒲団の匂いを嗅いで号泣するというあまりにも有名な話。これに共感できちゃった人はまあ、ごめんなさいと言う事で。
    しかし。重要なのはあまりにも私小説の形式を取っているにも関わらずこれが完全なるフィクションだったと言うこと、そしてそれまで作家としては燻っていた田山花袋はただ「文壇というものにに衝撃を与える」事のみを目的として書かれていたと言うことだ。つまり、文筆業で喰っていく為の確信犯。もしかしたら本書は20世紀初頭における赤木智弘の「丸山真男をひっぱたきたい」ではないだろいうか、と言う考えはさすがに飛躍しすぎか。少なくとも本書が未だに自然主義の文学で語られている事自体がその影響の現われなんだろう。まぁ、僕はこれが自然主義だとは断じて認めませんが。自分の内面についてうじうじ思い悩む事が自然であってたまるかよ。
    「蒲団」が発表されてもはや100年が立つが、今は世の中にはこれより醜悪な自己の恋愛語りが溢れかえり、ネットでは誰もが自分語りをする時代。田山は何を思うのだろうか。

  • 恋が去って、
    悲しいのは直後かもしれないけれど
    哀しいのはもう少し後のような気がします。

    相手の残した表情や
    ただよう香りに
    相手の不在を強く思う。

    そういう哀しさは
    必ずやってきて
    なかなか消えてはくれないもの。

    この本の
    「蒲団に残る、あのひとの匂いが恋しい」
    という一文。

    わかるような気がしました。

    ちょっとだけ、だけどね。

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著者プロフィール

1872年群馬県生まれ。小説家。『蒲団』『田舎教師』等、自然主義派の作品を発表。1930年没。

「2017年 『温泉天国 ごきげん文藝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田山花袋の作品

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