松本清張傑作選 悪党たちの懺悔録: 浅田次郎オリジナルセレクション (新潮文庫 ま 1-65 松本清張傑作選)

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  • Amazon.co.jp ・本 (396ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101109718

作品紹介・あらすじ

なぜか懐しい。懐しいばかりか、少しも古びてはいない。風景描写などはことさらないのに、ありありと時代の景色を読み取ることができる-浅田次郎。松本清張を文学史上の「怪物」として敬愛する短編小説の名手が選んだ、卓抜した人物造形と生の悲哀ともに描かれた7つの名編。

感想・レビュー・書評

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  • 清張の「黒地の絵」という短篇が良いと、阿刀田高さんが書いていたので、そのうち読んでみようかと。

    2021年6月4日、追記。

    読む予定だったが、すっかり忘れてしまっており、読むのは中止。
    『黒地の絵』は、昭和25年7月10日に小倉で起こった黒人兵集団脱走事件をモチーフにした作品らしい。

    この本の収録作品は、
    啾々吟/カルネアデスの舟板/ある小官僚の抹殺/黒地の絵/空白の意匠/大臣の恋/駅路。

  • "永遠のゼロを読んでから、小説を無性に読みたくなり、松本清張さんの作品を著名な人がそれぞれの視点で集めた「松本清張傑作選」全6巻を大人買いした。
    この人の作品はこれが初。
    今回のセレクションの中で気に入ったのが、
    「ある小官僚の抹殺」「黒字の絵」「空白の意匠」
    「黒字の絵」は解説を読むと、実際にあった話とのこと。今の今まで知ることはなかった歴史の一こま。
    もし、全国に知れ渡っていたら、地位協定の見直しや自衛隊のあるべき姿を考えるきっかけになったであろう事件。小説を通して学ぶ現代史。
    また、人物の心理描写が当時の雰囲気を醸し出している。人の心理、組織の挙動など学ぶことのできる点が多々ある。"

  • 「松本清張」作品から、「浅田次郎」が独自の視点で傑作を選んだ『松本清張傑作選 悪党たちの懺悔録―浅田次郎オリジナルセレクション』を読みました。

    『西郷札 傑作短編集〔三〕』、『私説・日本合戦譚』、『梅雨と西洋風呂』、『棲息分布』に続き「松本清張」作品です。

    -----story-------------
    人生――。
    野望と破滅、そして語れぬ夢。
    「神は堕落しており、魔は魔の論理を持っている。」――「浅田次郎」

    なぜか懐しい。
    懐しいばかりか、少しも古びてはいない。
    風景描写などはことさらないのに、ありありと時代の景色を読み取ることができる―(「浅田次郎」)。
    「松本清張」を文学史上の「怪物」として敬愛する短編小説の名手が選んだ、卓抜した人物造形と生の悲哀ともに描かれた7つの名編。
    『ロ秋々吟』 『カルネアデスの舟板』 『ある小官僚の抹殺』 『黒地の絵』 『空白の意匠』 『大臣の恋』 『駅路』を収録。
    -----------------------

    読み始めると、どんどん読みたくなってしまう「松本清張」作品… 既読作品も含まれていましたが、愉しく読めました。

     ■啾々吟
      才能がありながら顧みられなかった男の悲哀
     ■カルネアデスの舟板
      変転する価値観に翻弄された学者の栄光と挫折
     ■ある小官僚の抹殺
      汚職事件に巻き込まれて「自殺」した官僚の絶望
     ■黒地の絵
      妻を犯された炭坑事務員の凄まじいまでの復讐劇
     ■空白の意匠
      軋轢の中で苦しみもがく新聞社広告部長の末路
     ■大臣の恋
      国務大臣が恋した少女と40年前にした約束の顛末
     ■駅路
      平凡な人生を送ってきた男の哀しい逃避行
     ■人間を描く 浅田次郎
     ■解題 香山二三郎



    『ロ秋々吟(しゅうしゅうぎん)』は、先日読了したばかりの『西郷札 傑作短編集〔三〕』にも収録されていた歴史小説、、、

    肥前佐賀藩(鍋島藩)において、幕末の弘化三年丙午八月十四日に生まれた三人の男… 肥前守「鍋島直正」の嫡男である「鍋島淳一郎」、鍋島藩家老の子である「松枝慶一郎」、二百俵三人扶持御徒衆「石内勘右衛門」の子である「石内嘉門」という、身分の異なる三人の武士の数奇な運命をたどる物語です。

    高い能力と才知に恵まれながらも、冷遇されて、妬み嫉みの感情を募らせ次第に孤立していく「石内嘉門」、、、

    明治維新で価値観(階級)が覆ったはずだったのですが、旧来の身分だけではなく、人に好かれる人間性の有無という、定量的に評価のできない部分での劣勢を覆せなかったんですよね… 哀しい運命をリアルに描いた印象深い作品でした。



    『カルネアデスの舟板(詐者の舟板)』は、以前読了した『張込み 傑作短編集〔五〕』、『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈中〉』にも収録されていた作品、、、

    海難事故の際、二人がつかまると沈んでしまう板(カルネアデスの舟板)に、二人の人間がつかまろうして、生き残るために一方を水死させた場合に罪に問われないという寓話を扱った物語… 歴史科の教授「玖村武二」は、戦時中、国家的な歴史観を講じたことが原因で大学を追放されたかつての恩師「大鶴恵之輔」から、大学復帰のための運動をしてくれるよう懇願され、「大鶴」の卑屈な姿勢に自負心をくすぐられた「玖村」は、「大鶴」の求めを承諾するが、大学教授に復帰した「大鶴」は、時代の変化に合わせて自らの思想を翻し、「玖村」が莫大な収入を得ていた教科書・参考書の執筆の仕事を得ようとする。

    「玖村」は豊かな収入を失うことを恐れ、その存在が邪魔になった「大鶴」を、情婦「須美子」を使って陥れようとする… 「大鶴」を罠にかけることは成功したものの、その行為から男女の気持ちに微妙なズレが生じ、計画は破綻してしまう、、、

    人間には感情がありますからね… それを計算に入れていなかったのは「玖村」のミスですね。

    「大鶴」が隠遁生活を送っていた中国山脈に突き当たるまでの名高い盆地にある場所って、やっぱり三次なのかなぁ… 広島から三次に向かうJR芸備線には「玖村」という駅もあるので、主人公の名前も、JR芸備線沿いの地図や時刻表を見て思いついたのかもしれませんね。



    『ある小官僚の抹殺』は、原糖に関する汚職事件において小官僚が自殺した事件の真相を描いた物語、、、

    原糖の割当てに絡んだ汚職事件を捜査する警視庁は、業者と政治家を仲介した××省課長「唐津淳平」の存在を突き止める… しかし、「唐津」は岡山へ出張中だったことから、帰京後に捕らえる予定としていたが、「唐津」は帰京前に熱海の旅館で首を吊って死んでしまう。

    贈収賄事件を政治資金だと言い逃れしてきた政治家たちを、国家公務員法違反の共犯という名目で逮捕できる絶好の機会であったが、その目論見は「唐津」の死でフイになってしまう… 他殺の疑いもあったが、地元警察で自殺(縊死)と判断され、既に死体は火葬されており、死因を覆すことはできず疑獄事件の捜査は打ち切ることに、、、

    汚職事件における小官僚の立ち位置を的確に考察した作品でしたね… 実際にあった事件に基づき描かれた作品らしいです。



    『黒地の絵』は、朝鮮戦争のさなか、米軍黒人兵の集団脱走事件の起った基地小倉を舞台に、妻を犯された男のすさまじいまでの復讐を描いた物語、、、

    これは1950年(昭和25年)7月11日に、在日米軍の駐屯する小倉市・城野補給基地から武装した黒人兵士約75~250名が脱走、数名ずつに分かれて繁華街や周辺民家に侵入し、破壊、略奪、傷害、強姦など暴行狼藉を繰り返したという小倉黒人米兵集団脱走事件がモデルになっています。

    炭坑事務員の「前野留吉」の家に、駐留先のジョウノ・キャンプから自動小銃や手榴弾で武装したまま集団脱走した黒人兵のうち6人が押し入って来て、焼酎を飲んだ後に「留吉」の妻の「芳子」を輪姦… そのうちの一人が刺青(いれずみ)をしていたことを「留吉」は眼に留める、、、

    黒人兵たちが去ったあと、号泣する「芳子」に「留吉」は、武装した黒人兵に抵抗できなかった自分の意気地のなさを謝るしかなかった… その後、黒人兵たちは激戦地である朝鮮戦争の最前線に送られたのである。

    事件後、「前野夫婦」は、この事件が原因で離婚し、「留吉」は小倉キャンプに送られてくる米兵の戦死体を処理する処理班の雇員としてキャンプで働いており、大量に送られてくる黒人兵の死体から、刺青のある人物を探していた… ある日、「留吉」は目的の黒人兵の戦死体を発見し、刺青を解剖用ナイフで切り刻むことで復讐を遂げる。

    うーん、なんともやり切れない気持ちの残る作品でした… 犯罪の背景には、戦地に赴かなければならないことへの恐怖があり、実際に黒人兵は白人兵よりも激戦地に送られるケースが多かったようですね、、、

    そんな環境にあった黒人兵に同情はしますが、この犯罪は、当然、許される行為ではないですよね… でも、この大事件は、当時の日本がGHQの占領下であったことから、情報規制のためほとんど報道されず、被害の詳細もわかっていないらしいです。

    警察に届けられた被害は70数件に過ぎないそうですが、性暴行事件が多数あったことから被害者や周囲がひた隠しにして表ざたにならない事件が多数あったようです… 私も本書を読むまでは知りませんでした。



    『空白の意匠』は、以前読了した『宮部みゆき責任編集 松本清張傑作短篇コレクション〈中〉』にも収録されていた作品、、、

    地方の新聞社であるQ新聞の宣伝部長「植木欣作」は、或る日のQ新聞に掲載された「和同製薬」の主力商品である強壮剤「ランキロン」の広告の上に「ランキロン」の中毒作用により患者が死亡したという医療事故疑惑の記事をみつける… 記事は誤報であったが、具体的な商品名を記事に記載したのはQ新聞だけであったことから、激怒した広告代理店から、今後の広告の取次ぎを拒否され、「植木」が誤報事件の収拾に奔走する。

    誤報事件の収拾に奔走する展開だけでも、サラリーマンの一人として読んでいて辛くなってくる展開なのに、エンディングは更に強烈… まさか、自分がスケープゴートにされるとは、、、

    「植木」の希望と絶望にゆれる日々と、その暗澹たる末路を描いた物語でした… 新聞社における宣伝部と編集局の確執や、広告主及び広告代理店と新聞社の立場の違い等を上手く題材に取り込んだ傑作ですね。



    『大臣の恋』は、以前読了した『憎悪の依頼』にも収録されていた作品、、、

    出世の階段を上り詰め、遂に大臣に就任した「布施英造」… 毎日夥しい数の祝賀状が届くが、「園田くに子」からの手紙が来ないことに失望を覚える。

    40年前に別れた少女「くに子」との美しい恋の思い出を心に秘めて、大切にして生きてきた「布施」は、「くに子」と再会するため、彼女が暮らす九州・直方をわざわざ遊説先に選ぶのだが… 急転直下で衝撃的のオチが笑える悲喜劇、、、

    追憶に抱かれる美しい幻想と非情な現実の落差について描かれた作品でした。



    『駅路』は、平凡な永い人生を歩き、終点に近い駅路に到着した時、耐え忍んだ人生からこの辺で解放してもらいたいと願い、停年後の人生を愛人と過ごそうとして失踪した男の悲しい終末を描いた物語、、、

    銀行の営業部長を定年で退職した「小塚貞一」は、その年の秋の末、簡単な旅行用具を持って家を出たまま、行方不明となった… 家出人捜索願を受けて、「呼野刑事」と「北尾刑事」は捜査を始める。

    「呼野刑事」と「北尾刑事」は、「小塚」の前任地・広島に赴き、広島の可部に愛人の「福村慶子」がいることを突き止めるが、「慶子」は「小塚」が失踪した1か月前に亡くなっており、捜査を進めるうちに二人の連絡係だった「慶子」の従妹「福村よし子」の存在が浮かび上がる… 退職後、今まで耐え忍んだ人生から解放されて、気儘な旅に出直したいと思っていた男の哀しい結末でした。

    他人事とは思えない… そんな悲劇でしたね。



    強烈な印象を残したのは初めて読んだ『黒地の絵』でしたね… それ以外では『カルネアデスの舟板』、『空白の意匠』、『駅路』が印象深かったですね。

  • 松本清張の短編集。何回も読んだ短編もいくつかあったが松本清張の小説は何回読んでも面白い。この短編集は男が主人公で結末が無情な短編多し。出世した学者の優越感や地位が危なくなった時の手段を選ばない手口がえげつない「カルネアデスの舟板」や会社の顔として矢面に立たされた男が安心したあとの結末が残酷過ぎる「空白の意匠」が特に印象に残っている。

  • しばらく前に読んでいて、2度目。
    殺人事件、ではないお話し。時代は変わっても人のやる事考えることには変化はないんだと思わされる。

  • 初松本清張。面白かったが、目次のネタバレはやめて貰いたい

  • 『カルネアデスの舟板』が読みたくて購入したのだが、これは期待外れ。ただ、この言葉を使いたかっただけのような気がする。『空白の意匠』は、最後の一行が衝撃的。

  • (欲しい!/文庫)

  • 朝鮮戦争開戦当時の小倉での進駐軍による日本人暴行を書いた「黒地の絵」。冒頭、祭りの太鼓の音を子供と青年のばち捌きの差で活き活きと表現したのもつかの間、悪魔のような事件。推理小説でもなくエンターテイメントでもないこの作品でやっと松本清張を少し理解できた気がする。外国人の表現が難しいから映像にはならないだろう。こんな、差別につながりかねない難しい話こそこの作家の真骨頂なんだろう。昭和の暗い面を取り上げた話をもっと読みたい。

  • 悪党たちの暗い結末を描いた短編7編。「カルネアデスの板」とういう言葉をただ使いたいが為に書いただけ、のようなものもあった。2014.9.6

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著者プロフィール

1909年、福岡県生まれ。92年没。印刷工を経て朝日新聞九州支社広告部に入社。52年、「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。以降、社会派推理、昭和史、古代史など様々な分野で旺盛な作家活動を続ける。代表作に「砂の器」「昭和史発掘」など多数。

「2023年 『内海の輪 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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